すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 250回の改訂 最終更新: 2025.01.09

膵臓がんのよくある疑問:症状とステージの関係は? 免疫療法? 標準治療? 名医はどこにいる?

膵臓がんは悪性度の高いがんです。そのため、恐怖心も大きいと思います。ありふれた症状と膵臓がんの関係や、膵臓がんでよくある疑問について解説します。

1. 下痢は膵臓がんの症状?

膵臓がんは初期症状があまり出ません。進行した状態では、腹痛などの症状が現れます。

【膵臓がんの主な症状】

症状 症状が出る割合
腹痛 78-82%
食欲不振 64%
お腹がすぐに一杯になる(早期の満腹感) 62%
体が黄色くなる(黄疸 56-80%
体重の減少 66-84%
背部痛 48%

World J Geteroenterol 2011;17:867-897

下痢は膵臓がんに特徴的な症状ではありません。膵臓がんと関連が深い慢性膵炎では下痢がよくあります。それは、膵臓から出る消化酵素の量が不十分なために脂肪などの吸収がうまくいかなくなるからです。慢性膵炎による下痢は脂肪性下痢と呼ばれ、多くの脂肪分を含む便が出ます。

慢性膵炎は膵臓がんの発生のリスクを上昇させるとされています。しかし、下痢が膵臓がんそのものを意味するわけではありません。

食中毒などの心当たりがないのに下痢が続く場合には、膵臓がんかどうかにかかわらず、まずは消化器内科などで原因を調べたほうがよいでしょう。

一方、膵臓がんがすでに診断された人の下痢は、膵臓がんの手術後の後遺症として現れる場合や、抗がん剤などが原因となることもあります。

膵臓がんが進行している場合は、腸の動きを司る神経を手術時に同時に切除することがあります。切除した神経の量にもよりますが、手術の後には長引く下痢に悩まされることがあります。程度がひどく通常の下痢止めで対処ができないときは麻薬性の下痢止めなどを使用することもあります。

膵臓がんの治療で用いられる抗がん剤の中には下痢を起こすものがあります。イリノテカンやS-1という抗がん剤が下痢の原因となりやすいことが知られています。抗がん剤による下痢に対しては下痢止めなどが使用されます。重い下痢が原因で入院が必要になる場合もあります。

慢性膵炎による下痢

慢性膵炎とは膵臓に慢性的炎症が起きている状態です。腹痛などの症状とともに、膵臓の消化機能が弱くなります。膵臓の組織に線維化という変化が進みます。慢性膵炎は不可逆性です。すなわち一度発生すると元に戻ることはありません。

慢性膵炎の原因に以下のものがあります。

  • アルコール
  • 胆石
  • 特発性(原因不明)
  • 遺伝性

慢性膵炎の多くはアルコールを原因とします。アルコール性慢性膵炎は、他に原因がなく数年間に渡り大量飲酒していた場合に診断されます。慢性膵炎につながる飲酒量はエタノールに換算して1日あたり80gを超えた場合とされます。エタノール80gはビール2リットルに相当します。

慢性膵炎に特徴的な症状は以下です。

  • 慢性の腹痛
  • 下痢(脂肪性)

慢性膵炎では膵液の分泌が低下しています。膵液はタンパク質や脂肪を分解したりする消化液です。脂肪の分解が上手くいかないと下痢になります。

慢性膵炎の治療としてまず以下のような保存的治療(内科的治療)が勧められます。

  • 禁酒 
  • 脂肪を少なくした食事(脂肪制限食)
  • 禁煙 
  • 消化酵素や蛋白分解酵素の内服

解説します。

慢性膵炎はアルコールを原因とすることが多いため、進行を遅らせるにはアルコールの摂取を控えることが有効です。低下した消化機能を補うためには食事の脂肪を少なくしたり、食べ物の消化を助ける薬を内服したりします。喫煙者では禁煙も有効です。

2. 慢性膵炎と膵臓がんの関係は?

