敗血症にならないための知識や知っておきたいこと:予防法や後遺症、死亡率
敗血症は命を脅かす危険な病気なので、なるべくかからないようにする心がけが大切です。ここでは敗血症の予防に役立つ知っておくと良い知識を説明します。
1. 敗血症はうつる病気なのか
敗血症は
感染症の中にもうつりやすいものとそうではないものがある
敗血症を起こしやすい感染症の代表として肺炎や腎盂腎炎があります。肺炎は人にうつることがある一方で、腎盂腎炎は人にうつることはほとんどないと考えられています。つまり、感染症の種類によってうつりやすさに違いがあります。
敗血症を起こした感染症がうつっても必ず敗血症になるわけではない
仮に敗血症を起こしている人の肺炎がうつったとしても、必ずしも敗血症になるわけではありません。健康な人の場合は感染症にかかっても
敗血症の人に接するときに過度な心配はいらないが必要な予防策は行うべき
敗血症を起こしている人に接するときには「感染症がうつって敗血症を起こしてしまうのではないか」と過度に心配をする必要はありません。手洗いやうがい、マスクの着用などの予防策は必要ですが、お医者さんの許可がある場合は敗血症の患者さんに会うことができます。
とはいえ、敗血症の原因となっている感染症がうつりやすいものである場合や患者さんの状態が悪い場合など特殊な事情で会えないこともあります。お医者さんから敗血症を起こしている人の状態をよく聞いて、適切な行動をとることが大切です。
2. こんな人は敗血症に注意
誰でも敗血症になる可能性はありますが、特に敗血症に気をつけなければいけない人がいます。具体的には次のような特徴を持つ人です。
これらの特徴を持つ人は免疫力が低下していて、感染症にかかりやすかったり重症化しやすかったりします。敗血症にならないためにも次で説明する予防の知識を持つようにしてください。
これらの特徴を持つ人ががなぜ敗血症になりやすいかは「敗血症の原因」で説明しているので参考にしてください。
3. 敗血症を予防することはできるのか
敗血症は感染症にともなって臓器障害が起こった状態なので、予防には「感染症にかからないこと」と「感染症になっても重症化させないこと」が重要です。
感染症にかからないこと
感染症にかからないためには「衛生の保持」と「ワクチンの接種」が重要です。
■衛生の保持
「衛生の保持」は手洗いやうがいをすることで可能です。
■ワクチンの接種
ワクチンに関しては「肺炎は予防できるの?予防接種:肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン」で詳しく説明しているので、参考にしてください。
感染症になっても重症化させないこと
どんなに予防をしても感染症にかかってしまうことがあります。感染症にかかった場合、それ以上悪化させないようにすることが敗血症の予防において重要です。特に、「こんな人は敗血症に注意」の条件に当てはまる人は要注意です。かかりつけのお医者さんと感染症が疑われる
4. 敗血症は後遺症が残ることはあるのか
敗血症を乗り越えられた人はまた元のような生活をすることができます。しかし、敗血症の程度が重かったり、治療が長引いたりした場合は次のような後遺症が残ることがあります。
- 認知機能が低下する
- 筋力が低下する、関節の動きが悪くなる
- 臓器の機能が低下したままになる
- 四肢を失う
後遺症の現れ方はさまざまです。以下ではそれぞれの後遺症について説明していきます。
認知機能が低下する
認知機能とは記憶・理解・判断・論理などの知的な行動を司る力のことです。敗血症の治療が長期になると、認知機能が低下することがあります。認知機能が低下すると次のようなさまざまな症状が現れます。
- 記憶ができなくなる
- 筋道をたててものごとを考えられなくなる
- 場所や時間を把握できなくなる
- ものを探せなくなったり、みつけたり認識したりするのができなくなる
- 目的をもった行動ができなくなる
- 言葉の理解や発語ができなくなる
認知機能の低下は薬では簡単に治せないことが多いです。このため、周りの人が患者さんの状態を把握して接し方や生活面での工夫をする必要があります。周りの人はお医者さんから患者さんの状態をよく聞いてどのような点に注意が必要なのか、その対策についてしっかり相談してサポートしてください。
認知が低下した人への周囲の人の接し方は「家族が認知症と診断されたらどのようにケアすればいい?」でも説明しているので参考にしてください。
筋力が低下する、関節の動きが悪くなる
敗血症が重症化すると人工呼吸器を装着したり
ベッド上での生活が長くなると、筋力が落ちたり関節の動きが悪くなったりします。治療が長期間になると自分の身体とは思えないほど自由がきかなくなっているかもしれません。
感染症の治療がうまくいき、全身の状態が整った後には必要に応じてリハビリテーションを行い落ちた身体の機能を元に戻すようにします。時間はかかりますが、毎日の取り組みが後々の生活に効いてきます。リハビリテーションは大変なものですが、その後の生活をより良いものにするために前向きに取り組んでください。
