まいこぷらずまはいえん
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマという細菌が起こす肺炎で熱、咳、皮疹などの症状が出る。20代以下の若者に多いが高齢者にもうつるので注意が必要
16人の医師がチェック 137回の改訂 最終更新: 2022.04.19

マイコプラズマ肺炎とは?原因、潜伏期間、感染力、学校出席停止など

マイコプラズマ肺炎は何か特別な原因がなくても日常生活の中でかかることの多い感染症です。特に20歳以下の若い人に起こりやすいことが分かっています。マイコプラズマ肺炎の特徴について説明していきます。

1. マイコプラズマ肺炎の原因は?

マイコプラズマ肺炎の原因はマイコプラズマニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌です。マイコプラズマニューモニエが口から侵入して気道を通って細気管支や肺で感染を起こします。根強い咳が特徴的な感染症です。

マイコプラズマニューモニエは普通の環境の中でどこにでもいるため、日常生活の中で知らないうちに感染してしまいます。人から人へ感染して流行することがありますから、マイコプラズマ肺炎にかかった人が周りにいれば、感染予防のため以下の対策をとってください。

  • 症状がある人と必要以上に接触しない
  • 症状がある人と接触する場合はマスクを装着する
  • 症状がある人と接触したときは手洗い・うがいをする
  • 症状がある人はマスクをする
  • 咳が出るときはティッシュなどで鼻と口を押さえ、人から離れ、顔を背ける
  • 使ったティッシュをすぐ捨てられるよう蓋付きのゴミ箱を用意する

マイコプラズマ肺炎は空気感染しませんのでここまで厳密にしなくてもうつる機会は多くありませんが、少なくとも手洗いを行いマスクを装着することは行ったほうが無難です。

2. マイコプラズマ肺炎は普通の肺炎とは違うのか?

マイコプラズマニューモニエは病院や医療関連施設以外で起こる肺炎市中肺炎)の原因微生物の中で頻度が高いものになります。特に15-44歳の肺炎の原因微生物の中では最も頻度が高いと報告されています。

一般的に市中肺炎を起こしやすい細菌を挙げると次のものがあります。

  • 肺炎球菌
  • インフルエンザ桿菌
  • モラクセラ・カタラーリス
  • マイコプラズマ・ニューモニエ
  • クラミドフィラ・ニューモニエ
  • レジオネラ属(レジオネラ・ニューモフィラなど)

中でも下の3つの細菌による肺炎のことは非定型肺炎(異型肺炎)と呼ばれています。非定型肺炎の一つであるマイコプラズマ肺炎のどこが通常の肺炎と異なるのかを説明していきます。

参考文献:高柳 昇, 他, 市中肺炎入院症例の年齢別・重症度別原因微生物と予後, 日呼吸会誌 2006;44(12):906-915

3. 非定型肺炎(異型肺炎)ってどんな肺炎?

肺炎球菌による肺炎は最も頻度の高い肺炎です。肺炎球菌性肺炎になると咳や痰や発熱、息切れといった症状が出ます。しかし、マイコプラズマ肺炎の症状はこれらとは少し異なります。また、肺炎球菌による肺炎であればペニシリン系抗菌薬抗生物質)を用いて治療しますが、マイコプラズマ肺炎にはペニシリン系抗菌薬は全く効きません

マイコプラズマ肺炎は通常の肺炎と症状や治療法が異なるため非定型肺炎(異型肺炎)と呼ばれています。非定型肺炎にはマイコプラズマ肺炎以外にもレジオネラ肺炎なども含みます。

【非定型肺炎に分類される主な感染症】

これらの感染症の特徴は、咳を中心とした肺の症状があるにも関わらず、通常の肺炎と様相が異なることです。次の段落ではマイコプラズマ肺炎の特徴に関して簡単に説明します。

4. マイコプラズマ肺炎の特徴は?

マイコプラズマ肺炎を起こすマイコプラズマ・ニューモニエという細菌は少し変わった特徴を持っています。どういった特徴があるのでしょうか。

マイコプラズマニューモニエってどんな細菌?

