すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 206回の改訂 最終更新: 2023.05.30

膵臓がんのステージ:ステージ分類から生存率(余命)などについて

膵臓がんのステージは多くのがんと同じように膵臓でのがんの状態(原発巣)、リンパ節転移の有無、離れた場所への転移遠隔転移)の有無で評価し、その3点を基準に大きく4段階に分類します。ステージは最適な治療法の選択などに役立ちます。

1. ステージ分類の方法とは?

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。

がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってステージを決定します。まずはそれぞれの基準について解説します。

膵臓がんのTMN分類

基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はありません。

参照:膵癌取扱い規約 第7版

T因子

TはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。膵臓でのがんの状態を表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子は原発巣の評価です。膵臓がんのT因子は比較的早期のものに関しては大きさが重視されます。進行しているものは血管との関係によって決定されます。

  • TX:膵局所進展度が評価できないもの
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:非浸潤
  • T1:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mm以下である
    • T1a 最大径が5mm以下の腫瘍  
    • T1b 最大径が5mmをこえるが10mm以下の腫瘍
    • T1c 最大径が10mmをこえるが20mm以下の腫瘍
  • T2:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mmをこえている
  • T3:腫瘍の浸潤が膵をこえて進展するが、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの
  • T4:腫瘍の浸潤が腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの

がんは周りの組織に浸潤(しんじゅん)していく性質を持っています。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織の中に入り込んで広がっていくことです。広い範囲に浸潤しているほど進行していると評価されます。

N因子

N因子はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管や血管などの壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも感染症などがあります。がんのリンパ節転移は大きくなると10mmを超え、典型的には硬く押しても動かないなどの特徴があります。

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することでがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取りきれる可能性は少なく、全身化学療法抗がん剤)が検討されます。治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査やMRI検査が使われます。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明である
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1:領域リンパ節に転移を認める
    • N1a:領域リンパ節に1-3個の転移を認める
    • N1b:領域リンパ節に4個以上の転移を認める

M因子

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。膵臓から離れた臓器に膵臓がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

遠隔転移がある膵臓がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(抗がん剤治療)を行います。

  • M0:遠隔転移を認めない
  • M1:遠隔転移を認める

領域リンパ節とは?

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。臓器ごとに領域リンパ節の場所は決まっています。膵臓では膵臓に近い場所のリンパ節が領域リンパ節になります。

領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することで全てのがん細胞を体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取りきれる可能性は少なく、全身化学療法(抗がん剤)が検討されます。

治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査やMRI検査が使われます。

膵臓がんにおける領域リンパ節には以下の番号と名前がついています。少し詳細な話になるので、この部分は飛ばして読んでも理解に差し支えはありません。

膵臓がんにおける領域リンパ節

番号 名称
1 右噴門リンパ節
2 左噴門リンパ節
3 小弯リンパ節
4 大弯リンパ節
5 幽門上リンパ節
6 幽門下リンパ節
7 左胃動脈幹リンパ節
8a 総肝動脈幹前上部リンパ節
8p 総肝動脈幹後部リンパ節
9 腹腔動脈周囲リンパ節
10 脾門リンパ節
11p 脾動脈幹周囲リンパ節
11d 脾動脈幹遠位リンパ節
12a 肝動脈リンパ節
12p 門脈リンパ節
12b 胆管リンパ節
13a 上膵頭後部リンパ節
13b 下膵頭後部リンパ節
14p 上腸間膜動脈近位リンパ節
14d 上腸間膜動脈遠位リンパ節
15 中結腸動脈周囲リンパ節
16a1 大動脈周囲リンパ節a1
16a2 大動脈周囲リンパ節a2
16b1 大動脈周囲リンパ節b1
16b2 大動脈周囲リンパ節b2
17a 上膵頭部リンパ節
17b 下膵頭部リンパ節
18 下膵リンパ節

