膵臓がんの抗がん剤治療:抗がん剤のレジメン、効果などについての解説
膵臓がんの完治を可能とする治療は手術療法しかないのが現状です。診断時に
目次
1. 膵臓がんで抗がん剤を使うのはどんな時?
膵臓がんを根治する(
しかしながら、手術を行えない場合もあります。手術を行えない場合は、抗がん剤による治療を行うことになります。
- すでに膵臓から離れた場所に転移(
遠隔転移 )をしている場合 - 遠隔転移はないが膵臓がんが周りに激しく広がっている場合
放射線治療 と併用することもある
膵臓がんが診断されたときにすでに転移をしている状況では、がんを全て取り除く目的の手術を行うことはなく、症状の緩和を目的とした手術(
遠隔転移はないものの周囲への浸潤が激しく手術を行えない場合もあります。その場合にも
また別の状況でも抗がん剤の治療を行うことがあります。それは手術によって膵臓がんを取り除いた後です。再発する確率を減らすために抗がん剤の投与を行います。補助
2. 膵臓がんではどの抗がん剤を使う?
膵臓がんに対する抗がん剤の使い方はいくつかあります。
抗がん剤治療を行う際に「レジメン」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。レジメンとは使用する抗がん剤の種類や投与する量、期間、手順などを時間の流れで表した計画表のことです。抗がん剤のレジメンは臨床試験を経て効果が確認されたものです。膵臓がんにもいくつかのレジメンがあります。
標準的なレジメンをいつでも厳守しないといけないわけではありません。副作用が出た場合など、患者さんの状態に合わせて調整しながら治療が続けられます。とはいえ治療を始める時点では標準的なレジメンをもとに考えることになります。
ここでは膵臓がんの状態を分類しながら、それぞれの場合に選択されるレジメンについて解説します。
3. 一次治療に推奨されるレジメンは?
最初に行われる抗がん剤の治療を一次治療といいます。膵臓がんの一次治療として使われるレジメンは、さらに遠隔転移がある場合とない場合(遠隔転移はないが手術できない場合)の2種類に分類できます。
4. 膵臓から離れた場所に転移(遠隔転移)がある場合
- 体の状態に問題がない場合
- FOLFIRINOX療法
- ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
- 全身状態がやや悪くて上記の治療が適しないと判断された場合
- ゲムシタビン単独療法
- S-1単独療法
- ゲムシタビン+エルロチニブ
- ゲムシタビン+S-1併用療法
膵臓から離れた場所に転移(遠隔転移)がある場合は、抗がん剤による治療が中心になります。遠隔転移のある膵臓がんは難しいと言わざるをえません。抗がん剤治療を行う目的はあくまでも延命になります。
5. 局所進行切除不能膵臓がんの場合
専門的な表現なので解説します。局所とは膵臓の周りのことを指します。膵臓の周りの進行が激しく、手術を行えない場合です。膵臓から離れた場所に転移はありません。
- ゲムシタビン単独療法
- S-1単独療法
- FORFIRINOX療法
- ゲムシタビン+ナブパクリタキセル
- ゲムシタビン+S-1併用療法
膵臓がんが進行すると重要な血管を巻き込み手術ができなくなります。この場合は抗がん剤が治療の軸となります。痛み(上腹部痛、背部痛)などが強い場合には、放射線治療を組み合わせることで症状の緩和などが期待できます。
レジメンの中身は?
代表的なレジメンとして、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法、FOLFIRINOX、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの4つのレジメンを紹介します。
ゲムシタビン単独療法とは?
ゲムシタビンの一剤による化学療法です。治療期間は28日(1クール)で区切り、1日目、8日目、15日目にゲムシタビンを投与します。ほかの日は休薬と言って抗がん剤を使いません。
日 | 1 | 2-7 | 8 | 9-14 | 15 | 16-28 |
ゲムシタビン1000mg/m2 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 |
臨床試験では、手術が行えない膵臓がん患者に対してゲムシタビンとフルオロウラシルを比較してどちらが効果があるかが試されました。
評価項目 | ゲムシタビン | フルオロウラシル |
症状の緩和 | 23.8% | 4.8% |
無増悪生存期間(中央値) | 2.33ヵ月 | 0.92ヵ月 |
生存期間(中央値) | 5.65ヵ月 | 4.41ヵ月 |
1年生存率 | 18% | 2% |
J Clin Oncol.1997;15:2403-2413
中央値とは生存期間を長い順に並べた時に真ん中の人の生存期間のことを指します。ゲムシタビンの方が生存期間が長い傾向にあり、症状の緩和という面でも優れた結果でした。
S-1単独療法とは?