マイコプラズマニューモニエはマイコプラズマ属というグループの中の細菌の一つです。マイコプラズマ属の中で人に肺炎を起こすのはマイコプラズマ・ニューモニエのみであることが分かっています。

マイコプラズマ属の細菌は非常に小さく0.1-5μm程度しかありません。μmはマイクロメートルと読みます。1,000μm=1mmです。

マイコプラズマ属の最も大きな特徴は細胞壁を持たないことです。細胞壁を持たないために通常の肺炎に用いる抗菌薬が全く効きません。

マイコプラズマ・ニューモニエが口から体内に侵入しても多くの場合は軽症ですみます。症状に気付かない人もいるくらいです。しかし、感染した人のうち数%に肺炎が起こると言われています。

マイコプラズマ肺炎の症状

マイコプラズマ肺炎の代表的な症状は咳と発熱です。しかし、マイコプラズマ肺炎にかかるとこれ以外にもさまざまな症状が出現します。以下が起こりうる症状の一覧です。

【マイコプラズマ肺炎の症状】

  • 全身の症状
    • 熱が出る
    • 体がだるい
    • 頭が痛い
    • 関節が痛い
    • 筋肉が痛い
  • 呼吸器の症状
    • 非常に根強い咳が出る
    • のどが痛い
    • 息苦しい(呼吸困難感)
    • 胸が痛む
  • 心臓の症状
    • 動悸がする
    • 息が切れる
  • 消化器の症状
    • お腹が痛い
    • 下痢
    • 悪心(吐き気)
    • 嘔吐
  • 皮膚の症状
    • 皮疹が出る
    • 皮膚が黄色くなる
    • 水疱(水ぶくれ)ができる
  • 耳の症状
    • 耳が痛い
    • 耳の聞こえが悪い
  • 神経の症状
    • 手足がしびれる
    • 力が入りにくい
    • 意識が朦朧(もうろう)とする
    • けいれんする

また、マイコプラズマ肺炎では、咳が目立つ一方で痰(たん)が目立たないことも特徴です。咳が多く出るけれど痰があまり出ない人は、マイコプラズマ肺炎を考えなくてはなりません。

マイコプラズマ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎の原因となるマイコプラズマ・ニューモニエには細胞壁という構造がありません。

通常の肺炎の治療にはペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬を用います。ペニシリン系抗菌薬とセフェム系抗菌薬は、細菌が細胞壁を作れないようにすることで治療します。ところがマイコプラズマ肺炎には細胞壁がないので全く効きません。

そのため、マイコプラズマ肺炎の治療では細胞壁合成阻害薬とは異なった作用を持つ抗菌薬が用いられます。以下がその代表例です。

  • マクロライド系抗菌薬
    • アジスロマイシン(商品名ジスロマック®など)
    • クラリスロマイシン(商品名クラリス®など)
    • エリスロマイシン(商品名エリスロシン®など)
    • ほか
  • テトラサイクリン系抗菌薬
    • ミノサイクリン(商品名ミノマイシン®など)
    • ドキシサイクリン(商品名ビブラマイシン®)
    • ほか
  • ニューキノロン系抗菌薬
    • レボフロキサシン(商品名クラビット®など)
    • シプロフロキサシン(商品名シプロキサン®など)
    • モキシフロキサシン(商品名アベロックス®)
    • シタフロキサシン(商品名グレースビット®)
    • ガレノキサシン(商品名ジェニナック®)
    • ほか

これらは細菌が増殖するために必要なタンパク質やDNAが作られるのを妨害することで、細菌の繁殖を防ぎます。マイコプラズマ肺炎の治療で活躍する抗菌薬になります。

通常の治療期間の目安は2週間ですが、アジスロマイシンを用いた場合のみ5日間になります。

5. 非定型肺炎はマイコプラズマ肺炎以外にもある?

非定型肺炎にはマイコプラズマ肺炎以外の感染症も分類されます。クラミドフィラ肺炎レジオネラ肺炎百日咳などがそれに当たります。各々の疾患で少しずつ特徴が変わります。

クラミドフィラ肺炎の特徴:原因、症状、治療など

クラミドフィラ肺炎市中肺炎のうちの数%程度を占めます。クラミドフィラ肺炎の原因となる微生物はクラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)です。これは性病で有名なクラミジアと親戚のような細菌ですが、クラミドフィラ肺炎は性病ではありません。クラミドフィラ肺炎は性行為ではなくせきやくしゃみを介して細菌が口の中に入ることでうつります。予防には感染者も周囲の人もマスクを着用することが大切です。