手術では、術式ごとに領域リンパ節を大きく3つに分類します。

術式 膵全摘 膵頭十二指腸切除術 膵体尾部切除
1群リンパ節 8a, 8p, 10, 11p, 11d, 13a, 13b, 17a, 17b, 18 8a, 8p, 13a, 13b, 17a, 17b 10, 11p, 11d, 18
2群リンパ節 5, 6, 7, 12a, 12b, 12p, 14p, 14d 5, 6, 12a, 12b, 12p, 14p, 14d 7, 8a, 8p, 9, 14p, 14d
3群リンパ節 1, 2, 3, 4, 15, 16a2, 16b1 1, 2, 3, 4, 7, 9, 10, 11p, 11d, 15, 16a2, 16b1, 18 5, 6, 12a, 12b, 12p, 13a, 13b, 15, 17a, 17b, 16a2, 16b1

このようにリンパ節を分類することで、切り取る範囲を考える基準とします。基本的には膵臓がんの手術を行う場合は、2群までしっかりと郭清を行います。手術術式によって郭清する範囲が異なります。

表にない番号のリンパ節は郭清の対象とはしません。


 

転移とは?

がん細胞の転移

がんは周囲の構造物を破壊しながら大きくなる性質があります。大きくなる過程で、血管やリンパ管の中に入りん込んで行き、発生した場所から遠くの臓器にたどり着くことがあります。遠くの場所で定着し増殖することを転移といいます。

転移にはリンパ管を介して遠くに行く場合と血管を介して遠くに行く場合があります。膵臓がんは発見された時点ですでに転移していることも多く、転移の多いがんの一つです。

転移がある場合には、原発巣の切除は原則として行いません。その理由は、転移がある時点で他の場所にも目に見えないがん細胞が存在している可能性が高いので、全身をカバーできる抗がん剤による治療の方が理にかなっているという考え方のためです。また、手術を行うと患者さんにとって大きな体の負担になり、回復するまで抗がん剤治療を開始できないので、抗がん剤による治療が遅れることもその理由です。

膵臓がんのステージはどうやって決める?

膵臓がんが発見されると、T因子、N因子、M因子を元にしてステージの分類を行います。

ステージ0 Tis N0 M0
ステージ IA T1(T1a、T1b、T1c) N0 M0
ステージ IB T2 N0 M0
ステージ IIA T3 N0 M0
ステージ IIB T1(T1a、T1b、T1c)、T2、T3 N1(N1a、N1b) M0
ステージ III T4 Any N M0
ステージ IV Any T Any N M1


解説します。

膵臓でのがんの状態(T因子)、領域リンパ節への転移の有無(N因子)、膵臓から離れた場所への転移の有無(M因子)の3つの要素でがんの状態を評価します。その後に、それぞれの状態を上の表に当てはめてステージを決定します。

ステージを決める目的は、妥当な治療法を選択することや余命の大まかな目安とすることです。文献から得られる研究データはステージを基準に記載されています。しかしステージはあくまでも目安にすぎません。同じステージでも余命に大きな差が出るのは、その人その人でがんの状況が異なっていたり、全身の状態が違っていたりするからです。

自分の病気の状態を把握することは治療に向かうにあたり重要なことです。しかし余命や生存率などを必要以上に気にすることは、治療において妨げになることもあります。今自分の体のためにできることは何かを考えることがステージを決める目的です。

2. 症状でステージはわかる?

症状からステージを推測することは困難です。

ステージを決定する基準には症状の要素が加味されていません。ステージは膵臓でのがんの状況、リンパ節転移の有無、膵臓から離れた場所への転移の有無の3つの要素によって決定されます。症状がないまま遠隔転移した状態で発見される場合や、一見激しい症状を現していてもステージはそれほど進行していない場合もあります。

症状とステージは対応しません。しかしながら、黄疸などの症状が出現するときはある程度膵臓がんが大きくなっていることが多いので、症状が出ると比較的進行している可能性は高いとも考えられます。

覚えておくべきことは、症状がないからといって進行していないとは言えないことと、特定の症状が出たからといって悲観する理由にはならないことです。

3. ステージごとの治療法はどうやって決める?

