すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 206回の改訂 最終更新: 2023.05.30

膵臓がんの症状:初期症状や黄疸、腹水などについての解説

膵がんは、無症状のこともありますが、腹痛や体重減少などの症状によって発見されることがあります。ここでは膵がんの症状を中心に膵臓という臓器についても解説します。

1. 膵臓とはどんな臓器なのか:場所・役割・周りの臓器について 

膵臓の部位_膵頭部_膵体部_膵尾部

膵臓の場所

膵臓はみぞおちあたりの背中側(せなかがわ)にある臓器です。背中側にあるという意味で、後腹膜臓器(こうふくまくぞうき)というものに分類されます。
膵臓の大きさは15-20cm程度です。細長い形をしています。部分を細かく膵頭部、膵体部、膵尾部という3つに分けて呼ばれることがあります。
膵臓は十二指腸と接しており、膵臓と十二指腸は主膵管(しゅすいかん)という管でつながっています。膵臓の前には胃が、左隣には脾臓(ひぞう)があります。

膵臓の役割

膵臓の役割

膵臓の役割は大きく2種類に分けられます。

  • ホルモンを出す(産生する)
  • 消化酵素を分泌する

膵臓が作っているホルモンには、インスリンやグルカゴンという血糖値の調節に必要なホルモンなどがあります。膵臓は食べ物を消化するための働きを担っています。膵臓から分泌される膵液には、タンパク質や脂肪を分解する消化酵素が含まれています。
ホルモンを分泌する機能を内分泌(ないぶんぴつ)、消化酵素を分泌する機能を外分泌(がいぶんぴつ)とも言います。

膵臓の周りの臓器について

膵臓の周りの臓器についてさらに説明します。
少し専門的な内容になるので、読み飛ばしてもらっても問題はありません。

膵臓の手術は難しい手術とされています。その理由の1つとして、膵臓は重要な臓器に囲まれているからです。
膵臓がんが進行すると近くの血管に浸潤(しんじゅん)します。がんの手術において機能的に問題が起きない範囲で血管を犠牲にして腫瘍を摘出することはよくあります。しかし中には犠牲にできない血管がいくつかあります。膵臓の周りには犠牲にできない大切な血管がいくつかあります。大事な血管に傷をつけずにがんを摘出する作業は難しいです。
次に膵臓の周りにある血管と臓器をさらに詳しく説明します。

■膵臓の周りの血管

膵臓の膵頭部という場所は十二指腸と接しており、その背中側には下大静脈(かだいじょうみゃく)という血管があります。下大静脈は、下半身の大部分と腎臓から心臓に向けて血液を送り返す非常に太い静脈です。

さらに膵頭部から膵尾部にかけての場所には上腸間膜静脈(じょうちょうかんまくじょうみゃく)という静脈があります。上腸間膜静脈は膵臓の後ろ側を通ります。上腸間膜静脈には、腸で吸収された栄養を多く含んだ血液が流れており、門脈という大きな血管に合流します。門脈は肝臓に食べ物の栄養分を運ぶ血管です。

上腸間膜静脈の左隣りには上腸間膜動脈が走行しています。上腸間膜動脈も膵臓の背中側を通っています。上腸間膜動脈は小腸と大腸の大部分に向かう血液が通る道です。
腸は血流がなくなるとすぐに壊死(えし)してしまいます。壊死した組織は本来の機能を失い、元に戻ることはありません。上腸間膜動脈を傷つけると、腸の広い範囲が壊死するなどの重大な問題が起こります。手術の際には細心の注意が払われます。

さらに、膵臓の頭側には、腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)という血管が走行しています。腹腔動脈は右胃動脈、固有肝動脈、脾動脈に枝分かれしていきます。

■膵臓の周りで消化液を運ぶ管

膵臓の中には膵管という管が通っており膵液が中を通ります。膵管は主膵管と副膵管の2つの管があります。
膵液はタンパク質や脂質を吸収しやすく消化する作用があります。しかし、膵液は主膵管の中ではその効果が発揮できないようになっているので、膵臓を溶かすことはありません。

