はいけつしょう
敗血症
病原体が血液中に入り込んで全身に広がった重篤な状態
8人の医師がチェック 97回の改訂 最終更新: 2022.10.31

敗血症の原因について:肺炎・腎盂腎炎・胆嚢炎など

敗血症は感染症によって重い臓器の障害が起こる状態のことを指します。感染症は数多くありますが、そのなかでも敗血症を起こしやすいものがいくつか知られています。また、持病などのために免疫力が低下して健康な人に比べて敗血症を起こしやすい人の特徴もいくつか知られています。

1. 敗血症を起こす病気とその原因菌について

敗血症はどんな感染症をきっかけにしても起こりえますが、一方で起こしやすい感染症も知られています。具体的には次のような感染症が敗血症を起こしやすいです。

  • 呼吸器感染症
  • 血管内感染症
  • 胆道感染症
  • 腹腔内感染症
  • 尿路感染症

それぞれはまったく別の臓器で起こりそのため原因菌も異なるので個別に詳しく説明していきます。それぞれの治療については「敗血症の治療」で説明しているので、そちらも参考にしてください。

呼吸器感染症

呼吸器感染症とは「咽頭・喉頭(のど)から気管や気管支を経て、肺胞にたどり着くまでの間に起こる感染症」のことで、肺炎がその代表です。また、肺炎は敗血症の原因になりやすいことでも知られているので、ここでは肺炎の原因菌について説明します。

肺炎の主な原因菌は次のものです。

肺炎の原因となることが多い菌】

  • 肺炎球菌
  • インフルエンザ菌
  • モラクセラ・カタラーリス
  • マイコプラズマ
  • クラミドフィラ
  • レジオネラ

肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌ですが、その他にも多様な菌が原因になります。治療は抗菌薬を中心に行なわれますが、どの抗菌薬を使うかは、原因となっている細菌に合わせて選ばれなければなりません。このため、身体診察や画像検査(レントゲン検査・CT検査)、細菌学的検査などから原因菌を追求することがより重要になります。

さらに詳しく知りたい人は「肺炎の詳細情報ページ」を参考にしてください。

血管内感染症

血液が流れる血管の中に感染が起こる病気の総称です。

血管内に挿入した管から感染が起こる「中心静脈カテーテル関連感染症」と、「感染性心内膜炎」が代表的な感染症になります。これらの血管内感染症を起こす原因菌は皮膚の常在菌が多いです。

■中心静脈カテーテル関連感染症

中心静脈カテーテルとはの太い静脈に挿入される管のことです。栄養を補うための高カロリー輸液の点滴や大量の点滴を行う際に挿入されます。血管の中に管があると病原体が生着しやすかったり繁殖しやすくなったりします。

中心静脈カテーテル関連感染症の原因菌として次のものが知られています。

【中心静脈カテーテル関連感染症の原因となることが多い菌】

  • コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • 腸球菌
  • カンジダ

中心静脈カテーテルが挿入されている人に敗血症が起こった場合、中心静脈カテーテル関連感染症は原因の1つとして疑われます。しかし、特徴的な症状が乏しいこともあり、他の原因がないことを調べつくすことも同時に重要です。

感染性心内膜炎

感染性心内膜炎とは血液中に細菌感染が起こり、心臓の中に菌の塊ができた状態のことです。心臓の弁に異常がある人や中心静脈カテーテルのような管を血管に挿入されている人に起こりやすいです。感染性心内膜炎によってできた細菌のかたまりがちぎれて運ばれると脳や腸の血管に詰まって問題を起こします。

感染性心内膜炎の原因となることが多い菌】

  • 黄色ブドウ球菌 
  • コアグラーゼ陰性ブドウ球菌
  • 緑色連鎖球菌
  • 腸球菌

感染性心内膜炎を起こす原因菌は、中心静脈カテーテルのような血管に挿入された管ごしに侵入することもあれば、抜歯や怪我の傷口から侵入することもあります。中心静脈カテーテルなどの管を血管内に挿入している人や抜歯をしたばかりの人に敗血症が起こった場合には原因の1つとして考えられます。

