はいけつしょう
敗血症
病原体が血液中に入り込んで全身に広がった重篤な状態
8人の医師がチェック 97回の改訂 最終更新: 2022.10.31

敗血症とはどんな病気なのか?定義・症状・原因・検査・治療など

敗血症は感染症によって重い臓器障害が起こることを指します。敗血症は人の生命を奪うこともあるとても恐ろしい病気です。ここでは敗血症の症状や原因、検査、治療について説明します。

1. 敗血症(sepsis)とはどんな病気なのか?定義や病態、菌血症との違い

敗血症は感染症によって重い臓器障害が起こることを指します。集中治療室(ICU)での治療が必要になることも多く、敗血症によって生命を落とす人もいます。

敗血症の定義と菌血症との違い

敗血症とはどんな病気なのでしょうか。ここではその定義と、似たような言葉である菌血症との違いを説明します。「日本版敗血症診療ガイドライン2016」によると敗血症の定義は以下のものです。

  • 感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態

耳に馴染みのない言葉もあるので説明します。

感染症は細菌ウイルス真菌、寄生虫などの病原体が身体の中に侵入して、発熱や咳、下痢などの症状が現れる病気のことです。敗血症では感染症によって臓器に重いダメージが現れている状態のことです。

一方で、菌血症とは血液培養という検査で血液から病原体が見つかることを指します。正常な血液からは病原体が検出されることはありません。菌血症では重症な感染症に発展すると考えられる場合は抗菌薬による治療が行なわれます。

定義や菌血症との違いだけではイメージが湧きにくいので、敗血症になると身体でどんなことが起こっているのかを次に説明していきます。

敗血症の病態

敗血症は感染症を原因として重い臓器障害が引き起こされた状態のことです。感染が身体の中に起こるとそれに対する防御反応として炎症反応が起こり、サイトカインに代表される炎症性物質が身体の中で作られます。炎症性物質は身体に対してさまざまな影響を及ぼします。その影響が血管の壁に及ぶと、血管から水分が外に染み出しやすくなり、血管の中の水分が減少して、臓器への血流が少なくなります。血流が少なくなると、臓器は酸素や栄養を十分に得ることができなくなりその機能が低下します。重要な臓器の機能が低下した状態が長く続くと生命に影響が及びます。

このように、敗血症は感染症をきっかけに臓器障害ひいては生命にも危険を与える状態です。

敗血症の予後

敗血症の予後(その後の経過)については諸外国からいくつか研究報告があります。研究報告によると敗血症の死亡率は10%から52%とされています。

しかし、敗血症と一口にいっても原因となる感染症も違えば、持病や年齢などの元々の身体の状態も一人ひとり異なります。このため、ここで示した数値がそのまま全員に当てはまるとは限りません。重篤な病気になるとどうしてもその後の経過が気になる気持ちはわかりますが、自分や家族の状態を受け止めて治療にのぞむことが大切です。

とはいえ、敗血症は生命に危険が及ぶ病気であることには違いはありません。敗血症の予後については「敗血症にならないための知識」でも説明しているので参考にしてください。

2. 敗血症の症状

敗血症とは感染症を原因として激しい炎症が身体の中で起こった状態です。激しい炎症のために身体にはさまざまな症状が現れます。具体的には次のような症状です。

  • 体温に異常が起こる
  • 呼吸回数が多くなる
  • 脈拍数が多くなる

これらの症状の1つひとつは敗血症が起きていない状態でも見られることがあるので、症状のうち1つに当てはまったからといって敗血症を過度に心配することはありませんが、注意が必要な状態だと考えられます。特に呼吸数には注意が必要です。呼吸数が22回を超えるような状態は注意が必要です。