主膵管は十二指腸とつながっています。
主膵管と十二指腸がつながる部分をVater(ファーター)乳頭といいます。ファーター乳頭で、主膵管に胆管(たんかん)という管が合流します。胆管には胆汁(たんじゅう)という液体が流れています。胆汁は肝臓で作られる消化液です。胆汁はファーター乳頭を通って膵液と混ざり、腸管に流れ込んでいきます。
胆汁はビリルビンという物質の排泄に重要な役割を果たしています。胆汁が流れなくなるとビリルビンが体にたまり黄疸(おうだん)という症状が現れます。

2. 膵臓がんの初期症状

膵臓がんには初期症状がある場合とない場合がありますが、ないことの方が多いです。
また、膵臓がんにしかみられない症状というものはあまりないので、ある特定の症状から膵がんの存在を早期に推定することは難しいと考えられています。

膵臓がんにみられる症状の例を挙げます。

  • 腹痛
  • 食欲不振
  • 腹満感
  • 黄疸:身体が黄色くなること
  • 体重減少
  • 背部痛
  • 下痢

これらの症状は他の病気でも現れます。また、膵臓がんは症状のみで発見することはできない上に、上記の症状は他の病気の症状である可能性もあります。症状が長引くときは病気が潜んでいる可能性があるので、医療機関を受診してください。

その他で注意することとしては、症状ではありませんが検査値の変化も手がかりになります。
新たに糖尿病発症したときや、特に原因がないのに糖尿病が悪化した場合には、膵臓を詳しく調べることが重要です。糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが不足して起こる病気です。糖尿病の多くは肥満などが原因ですが、膵臓が破壊されインスリンの分泌が低下することも原因になります。

3. 膵臓がんの症状①黄疸

黄疸(おうだん)とは皮膚や眼球結膜(しろ眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。
原因は、ビリルビンという物質が身体の中で多くなることです。見た目で黄疸と診断されるのはある程度ビリルビンが上昇してからになります。初期の黄疸は、尿の色が黄色く見えたりすることがあります。
黄疸では体が黄色くなることの他にも症状があります。

  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感)
  • 皮膚がかゆくなる
  • 風邪のような症状
  • 微熱
  • 尿の色が黄色くなる

黄疸の原因はやや複雑です。次に説明します。

黄疸の原因

黄疸についてやや専門的な内容を説明します。

黄疸は血液中のビリルビンの濃度が高くなることで起こります。
ビリルビンは赤血球が古くなり役目を終えて破壊されるときに発生します。

ビリルビンは肝臓で処理されて排泄されます。
肝臓でビリルビンはグルクロン酸という物質とくっつきます(グルクロン酸抱合(ほうごう))。グルクロン酸抱合によって、ビリルビンは水に溶けやすい状態になり、効率的に排泄されます。肝臓の機能が低下している場合、ビリルビンの処理が追い付かず血液中にビリルビンがたまってしまいます。すなわち、肝臓の機能が低下することは黄疸の原因のひとつです。

ビリルビンの発生量が増えたときにも黄疸になることがあります。ある種の病気では、古くなっていない赤血球も破壊される(溶血する)異常な状態が発生します。大量の溶血があると、ビリルビンの量が肝臓で処理できる範囲を超えてしまい、血中のビリルビンの濃度が上昇します。このように、溶血をともなう病気の症状として黄疸が現れることがあります。

ビリルビンはグルクロン酸と抱合した後、胆汁の中に入って胆管内を流れていきます。胆汁は胆管を経て十二指腸に流れこんで行きます。胆汁の流れが滞ることでも黄疸が生じます。膵臓がんが胆管の近くにあることによって胆汁の流れが滞ることがあり、そのために黄疸を生じます。