ステージごとの治療

膵臓がんの根治を目指すには、手術でがんを切除することが唯一の方法になります。しかし、手術はすべての人に行えるわけではありません。

次のような場合は手術ができません。

  • 膵臓から離れた場所に転移がある(遠隔転移) 
  • 膵臓がんが大きな血管(大血管)へ浸潤している場合

解説します。

転移がある場合には、原発巣の切除は原則として行いません。その理由は、他の場所にもまだ目では確認できないがん細胞が存在している可能性が高いためです。このため全身をカバーできる抗がん剤による治療の方が理にかなっていると考えられます。また、手術は患者さんにとって大きな体の負担になるため、体力が回復するまで抗がん剤治療ができません。抗がん剤治療の遅れを避けることも手術を行わない理由のひとつです。

大血管に浸潤がある場合は、がんを取りきれる可能性が低いため、手術が勧められません。

膵臓がんの手術で最も重要な点は、がんを全て取りきることです。がんを全て取りきれない手術をしても、その後再発する可能性が極めて高く、手術を行う利益が十分とは言えません。

膵臓は背中側の臓器です。また、近くには大きな血管があります。膵臓がんはこの大きな血管に浸潤しやすいです。がんの手術ではがんを取りきるために周囲の臓器をがんと同時に切除することがあります。これを合併切除と言います。合併切除には臓器によって向き不向きがあります。多くの臓器に血液を運ぶ大血管は合併切除には向いてはいません。

大血管の周囲にがんがある場合は、大血管を残しつつがんを取りきることは至難の業です。血管を犠牲にしてもがんを取りきる可能性は低いと考えられます。

4. ステージ Iの治療法は?

ステージIはIAとIBの2つに分けられます。ステージIAとIBはがんの大きさで区別します。

ステージ IA T1 N0 M0
ステージ IB T2 N0 M0

どちらも以下にあたる状態です。

  • がんが膵臓の中に留まっている
  • リンパ節転移がない
  • 膵臓から離れた場所への転移がない

この場合の治療法は、手術が標準的です。治療の難しい膵臓がんにあっても根治できる可能性が比較的高い状況と考えられます。手術後、再発予防として抗がん剤治療を行います。

5. ステージ IIの治療法は?

ステージIIは、IIAとIIBの2つに分類されます。基準は次のとおりです。

ステージ IIA T3 N0 M0
ステージ IIB T1、T2、T3 N1 M0

それぞれ以下の状態に対応します。

  • ステージ IIA
    • がんが膵臓を超えて浸潤しているが、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈には及ばない
    • リンパ節転移がない
    • 膵臓から離れた場所への転移がない
  • ステージ IIB
    • がんが膵臓に限局しているまたは、周囲に浸潤していても腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に浸潤しない
    • 膵臓に近い場所のリンパ節(領域リンパ節)への転移がある
    • 膵臓から離れた場所への転移がない

大まかに言うと、ステージIIの膵臓がんには、がんが膵臓から出て周りに浸潤しているものと、リンパ節転移があるものの2種類があります。リンパ節転移は膵臓に近い場所の領域リンパ節にがんが留まっていることが条件になります。

通常の治療としては手術を行ったうえ、手術後に再発予防として抗がん剤治療を行います。

6. ステージ IIIの治療法は?

ステージIIIの基準は次のとおりです。

ステージ III T4 any N M0
  • がんが膵臓をこえて周りに浸潤して、周囲の血管に及ぶもの 
  • 領域リンパ節への転移の有無は問わない
  • 膵臓から離れた場所への転移がない

ステージIIIはがんが膵臓を超えて周りに浸潤している状況です。ステージIIよりも浸潤が進んでいます。領域リンパ節への転移の有無は関係なくステージIIIとされます。ステージIIIでは、手術によってがんが取りきれるかどうかかがきわどい状況にあります。膵臓は重要な血管の近くに存在します。膵臓がんが周囲へ浸潤するとそれらの重要な血管を巻き込むことになります。これらの血管の巻き込み方が深刻な場合は、がんを取りきることは難しくなります。

