敗血症の治療について:抗菌薬治療や全身状態を整える治療、ガイドライン、治療期間
敗血症の治療は「原因となっている
1. 感染症に対する治療
敗血症は感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態のことです。
このため原因となっている感染症に対する治療が極めて重要です。感染症と一口にいってもさまざまな種類がありますが、敗血症を起こしやすいものはある程度わかっていて次のものになります。
- 呼吸器感染症
- 血管内感染症
- 腹腔内感染症
- 胆道感染症
- 尿路感染症
それぞれの感染症ごとの治療について説明します。
呼吸器感染症に対する治療
呼吸器感染症とは「咽頭・喉頭(のど)から気管や
治療は次のような方法が用いられます。
抗菌薬 治療- 鎮咳薬(咳止め)
- 去痰薬(痰切り)
- 酸素吸入
肺炎の治療で最も重要なものは抗菌薬治療です。
肺炎の原因になる細菌は多様です。このため、細菌に合わせて最も効果のある抗菌薬を選ぶ必要があります。感染症を起こしている細菌の特定には、身体診察や画像検査(
肺炎はその他にも一般的な細菌以外を原因とする「非定型肺炎」や「
血管内感染症に対する治療
血管内感染症は血管の中に起こる感染症の総称のことです。代表的なものとして「中心静脈カテーテル関連感染症」と「感染性心内膜炎」があります。
それぞれの治療について説明します。
■中心静脈カテーテル関連感染症
中心静脈カテーテルは太い静脈に挿入される管のことで、高カロリー
感染性心内膜炎は血液中の細菌感染を原因として心臓の中に菌の塊ができた状態のことです。心臓の弁に異常がある人や中心静脈カテーテルのような管を血管に挿入されている人に起こりやすいことが知られています。
治療は抗菌薬を中心に行なわれます。抗菌薬は血液
病気や治療薬の詳しい情報については「感染性心内膜炎の基礎情報ページ」や「感染性心内膜炎の治療薬ページ」を参考にしてください。
腹腔内感染症に対する治療
お腹の中には胃や腸、肝臓、胆嚢などが収まっている腹腔と呼ばれる広いスペースがあります。正常な状態では腹腔内にほとんど細菌はいません。しかし、胃や腸に穴が空いたり破れたりすると胃や腸の中にいる細菌が腹腔内にばらまかれて感染が起こります。胃や腸に穴が開く原因は胃・十二指腸潰瘍や虫垂炎、大腸憩室炎などさまざまです。
腹膜炎の治療は腹腔内の
ドレナージには身体の外から針を刺す方法がありますが、重篤な場合は手術で大きくお腹を開いて行います。また、同時に必要に応じて胃や腸に空いた穴を閉じたり、穴が空いた部分を切除したりします。抗菌薬はドレナージのときに抜いた膿などを詳しく調べて最も適したものが選ばれます。詳しくは「急性腹膜炎の治療薬ページ」や「腹膜炎の基礎情報ページ」を参考にしてください。
胆道感染症に対する治療
胆道は肝臓で作られた胆汁が流れる道のことで、具体的には肝臓と十二指腸をつなぎます。胆道には
抗菌薬は胆汁や血液の中に含まれている細菌を調べることで最も効果のあるものを選ぶことができます。また、胆道感染症では「胆道の閉塞の解除」が重要です。具体的には
また、胆道感染症の詳しい情報を知りたい人は「急性胆のう炎の基礎情報ページ」や「急性胆管炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。
尿路感染症に対する治療
腎臓と
腎盂腎炎は結石などによって尿の流れが滞ることを原因とすることもあれば、尿の流れの滞りがなくても発生することがあります。腎盂腎炎は抗菌薬治療を中心として、尿の閉塞がある場合は、尿の流れを改善させる治療を行います。
抗菌薬を決める際には尿や血液の中に含まれている細菌を調べる検査が重要視されます。検出された細菌の情報をもとにして効果のある抗菌薬が選ばれます。抗菌薬治療の詳しい内容は「腎盂腎炎の治療薬ページ」を参考にしてください。
尿の流れを改善させる治療には「尿道から内視鏡を使って管を挿入する方法」と「背中から腎盂に管を挿入する方法」の2つがあります。詳しくは「腎盂腎炎の治療」で説明しています。
また、さらに詳しい情報を知りたい人は「尿路感染症の詳細情報ページ」も参考にしてください。
2. 全身状態を整える治療
敗血症が重症化して強い
血圧が低い場合の治療
敗血症は重症化すると「敗血症性ショック」という状態に陥ります(敗血症性ショックについては「敗血症の症状」を参考にしてください)。敗血症性ショックが起こると血圧が低下して全身の血液の巡りが悪くなり、臓器に酸素や栄養が届かなくなります。敗血症性ショックにより血圧が低下した場合は点滴で血管の中に水分を補ったり、昇圧薬(血圧を上げる薬)を使って治療します。
呼吸状態が悪い場合の治療
敗血症は呼吸状態にも影響を及ぼすことがあります。
敗血症によって強い炎症が起こると、さまざまな炎症に関与する物質が放出されます。炎症に関与する物質の中には血管の壁から水を染み出しやすくする性質のものがあります。肺の血管の水分の染み出しが続くと、肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する場所)を水浸しにしてしまい、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなり息苦しさが現れます。
状態が悪化した場合には生命に危険が及ぶほど酸素の量が少なくなるので、人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器を用いると圧をかけたりたくさんの量の酸素を送り込んだりすることができるので、身体に酸素を届けやすくなります。
腎臓の機能が低下した場合の治療
敗血症により全身を回る血液の量が少なくなると、臓器に酸素や栄養を届けられなくなり、機能が低下します。特に腎臓の機能が低下するとさまざまな問題が引き起こされます。腎臓は血液の老廃物や不要な
腎臓の機能が身体を維持できないほど低下している場合には、その代わりとして管で血液を抜き出して機械で血液の中の老廃物を取り除きます。機械で老廃物を取り除く方法はいくつかありますが、敗血症にはCHDF(持続的血液濾過
3. 敗血症の治療期間や入院期間はどれくらいか
治療期間や入院期間は敗血症の程度によって決まります。敗血症になっても程度が軽い場合には2週間程度で治療を終えられることもあります。一方で、重症化した場合は退院までに数ヶ月かかることもあります。
軽症な病気と違って敗血症のように深刻な状態に陥る可能性がある病気は状態も変わりやすいために、お医者さんも治療期間や入院期間について明言しにくい側面があります。
はっきりとした説明がないと「本当に治って退院できるのか?」と不安に思うこともあるかもしれません。その気持は良く理解できます。不安を溜め込む必要はないので、思うことはなるべくスタッフに話してみてください。不安を一つひとつ解消していくことは治療中の精神面の安定を図るためにも大切なことです。
4. 敗血症の治療ガイドラインはあるのか
敗血症の
お医者さんはガイドラインを中心に治療を組み立てていますが、ガイドライン通りに治療することが必ずしも正しいこととは限りません。ガイドラインの改訂前に新しい治療が浸透したり、不明だった治療の成績が明らかになって治療法が変わることもありえます。また、ガイドラインは患者さんの細かな身体の状態を鑑みて作られているものではないので、一人ひとりに最適な治療を行えるようにガイドラインはアレンジして使われています。
参考:
日本版敗血症診療ガイドライン2024
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017 ー敗血症およびカテーテル関連血流感染症ー