黄疸の原因による分類をまとめます。それぞれに名前があります。

  • 赤血球の破壊の異常によるもの:溶血性黄疸
  • グルクロン酸と結合ができないもの:肝細胞性黄疸
  • 胆汁の流れが悪いもの:閉塞性黄疸

膵臓がんでは閉塞性黄疸と肝細胞性黄疸が現れます。

黄疸以外で体が黄色くなることはあるのか

みかんなどのいわゆる柑橘類やニンジンなどをかなり多く食べた場合に、皮膚が黄色くなることがあります。これを柑皮症(かんぴしょう)などと言います。黄疸とは異なり、眼球粘膜(白目の部分)が黄色くなることはありません。また、原柑皮症は病気ではありません。原因の食べ物の食べすぎをやめれば元に戻ります。見た目以外の影響もありません。

黄疸にはいくつか原因あります。
一つは体質による黄疸があり、これを体質性黄疸といいます。たとえばGilbert症候群ジルベール症候群)は代表的な体質性黄疸です。ジルベール症候群はほとんど害がなく、治療の必要もありません。

ほかでは、生まれて数日の赤ちゃんに黄疸が現れることはとてもありふれています。
新生児黄疸と言います。生まれたばかりの赤ちゃんは赤血球や肝臓が未熟なため、一時的に黄疸が出ます。新生児黄疸が極端に強い場合は光線療法などが必要ですが、大多数の赤ちゃんは黄疸が出ても自然に治っていきます。
また、主に母乳で育てている赤ちゃんでは黄疸が出やすくなります。母乳による黄疸もたいていは無害です。赤ちゃんの黄疸について詳しくは「新生児黄疸は危険?原因と数値の読み方、光線治療の基準値」をご覧ください。

皮膚が黄色いと感じた場合は、必ずしも病的な黄疸とは限りません。慌てず医療機関を受診し、原因について確認しておけば、無害なものとわかって安心できる場合もあります。

黄疸の治療

膵臓がんを原因とする黄疸は胆汁が流れなくなる閉塞性黄疸や、多発肝転移によって肝臓の機能が落ちることによる黄疸があります。
多発肝転移がある状態から肝臓の機能を回復させるのは困難です。ここでは膵臓がんによる閉塞性黄疸について説明します。

胆汁は肝臓で作られ肝臓の中の胆管(肝内胆管)を流れていきます。いくつかの肝内胆管が合流して肝管(かんかん)となり肝臓の外へ出ていきます。肝管は、胆嚢(たんのう)につながる胆嚢管と合流して総胆管(そうたんかん)になります。総胆管は膵臓と十二指腸がつながるファーター乳頭(Vater乳頭)で膵管と合流します。膵臓がんが膵頭部に発生した場合、総胆管の流れが悪くなることにより、黄疸が発生します。

滞っている胆汁を体の外に出すことで黄疸は改善します。

黄疸を改善させる治療はいくつかあり、まとめて減黄術(げんおうじゅつ)ということもあります。減黄術により皮膚の掻痒感(そうようかん;かゆみ)や食思不振などの改善が期待されます。

閉塞性黄疸に対する減黄術

閉塞性黄疸に対する減黄術は大きく分けて2種類があります。

  • 内視鏡を利用する方法
    • ENBD(endoscopic nasobiliary drainage;内視鏡的経鼻胆道ドレナージ
    • ステント療法(EBS;endoscopic biliary stenting)
  • 体の外から管を入れる方法
    • PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage;経皮経肝胆道ドレナージ)

それぞれについて説明します。

◎ENBD(endoscopic nasobiliary drainage;内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)

ENBD(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)のイメージ

ENBDは内視鏡で胆汁を体の外に出すことにより黄疸を改善する方法です。胆汁は鼻の穴を通したチューブから体の外に出ることになります。鼻から入れるチューブの太さは5-7Fr(フレンチ)です。言い換えると1.7-2.3mmという太さです。

他の減黄術に比べて、ENBDの良い点は、胆汁が排液できているかを確認できる点です。

悪い点として、鼻から管が入っているので不快感がどうしてもあります。退院してもしばらく鼻に管を入れたままにしておく場合があります。この場合は自分で管を管理しないといけません。とはいえ、チューブの管理はお腹から管が出るPTBDよりはやりやすいと考えられます。