慢性膵炎は膵臓がん発生のリスクを上昇させます。慢性膵炎の患者さんは膵臓がんを発症する危険性が6.9倍であったとする報告があります。

慢性膵炎発症後の期間と膵臓がん発症の関係について次の報告があります。

  • 2-4年以内:14.6倍
  • 5-16年   :4.8倍

慢性膵炎を発症した後の時間経過と膵臓がんの発生に注目した所、比較的早期に膵臓がんが発生していたという結果でした。

一度慢性膵炎になると、膵臓の機能が回復することはありません。慢性膵炎は膵臓がんの危険性と大きく関わっているばかりではなく、腹痛などの症状があり厄介な病気です。アルコールの量は適正に留めておくことが重要です。

Gastroenterology 2014;146:989-994

3. 腰痛は膵臓がんの症状?

膵臓は背中側にある臓器で、背中側には神経も走行しています。神経に影響が及ぶと腰部や背部に痛みを生じます。

しかし、腰痛の原因は膵臓がんだけではありません。

腰痛を症状として現す主な病気を列挙します。

腰痛があるときは以上のようにさまざまな原因の可能性をひとつひとつ検討することで診断に至ります。腰痛が必ずしも膵臓がんを意味する訳ではありません。

持続する痛みや激しい痛みには原因があります。我慢せず早めに医療機関で相談し、原因を調べることが治療につながります。

4. 痛みなしの膵臓がんがある?

膵臓がんは腹痛や背部痛をきっかけに発見されることがあります。しかし、必ずしも症状が出現するとは限りません。膵臓がんがあってもまったく症状がない場合もあります

膵臓がんの主な症状を挙げます。

  • 腹痛
  • 食思不振
  • お腹がすぐに一杯になる( 早期の満腹感)
  • 体が黄色くなる(黄疸)
  • 体重の減少
  • 背部痛

膵臓がんの初期には、食思不振、早期の腹満感、軽度の体重減少といった症状が多いと言われています。いずれも特定の病気と強く結びつきにくい症状です。

症状がなく発症する膵臓がんは15%前後とされます。2cm以下の膵臓がんでは18%であったとする報告があります。小さければ小さいほど症状は出にくいと考えられます。

膵臓 2004;19:558-66, 膵臓 2007;22:e1-427, 膵臓がん診療ガイドライン2016年版

5. 膵臓がんに「免疫療法」は効く?

膵臓がんに対して「免疫療法」の効果が科学的に証明されたことは現在のところありません。

免疫療法について説明する前に標準治療について説明します。標準治療という言葉の響きからは「平凡な治療」「並の治療」というイメージを持つかもしれませんが、そうではありません。標準治療は科学的な検証を経て最も治療効果が高いと考えられる治療のことです。効果がはっきりしているものは多くの人に推奨できるので「標準」になるということです。膵臓がんの標準治療は手術が可能であるならば手術によるがんの切除、転移があるなどの理由で手術ができない場合には抗がん剤治療です。

しかしながら世の中にはあたかも標準治療を上回るような言い回しで宣伝を行う治療法がいくつも存在します。その中には「何千例を治療しました」と謳う治療法もありますがそれには疑問を抱かざるを得ません。本当に優れた治療があるのならば、すでに標準治療として普及しているはずです。

自らの免疫力を高めて治療効果を発揮すると宣伝している「免疫療法」はその代表です。現在のところ膵臓がんに対して効果があることを科学的に証明された免疫療法は存在しません。

もちろん今後、膵臓がんに効果のある免疫療法が登場してくる可能性はあるとは思います。そのときにはこの治療は標準治療なのかということを確認することを忘れないようにしてください。治療が上手くいかないときに優しい言葉をかけてくるのは、本当にあなたのためを思って声をかけてくれる人ばかりではないのです。

6. 膵臓がんは完治する? 早期発見しても完治しない?