膵臓がんを取りきれるかどうかの判断はいくつかの重要な血管とがんの位置関係が重要です。

以下の説明は専門的な内容になります。手術によりがんが取りきれるかどうかは最終的にはその施設ごとの判断です。

7. 膵臓がんの手術を行う際に特に重要な血管

膵臓は大血管に近い場所にあります。大血管からは人間の生命維持に重要ないくつかの血管がでています。膵臓がんはその位置関係のためにそれらの血管に浸潤しやすい傾向にあります。いくらがんを取るためとはいえ血管を同時にとることはその後の生命維持のためにできない場合があります。膵臓がんの手術で問題となる重要な血管を紹介します。

上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)

上腸間膜動脈は、小腸(十二指腸の一部を含む)と大腸の3分の2の血流を担います。上腸間膜動脈の血流が悪くなると多くの腸への血流が断たれてしまいます。血流が絶たれると腸は壊死することになります。壊死は腐るということです。一度壊死した腸は二度とは再生しないどころか生命に危険を及ぼします。壊死した組織に細菌が入り込んで繁殖し、さらに周りに感染していく恐れがあるためです。上腸間膜動脈は非常に重要な血管です。

腹腔動脈(celiac artery:CA)

腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)は上腸間膜動脈より頭側から出る動脈です。大動脈から直接分かれています。腹腔動脈は、左胃動脈、脾動脈、総肝動脈に分かれ、その名の通り、胃、脾臓、肝臓に向かっています。腹腔動脈は様々な臓器の血流を担う重要な血管です。

総肝動脈(common hepatic artery:CHA)

総肝動脈は腹腔動脈から分かれる3本の動脈のうちの1本です。文字通り肝臓の栄養を担います。

門脈(portal vein:PV)

ここまで動脈について説明しましたが、静脈も大切です。膵臓の近くにある静脈で特に大切なのが門脈です。

門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が合流してできる血管です。腸と脾臓から来た血液を受け取ります。門脈は肝臓へ流入します。

人間は口から食べたものを消化して、栄養素を小腸で吸収します。小腸で吸収された栄養素は上腸間膜静脈という静脈を通って門脈へ、次いで肝臓へ流れ込みます。肝臓は栄養素を受け取って、形を変えて蓄えるなどの働きをします。門脈は小腸から肝臓に栄養素を届ける非常に重要な血管です。

膵臓がんは浸潤によって門脈の周りを取り囲んだり、血管にへばりつくようになります。膵臓がんを切除する際には、門脈を一部切除することもあります。

切除可能かはどうやって判断する?(切除可能性分類)

膵臓がんに対する根治的治療法は手術だけです。手術ではがんを全て取りきれるかどうかが重要です。がんを取りきれなかった場合、術後すぐにがんが再発してしまうなど、手術を受けるメリットが小さくなってしまうからです。つまり手術前にがんを全て取りきれるかどうかを予想することが大切で、がんを取りきれないと予想した場合は手術をしないほうが合理的と考えられます。

手術が行えるかどうかは重要な血管との位置関係(浸潤しているかどうか)で決定され、これを「切除可能性分類」と呼びます。切除可能性分類は3段階に分けられています。

1. 切除可能(Resectable)

2. 切除可能境界(Borderline resectable)

3. 切除不能(Unresectable)

それぞれについて解説します。

1. 切除可能(Resectable)な膵臓がんとは

次のような場合は手術でがんを取りきれる可能性が高く、外科手術がすすめられます。

  • 上腸間膜動脈/門脈にがんの接触を認めないもの。
  • 上腸間膜動脈/門脈への接触・浸潤が180度未満でみられるが閉塞を認めないもの。
  • 上腸間膜動脈、腹腔動脈、総肝動脈とがんの間に明瞭な脂肪の組織を認め、接触・浸潤を認めないもの。

2. 切除可能境界(Borderline resectable)な膵臓がんとは

切除可能境界の膵臓がんは、手術をしてもがんを取り残してしまう可能性があるものです。重要な血管の周りにがんが及んでいる場合にこのような状況が起こります。特に重要な血管である門脈と動脈に分けて判断を行います。