【ENBDの具体的な手順】
ENBDは途中でX線による画像(透視)を見ながら行います。透視室という場所や専用の部屋で行われます。
手順を大まかに説明します。

  • 内視鏡が太かったり時間がかかることがあるので意識がうとうとする薬を使う場合があります。
  • 口から内視鏡を入れて十二指腸まで進めます。
  • 内視鏡の先端から細い針金(ガイドワイヤー)を出します。
  • ガイドワイヤーをファーター乳頭から総胆管に挿入します。
  • ガイドワイヤーに造影用のカテーテル(細い管)をかぶせて、カテーテルを総胆管まで進めます。
  • カテーテルから造影剤を注入して総胆管の形を写し出します。
  • カテーテルを抜いてENBDチューブを挿入します。
  • ENBDチューブの先端を肝臓の中の胆管まで進めます。
  • ENBDチューブが抜けてこないように内視鏡を抜きます。
  • ENBDチューブは口から出ている状態なので、鼻から別の管(ショートプラスティックチューブ)を挿入します。
  • 鼻から入れたショートプラスティックチューブを口から出します。
  • ENBDチューブをショートプラスティックチューブに挿入し、ショートプラスティックチューブとENBDチューブを同時に引き出します。
  • ENBDチューブが鼻から出たところでENBDチューブの先端の位置が大きく変わっていないことを確認し、ENBDチューブの留置が終了となります。

これはあくまでも1つの例なので、説明の通りに進まないことありますが、処置を受ける前のイメージ作りに利用してみてください。

【ENBDの合併症
ENBDによって引き起こされる問題(合併症)や注意点もあります。処置を受ける際に医師から説明があると思いまが、復習の意味で読んでみてください。

■膵炎
ENBDチューブを留置するときの操作で膵炎が起きることがあります。原因は、胆管の流れを確認するときに造影検査などで膵管の圧力が上昇することやERCP後にVater(ファーター)乳頭がむくんで膵液の流れが悪くなることが考えられます。膵炎が重症化した場合の死亡率は約6%と言われており注意が必要です。

一旦膵炎が発生すると、重症化させないように慎重に経過を見る必要があります。膵臓に刺激を与えないためにしばらく食事を控えることもあります。

■発熱
ENBDのチューブに菌が定着して、胆管炎を起こすことがあります。ENBDによる胆管炎は重症化しやすいため、ENBDチューブが留置されている状況での発熱には注意が必要です。ENBDチューブを挿入したまま退院する場合は、どの程度の発熱で受診すべきかを質問してよく聞いておくことが重要です。

■ドレナージ不良
胆汁は粘り気が強いのでENBDチューブが詰まることがあります。ENBDチューブが詰まった場合には、交換が必要になります。胆汁が出てこないことをドレナージ不良といいます。ドレナージが不良な場合、胆管炎などの原因になります。胆汁の量などを把握しておくことも重要です。

【ENBDチューブの管理】
ENBDチューブを挿入後、状態が安定していると判断された場合は自宅での生活が可能になります。その際には、チューブの管理を自らの手で行う必要があります。以下のポイントが重要です。

  • 色に注目する
  • 出てくる胆汁の量を記録する

胆汁の流れが悪くなると、胆管炎などの原因となります。胆汁の量や流れには注目が必要です。正常な胆汁は褐色でやや粘り気があり、1日分の量は500-1000mlとされています。胆汁の流れが悪くなった人の場合は、胆汁の色は茶褐色よりやや薄く、量は1日あたり2000mlを超えることがあります。

急激に量が減少した場合には、閉塞(詰まっていること)が疑われます。場合によっては医療機関の受診が望ましいです。色の変化にも注意が必要です。緑色や透明な場合や液体がさらさらとしている場合はチューブの位置が変わったことが想定されます。

◎ステント療法(EBS;endoscopic biliary stenting)