敗血症は重症化すると次のような症状が現れることがあります。

  • 脈が触れない、冷や汗が出る
  • 意識がもうろうとする
  • 息が苦しくなる
  • 皮膚に赤いぶつぶつができる、出血しやすくなる

上のような症状が現れるのは極めて危険な状態です。敗血症の可能性を考慮した対応が必要なので、速やかに医療機関を受診して詳しく調べてもらってください。

ここまで説明してきた症状については「敗血症の症状」で個別に説明しているので参考にしてください。

3. 敗血症の原因

敗血症は感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態のことです。感染症は無数にありますが、その中でも「敗血症を起こしやすい感染症」がいくつか知られています。また、健康な人に比べて「敗血症を起こしやすい人の特徴」もいくつか知られています。

「敗血症を起こしやすい感染症」と「敗血症を起こしやすい人の特徴」についてそれぞれを説明します。

敗血症を起こしやすい感染症

敗血症はどんな感染症でも起こりえますが、次のような感染症で多いことが知られています。

  • 呼吸器感染症
  • 血管内感染症
  • 胆道感染症
  • 腹腔内感染症
  • 尿路感染症

上に挙げた感染症は原因となる病原体が違ったり治療法が異なったりします。それぞれの感染症についての詳しい説明は「敗血症の原因」で個別に説明しているので参考にしてください。

敗血症を起こしやすい人の特徴

敗血症は健康な人でもなりますが、より注意が必要な人が中にはいます。次の条件に当てはまる人は敗血症に注意が必要です。

  • 糖尿病の人
  • 肝硬変の人
  • がん治療中の人
  • 手術後の人
  • 免疫抑制治療を受けている人
  • 人工物が埋め込まれている人

上の条件に当てはまる人は感染症にかかりやすく、また感染症にかかると敗血症になりやすいです。敗血症にならないためにはまず感染症にならないことが大切ですし、感染症になっても重症化させないようにすることが大切です。「敗血症にならないための知識」で予防法の知識をしっかり整理しておいてください。

4. 敗血症の検査

敗血症が疑われる人には次のような診察や検査が行なわれます。

【敗血症の検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 細菌学的検査
    • 培養検査
    • 塗抹検査
  • 血液検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • レントゲン検査
    • CT検査

「敗血症を起こしている感染症の診断」と「敗血症の程度」の2つを知ることが診察や検査の目的です。それぞれの検査については「敗血症の検査」で説明しているので参考にしてください。

これらの検査結果をもとにして敗血症の診断が行なわれます。診断にはかつてはSIRS(サーズ)という基準を用いていましたが、現在は新たにqSOFAやSOFAという診断基準を用いています。これは診察や検査の結果を組み合わせて診断を行うものです。

詳しくは「敗血症の診断基準:SIRS、SOFAスコア」を参考にしてください。

5. 敗血症の治療

敗血症は感染症によって重篤な臓器障害が起きた状態のことを指します。このため、治療も「感染症に対する治療」と「全身状態を整える治療」の2つを行う必要があります。

それぞれの治療について説明します。

感染症に対する治療

敗血症はどんな感染症からも起こりえますが、特に起こしやすいものがいくつかあります。敗血症を起こしやすい代表的な感染症は次のものです。

  • 呼吸器感染症
  • 血管内感染症
  • 腹腔内感染症
  • 胆道感染症
  • 尿路感染症

感染症ごとに原因になりやすい病原体や状態が異なるので、治療もそれに合わせて異なります。一つひとつの感染症に対する治療の詳しい説明は「敗血症の治療」を参考にしてください。

全身状態を整える治療

敗血症が重症化すると影響を受けている臓器にさらに深刻な問題が起こります。臓器のダメージが大きいと全身状態が悪くなるので整える必要があります。

具体的には「血圧の低下」や「呼吸状態の悪化」、「腎臓の機能の悪化」の3つに対する治療が重要です。

■血圧の低下に対する治療

敗血症が悪化すると敗血症性ショックという状態になります。ショック状態になると血圧が低下して、臓器に十分な酸素や栄養を届けられくなります。このためできるだけ血圧を保たなければならないので、点滴や昇圧剤の投与などが行なわれます。