  • 門脈系への浸潤のみ
    • 上腸間膜動脈、腹腔動脈、総肝動脈に腫瘍の接触・浸潤は認められないが、上腸間膜静脈/門脈に180度以上の接触・浸潤あるいは閉塞を認め、かつその辺縁が十二指腸下縁をこえないもの。
  • 動脈系への浸潤あり
    • 上腸間膜動脈あるいは腹腔動脈に腫瘍との180度未満の接触・浸潤があるが、狭窄・変形は認めないもの。
    • 総肝動脈に腫瘍の接触・浸潤を認めるが、固有肝動脈や腹腔動脈への接触・浸潤を認めないもの。

■切除可能境界の膵臓がんに対して術前治療を行う方が良いのか?

切除可能境界の膵臓がんは、手術を行ってもがんを完全に取りきることができない可能性がある状態です。がんを取りきることができなければ手術の治療効果は不十分と言わざるをえません。このような場合には手術の前に抗がん剤治療を行ったり、抗がん剤治療と放射線治療を同時に行ったりすることで、がんを小さくして手術の効果を最大限に高める方法をとる場合があります。このようにいくつかの治療法を組み合わせることを集学的治療と呼ぶことがあります。切除可能境界膵臓がんに対しては集学的治療の利益があると考えられています。

抗がん剤を手術の前に投与してがんを小さくすることは他のがんでも多く行われています。これを術前補助化学療法といいます。膵臓がんの場合は抗がん剤に加えて放射線治療も合わせて行う試みが行われてきました。どちらが良いかは現在は結論は出ていません。またどのような抗がん剤が効果があるのかも現時点ではまだはっきりとはしていません。

一方で集学的治療を行ったが効果がなく逆に進行してしまい手術の機会を逃してしまう人も中にはいます。

集学的治療には次のような課題があります。

  • 抗がん剤単独と抗がん剤と放射線治療の組み合わせはどちらがよいのか 
  • 使用する抗がん剤はどのような薬が最適なのか 
  • どのような患者さんに利益があるのか

以上のように現在は明らかになっていない点もいくつかあります。集学的治療を主治医の先生から提案された場合は、利益・不利益をしっかりと考えて決断することが重要です。

3. 切除不能(Unresectable)な膵臓がんとは

次のような場合はがんを取り切ることができないため、手術ができません。

  • 膵臓から離れた場所に転移がある場合。領域リンパ節をこえた場所にリンパ節転移を認める場合も含む。
  • 上腸間膜動脈/門脈に腫瘍との180度以上の接触・浸潤あるいは閉塞を認め、かつその範囲が十二指腸下縁をこえるもの。
  • 上腸間膜動脈に腫瘍の接触・浸潤を認め、かつ固有肝動脈あるいは、腹腔動脈に接触・浸潤が及ぶもの。
  • 大動脈に腫瘍の接触・浸潤を認めるもの。

ステージ IIIで手術ができない場合の治療法は?

ステージIIIで手術ができない場合の治療法は、抗がん剤治療もしくは抗がん剤治療と放射線療法の併用になります。

膵臓の周りには神経の束があり、がんが神経へ浸潤すると痛みを伴います。手術ができないと考えられても進行を防止する意味で放射線を照射し局所での進行を食い止めることは有効な手段と考えられます。同時に局所に対する浸潤が激しい場合には、画像上は明らかではなかったとしても全身にがん細胞が転移している確率が高いと考えます。全身を治療できる抗がん剤治療を放射線療法に合わせることで、局所の治療と全身の治療を同時に行うことで利益があると考えられます。加えて放射線療法と抗がん剤治療を併用することで放射線療法の効果が上がることも期待されます。

抗がん剤と放射線療法を同時に行うことを化学放射線療法という場合があります。

8. ステージ lVの治療法は?