ステント療法(EBS;endoscopic biliary stenting)の解説イラスト

閉塞性黄疸は、胆汁の通り道が一部で狭くなることによって起こります。

胆汁の流れを正常化する方法の一つに、狭くなっている部分に管を通して、胆汁の流れを確保する方法があります。管を体の外まで出して来る方法をENBDといいますが、短い管(ステント)を体の中に残してくる方法もあります。胆汁は正常な流れのとおり体の中に排出されるようになります。内(ないろう)化という場合があります。内視鏡を用いて行います。

ステントを置く方法は、ENBDやPTBDと違って体の外に管を出すことがなく、社会復帰が早い点や生活のしやすさが利点です。

反面、胆汁を体の外に取り出さないので、胆汁の色や量を観察できません。ステントが閉塞するなどの状態に気付くのが遅くなることがあります。

【EBSの具体的な手順】
手順をおおまかに説明します。
途中でX線を使った画像を見ながら行うので、透視室という場所や専用の部屋で行われます。

  • 内視鏡が太かったり時間がかかったりすることがあるので、意識がうとうとする薬を使う場合があります。
  • 内視鏡を口から入れて十二指腸まで進めます。
  • 内視鏡の先端から細い針金(ガイドワイヤー)を出します。
  • ガイドワイヤーをファーター乳頭から総胆管に挿入します。
  • ガイドワイヤーに造影用のカテーテルをかぶせて、カテーテルの先端を肝内胆管まで進めます。
  • カテーテルから造影剤を注入して胆管の形を確認します。
  • カテーテルを抜いて、ステントを挿入します。
  • ステントの先端が狭窄部位を十分に超えるような位置にまで進めます。
  • ステントの位置が変わらないように慎重に内視鏡を抜いていきます。

EBSは意識状態を落とす薬を使って行なわれることもあります。

【EBSの合併症】

ステント留置によって引き起こされる合併症や、経過中の注意点があります。

■膵炎
ステントを留置するときの操作で膵炎が発生することがあります。総胆管の流れを確認するための造影検査で膵管の圧力が上昇することなどが原因とされます。

■発熱(胆管炎:たんかんえん)
ステントががんの増殖により閉塞したり、ステントの位置が変わってしまうことによって胆汁の流れが悪くなることがあります。胆汁の流れが悪くなると再び黄疸や発熱が引き起こされます。ENBDと違いすぐにはステントの閉塞に気づかない場合があります。

■ドレナージ不良
がんが増殖してステントが詰まることがあります。胆汁をうまく流せなくなった状態をドレナージ不良と言います。ステントが詰まった場合には、他の場所にステントを入れたり他の減黄術を行うことがあります。

◎PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage;経皮経肝胆道ドレナージ)

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)の解説イラスト

膵臓がんが膵頭部に発生した場合、胆汁の流れが悪くなることにより、黄疸が発生します。

胆汁の流れを改善させるために、閉塞している部分より上流(主に肝内胆管)に針を刺して胆汁を出すための管(チューブ)を挿入する方法があります。肝内胆管にチューブを留置し体の外に胆汁を出すことで胆汁のうっ滞が改善し、黄疸も回復に向かいます。

この一連の手技をPTBDといいます。

PTBDはX線を使った画像を見ながら行うので、透視室という場所で行われます。

  • 仰向けで行うことが多いです。
  • 超音波検査の画像を見ながら、最も治療の効果があると考えられる場所を探します。
  • 針を刺す部分を消毒し、滅菌された布を体全体にかけます。
  • 局所麻酔を行い、痛みが十分に取れていることを確認したうえ、針を肝内胆管に向かって刺します。
  • 針がしっかり肝内胆管に届いていることを確認するために造影剤を注入してX線の画像で観察します。
  • 針を残したままにして、針の中に細い針金(ガイドワイヤー)を挿入します。
  • ガイドワイヤーを伝って太い管を入れます。
  • 最後に太い管がしっかりと肝内胆管内にあること、胆汁が体の外に出てきていることを確認します。
  • 管を皮膚に縫い付け、手技終了となります。

