卵巣の病気で不妊、がんで化学放射線療法をくぐり抜けて40歳で妊娠

抗がん剤の中には胎児に影響するものや不妊を引き起こすものもあります。しかし、がん治療後に妊娠・出産する人もいます。もともと不妊があり、がん治療後に出産した人の例が報告されました。
PCOSで不妊だった女性
アメリカの研究班が、不妊だったにもかかわらず
この女性が35歳の時に、2か月続く左腹部の塊と断続的な鋭い痛みで受診しました。それまで避妊なしで14年間性行為をしても妊娠しませんでした。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による無排卵と診断されていました。
排卵誘発などの不妊治療をしていましたが、体外受精などはしていませんでした。男性には不妊の原因がないことが検査でわかっていました。
PCOSとは?
PCOSは、
PCOSの原因は正確には不明です。ただし、肥満や糖尿病との関連が指摘されています。BMIが25以上の肥満の女性にPCOSが多く、体重を減らすことで排卵が再び得られる場合があります。
BMI29.9は、身長160cmの女性で言うとおよそ76.5kgの体重に相当します。
ほかの治療としては、薬剤による排卵誘発や、手術で卵巣の一部を破壊するか取り除く方法があります。
腹部の腫瘍を発見、治療
腹部の塊の検査が行われました。
回収された組織の検査で、粘液性
取り出した組織の内部に、がんの特徴を持つ組織が見つかりました。
手術後にゲムシタビンという
放射線療法を始めた時点でBMIは32.4に増えていました。
がん治療後に妊娠
初診から15か月後に、検査で妊娠が見つかりました。しかし、6週で自然流産となりました。
さらに初診から50か月後、40歳になっていたときに、妊娠19週が見つかりました。妊娠38週で出産となりました。2,865gの健康な子供で、経膣分娩でした。2日後に退院となりました。
なぜがん治療後に妊娠したのか?
研究班は、がん治療後に排卵が始まったことの説明を試みています。この女性は、がんの治療後は運動もせず体重を大きく減らしてもいませんでした。つまり、PCOSの状態が改善する要素がありませんでした。
研究班は、ゲムシタビンによって卵巣が障害され、そのことが卵巣を部分的に破壊するPCOSの治療と同様に働く可能性に言及しています。
抗がん剤を使っても妊娠できることがある
もともと排卵がなかったにもかかわらず、がんが見つかって抗がん剤や放射線療法を使ったあとで、40歳で妊娠・出産に至った人の例を紹介しました。
珍しい例とは思われるものの、たびかさなる逆境にもあきらめなかった意志の力を感じ取れるのではないでしょうか。
一般に、40歳ごろには医学的な助けなしに妊娠する確率がかなり低くなります。加えてPCOSがあったことは非常に厳しい条件と思われます。
さらに、抗がん剤は一般的には妊娠・出産を妨げる方向に働きます。この報告で唱えられているように、抗がん剤が妊娠を助けるというしくみは、一般に認められたものではありません。あくまで珍しい事例を説明しようとした仮説にすぎません。
しかし、妊娠に対して比較的影響が弱い薬剤もあります。もちろん治療の内容や病気の状態によって難しい場合もありますが、
紹介した例は非常に珍しいですが、より広い意味で、抗がん剤治療後の妊娠・出産が「不可能ではない」という例と見ることもできるでしょう。
執筆者
Successful pregnancy after mucinous cystic neoplasm with invasive carcinoma of the pancreas in a patient with polycystic ovarian syndrome: a case report.
J Med Case Rep. 2017 Jul 11.
[PMID: 28693619]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。