■呼吸状態の悪化に対する治療

敗血症になると激しい炎症が起こります。激しい炎症が起こると、炎症に関与する物質が体内で多く作られます。炎症に関与する物質の中には、血管の壁から水分を染み出しやすくするものがあります。肺の血管に作用して肺胞(酸素と二酸化炭素を交換をする場所)に水分が染み出すようになると、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなり息苦しさが現れます。生命に影響が及ぶほど呼吸状態が悪くなっている場合には、人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器では圧をかけたりたくさんの量の酸素を身体に送り込むことができます。

腎機能悪化に対する治療

敗血症の影響で全身を回る血液の量が少なくなると、臓器に酸素や栄養が届かなくなり、機能の低下につながります。どの臓器も生命の維持に重要なのですが、腎臓の機能が低下すると特に深刻な問題が引き起こされます。

腎臓は血液の中の老廃物や余分な電解質を取り出して、尿を作り身体の外に出す役割を担っています。腎臓が機能しなくなると、身体の中には不要な物質が溜まってしまい、身体に悪影響を与えます。特に問題になるのが、カリウムという物質です。血液中のカリウムの濃度が正常範囲を超えて増えると、致死的な不整脈を起こすので注意が必要です。

腎臓の機能が低下して生命を維持できないと判断された場合には、血液を管で取り出して機械で綺麗にして返す透析治療が行なわれます。透析治療にはいくつか方法がありますが、敗血症にはCHDF(持続的血液濾過透析)という方法がよく用いられます。

6. 敗血症にならないための工夫

説明してきたように敗血症は感染症にともなって重い臓器障害が起こった状態です。

敗血症にならないためには、「感染症にかからないような工夫」と「感染症を悪化させない工夫」が重要です。この2点を中心に下記で説明をします。

また、敗血症は健康な人にも起きる一方で、「敗血症を起こしやすい人」がいるのも見逃せないことです。「敗血症を起こしやすい人」は健康な人よりさらに予防に注意が必要です。

このページの「敗血症の原因」で起こしやすい人の特徴について説明しているので、復習してみてください。

感染症にかからない工夫

感染症にかからないにためには「衛生の保持」と「ワクチンの接種」が重要です。

■衛生の保持

「衛生の保持」は平たく言うと病原体をできるだけ身体の中に入れないようにする取り組みです。具体的に自分できる取り組みには「手洗い」や「うがい」などがあります。皮膚や粘膜に細菌がついても水で洗い流すだけで、身体への侵入を阻むことができます。

■ワクチンの接種

特定の病原体にはワクチンがあり、感染症にかかるリスクを減らすことができるので、敗血症の予防につなげることができます。具体的には、肺炎球菌インフルエンザ桿菌などはワクチンが用意されています。特に、「敗血症を起こしやすい人」の条件に当てはまる人はワクチンを接種するようにしてください。

ワクチンに関しては「肺炎は予防できるの?予防接種:肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン」で詳しく説明しているので、参考にしてください。

感染症を悪化させない工夫

どんなに気を配っても感染症にかかってしまうことはあります。感染症にかかった後には、敗血症を起こさないようにすることが大切です。具体的には、感染症を悪化させないようにすることが大切です。

健康な人が感染症にかかっても敗血症に発展することは多くはありませんが、「敗血症を起こしやすい人」の特徴に当てはまる人は健康な人に比べると敗血症を起こしやすいので注意が必要です。感染症が疑われる症状が現れた場合の対応について、かかりつけのお医者さんと確認しておくと良いです。

また、健康な人でも症状が良くならない場合や悪化する場合には注意が必要です。「敗血症の症状」に当てはまるものが現れた場合には医療機関を受診して調べてもらってください。早い段階で治療を開始することが敗血症にならないためには重要です。