【PTBDの合併症】
PTBDによって引き起こされる合併症や注意点があります。

迷走神経反射

針を刺すときやガイドワイヤーを挿入して操作するときに、迷走神経反射が起きることがあります。血圧が下がる、脈が遅くなる、意識消失するなどが症状です。手技の前に予防薬を使用する場合があります。手技中は血圧や脈拍などを定期的に測定します。

気胸
肺は胸腔(きょうくう)というスペースの中に納まっています。肝臓に向かって針を指したとき、胸腔に穴が開いてしまうことがあります。胸腔に外から空気が入ってくると肺がしぼみ、呼吸がしにくくなります。これを気胸といいます。気胸は自然と治ることもあります。気胸の程度が重症と判断された場合は、胸から空気を抜いて気胸を改善させるための管を挿入することがあります。

■出血
肝臓は血流が多い臓器です。また肝臓の周囲には大きな血管があります。肝臓に針を刺すときに血管を同時に刺してしまうことがあります。手技中には気づかないこともあり、しばらくは出血がないかを確認する必要があります。出血はそのまま様子を見ていると止血される場合もありますが、出血量が多いときには、カテーテル治療などで止血しなければならないことがあります。

■感染
チューブという異物が挿入されていることで細菌が胆管内に入り込み、感染を起こすことがあります。チューブからしっかり胆汁が出ているかなどに注意することが重要です。

■胆汁性腹膜炎
挿入した管が十分に胆管に入りきっていなかったり、管が閉塞していたりすると胆汁がお腹の中に漏れることがあります。漏れた胆汁は腹膜炎(ふくまくえん)を起こします。腹膜炎は強い腹痛や発熱を症状とします。胆汁性の腹膜炎が疑われる場合は、胆汁を体の外に出すための管を挿入しなければならない場合や手術が必要な場合もあります。

■チューブの逸脱
呼吸によってチューブが動いたりすることで自然とチューブが抜けてしまうことがあります。またチューブを引っ掛けたりしてしまうことも原因となります。

【チューブの自己管理】

PTBDでチューブを挿入後、状態が安定していると判断された場合は自宅での生活が可能になります。その際には、チューブの管理を自らの手で行う必要があります。

  • チューブを引っ掛けない 
  • 体の動きはゆっくり
  • 出てくる胆汁の量を記録する

チューブが閉塞したり先端の位置が大きく変わると、効果がなくなるだけでなく、発熱などの原因になります。上のポイントに気をつけて生活することが安全な管理の助けになります。

黄疸による症状の和らげ方

黄疸による症状はかゆみが主体になります。黄疸が出ているときには肝臓の機能も低下していることが多いので、体がむくみやすくなっています。むくみ(浮腫)があると皮膚は薄く乾燥しやすくなり、かゆみをさらに助長します。

皮膚に傷がつくとかゆみは増強するのでとにかく引っかかないことが大事です。

  • 体の水分を保つ(保湿)
    • ローションなどを使用する 
    • かゆみは蒸れたり、乾燥したりすると強くなるので、適度な温度と湿度を保つ

以上のような工夫が有効と考えられます。個人個人でかゆみに対して有効な方法も異なるので、自分にあった方法を探してみてください。

4. 膵臓がんの症状②:腹水

膵臓がんによって腹水が発生することがあります。腹水とは、腸の周りの腹腔(ふくくう)という空間に水が溜まっていることです。

腹腔のイラスト(側面)

腹水の原因はいくつかに分類できます。

膵臓がんが進行するとがんが腹腔に飛び散ることがあります(播種)。がんが腹腔の中で炎症を起こすと腹水が出ます。

膵臓がんが進行すると食事の摂取量が減っていき体の栄養状態が低下していきます。体の栄養素が減っていくと体の中のアルブミンという重要な物質も減っていきます。アルブミンは血管内に水分を保つ働きがあります。アルブミンが減ってくると血管内から水分が出ていきます。血管内から出ていった水分は腹腔に溜まります。

腹水を治すための有力な治療法はありません。対症療法としては、利尿剤を使用することで腹水が減り、症状が緩和されることが期待されます。大量の腹水による膨満感などの症状が強くなれば腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。