クラミドフィラ肺炎の症状

数週間から数ヶ月続く根強い咳が最も目立ちます。痰はあまり目立たないことが多いです。

ほかには発熱や咽頭痛(のどの痛み)などが出現しますが、いずれも症状は軽いことが多いです。

クラミドフィラ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎と同じく、マクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリス®、エリスロシン®など)やテトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシン®、ビブラマイシン®など)やニューキノロン系抗菌薬(クラビット®、シプロキサン®など)が治療に有効です。

治療期間に一定の見解はありませんが、2週間抗菌薬を飲むことが目安になります。

レジオネラ肺炎の特徴:原因、症状、治療など

レジオネラ肺炎はレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)が感染することで起こります。レジオネラ・ニューモフィラはヒトからヒトへの感染を起こしませんが、水周りに生息してからヒトに感染を起こします。そのため、温泉やサウナや加湿器などの水回りで集団感染を起こすことがあります。

また、病院でも集団感染が起こることが問題になっています。高齢者・透析している人・アルコール依存のある人・喫煙者・肺気腫COPD)のある人などが感染しやすいことが知られていますので注意が必要です。

レジオネラ・ニューモフィラに感染すると必ず肺炎になるわけではなく、ポンティアック熱という発熱・頭痛・筋肉痛を中心とした状態になることもあります。一方で肺炎になると重症化することも少なくなく、ICU(集中治療室)で治療する必要があるレベルになることもあります。

レジオネラ肺炎の症状

主な症状は発熱・頭痛・筋肉痛・せき・胸痛などですが、症状が進行すると呼吸困難・意識朦朧・錯乱・けいれんなどを起こすことがあります。

また、せきが続いてから時間とともにたんが増えてくることも特徴的です。

レジオネラ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎と同じく、治療薬はニューキノロン系抗菌薬(クラビット®、シプロキサン®など)やマクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリス®、エリスロシン®など)になります。

通常の治療期間は2週間(アジスロマイシンのみ5日間)ですが、重症の場合は3週間(アジスロマイシンのみ10日間)ほど抗菌薬を使うことがあります。

百日咳の特徴:原因、症状、治療など

百日咳百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌が起こす感染症です。日本では定期予防接種の4種混合ワクチン(2012年までは3種混合ワクチン)に百日咳が含まれるため、1990年以降大流行は起こっていません。とはいえ年間数千人は百日咳にかかっている状況ですので、決して少なくない感染症です。

ワクチンを打っても完全には予防できませんが、ワクチンを打っていない人が百日咳にかかった場合は強い症状が出ます。また、ワクチンを打ってから大人になって時間が経つと予防効果が薄れてしまうこと(二次ワクチンフェイラー)が問題となっています。

百日咳の症状

百日咳の症状は時間とともに変化します。大きく分けると、カタル期・発作性咳嗽期・回復期の3段階になります。カタル期は鼻汁や咽頭痛などの風邪のような症状のある時期です。咳嗽(がいそう)とはせきのことです。

ワクチンを打っていない人が百日咳になると強い症状が出ます。激しい咳込み・嘔吐・チアノーゼ・無呼吸・顔面紅潮などが代表例です。ワクチンを打った人が百日咳になるとあまり症状が目立たなかったり、単なる風邪と勘違いしてしまうことも多いです。

百日咳の治療

治療は主にマクロライド系抗菌薬(ジスロマック®、クラリス®、エリスロシン®など)を用います。百日咳の症状の3つの時期の中でもカタル期に治療すれば症状を緩和することができますが、それ以降に治療しても症状が軽くなることはあまりありません。しかし、感染を周囲に広げないためにも、発作性咳嗽期や回復期に抗菌薬を用いて治療することがほとんどです。

治療期間の目安はジスロマック®が5日間、クラリス®が7日間、エリスロシン®が14日間になります。

6. マイコプラズマ肺炎と一般的な肺炎の症状の違い

マイコプラズマ肺炎と通常の肺炎はともに肺の感染症ですが、出やすい症状が少し異なります。以下に比較した表を示します。

【マイコプラズマ肺炎と一般的な肺炎の症状の違い】

  マイコプラズマ肺炎 一般的な肺炎
発熱
倦怠感
◎(非常に強い)
息切れ(息苦しさ)
のどの痛み
頭痛
関節痛
意識もうろう

◎:よく出る

◯:出ることが多い

△:たまに出る

✕:ほとんど出ない

上の比較した表の中でも特に注意するべき点は咳の強さ痰の有無です。マイコプラズマ肺炎になると、痰のほとんどからまない乾いた咳が根強く出現することが特徴になります。また、一般的な肺炎にかかるとぐったりしてしまいますが、マイコプラズマ肺炎の場合は比較的元気な人が多いです。