膵臓がんは悪性度が高く、診断時にすでに転移がある状態で発見されることが多いです。しかし、中には転移をしていない状態で発見されることもあり、手術によってがんを完全に取り除くことができれば完治は可能です。完治には早期の発見が最も大事な要素と言えます。

しかしながら、膵臓がんでは早期で手術できても一定の割合で再発する点に注意が必要です。早期で治療が行えることは、完治する可能性が高まることを意味します。しかし、手術がうまくいったとしても、「これで完治した」と確かめる方法はありません。経過観察中にも常に再発に関しては注意が必要です。

7. 膵臓がんの治療費用は?

膵臓がんの治療費は入院期間などによって異なるので、費用の大まかな目安になります。

治療法 費用(3割自己負担の額)
膵頭十二指腸切除術 約70-90万円前後
膵体尾部切除術 約40-55万円前後
抗がん剤治療 4週間あたり約10万円前後

膵臓がんの手術では膵液(すいえきろう)に代表される合併症が起きることが多く、最短の入院期間で退院できる人は多くはありません。起こった合併症の種類によって入院期間などが大きく変わります。費用も表の額より多くなることがあります。抗がん剤を使うときは、使用する薬により費用は変わってきます。

膵臓がんの治療費はかなり高額になりますが、高額療養費制度を利用することで、医療費を抑えることが可能です。ほかにも治療中のお金をサポートする公的助成制度がありますので、詳しくは治療を行っている施設の相談窓口や、がん相談支援センターに問い合せてください。

高額療養費制度について以下で紹介します。

高額療養費制度とは?

高額療養費制度とは、家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。

医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払った後に、月ごとの支払いが自己負担限度額を超える部分について後で払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。

たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。

この人の医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。

払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。所得によって自己負担最高額は35,400円から252,600円+(総医療費-842,000円)×1%まで幅があります。

高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

8. 膵臓がんの名医はどこに?

名医の定義はありません。医師と患者の関係も人間同士の関わりなので、出会った医師を名医と呼べるかどうかは患者さん自身の考え方も大きく影響します。つまり名医はその人によって異なると考えられます。ここでは具体的な病院や医師の名前を挙げることはしませんが、膵臓がんの名医に出会う方法を考えてみたいと思います。

膵臓がんを根治する(がんを体からなくす)には、手術が唯一の手段です。膵臓がんであることが分かったら、手術ができるかどうかが鍵になります。膵臓の手術は難易度が高く、手術後の合併症も深刻なものが多いです。

もし今、主治医の先生がいて信頼できると考えているならば、その医師に手術をお願いするのもいいと思います。

今、手術をする場所などで悩んでいる場合は、日本肝胆膵外科の定める高度技能専門医という制度を参考にしてみるのは価値ある方法かもしれません。高度技能専門医は学会が定める肝臓・胆嚢・膵臓に関する難易度の高い手術に精通している医師に対して認定されたものです。高度技能専門医は、日本肝胆膵外科学会のHPで施設名などが公表されています。

医師選びは重要ですが、どこで手術を行うかを極力早く決めて手術を受けたほうが治療の効果が高いと考えられます。適切な情報を見極め決断を行うことが重要です。

9. 膵臓がんの診療ガイドラインはある?

診療ガイドラインは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されています。膵臓がんにも診療ガイドラインがあります。

膵臓がんの診療ガイドラインは日本膵臓学会、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)など各学会が作成したものが存在します。

ガイドラインがいくつも存在するのは理由があります。ひとつの理由は、国ごとに病院に行くときの環境などが違うことを考慮しているためです。もうひとつの理由として、医学的に唯一の正解を決めにくいような場合に対して、学会ごとに意見が違うためでもあります。

日本膵臓学会による膵臓がんの診療ガイドラインは2022年版が発刊されています。

ガイドラインは治療の助けになりますが、ガイドライン通りに治療を行うことが全て正しいわけではありません。その時々、患者さんの状態はひとりひとり異なることを考えに入れるべきです。また、ガイドラインにはまだ反映されていない新しい知見が役に立つ場合もあります。

10. 症状からステージはわかる?