臓器の機能が低下したままになる
敗血症は感染症によって重い臓器障害が起こることです。具体的には、肺や腎臓、肝臓などに影響を及ぼしてその機能が低下します。敗血症の回復とともに機能が元にもどる臓器もあれば、機能が損なわれたままになってしまう臓器もあります。
例えば、腎臓は機能が一度低下すると元には戻りくい臓器です。腎臓の機能が著しく低下してしまうと透析治療が必要になります。このため、敗血症の後に腎臓の機能が低下していると言われた場合には、腎臓の機能をできるだけ保つために薬物治療を始めたり食生活を改めたりする必要があります。腎臓以外にも肺や肝臓の機能が戻らないこともあります。
できるだけ臓器の機能を長持ちさせられるように、お医者さんの言うことを理解して行動に移せるようにしてください。
四肢を失う
皮膚の感染症(壊死性軟部組織感染症など)が原因で敗血症を起こした場合、治療のために手や足の一部を切断することがあります。具体的に言うと、感染のコントロールが難しく、どうしても感染を起こした部位を切り離さなければならないと判断された場合に行なわれます。
手や足の切断は簡単には受け入れがたく、精神的にもつらいものがあります。一方で、生命を救うためにはやむを得ない判断であったのもまた事実です。現実を受け入れるのは簡単ではありませんが、時間をかけて少しずつ身体を慣らしていってください。
四肢を失った場合はそれを補うためにリハビリテーションが必要になります。身体の一部を失った後のリハビリテーションは通常よりも大変です。繰り返しになりますが、リハビリテーションはその後の生活をよりよいものにするためにとても大切です。簡単ではありませんが、前向きに取り組んでみてください。もし、精神的なつらさを感じる場合にはスタッフに遠慮なく悩みや不安を打ち明けてください。話を聞いてもらうだけでも精神的なつらさは軽くなりますし、リハビリテーションにも前向きになれるでしょう。
5. 敗血症の死亡率や治る確率はどれくらいか
諸外国からの研究報告によると、敗血症の人の死亡率は10%から52%とされています。日本と外国では医療制度や環境などの違いはありますが、参考になる数値です。しかし、この死亡率がそのまま一人ひとりに当てはまるとは限りません。
敗血症の原因となっている感染症による違い
敗血症は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」のことです。感染症とひとくちに言っても肺炎や胆嚢炎、腹膜炎、腎盂腎炎などその種類はさまざまです。敗血症の程度は原因となる感染症によって変わります。例えば腸が
年齢や持病などの身体の状態の違い
一人ひとりの身体の状態も死亡率に大きな影響を与えます。「44歳以下で持病などがない人」は敗血症による死亡率が低かったという研究報告があります。
年齢を重ねると筋力だけでなく臓器の機能や免疫機能も低下していきます。気づきにくいですが、心臓や肺、腎臓、肝臓などは年を重ねるとともに少しずつ機能が低下していきます。また、免疫機能も低下するため感染症かかった場合自分の力で押さえ込むことが難しくなります。
また、持病があると年齢を重ねていなくても臓器の機能や免疫機能が低下していることがあります。例えば、高血圧症の持病があると、たとえ無症状でも心臓や腎臓に負担がかかっており、機能は低下していることが多いです。また、
このように年齢や持病によって臓器機能や免疫機能が低下していると敗血症による影響が強く出てしまい、治療が難しくなりやすいです。一人ひとりの身体の状態の違いが敗血症の治療に強く影響します。
敗血症の死亡率は原因や身体の状態によって一人ひとり異なる
説明してきたように「敗血症の原因となった感染症」と「身体の状態」の違いは生存率にも大きな影響を与えます。つまり、お医者さんから敗血症と告げられた場合、生存率は50%と考えるのは早計です。
例えば、免疫機能が低下している人が腹膜炎などの重篤な状態になりやすい感染症で敗血症を起こした場合は数字よりもはるかに厳しい経過になることも予想されます。一方で、健康な人が腎盂腎炎などの比較的軽症ですむ感染症で敗血症を起こした場合は、数字よりもよい経過をたどることも予想されます。
とはいえ、人間の身体は予想がつかないことが起こるものです。軽症と考えられていた人が重い状態になって治療が難しくなることもありますし、反対に重症と考えられていた人が予想を超えて順調に回復することもあります。説明された数値にとらわれるのではなく、目の前の状態に向き合っていくことが何より大切です。
参考:
UpToDate Sepsis syndromes in adults: Epidemiology, definitions, clinical presentation, diagnosis, and prognosis