日本呼吸器学会が一般的な細菌性肺炎(肺炎球菌性肺炎など)と非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎など)の簡単な見分け方を公表しています。

細菌性肺炎と非定型肺炎の見分け方】

  1. 年齢が60歳未満

  2. 元来持病(基礎疾患)がない、あるいは軽微である

  3. 頑固な咳がある

  4. 胸部聴診を行っても所見が乏しい

  5. 痰がない、あるいは迅速診断法で原因となる細菌が見つからない

  6. 血液検査で白血球数が10,000/μL未満である

以上の6項目の中から4項目以上該当する場合は非定型肺炎が疑わしくなります。また、すぐに血液検査で白血球数を調べることができない場面では、1から5までのうち3項目以上該当する場合に非定型肺炎を疑います

7. マイコプラズマ肺炎と一般的な肺炎の治療の違い

現在使われている抗菌薬の種類は数多く存在しますが、マイコプラズマ肺炎の治療に用いる抗菌薬は実は多くありません。一般的な細菌性肺炎の治療に用いる抗菌薬と少し異なることもポイントになります。

【使用する抗菌薬の例】

  マイコプラズマ肺炎 一般的な細菌性肺炎
ペニシリン系抗菌薬
セフェム系抗菌薬
グリコペプチド系抗菌薬
テトラサイクリン系抗菌薬
マクロライド系抗菌薬
ニューキノロン系抗菌薬

◎:有効の場合が多い

△:有効でないこともある

✕:全く有効ではない

ここで大事なことは、一般的な肺炎に使うペニシリン系抗菌薬とセフェム系抗菌薬のいずれもマイコプラズマ肺炎には用いることができないということです。つまり、今起こっている肺炎は非定型肺炎なのか一般的な細菌性肺炎なのかをきちんと診断しておかないと、全く効かない治療を行いかねないということになります。

上の段落で示した「細菌性肺炎と非定型肺炎の見分け方」を用いたりしながら、原因となる微生物を見極めることがとても大切になります。

なお、細菌性肺炎にも非定型肺炎にも効くからニューキノロン系抗菌薬を使用すれば安心と思えるかもしれませんが、実際の判断はもう少し複雑です。現在、不必要な場面でニューキノロン系抗菌薬が使われていることが問題となっています。その影響を受けて少しずつニューキノロン系抗菌薬の効かない耐性菌が増えてきてしまっています。

例えば、肺炎球菌による細菌性肺炎に対して、ニューキノロン系抗菌薬は必要なくペニシリン系抗菌薬が最も有効です。耐性菌の背景を考えると、「肺炎に有効な抗菌薬を使うこと」からもう一つステップアップして、「原因菌に最も適した治療薬を使うこと」が必要となっています。

8. マイコプラズマ肺炎は肺炎?気管支肺炎?

マイコプラズマ肺炎は肺炎という名前がついていますが、気管支肺炎と呼ばれることがあります。どうしてそう呼ばれるのかを説明する前に、肺の構造を簡単に説明します。

口から吸った酸素は、気管から気管支を通って細気管支、そして肺胞へと運ばれます。肺胞は酸素の運搬の終着地点であり、呼吸によって酸素と二酸化炭素の交換が行われる場になります。

【肺の構造】

肺の構造のイラスト。空気は気管・気管支と枝分かれしていく気道を通って肺胞に至る。

肺胞の構造のイラスト。

肺炎球菌性肺炎の場合は、肺の中でも肺胞で感染が起こり、肺胞から炎症が広がります。

一方で、マイコプラズマ肺炎の場合は、気管から肺胞に至る空気の通り道の中でも気管支や細気管支の上皮(空気の通り道の中で空気に接する部分)の破壊が目立つのが特徴になります。気管支や細気管支から感染が広がるので、通常の肺炎と区別する言い方として気管支肺炎と言います。

9. マイコプラズマ肺炎の感染力について

マイコプラズマ肺炎はうつります。原因はマイコプラズマニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌です。マイコプラズマは非常にありふれた細菌です。健康な若い人にうつることも多いことがわかっています。

感染経路は接触感染飛沫感染です。結核麻疹はしか)のように飛沫核感染(空気感染)はしません。

もう少し詳しく説明していきます。

マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は?