膵臓がんはいろいろな症状が出現します。無症状の場合もあります。症状は個人差が大きく、患者さんの感じ方によるものも大きいので、症状とステージを結びつけることは難しいです。

症状がない状態で発見された場合は、比較的ステージは早期である可能性が高いと思われますが、すでに転移があるのに症状がない場合も無視できません。

ステージはCT検査、MRI検査などの画像検査によって決定されます。ステージは膵臓の状況、リンパ節転移の有無、膵臓から離れた場所への転移の有無で決定されます。TNM分類といいます。TNM分類をもとにしてステージを決定します。症状はステージを決める基準には含まれていません。

11. 膵嚢胞とは?

嚢胞(のうほう)とは液体がたまった状態を指します。膵嚢胞(すいのうほう)は聞き慣れない言葉かもしれませんが、膵臓の一部に液体のたまりがあるという意味です。「水泡」ではありません。

膵嚢胞の中にはただ水がたまっているだけで治療の必要がないものもある一方、放っておくと膵臓がんに変化するものもあります。

膵嚢胞は以下のように分類できます。

  • 単純性膵嚢胞
  • 膵嚢胞性腫瘍
    • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
    • 粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
    • 漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

単純性膵嚢胞

単純性膵嚢胞は、膵臓に発生した嚢胞で、腫瘍などの関連がないものを指します。膵嚢胞には、真性膵嚢胞と仮性膵嚢胞があります。

真性膵嚢胞は袋に上皮という層があるものです。真性膵嚢胞の多くは先天的(生まれもってのもの)です。症状などがなければ特に治療する必要がありません。

仮性膵嚢胞には上皮の層がありません。仮性膵嚢胞は膵炎などが原因で発生するとされています。自然になくなることが多いのですが、消失しない場合や増大する場合は仮性膵嚢胞に針を刺して中の液体を取り出すこと(経皮的外瘻ドレナージ術)や手術が必要になる場合があります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

IPMNは日本名では、膵管内乳頭粘液性腫瘍といいます。一般的には英語のIntraductal papillary Mucinous Neoplasmを略してIPMN(アイピーエムエヌ)と呼ばれることが多いです。

膵臓は食物を消化するための酵素を分泌します。分泌された酵素は膵液として膵臓の中にある膵管という管を通り十二指腸に流れ込みます。膵管の粘膜に腫瘍ができることがあります。腫瘍により粘液が膵臓内に溜まって袋状に見えるものを腫瘍性膵嚢胞(しゅようせいすいのうほう)と言います。腫瘍性膵嚢胞は3つに分類されます。IPMNは腫瘍性膵嚢胞の大部分を占めます。

IPMNは、膵管から発生し、乳頭状の形をとって成長していきます。見た目は「イクラ」や「ブドウの房」に例えられることもあります。IPMNは時間を経て浸潤がんへと変化していくことがあります。早期に診断し必要であれば手術によって取りきることで、IPMNが浸潤がんになる前に治療が可能と考えられています。また、IPMNが見つかった患者さんには同時に通常型の膵臓がんもある場合があります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の種類(主膵管型と分枝型)

■主な症状

IPMNの人はほとんどが無症状で検診などを契機に発見されます。IPMNはできた場所によって主膵管型、分枝型と混合型の3種類に分類できます。主膵管型のIPMNは粘液を産生することで主膵管を閉塞するなどして膵炎の原因になります。膵炎の症状は上腹部痛、背部痛、悪心、嘔吐などです。

■手術適応

IPMNは発生した場所で3つに分類されます。

  • 主膵管型
  • 分枝型
  • 混合型

主膵管型のIPMNは浸潤傾向を認めることが知られているので、手術を行います。

IPMNで手術したほうがよい(手術適応がある)と判断されるのは次の場合です。

  • 主膵管が10mm以上に拡張している場合
  • 閉塞性黄疸の症状がある
  • 造影CT検査で血流のある結節(塊)が描出される

分枝型や混合型は腫瘍の大きさや症状などを考慮して手術を行う場合もあります。

Pancreatology 2012;12:183-197

粘液性嚢胞腫瘍(MCN)