S-1の一剤による化学療法です。S-1は
通常「28日連日服用後、14日間休薬」を1サイクルとし、このサイクルを繰り返して使います。
日 | 1-28 | 29-42 | 43以降 |
S-1 80mg/m2 |
◯ (連日服用) |
休薬 | 28日服用、14日休薬を繰り返す |
※S-1:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤
用量は通常、体表面積によって変更されます。体表面積1.25m2未満の人であれば80mg/日、1.25〜1.5m2であれば100mg/日、1.5m2以上であれば120mg/日となり、状態などによっても増減が考慮されます。やや副作用にも注意が必要で下痢が多い人は特に注意するべきと考えられます。
効果について、手術ができない膵臓がん患者さんに対して、ゲムシタビンとS-1の効果が同等かどうかの臨床試験が行われました。
薬剤 | S-1 | ゲムシタビン |
生存期間(中央値) | 9.7ヵ月 | 8.8ヵ月 |
J Clin Oncol. 2013;31:1640-1648
中央値とは生存期間を長い順に並べた時に真ん中の人の生存期間のことを指します。臨床試験の結果S-1はゲムシタビンと同等の効果を示すに至りました。
FOLFIRINOX療法とは?
FOLFIRINOX療法は「フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナート(l-LV)+イリノテカン(IRI)+オキサリプラチン(OX)」を組み合わせた抗がん剤治療です。
標準的な用量を表に示します。
1.オキサリプラチン(85mg/m2) 120分で投与 |
2.レボホリナート (200mg/m2) 120分で投与 |
3.イリノテカン(180mg/m2) 90分で投与(ロイコボリン投与開始の30分後から開始) |
4.フルオロウラシル(400mg/m2) 5-15分かけて投与 |
5.フルオロウラシル(2400mg/m2) 46時間で投与 |
効果について、膵臓から離れた場所に転移のある膵臓がんに対して、ゲムシタビンとの治療効果の比較試験が行われました。
薬剤 | FOLFIRINOX | ゲムシタビン |
生存期間(中央値) | 11.1ヵ月 | 6.8ヵ月 |
N Engl J Med 2011;364:1817-1825
FOLFIRINOXは遠隔転移のある膵臓がんに対してゲムシタビンより生存期間が長く治療の効果が高い結果となりました。しかしながら注意が必要なのは、副作用もやや重いものが多かった点です。注意すべき副作用としては発熱性好中球減少症があります。
■発熱性好中球減少症とは?
FOLFIRINOXで特に注意を必要とする副作用が発熱性好中球減少症です。
もちろん手洗いなどによる手指の衛生管理、うがいや歯磨きなどによる口腔内の清潔保持など日常生活の中での感染対策も大切です。
■制吐剤(5HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン、NK1受容体拮抗薬)の投与
抗がん剤の副作用のうち吐き気は重要です。特にオキサリプラチンなど吐き気を引き起こしやすい薬剤を使う場合は制吐剤を一緒に使うことが標準的です。
制吐剤は主に3種類投与されます。
- 5-HT3受容体拮抗薬
- デキサメタゾン(4日間投与)
- NK1受容体拮抗薬
デキサメタゾンは
FOLFIRINOXが実施できない人もいます。
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とは?
ゲムシタビンとナブパクリタキセルという薬を併用する方法があります。ゲムシタビンは単独でも手術ができない膵臓がんに対して効果を示しています。ゲムシタビンにナブパクリタキセルを追加することで治療効果が高まるかを検討した臨床試験があります。
膵臓から離れた場所に転移がある患者さんに対してゲムシタビン単独療法と比較しました。
薬剤 | ゲムシタビン+ナブパクリタキセル | ゲムシタビン |
生存期間(中央値) | 8.5ヵ月 | 6.7ヵ月 |
N Engl J Med 2013;369:1691-1703
臨床試験の結果ではゲムシタビン単独療法に比べて生存期間の延長を認め、ゲムシタビンはナブパクリタキセルと併用することで効果が高まることが確かめられた一方で、発熱性好中球減少症などの強い副作用が認められました。
日 | 1 | 2-7 | 8 | 9-14 | 15 | 16-28 |
ゲムシタビン 1000mg/m2 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 |
ナブパクリタキセル 125mg/m2 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 | ◯ | 休薬 |
ゲムシタビンとナブパクリタキセルを1、8、15日で同時投与します。4週間を1サイクルとしています。
6. 一次治療の抗がん剤はいつまで続ける?