5. 膵臓がんの症状で余命はわかるのか

膵臓がんの症状から余命を推定することは難しいです。症状は患者さん個人個人で感じ方に違いがあるので、客観的に評価することが困難です。余命はステージを根拠に推定するほうが、信頼性は高いといえます。症状はステージとも対応しません。

膵臓がんに限らず、がんが発見されるとCT検査やMRI検査などの画像診断を用いてステージを定めることになります。ステージを定める最大の理由は最適な治療選択をするためですが、ステージから余命をある程度推定することもできます。

ステージは4つに分類されます。しかし同じステージでも患者さんそれぞれの体力、がんの状態などが違うため、余命を正確に言い当てることはできません。

ステージ4を例にしてみます。膵臓がんのステージ4は膵臓から離れた場所に転移がある状態です。

  • 例1
    • 膵臓がんは周りに浸潤していない
    • 領域リンパ節に転移がある
    • 肝臓にも転移がある
  • 例2
    • 膵臓がんは大血管の周りまで浸潤している
    • 領域リンパ節以外のリンパ節にも転移がある
    • 肝臓には複数の転移、肺にも転移がある

やや極端な例を提示しました。ステージ4でも例1と例2では大きく異なります。

膵臓がんと言われると余命が気になるのは当然のことです。主治医からの説明やインターネットなどでは厳しい数字を目にすることもあると思います。しかし統計上の数字はいろいろな条件をひとまとめにした結果でしかありません。個人個人で体もがんの状態も異なります。余命を正確に言い当てることは誰にもできません。

膵臓がんと診断されたら、受け止めることは難しいかもしれません。時間をかけてもいいと思います。余命は目安程度に思って、今の状況でできる一番いいことは何かを考えることが大切です。

6. 膵臓がんの症状はステージごとに違うのか

膵臓がんのステージは、CT検査やMRI検査による画像診断を使って決定されます。ステージを決定する基準には症状は含まれていません。膵臓でのがんの状態、リンパ節転移の有無、膵臓から離れた場所への転移について評価が行われます。これら3つの要素を組み合わせてステージが決定されます。

症状はステージと対応しません。どのステージでどの症状が出るという確かな関係はありません。一番進行しているステージⅣでもまったく症状がない人もいます。

症状とステージの関係性としては、ステージが早期の方が、症状がある割合は低いとする報告があります。しかし、症状があるから進行しているはずだとは言えません。

ステージの決め方とは?

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。

がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。

原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってがんのステージを決定します。

膵臓がんのTNM分類

以下では分類の基準とされる表現をそのまま紹介しています。専門用語を使った表現ですが、「数字が大きいほうが進行している」といった程度の理解でも続きを読むには十分です。

参考:膵癌取扱規約 第7版

T因子

TはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。膵臓でのがんの状態を表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子では原発巣の評価を行います。膵臓がんのT因子は比較的早期のものに関しては大きさが重視され決定されます。進行しているものは血管との関係が重要になります。

  • TX:膵局所進展度が評価できないもの
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:非浸潤
  • T1:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mm以下である
    • T1a 最大径が5mm以下の腫瘍  
    • T1b 最大径が5mmをこえるが10mm以下の腫瘍
    • T1c 最大径が10mmをこえるが20mm以下の腫瘍
  • T2:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mmをこえている
  • T3:腫瘍の浸潤が膵をこえて進展するが、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの
  • T4:腫瘍の浸潤が腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの

N因子

N因子ではリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を示す、Nodeの頭文字です。

がんは時間とともにに大きくなり、リンパ管や血管などの壁を破壊し侵入していき、全身へ広がっていきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなり、押しても動かないなどの特徴を示します。

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することでがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身化学療法抗がん剤)が検討されます。治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査やMRI検査が使われます。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明である
  • N0:領域リンパ節転移を認めない
  • N1:領域リンパ節転移を認める
    • N1a:領域リンパ節に1-3個の転移を認める
    • N1b:領域リンパ節に4個以上の転移を認める