感染性心内膜炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。

胆道感染症

胆道とは肝臓で作られた胆汁が流れる通り道のことです。胆道には肝臓と十二指腸をつなぐ管である胆管と、胆汁が一時的に溜められる胆のうが含まれます。

胆道感染症は胆石や腫瘍などによって胆汁の流れが滞ることによって起こることが多く、感染が起きた場所によって胆のう炎と胆管炎の2つに分けられることもあります。 胆道感染症の原因となることが多いのは次の菌です。

【胆道感染症の原因となることが多い菌】

  • 大腸菌
  • クレブシエラ桿菌
  • エンテロバクター
  • 腸球菌

胆道は十二指腸(胃と小腸をつなぐ管)とつながっています。胆道感染を起こす菌は消化管(胃や十二指腸、小腸、大腸)の常在菌であることが多いです。

急性胆のう炎の基礎情報ページ」や「急性胆管炎の基礎情報ページ」を参考にしてください。

腹腔内感染症

腹腔はお腹の中の広いスペースのことで、腹腔の中に腸や肝臓、胆嚢などが収まっています。腹腔内は通常はほとんど細菌はいませんが、胃や腸に穴が空いたり破れたした場合は、細菌が腹腔内にばらまかれてしまい感染が起こります。

具体的には、胃や十二指腸、大腸の穿孔(穴が空くこと)はもとより、虫垂炎胆嚢炎急性膵炎、手術後の縫合不全(つないだ場所からの漏れ)なども原因になります。

穴が空いたり破れたりした場所によって、腹膜炎の原因菌は異なります。

腹膜炎の原因となることが多い菌】

  • 胃や十二指腸に穴が空いたり破れたりした場合
    • ペプトストレプトコッカス
    • ラクトバチルス
    • クレブシエラ桿菌
    • 大腸菌
    • プロテウス菌
  • 小腸や大腸に穴が空いたり破れたりした場合
    • 大腸菌
    • クレブシエラ桿菌
    • プロテウス菌

胃や十二指腸、小腸、大腸はひとつながりになっていて、消化管と呼ばれます。つながってはいるもののそこに生息する細菌は異なります。細菌の種類が異なれば最適な抗菌薬の種類にも違いが現れるので、どの場所に穴が空いたり破れたりしたかを突き止めるのは重要です。

さらに詳しく知りたい人は「腹膜炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。

尿路感染症

尿は腎臓で作られると尿管をという管を通って膀胱に溜められます。ある程度溜まると尿道を通って身体の外に排出されます。尿が作られてから身体の外に出されるまでに通過する一連の臓器を尿路といい、尿路に起きた感染症の総称が尿路感染症です。尿路感染症には腎盂腎炎膀胱炎尿道炎などが含まれます。尿路感染症を起こす原因菌は次のものになります。

尿路感染症の原因となることが多い細菌】

  • 大腸菌
  • クレブシエラ桿菌
  • 腸球菌
  • プロテウス菌
  • 腐性ブドウ球菌

尿路感染症の原因菌としては大腸菌が最も多いです。 肛門と尿道の出口は近くにあるので、肛門の周囲にいる細菌が尿路に入り込みやすくなっています。

消化管と同様に尿路は腎臓・尿管・膀胱・尿道がひとつながりになっている臓器ですが、消化管とは異なり、尿路感染症では原因となる細菌は場所による違いはほとんどありません。

尿路感染症の詳細情報ページ」を参考にしてください

2. 敗血症を起こしやすい人の特徴

健康な人でも感染症が重症化すると敗血症を起こしえます。一方で敗血症を起こしやすい特徴をもっている人もいて、その人達は健康な人たちよりもさらに敗血症に注意が必要です。具体的には次のような人です。

  • 糖尿病の人
  • 肝硬変の人
  • がん治療中の人
  • 手術後の人
  • 免疫抑制治療を受けている人
  • 人工物が埋め込まれている人

それぞれの特徴について説明します。

糖尿病の人

糖尿病血糖値を下げるインスリンというホルモンが不足しているか十分作用しないために、血糖値を正常に保つことができず、高血糖の状態が続く病気です。

高血糖が続くと身体にさまざまな影響を及ぼします。その影響の1つに免疫力の低下があります。免疫力が低下しているために感染症が起こりやすく、感染した後も治りにくくなります。そのため重症化して敗血症を起こす危険性が高くなります。

糖尿病の人で血糖値のコントロールが悪い場合は、敗血症になる危険性が高くなっています。食事療法や運動療法、薬物療法を見直して血糖値を適切な値にコントロールすることが敗血症対策として最も重要です。