膵臓がんに限らず抗がん剤治療を長期間行うと抗がん剤による体へのダメージが蓄積したり、がんが薬に対して
一次治療の抗がん剤は、できるところまで続けることが勧められます。がんが進行したり、体が抗がん剤治療に耐えられない状態になると、他の薬に変更したり治療を一度休むことなどを考えます。
7. 一次治療の抗がん剤の効果がなくなった場合に行われる二次治療とは?
一次治療の抗がん剤の効果が不十分と判断された場合、その時の体の状態によりますが、一次治療とは別の抗がん剤を使って治療を行うことになります。これを二次治療と言います。二次治療を行わずに緩和治療を行った場合と比べて、余命が延長すると考えられます。
- ゲムシタビンを含む一次治療後:フルオロウラシル関連レジメン
- フルオロウラシル関連レジメンの一次治療後:ゲムシタビンを含むレジメン
- マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-High)と判定された場合:
免疫 チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ) 腫瘍 遺伝子変異量が高い(TMB-High)と判定された場合:免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)- BRCA遺伝子変異をもち、プラチナ製剤を含む一次治療で病状進行が見られない場合:オラパリブ
それぞれについて解説します。
一次治療をゲムシタビンを含むレジメンで行った場合
ゲムシタビンを含むレジメンは以下のようなものがあります。
- ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
- ゲムシタビン単独療法
これらのレジメンで一次治療を行った場合、二次治療ではフルオロウラシルやS-1を含むレジメン(フルオロウラシル関連レジメン)を使って治療を行います。候補になるレジメンは以下のとおりです。
- FOLFIRINOX療法
- S-1単独療法
- フルオロウラシル + イリノテカン(リポソーム製剤)併用療法
FOLFIRINOX療法、S-1単独療法は一次治療でも使用されるレジメンです。フルオロウラシル + イリノテカン(リポソーム製剤)併用療法は2020年6月に発売が開始された新しいレジメンです。
これらのレジメンの使い分けははっきりと決まっていませんが、一次治療を行った後でも体調に問題がない人ではFOLFIRINOX療法やフルオロウラシル + イリノテカン(リポソーム製剤)併用療法を、全身状態がやや悪い人ではS-1単独療法を行うことが多いです。
◎フルオロウラシル+イリノテカン(リポソーム製剤)併用療法
FOLFIRINOX療法でも使用されている「フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナート(l-LV)」に、新薬である「イリノテカンのリポソーム製剤」を組み合わせた抗がん剤治療です。
「イリノテカンのリポソーム製剤」は従来のイリノテカンを改良した薬剤で、イリノテカンをリン脂質のナノ粒子で包むことで薬剤がゆっくりと長い時間をかけて放出されるように工夫したものです。従来のイリノテカンに比べて少ない薬の量で同等の治療効果を得ることができ、副作用が少なくなることが期待されています。
このレジメンは海外の臨床試験で膵がんの二次治療としての有効性が示されており、日本では2020年6月から新たに発売されています。二次治療のみで使用できるレジメンであり、一次治療では使用できません。
一次治療をフルオロウラシル関連レジメンで行った場合
フルオロウラシル(またはS−1)を含むレジメンは以下のようなものがあります。
- FOLFIRINOX療法
- S-1単独療法
これらのレジメンで一次治療を行った場合、二次治療ではゲムシタビンを含むレジメンを使って治療を行います。候補になるレジメンは以下のとおりです。
- ゲムシタビン + ナブパクリタキセル併用療法
- ゲムシタビン単独療法
一次治療を行った後でも体調に問題がない人ではゲムシタビン + ナブパクリタキセル併用療法を、全身状態がやや悪い人ではゲムシタビン単独療法を行うことが多いです。
マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-High)と判定された場合や腫瘍遺伝子変異量が高い(TMB-High)と判定された場合
膵がんの組織でDNA配列を検査します。その結果、マイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability, MSI)が高いと判定された場合や腫瘍遺伝子変異量(Tumor mutation burden, TMB)が高いと判定された場合には免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(キイトルーダ®)が
ペムブロリズマブの添付文書には「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形
BRCA遺伝子変異をもち、プラチナ製剤を含む一次治療で病状進行が見られない場合
膵がんの人では数%の確率でBRCA遺伝子変異という遺伝子変異が見られます。BRCA遺伝子変異をもつ人ではプラチナ製剤(白金製剤)という種類の抗がん剤が効きやすいというデータがあり、膵がんに保険適用をもつ抗がん剤の中ではオキサリプラチンがプラチナ製剤にあたります。一次治療でプラチナ製剤を含む治療(FOLFIRINOX療法)を行い、16週の間病状の悪化が見られない人では、その後の維持療法としてオラパリブという内服薬を使用することができます。オラパリブはPARP阻害薬というタイプの薬剤で、がん細胞のDNA修復を阻害することでがん細胞を死滅させる効果があります。
8. 手術の後で使う抗がん剤は?