粘液性嚢胞腫瘍(ねんえきせいのうほうしゅよう)は、膵臓に発生する中身が液体の袋状の腫瘍です。英語のMucinous Cystic Neoplasm を略してMCN(エムシーエヌ)と言います。

MCNの中身は粘り気の強い液体です。

IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)と比べて悪性化する可能性が高い、もしくはすでに浸潤傾向を示している可能性が高いために、MCNと診断された場合は、手術が考慮されます。

MCNの診断にはIPMNと区別する必要があります。IPMNと違ってMCNは膵管とつながっていません。また統計上、女性に発生した膵嚢胞性腫瘍は比較的MCNの疑いが強いと考えられます。MCNは卵巣由来の組織が関係しているとされます。

診断確定を行うために検査をいくつか行います。

■主な症状

MCNは無症状で発見されることがあります。MCNが主にできる場所は膵体部・膵尾部です。胆汁が流れる胆管や食べ物が流れていく十二指腸とは離れた場所に発生するので、胆管や十二指腸に影響することによる症状は出ないことがあります。

■手術適応

MCNと診断された場合は手術で腫瘍の摘出を行う方針となります。IPMNよりも悪性の可能性が高く、浸潤傾向を示す場合も珍しくはありません。リンパ節に転移する場合もあります。手術の方法として、一般的には膵臓を切除する、膵頭十二指腸切除もしくは膵体尾部切除を行います。

手術の方法は「膵臓がんの手術とは?」で詳しく解説しています。

漿液(しょうえき)性嚢胞腫瘍(SCN)

漿液性嚢胞腫瘍(Serous Cystic Neoplasm:SCN)はIPMNやMCNと異なり、腫瘍を満たす液体は粘り気がないとされています。良性の腫瘍と考えられています。女性に多いとされます。

■主な症状

SCNは基本的には症状がありません。大きくなると、胆管を閉塞し黄疸の原因になったり、腹痛の原因になることもあります。

■手術適応

SCNは良性腫瘍なので手術は基本的には行いません。

まれに大きくなることがあるのでその際には手術が考慮されます。SCNが大きくなりすぎて胆汁の流れが悪くなったり、膵管の流れが悪くなり膵炎を発症したりする場合にも、手術を考慮する場合があります。

12. 膵臓が溶ける急性膵炎とは?

「膵臓が溶ける」という響きは恐ろしいものですが、実際の病気としては急性膵炎がこれにあたります。急性膵炎について解説します。

急性膵炎の原因

主な原因は以下です。

  • アルコールの大量摂取
  • 胆石が膵管の出口(Vater乳頭)に詰まる
  • ERCPなどの内視鏡の処置の後に発生する

急性膵炎の症状

主な症状は以下のものです。

  • 腹痛、背部痛
  • 悪心・嘔吐
  • 発熱
  • 血圧の低下
  • 脈が早くなる(頻脈

最も多い症状は腹痛です。みぞおちから背中にかけて強い痛みが持続することが典型的と言われます。痛みは、胸を膝につけるような姿勢で軽減し、アルコールや脂肪を摂取すると強くなります。かなり強い痛みです。

急性膵炎は膵液が本来とは違う場所に出て行くことなどで起こります。膵液はタンパク質を溶かす消化液です。タンパク質は人間の体を形成しています。膵液の体への影響は深刻です。「急性膵炎はお腹の火傷」と表現されることがある程です。

さらに重症になると以下の症状が現れます。

  • 強い腹痛
  • 腸が動かなくなる
  • お腹の中で出血をして痛みが出る
  • 呼吸困難
  • 血圧が下がったり、脈が早くなる
  • 尿が出なくなる

重症例を急性壊死性膵炎といいます。

膵臓に激しい炎症が起きるとさまざまな問題につながります。激しい炎症では、いろいろな種類の炎症に関わる物質(サイトカイン)が働いています。サイトカインの作用により、血管から水分が失われたり、呼吸や全身に影響が現れます。