ステージ IV any T any N M1

膵臓がんは、悪性度が高く転移や周囲へ浸潤する力が強いがんです。はじめて診断された時点ですでに膵臓から離れた場所に転移していることは珍しくありません。遠隔転移がある場合はステージIVです。

遠隔転移がすでにある場合は、手術の対象にはなりません。手術は膵臓がんを根治する唯一の方法ですが、がんがすでに遠隔転移をしている場合は、画像上明らかに転移をしていると判断される場所以外にも小さな転移が多数あることが予想されます。その場合には全身のがんに対して治療を行うことができる抗がん剤治療の方が理にかなっています。

膵臓のがんが進行して腸閉塞などの原因になっている場合には症状を回避するために胃と腸をつないだりする手術を行うことがあります。その手術を姑息的手術(こそくてきしゅじゅつ)といいます。

9. ステージごとの生存率は?

膵臓がんのステージは多くのがんと同じように膵臓でのがんの状態(原発巣)、リンパ節転移の有無、離れた場所への転移(遠隔転移)の有無で診断し、その後、7つに分類します。ステージは最適な治療法の選択などに役立ち、生存率を推定する情報にもなります。

膵臓がんのステージ毎の生存率の統計を表に示します。

ステージ
(UICC 第7版)
5年生存率(%)
I(1) 53.4
II(2) 22.2
III(3) 6.1
IV(4) 1.5

参考:「がんの統計2022

解説します。

早いステージほど生存率は高い傾向にあります。膵臓がんを根治(がんを体から取りきること)するには手術療法しかありません。放射線療法や化学療法では根治は期待できません。手術で最も効果を上げるのは、がんを取りきれた場合です。がんを取りきるには膵臓がんが膵臓に留まっている方が確率が高くなります。ステージが早期なほどがんは取りきりやすいことが生存率にも現れていると考えられます。

しかし、がんが膵臓に留まっている早期の状態であっても、他のがんに比べて膵臓がんの生存率は低いです。その理由としては、手術前に画像検査ではとらえられない転移があり、手術後に再発として現れるなどが考えられます。それほどまでに膵臓がんは悪性度が高く、厳しいがんとも言えます。

10. ステージ Ⅳは末期がんか?

ステージIVはステージ分類では一番進行した段階に当たりますが、ステージIVだからといって「末期がん」とは限りません。

実は、がんの末期に厳密な定義はありません。ステージIVという診断が行われた場合、末期のがんのイメージが浮かぶかもしれません。しかしながらそれは幾分違うと思います。

膵臓がんにおけるステージIVとは膵臓から離れた場所に転移がある状態のことです。膵臓の状態やリンパ節への転移の有無は問いません。ステージIVでは通常手術は行われず、抗がん剤により余命の延長を目的とした治療が行われます。症状があれば症状を緩和する治療を並行して行います。ステージIVからでもまだまだ治療としてできることはあり、それぞれに効果は期待できるのです。

では「末期がん」はどういう状態でしょうか。

最初に述べましたが末期がんには定義がありません。一般的なイメージを加味して考えてみることにします。末期というと余命がかなり限られていることが明らかな状態だと考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

膵臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移がある段階です。膵臓がんは肝臓、肺、骨などに転移し、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。

末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ患者さんにとって過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。

11. 実は全然違う「ステージ」と「グループ」とは?

ステージとグループは全く異なります。膵臓がんにおけるステージとは多くのがんと同じように膵臓でのがんの状態(原発巣)、リンパ節転移の有無、離れた場所への転移(遠隔転移)の有無で診断し、その後、大きく4つに分類します。ステージは最適な治療法の選択などに役立ちます。

対してグループは膵臓腫瘍の組織を一部取ってきてそれが悪性かどうかを判定する方法です。グループは1-5で分けることが一般的です。グループ5は悪性腫瘍、つまり膵臓がんを意味します。ステージ5というものはありません。

  • ステージはがんの状態を膵臓でのがんの状態、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無の3つの要素を加味して1から4までに分けたもの
  • グループは生検などで組織診断を行ったときの悪性の可能性を5段階で分けたもの

ステージとグループは全く異なるものです。色々な説明を聞いていくうちにどちらのことを指しているのかわからなくなる場合があります。そのときには、その都度聞きづらいかもしれませんが、受けている説明を止めてどちらの話をしているのかをしっかり聞くことが重要です。