はいけつしょう
敗血症
病原体が血液中に入り込んで全身に広がった重篤な状態
8人の医師がチェック 99回の改訂 最終更新: 2024.08.11

敗血症の治療について:抗菌薬治療や全身状態を整える治療、ガイドライン、治療期間

敗血症の治療は「原因となっている感染症に対する治療」と「敗血症によって引き起こされた全身状態の異常を整える治療」の2つがあります。どちらの治療も敗血症を乗り切るには大切です。

1. 感染症に対する治療

敗血症は感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態のことです。

このため原因となっている感染症に対する治療が極めて重要です。感染症と一口にいってもさまざまな種類がありますが、敗血症を起こしやすいものはある程度わかっていて次のものになります。

  • 呼吸器感染症
  • 血管内感染症
  • 腹腔内感染症
  • 胆道感染症
  • 尿路感染症

それぞれの感染症ごとの治療について説明します。

呼吸器感染症に対する治療

呼吸器感染症とは「咽頭・喉頭(のど)から気管や気管支を経て、肺胞にたどり着くまでの間に起こる感染症」のことです。呼吸器感染症の代表的な病気に肺炎があります。また、肺炎は敗血症の原因になりやすいことでも知られています。ここでは、一般的な細菌を原因とする肺炎の治療を中心に説明します。

治療は次のような方法が用いられます。

  • 抗菌薬治療
  • 鎮咳薬(咳止め)
  • 去痰薬(痰切り)
  • 酸素吸入

肺炎の治療で最も重要なものは抗菌薬治療です。

肺炎の原因になる細菌は多様です。このため、細菌に合わせて最も効果のある抗菌薬を選ぶ必要があります。感染症を起こしている細菌の特定には、身体診察や画像検査(レントゲン検査・CT検査)、細菌学的検査などから総合的に判断されます。また抗菌薬を選ぶ際には「全身の状態」や「肺や気管支の病気(喘息肺気腫肺がんなど)の有無」、「年齢」、なども考慮されます。

肺炎はその他にも一般的な細菌以外を原因とする「非定型肺炎」や「ウイルス肺炎」もあります。より詳しい情報は「肺炎の治療についての詳細情報ページ」を参考にしてください。

血管内感染症に対する治療

血管内感染症は血管の中に起こる感染症の総称のことです。代表的なものとして「中心静脈カテーテル関連感染症」と「感染性心内膜炎」があります。

それぞれの治療について説明します。

■中心静脈カテーテル関連感染症

中心静脈カテーテルは太い静脈に挿入される管のことで、高カロリー輸液の点滴や大量の点滴を行う際などに挿入されます。血管の中に異物があると病原体が繁殖しやすく感染症が起こりやすくなっています。中心静脈カテーテル関連感染症が原因で敗血症が起こっているときの治療は、抗菌薬治療とともに感染の温床となっているカテーテルを抜くことも重要です。細菌学的検査を中心に原因菌を推定して、最も効果が期待できる抗菌薬が選ばれます。具体的には原因の大半を占めるブドウ球菌に効果のあるセフェム系抗菌薬のセファゾリンや、バンコマイシンなどが治療に用いられます。

感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は血液中の細菌感染を原因として心臓の中に菌の塊ができた状態のことです。心臓の弁に異常がある人や中心静脈カテーテルのような管を血管に挿入されている人に起こりやすいことが知られています。

治療は抗菌薬を中心に行なわれます。抗菌薬は血液培養などの細菌学的検査をもとに適切なものが選ばれます。抗菌薬のみでの治療が不十分と考えられる場合や心不全を起こしている場合などには手術が行なわれることもあります。

病気や治療薬の詳しい情報については「感染性心内膜炎の基礎情報ページ」や「感染性心内膜炎の治療薬ページ」を参考にしてください。

腹腔内感染症に対する治療

お腹の中には胃や腸、肝臓、胆嚢などが収まっている腹腔と呼ばれる広いスペースがあります。正常な状態では腹腔内にほとんど細菌はいません。しかし、胃や腸に穴が空いたり破れたりすると胃や腸の中にいる細菌が腹腔内にばらまかれて感染が起こります。胃や腸に穴が開く原因は胃・十二指腸潰瘍虫垂炎大腸憩室炎などさまざまです。

腹膜炎の治療は腹腔内のドレナージと抗菌薬が中心になります。腹腔内のドレナージとは感染が起こった場所のなどを抜く治療のことです。

ドレナージには身体の外から針を刺す方法がありますが、重篤な場合は手術で大きくお腹を開いて行います。また、同時に必要に応じて胃や腸に空いた穴を閉じたり、穴が空いた部分を切除したりします。抗菌薬はドレナージのときに抜いた膿などを詳しく調べて最も適したものが選ばれます。詳しくは「急性腹膜炎の治療薬ページ」や「腹膜炎の基礎情報ページ」を参考にしてください。

胆道感染症に対する治療

胆道は肝臓で作られた胆汁が流れる道のことで、具体的には肝臓と十二指腸をつなぎます。胆道には胆管と胆のうが含まれます。胆道感染症は胆石や腫瘍などによって胆汁の流れが滞ることによって起こることが多いです。胆道感染症は「抗菌薬治療」とともに「胆道の閉塞の解除」することが重要です。

抗菌薬は胆汁や血液の中に含まれている細菌を調べることで最も効果のあるものを選ぶことができます。また、胆道感染症では「胆道の閉塞の解除」が重要です。具体的には内視鏡を使って胆石を取り除いたり、狭くなっている場所を広げたりして胆汁の流れを改善させる方法や、身体の外から胆道に針を刺して感染を起こしている胆汁を身体の外に出す方法があります。詳しくは「胆道がんの詳細情報ページ」で説明しているので参考にしてください。