手術後に再発を予防する目的で抗がん剤の投与が行われることがあります。がんに対する手術療法は、がんを目に見える範囲でしっかりと切除することです。しかしながら、がんは顕微鏡でしか見えないレベルで潜んでいる可能性があります。そのために手術後に抗がん剤を投与することで、小さながんを叩いておき、再発を防ぐことが期待されます。
手術後の再発予防としてのゲムシタビン単独療法
治療 |
手術+ゲムシタビン |
手術のみ |
無再発生存期間(中央値) |
13.4ヵ月 |
6.7ヵ月 |
|
20.7% |
10.4% |
10年生存率 |
12.2% |
7.7% |
ゲムシタビンを手術から回復した後に投与することで、生存期間や再発までの期間を延長させることを狙って、検証の試験が行われました。
結果としては、無再発生存期間を始めとしてゲムシタビンの効果が示されました。ゲムシタビンはS-1と並んで手術後の再発予防を目的とした抗がん剤治療に用いられます。
手術後の再発予防としてのS-1とゲムシタビンの比較
薬剤 |
S-1 |
ゲムシタビン |
2年生存率 |
70% |
53% |
5年生存率 |
44.1% |
24.4% |
生存期間(中央値) |
46.5ヵ月 |
25.5% |
膵臓がんの手術で肉眼的にがんを取りきれた人を対象にして、手術後の抗がん剤の効果が検討されました。
この研究の前からゲムシタビンを手術後に投与することで生存期間延長に寄与することが分かっていましたが、S-1の方が効果で優れているという仮説が立てられました。
結果としてはS-1の方が生存に寄与しました。この研究は日本で行われました。
可能である人には手術後の抗がん剤としてS-1が勧められています。S-1は下痢などの副作用があり、下痢などの症状がひどく出てS-1の継続が難しいと判断された場合はゲムシタビンによる治療が行われます。
9. 膵臓がんに使う抗がん剤はどんな薬?
膵臓がんに対してはいくつかの抗がん剤の組み合わせによって治療が行われます。ここでは、その組み合わせで用いられるそれぞれの薬について解説します。
ゲムシタビン(gemcitabine)(商品名:ジェムザール®など)
ゲムシタビンは、細胞分裂に必要なDNA合成の過程を阻害し、がん細胞の増殖を抑える
ゲムシタビンは細胞内で代謝された後、DNA鎖に取り込まれることによって細胞の自滅(アポトーシス)を誘発させる作用などによって抗腫瘍効果を現します。
膵臓がんでは単独で使用されたり、ナブパクリタキセルなど他の抗がん剤との併用によるレジメンにも使われます。他にも非小細胞肺がん、膀胱がん、卵巣がん、胆道がん、乳がんといった多くのがんに保険適用を持つ抗がん剤です。
注意すべき副作用に
S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)(商品名:ティーエスワン®など)
テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムという3種類の成分からできている配合剤で、略号から「S-1」と呼ばれる抗がん剤です。
中心となるのはテガフールです。テガフールは体内でフルオロウラシル(5-FU)という成分に徐々に変換され抗腫瘍効果を現します。5-FUはがん細胞の代謝を阻害し、がん細胞を死滅させる代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)という種類に分類されます。ピリミジン拮抗薬は細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。
テガフール以外の2種類の成分はテガフールを補助する役割を果たします。
ギメラシルは5-FUを分解するDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)という
オテラシルカリウムは5-FUの主な副作用である消化器症状(
S-1は元々、胃がんの抗がん剤として承認を受けました。その後、頭頸部がん、大腸がん、肺がん(非小細胞肺がん)、乳がんに対して承認され、2006年に膵臓がんに対して追加承認されました。2007年には胆道がんに対しても承認されています。
S-1は休薬期間を設ける場合も多く「28日間連日服用後、14日間休薬」などの服薬スケジュールが指示される場合があります。処方医や薬剤師から服薬方法などをしっかりと聞いておくことも大切です。