急性壊死性膵炎による影響の例として、以下の病態が起こります。

  • 呼吸ができなくなる(肺水腫
  • 血圧が保てなくなる(循環不全)
  • 全身の血管内に血液の塊ができて臓器への血流が悪くなる(播種性血管内凝固症候群、多臓器不全)
  • 胃や腸から出血する(消化管出血
  • 尿が作れなくなる(腎不全
  • 膵臓が溶けた場所に感染する(感染性膵壊死)
  • 出血(膵炎によって発生した仮性動脈瘤が破裂する)

全てが一度に起こるとは限りません。いずれにしても重症の病態が起こることが予想されます。集中治療室での長期的な入院も必要になる可能性があります。

急性膵炎の診断

急性膵炎を自己診断することはできません。激しい腹痛などを感じたら、急性膵炎かどうかを考えるより先に消化器内科や病院の救急外来などで診察を受けてください。

病院では以下のような診断基準に従って急性膵炎の診断が行われます。基準を覚える必要はありませんが、基準に出てくる検査項目などを説明で聞いたときの理解に役立ててください。

急性膵炎の臨床診断基準(厚生労働省.2008 一部改変)

  1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
  2. 血中または尿中に膵酵素の上昇がある
  3. 超音波検査、CT検査、MRI検査で急性膵炎を示す異常所見がある

上記3項目中2項目を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎として診断する

急性膵炎の重症度判定基準(厚生労働省.2008 一部改変)

  1. 予後因子:以下の項目を各1点とする
    • Base Excess(BE)≦-3mEqまたはショック収縮期血圧≦80mmHg)
    • PaO2≦60mmHgまたは呼吸不全(人工呼吸を必要とする)   
    • BUN≧40mg/dl(またはクレアチニンが2.0mg/dL以上)または乏尿(輸液後も1日尿量が400ml以下)
    • LDHが基準値上限の2倍以上
    • 血小板10万/mm3以下
    • 低Ca(カルシウム)血症 総カルシウム値7.5mg/dl以下
    • CRPが15mg/dl以上
    • 年齢が70歳以上
    • SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断基準項目が3個以上
      • 体温が38℃を超える、または36℃に満たない
      • 脈拍が1分間に90回を上回る
      • 呼吸数が1分間に20回を上回るまたはPaCO2が32mmHgを下回る
      • 白血球数が12000/mm3を上回るまたは4000/mm3未満または10%を超える幼若球の出現
  2. 造影CT検査 Grade:炎症の膵外進展度と造影不良域から重症度を判定する

*造影不良域:膵臓を膵頭部、膵体部、膵尾部の3つの区域に分けて判定する

造影不良域/炎症の膵外進展度 前腎傍腔 結腸間膜根部 腎下極以遠
各区域に限局あるいは膵周囲のみ グレード1 グレード1 グレード2
2つの区域にかかる グレード1 グレード2 グレード3
2つの区域全体、あるいはそれ以上 グレード2 グレード3 グレード3

重症度の判定:予後因子が3点以上、または造影CT検査のグレードが2以上の場合を重症とする

*原則として48時間以内に判定する

急性膵炎の治療

急性膵炎は入院して治療を行う必要があります。軽症と診断されても重症化する可能性があり、重症度の判定は繰り返し行う必要があります。

軽症と診断された場合の治療の例を挙げます。

  • 食事をとることをやめる(絶食)
  • 十分な点滴
  • 薬で痛みを十分に抑える

重症化を見逃さないために呼吸の仕方や血圧なども注意します。食事をとると膵液の分泌が増えるので食事をやめます。膵臓の炎症はかなり激しいものになります。

急性膵炎が重症化した場合はかなり深刻な状況になります。重症例を急性壊死性膵炎といいます。急性壊死性膵炎に対してはさらに強力な治療が必要になります。