2017.02.10 | ニュース

「切り札」の薬が効かない細菌が蔓延、患者の気道・尿・血液から検出

アメリカ64施設の調査から
from Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America
「切り札」の薬が効かない細菌が蔓延、患者の気道・尿・血液から検出の写真
(C) Lulla - Fotolia.com

抗生物質が効かない耐性菌が世界的な問題になっています。カルバペネム系抗菌薬は多くの種類の細菌に効果がある重要な薬ですが、アメリカの施設の調査で見つかったクレブシエラ菌の24%が耐性を示しました。

アメリカのペンシルバニア大学などの研究班が、耐性菌が見つかる割合の調査結果を専門誌『Clinical Infectious Diseases』に報告しました。

この調査では、2014年1月から2015年3月の間に、アメリカの64か所の長期急性期病院から情報を集めました。

調査対象として、クレブシエラ・ニューモニエのうちカルバペネム系抗菌薬耐性のものの割合を調べました。

クレブシエラ・ニューモニエ(肺炎桿菌)は感染症を起こしやすい細菌です。自然の環境にありふれた菌ですが、入院患者など体力が落ちている人には重い病気を起こすことがあります。

普通のクレブシエラ・ニューモニエは、よく使われる抗菌薬(抗生物質、抗生剤)が有効です。しかし抗菌薬を使っているうちに細菌が変化して、使っていた薬が効かなくなってしまうことがあります。抗菌薬を使いすぎると耐性菌を増やすことにもつながる恐れがあります。

カルバペネム系抗菌薬は非常に多くの種類の細菌に対して効果を現す薬です。貴重な役割があるため、耐性ができないように特に必要な場面でだけ使うべきと考えられています。

 

調査から次の結果が得られました。

3,846のクレブシエラ・ニューモニエ培養株が同定され、全体でカルバペネム耐性率は24.6%だった。

64か所の施設で1年余りの調査期間に、培養検査で見つかったクレブシエラ・ニューモニエが合計3,846件ありました。そのうち24.6%はカルバペネム系抗菌薬に耐性でした。

見つかったカルバペネム耐性のクレブシエラ・ニューモニエにはほかに以下のような特徴がありました。

946のCRKPの分離株のうち、507株(53.6%)は呼吸器由来、350株(37.0%)は尿路由来、9株(9.4%[ママ])は血液由来だった。

CRKP分離株の耐性率は、アミカシン(59.2%)、フルオロキノロン(>97%)に対して高かった。コリスチン/ポリミキシンBの耐性率は16.1%だった。

菌が見つかった場所は、呼吸器、尿路などでした。

また、耐性菌は一般にほかの種類の抗菌薬にも耐性を持つ場合があります。この調査で見つかったカルバペネム耐性菌の中では、アミカシン(アミノグリコシド系抗菌薬)に耐性のものが59.2%フルオロキノロン(ニューキノロン系抗菌薬)に耐性のものは97%を超えました

多剤耐性菌に使われるコリスチンまたはポリミキシンBに対する耐性は16.1%にありました。

 

「切り札」とも言うべきカルバペネム系抗菌薬でさえ効かない細菌が広がっているという報告を紹介しました。

あわせて検討されたコリスチンは、かつて流通したものの副作用が多いことから使われなくなった歴史がある薬です。多剤耐性菌が近年急増していることから、ほかの薬が効かない場合の手段としてコリスチンが再び使われるようになりました。しかし、コリスチンにも耐性を持つ細菌がすでに東京都内で販売された食品からも見つかっています。ここで報告された耐性率16.1%という数字は、まだコリスチンが治療薬として頼れる範囲ではあるものの、将来耐性菌が広まる可能性も決して見過ごせません。

今回紹介したデータはアメリカからの報告なので、日本で見つかる細菌では状況が違うと考えられますが、耐性菌が生まれてしまう背景は日本でも共通しています。

 

抗菌薬を使えばどうしても耐性菌が生まれるリスクがあります。耐性菌をできるだけ増やさないためには、抗菌薬は必要なときにだけ使うべきです。

たとえば、風邪や下痢には抗菌薬を使わないことが勧められます。2017年1月には、厚生労働省から「抗微生物薬適正使用の手引き」の案として、風邪には抗菌薬を使わない、急性下痢症にはまず水分を補給して対症療法のみ行う、といった内容が提示されました。

風邪のほとんどは細菌ではなくウイルスが原因です。ウイルスと細菌はまったく違います。抗菌薬は細菌に対する薬ですが、ウイルスには効きません。また、ウイルスによる風邪に引き続いて細菌性肺炎などが起こる割合はごくわずかです。効果が期待できない場合に薬を使うと副作用のリスクだけがあり、患者にとって有害です。このため風邪に抗菌薬を使うべきではありません。

 

同じように、細菌が起こす病気のひとつひとつに対して、どの抗菌薬を使うか、あるいは使わないかが長年の議論を通じて工夫されています。カルバペネム系抗菌薬が「効く」からといって安易に使うことは避けるべきです。カルバペネム耐性菌が生まれてしまうとごく限られた方法でしか治療できません。

患者からも「抗生物質を出してください」と求めることはせず、処方された用法・用量を守るなど、抗菌薬の適正使用に協力することが大切です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Epidemiology of Carbapenem-Resistant Klebsiella pneumoniae in a Network of Long-Term Acute Care Hospitals.

Clin Infect Dis. 2016 Dec 24. [Epub ahead of print]

[PMID: 28013258]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。