糖尿病についてさらに詳しく知りたい人は「糖尿病の詳細情報ページ」を参考にしてください。

肝硬変の人

肝硬変とはウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などが長期間続いて肝臓が壊れ、線維化した状態のことです。肝硬変の人は免疫機能が低下していることが知られています。このため、健康な人なら問題にならない感染症でも敗血症になりやすいことが知られています。

特に、肝硬変の人が腸炎ビブリオという細菌に感染すると重症化しやすいことが分かっているので特に注意が必要です。

腸炎ビブリオは海水中に生息しており、汚染された魚介類を生で食べると感染が起こるので、避けたほうがよい状況があります。ただし、生魚を避けるべき状況については明確な線引はないのでお医者さんに相談してみてください。生魚を避けるように言われた場合は加熱した調理法で摂取することが勧められます。

がん治療中の人

がん治療を行っている人は免疫力が低下していることが多いです。

また、がんの影響でもともと免疫機能が低下していることが多いところに、抗がん剤治療放射線治療を行うとさらに免疫機能が低下してしまい、感染症にかかりやすく重症化しやすくなっています。特に、好中球という白血球の一種が少ないときに起こる「発熱性好中球減少症」は細心の注意が必要です。

外来を受診したときには「検査時の好中球の値」と「好中球が低下する時期」をお医者さんに必ず聞いておいて、発熱したときの対応についても確認しておいてください。

「好中球が低下する時期」に発熱した場合は「発熱性好中球減少症」である可能性が高く、すみやかに抗菌薬治療が行なわれなければならないからです。

また、がん治療中の人は日常から手洗いやうがいなどを行い感染予防に努めることも大切です。

手術後の人

手術後にも感染が起こりやすく注意が必要です。手術は身体に大きな負担がかかり、免疫機能も低下していることが予想されるからです。

また、手術によってできた傷口は皮膚のバリア機能がなくなっているので、感染が起こりやすいですし、傷の痛みのために横になることが多いと肺炎にかかりやすいことも知られています。傷口の感染は自分で防ぐことは難しいですが、早く気付くことはできます。傷口が赤くなったり痛みが増してきたりした場合は感染が起こった可能性があります。傷口の処置を受けているときに見た目の変化や痛みの変化についてお医者さんに相談してみてください。また、肺炎の予防はできるだけベッドから離れて身体を動かすことが有効です。

手術した直後は特に傷が傷んでベッドにいがちになってしまいます。痛み止めなどを上手に使って、なるべく身体を動かせるような取り組みをしてみてください。

免疫抑制治療を受けている人

関節リウマチ全身性エリテマトーデスといった病気は自らの免疫機能の異常によって起こります。自分の免疫機能の異常によって起こる病気にはステロイド薬や免疫抑制薬といった免疫機能を抑える薬が有効です。一方で、免疫機能を抑えてしまうと、感染症など外からの攻撃に対しても弱くなり、かかった後も重症化しやすいです。免疫抑制治療を受けている人は日頃から手洗いうがいなどの感染予防を徹底するようにしてください。また、かかりつけのお医者さんにどの様な状態が危険で受診が必要なのかも確認しておくとより良いです。

人工物が埋め込まれている人

身体の中に人工物を埋め込まれている人は感染が起こりやすく、感染した後も重症化しやすいことが知られています。主に人工物は病気や怪我の治療で埋め込むことが多いです。人工物の具体例としては心臓弁膜症に対する「人工心臓弁」や関節の異常に対する「人工関節」などです。

人工物が身体の中にあると細菌が繁殖しやすいことに加えて、一度感染が起こると抗菌薬だけの治療では治すことが難しくなります。人工物が感染を起こした場合には手術によって人工物を取り出して交換することも検討されなければなりません。とはいえ、生きていく上で人工物は必要なものなので、上手に付き合っていくしかありません。

手洗いうがいなどの一般的な感染予防に加えて、人工物に感染が起きた場合の徴候について知っておくと早期に発見できて手術をせずに治すことにもつながるかもしれません。

かかりつけのお医者さんから感染が疑われる徴候について正しい知識を得ておいてください。

参考:

「がん患者の感染症診療マニュアル」(大曲貴夫/監)、南山堂、2012年

ICU実践ハンドブック」(清水敬樹/編)、羊土社、2009年