S-1の副作用として、オテラシルカリウムによって負担が軽減されているとはいえ食欲不振、吐き気、下痢、口内炎などの消化器症状には注意が必要です。他に骨髄抑制、肝機能障害、間質性肺炎などにも注意が必要です。
また、皮膚や爪などが黒くなる
S-1は内服薬(飲み薬)です。嚥下機能(飲み込む力)の状態などによりカプセル(ティーエスワン®配合カプセルなど)が飲み込みにくい場合には
オキサリプラチン(oxaliplatin)(商品名:エルプラット®など)
オキサリプラチンは細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合し、DNAの複製及び転写を阻害することで抗腫瘍効果を現す抗がん剤です。オキサリプラチンは化学構造の中にプラチナ(Pt、白金)を含むことからプラチナ製剤と呼ばれる種類の薬に分類されます。
オキサリプラチンは他のプラチナ製剤(シスプラチンなど)とは異なる化学構造を持っていることなどから、特に大腸がんの細胞に対して高い抗腫瘍活性を示す性質が確認され、2005年に大腸がんの抗がん剤として承認されました。
その後、フルオロウラシル(5-FU)などの薬剤との併用療法が膵臓がんに対しても有効であることが確認され、2013年に膵臓がんに対する抗がん剤としても承認されました。この他、胃がんに対しても承認されています。
膵臓がんに対しては主に5-FU・レボホリナート(l-LV)・イリノテカン(IRI、CPT-11)との併用によるFOLFIRINOX療法のレジメンで使われています。
オキサリプラチンの注意すべき副作用は過敏症、骨髄抑制、間質性肺炎、視覚障害、消化器症状などです。また手足や口(口唇)周囲の感覚異常、咽頭絞扼感(喉がしめつけられる感覚)などの末梢神経障害があらわれる場合があります。冷たいものに手で触れないようにするなど日常生活の中での予防も大切です。
イリノテカン(irinotecan)(商品名:カンプト®、トポテシン®など)
イリノテカンは植物(喜樹:Camptotheca acuminata)由来の抗がん剤で、細胞分裂が進まないようにする作用により、がん細胞の増殖を阻止することで抗腫瘍効果をあらわすトポイソメラーゼ阻害薬という種類に分類される薬です。
がんを含めた細胞の増殖は細胞分裂によっておこります。細胞分裂に必要な酵素にトポイソメラーゼがあります。イリノテカンは主にトポイソメラーゼIのタイプを阻害することで作用を現します。
イリノテカンは多くのがんに対する抗がん剤として使われますが、膵臓がんでは主に5-FU・レボホリナート(l-LV)・オキサリプラチン(OX、L-OHP)との併用によるFOLFIRINOX療法のレジメンで使われています。
イリノテカンの副作用としては、骨髄抑制、間質性肺炎などの他、特に下痢に対しての注意が必要です。
イリノテカンの下痢は、薬剤の投与中から直後にあらわれる早発性の下痢と、投与から数日経って現れる遅発性の下痢の2種類があります。2種類の下痢に合わせた対処が必要となります。
例として遅発性の下痢に対するロペラミド(商品名:ロペミン®など)などの止瀉薬(ししゃやく;下痢止め)による対処などがあります。また漢方薬の半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)はイリノテカンによる早発性と遅発性の両方の下痢に有効とされ、下痢に対する予防薬としても有用とされています。
フルオロウラシル(fluorouracil)(略号・商品名:5-FU)
がん細胞の代謝を阻害しがん細胞を死滅させる代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)という種類に分類されます。もう少し詳しく作用の仕組みをみていくと、細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。
現在では単剤(抗がん剤として単独)で使うことは少なく、他の抗がん剤もしくは5-FUの効果を増強する薬剤(主に活性型葉酸製剤)との併用により使われます。
膵臓がんでは主にオキサリプラチン(OX、L-OHP)、イリノテカン(IRI、CPT-11)・レボホリナート(l-LV)との併用によるFOLFIRINOX療法のレジメンで使われています。他にも大腸がんのFOLFOX療法やFOLFIRI療法、乳がんのCEF療法、食道がんのFP療法など多くのがん化学療法のレジメンで使われている薬剤の一つです。
5-FUで注意すべき副作用は吐き気や下痢、食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、