M因子

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。膵臓から離れた場所にがんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節への転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

遠隔転移がある膵臓がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(抗がん剤治療)が主な治療です。

  • M0:遠隔転移を認めない
  • M1:遠隔転移を認める

ステージの決め方

膵臓がんが発見されると、がんの進行度を客観的に判断します。その後、表の基準でステージの分類を行います。

ステージ0 Tis N0 M0
ステージIA T1(T1a、T1b、T1c) N0 M0
ステージIB T2 N0 M0
ステージIIA T3 N0 M0
ステージIIB T1(T1a、T1b、T1c)、T2、T3 N1(N1a、N1b) M0
ステージIII T4 Any N M0
ステージIV Any T Any N M1

7. 膵臓がんに痛みはあるのか

膵臓がんで痛みが生じることはあります。膵臓がんによる痛みの多くは腹痛や背部痛です。

しかし、腹痛や背部痛は必ずしも膵臓がんが原因とは限りません。

背部痛を症状として現す病気の例を挙げます。

背部痛があるから「膵臓がんかもしれない」と考えることは必ずしも正しくありません。膵臓がん以外にも多くの病気の可能性があります。

膵臓がんが心配な気持ちが強いと、腹痛や背部痛が出ただけで怖くなってしまうかもしれません。しかし痛みが出たときに心配するべき病気はほかにもたくさんあります。持続したり激しい痛みには原因があります。膵臓がんだけを心配するのではなく、診察を受けて原因を調べることで、意外にすっきりと解決する場合もあります。

8. 膵臓がんが再発したときの症状はどんなものがあるのか

がんの再発とは、一度手術などによって目では確認できなくなったがんが再び病変として確認されることを指します。再発はそれぞれの場合で場所やタイミングなどが異なります。

膵臓がんが再発したときには症状があるとは限りません。膵臓がんはがんのなかでも悪性度が高いので、再発する可能性も他のがんに比べて高いと考えられます。症状に注意しても再発を見逃さないことは難しいので、治療後の定期的な検査が大切です。症状がないときに検査で再発が指摘されることはよくあります。

とはいえ、再発した膵臓がんが症状を現す場合はもちろんあります。症状の出現で再発が指摘されることもあります。膵臓がんが転移しやすいのは、肝臓、肺、リンパ節です。また膵臓を切除した場所に再発(局所再発)することもあります。

膵臓は神経の束(神経叢)にも近い位置にあります。局所再発を来して神経に影響(浸潤)を及ぼすと、上腹部痛や背部痛を現すことが考えられます。局所再発では腸の流れを妨げて腸閉塞を起こしたり、胆汁の流れを妨げて黄疸を起こすこともあります。

9. 膵臓がんの脳転移の症状

膵臓がんの転移する場所としてもっとも多いのが肝臓です。その他では肺、リンパ節があります。膵臓がんの脳転移は決して多いとは言えません。

がんの脳転移により起きる症状の例を挙げます。

  • 頭痛
  • 吐き気、嘔吐
  • めまい
  • 物が二重に見える
  • 呂律(ろれつ)がまわらない
  • 手足の麻痺
  • 手足のしびれ
  • 痙攣(けいれん)
  • 意識障害
  • 物忘れがひどくなる

解説します。

脳転移と一口に言っても、どこに転移したかで症状が大きく違います。脳転移があっても症状が出ない人もいれば、多くの症状を伴う人もいます。頭痛や吐き気などの症状に対しては、放射線治療ステロイドなどの薬物療法により症状の緩和が行われます。

10. 膵臓がんの末期症状とは?

まず『がんの末期』には明確な定義はありません。

ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

膵臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があり、緩和的な治療が主体になってきている段階です。緩和医療に関しては「緩和医療はどんな治療なのか?」で詳細に解説しています。

膵臓がんの末期では肺、肝臓、骨などに転移したり、膵臓の周りに広がったりしています。がんが広がると身体に影響が現れ、悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。

これらの末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ患者さんが過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。