また、胆道感染症の詳しい情報を知りたい人は「急性胆のう炎の基礎情報ページ」や「急性胆管炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。

尿路感染症に対する治療

腎臓と尿管、膀胱、尿道を尿路と言います。尿路は尿を作って身体の外に出す一連の臓器です。尿路感染症は尿路のいずれかに起こる感染症のことです。尿路感染症の中でも腎盂(じんう)という場所に起こる腎盂腎炎は敗血症の原因として知らています。

腎盂腎炎は結石などによって尿の流れが滞ることを原因とすることもあれば、尿の流れの滞りがなくても発生することがあります。腎盂腎炎は抗菌薬治療を中心として、尿の閉塞がある場合は、尿の流れを改善させる治療を行います。

抗菌薬を決める際には尿や血液の中に含まれている細菌を調べる検査が重要視されます。検出された細菌の情報をもとにして効果のある抗菌薬が選ばれます。抗菌薬治療の詳しい内容は「腎盂腎炎の治療薬ページ」を参考にしてください。

尿の流れを改善させる治療には「尿道から内視鏡を使って管を挿入する方法」と「背中から腎盂に管を挿入する方法」の2つがあります。詳しくは「腎盂腎炎の治療」で説明しています。

また、さらに詳しい情報を知りたい人は「尿路感染症の詳細情報ページ」も参考にしてください。

2. 全身状態を整える治療

敗血症が重症化して強い炎症反応が起こると臓器にさらに深刻な問題を引き起こします。臓器の機能が生命を維持しがたい状態になると、感染症の治療に加えて全身状態を整える治療が必要になります。

血圧が低い場合の治療

敗血症は重症化すると「敗血症性ショック」という状態に陥ります(敗血症性ショックについては「敗血症の症状」を参考にしてください)。敗血症性ショックが起こると血圧が低下して全身の血液の巡りが悪くなり、臓器に酸素や栄養が届かなくなります。敗血症性ショックにより血圧が低下した場合は点滴で血管の中に水分を補ったり、昇圧薬(血圧を上げる薬)を使って治療します。

呼吸状態が悪い場合の治療

敗血症は呼吸状態にも影響を及ぼすことがあります。

敗血症によって強い炎症が起こると、さまざまな炎症に関与する物質が放出されます。炎症に関与する物質の中には血管の壁から水を染み出しやすくする性質のものがあります。肺の血管の水分の染み出しが続くと、肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する場所)を水浸しにしてしまい、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなり息苦しさが現れます。

状態が悪化した場合には生命に危険が及ぶほど酸素の量が少なくなるので、人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器を用いると圧をかけたりたくさんの量の酸素を送り込んだりすることができるので、身体に酸素を届けやすくなります。

腎臓の機能が低下した場合の治療

敗血症により全身を回る血液の量が少なくなると、臓器に酸素や栄養を届けられなくなり、機能が低下します。特に腎臓の機能が低下するとさまざまな問題が引き起こされます。腎臓は血液の老廃物や不要な電解質を尿にして身体の外に出す役割を果たしています。腎臓が機能しなくなると、身体の中に老廃物が溜まってしまい危険な状態が引き起こされます。中でもカリウムという物質が身体の中に溜まりすぎると、心臓に影響を及ぼして致死的な不整脈を起こします。

腎臓の機能が身体を維持できないほど低下している場合には、その代わりとして管で血液を抜き出して機械で血液の中の老廃物を取り除きます。機械で老廃物を取り除く方法はいくつかありますが、敗血症にはCHDF(持続的血液濾過透析)という方法がよく用いられます。

3. 敗血症の治療期間や入院期間はどれくらいか

治療期間や入院期間は敗血症の程度によって決まります。敗血症になっても程度が軽い場合には2週間程度で治療を終えられることもあります。一方で、重症化した場合は退院までに数ヶ月かかることもあります。

軽症な病気と違って敗血症のように深刻な状態に陥る可能性がある病気は状態も変わりやすいために、お医者さんも治療期間や入院期間について明言しにくい側面があります。

はっきりとした説明がないと「本当に治って退院できるのか?」と不安に思うこともあるかもしれません。その気持は良く理解できます。不安を溜め込む必要はないので、思うことはなるべくスタッフに話してみてください。不安を一つひとつ解消していくことは治療中の精神面の安定を図るためにも大切なことです。

4. 敗血症の治療ガイドラインはあるのか

敗血症のガイドラインは日本集中治療医学会によって作成された「日本版敗血症診療ガイドライン2024」や日本感染症学会によって作成された「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017 ー敗血症およびカテーテル関連血流感染症ー」があります。 ガイドラインは治療成績や安全性の向上を目的にして作成されたものです。医療は日進月歩で進歩しているので、ガイドラインも数年に一回は改訂が行われており、時代の流れの変化にも対応できるようになっています。

お医者さんはガイドラインを中心に治療を組み立てていますが、ガイドライン通りに治療することが必ずしも正しいこととは限りません。ガイドラインの改訂前に新しい治療が浸透したり、不明だった治療の成績が明らかになって治療法が変わることもありえます。また、ガイドラインは患者さんの細かな身体の状態を鑑みて作られているものではないので、一人ひとりに最適な治療を行えるようにガイドラインはアレンジして使われています。

参考:
日本版敗血症診療ガイドライン2024
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017 ー敗血症およびカテーテル関連血流感染症ー