レボホリナート(l-ロイコボリン)(商品名:アイソボリン®など)
レボホリナ−ト(l-ロイコボリン:l-LV)は活性型葉酸製剤と呼ばれます。レボホリナート自体は抗がん剤ではありませんが、多くのがん化学療法で使われるフルオロウラシル(5-FU)の抗腫瘍効果を高める作用などをあらわします。
活性型葉酸製剤にはホリナート(dl-ロイコボリン:dl-LV)もあります。レボホリナートはホリナート(dl体)と異なり、生物活性を有するl体のみからなる製剤です。ホリナートが免疫抑制薬のメトトレキサートの解毒剤としても使われるのに対して、レボホリナートは5-FUの効果増強のための専用製剤となっています。
膵臓がんのがん化学療法では主に5-FU・オキサリプラチン(OX、L-OHP)、イリノテカン(IRI、CPT-11)との併用によるFOLFIRINOX療法のレジメンで使われます。他にも大腸がんのFOLFOX療法やFOLFIRI療法など、5-FUを含むレジメンで重要な薬剤の一つになっています。
レボホリナートは
ナブパクリタキセル(nab-paclitaxel)(商品名:アブラキサン®)
ナブパクリタキセルはパクリタキセルという薬を元に造られた薬剤です。
パクリタキセルは、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管を阻害することで、がん細胞の増殖を抑え、やがて細胞死へ誘導させることで抗腫瘍効果を現す微小管阻害薬の一つです。
イチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により、微小管阻害薬の中でも学名を由来としたタキサン系という種類に分類されます。
パクリタキセルの製剤は添加物や添付溶解液にエタノールを含むためアルコール過敏症の体質を持つ場合には注意が必要です。
ナブパクリタキセルは、パクリタキセルを人血清アルブミンという物質と結合させることでエタノール(及びポリオキシエチレンヒマシ油)を含まないため、アルコール過敏の体質を持つ場合でも投与可能な薬剤になっています。
がんの種類によっては単独で使われることもありますが、膵臓がんでは主にゲムシタビンとの併用療法のレジメンとして使われています。膵がん以外にも乳がん、胃がん、肺がん(非小細胞肺がん)などのがんに使われる場合も考えられます。
注意すべき副作用に骨髄抑制、感染症、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害、脱毛などがあります。
エルロチニブ(商品名:タルセバ®)
エルロチニブはEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor:上皮成長因子受容体)というがん細胞の増殖などに関わる物質に対して作用する分子標的薬の一つです。
EGFRを標的とした阻害薬(選択的チロシンキナーゼ阻害薬)はEGFR-TKIという種類の薬に分類されます。エルロチニブは国内で2番目に承認されたEGFR-TKIです。
EGFRチロシンキナーゼ阻害作用により細胞増殖を抑え、細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させる作用や細胞周期におけるG1期(DNA合成準備期)に対する停止作用などにより抗腫瘍効果を現します。
EGFRが肺がんなどのがんの増殖に深く関わっていることから、エルロチニブは2007年に肺がん(非小細胞肺がん)の抗がん剤として承認されました。その後、エルロチニブとゲムシタビンの併用療法を膵臓がんに対して行った臨床試験の結果から、2011年に膵がんに対して追加承認されました。ただしゲムシタビン+エルロチニブ併用療法は現在、局所進行切除不能膵臓がんの治療の推奨からは外れています。
エルロチニブの注意すべき副作用は間質性肺炎、下痢や食欲不振などの消化器症状、皮膚障害、急性腎障害、肝機能障害などがあります。
エルロチニブは内服薬(飲み薬)です。通常「食事の1時間以上前または食後2時間以降」に服用します。特に高脂肪・高カロリー食(一般的に、1食あたり1,000kcal程)を食べた直後に服用すると、AUC(体内の薬物量)が増加することが報告されているため、担当医から指示された服用タイミングをしっかりと守ることも大切です。また胃内の酸性度によっても薬剤の吸収に影響が出る可能性があり、胃酸抑制効果の高い薬(主にPPI、H2受容体拮抗薬)などとの飲み合わせにも注意が必要です。