マイコプラズマニューモニエに感染してから肺炎の症状が出るまでの期間(潜伏期間)は1-4週間ほどで、たいていの場合は2-3週間になります。潜伏期間には症状がありませんが、うつる可能性があります。一般的には症状が出る1週間ほど前から感染力が出てくると言われています。そのため、咳をしている人に近づいた覚えがなくても、どこかでマイコプラズマ肺炎をうつされているということはよくあります。

マイコプラズマの感染力はどの程度か?

マイコプラズマの感染力は高くありません。感染している人と同じ場所で長時間過ごすなど、「濃厚接触」と呼ばれる状況下になるとうつりますが、通常の生活を送る限りはあまり流行することはありません。ときに家庭や学校内でマイコプラズマ肺炎が流行することがあるので、感染者が身近にいる場合は感染予防に気をつける必要があります。マイコプラズマ肺炎と診断された人やその周りの人は、手洗いやマスク着用などで感染の予防をしてください。

マイコプラズマ肺炎になったら出席停止?出勤停止?

マイコプラズマ肺炎は出席停止とされる場合があります。

学校保健安全法施行規則の第18条で定める第3種感染症の中に「その他の感染症」という記載があります。マイコプラズマ肺炎は「その他の感染症」に該当するとみなされる場合があります。

第3種感染症に選定された感染症にかかった場合は出席することができません。出席停止の期間は、学校医あるいは他の医師が感染の恐れがないと認めるまでになります。

一方で、出勤停止に関しては特に決まりごとはありません。しかし、周囲に感染を広めないことは大切ですので、感染性の高いうちは出勤しないほうが良いです。症状が現れてから1週間ほどが多くの病原体を排出している時期ですので、この時期は自宅安静にするほうが良いかもしれません。前提として大切なのは、医師の診察を受けて状況を判断してもらうことです。

マイコプラズマ肺炎は自然治癒するのか?

マイコプラズマ肺炎はまれに重症になりますが、根強い咳以外の症状は軽く済むことが多いです。そして、その後ほとんどの場合で自然治癒します。

しかし、以下の人は重症になる危険性が高いので注意が必要です。

  • もともと免疫力の低下している人
  • もともと肺に持病がある人

免疫力が低下しているとは、HIVに感染している、ステロイド内服薬による長期治療中などの状況を指します。持病がなく元気に生活している人で免疫力低下が問題になることはほとんどありません。

感染による影響以外にも、マイコプラズマニューモニエに関連するアレルギー反応の強さが重症度に関与するとも考えられており、マイコプラズマ肺炎が重症になるかどうかにはさまざまな要素が絡んでいます。

また、マイコプラズマ肺炎は進行すると肺の感染だけでなく全身に影響をおよぼすことがあります。まれに髄膜炎や脳炎などの重症の合併症が起こることがあるので、明らかにぐったりしている場合やいつもと雰囲気が異なる場合には医療機関を受診するようにして下さい。

10. マイコプラズマ肺炎に診断基準はあるのか?

肺炎の診断は一般的な肺炎なのか非定型肺炎なのかを見極めることから始まります。そこで役立つのが先程述べました「細菌性肺炎と非定型肺炎の見分け方」になります。これを用いて非定型肺炎を疑った場合に、原因微生物がマイコプラズマニューモニエなのかどうかを調べる検査を行います。

基幹定点医療機関でマイコプラズマ肺炎が診断された場合、保健所に届け出る基準が決められています。

  • 症状の特徴からマイコプラズマ肺炎が疑わしい
    • 6歳から12歳の小児に多い
    • 潜伏期間は2週間から3週間
    • 飛沫感染する
    • 胸部レントゲンに特徴がある(非定型肺炎像)
    • 頑固な咳嗽がある(咳)
    • 発熱している
    • 中耳炎胸膜炎心筋炎髄膜炎などの合併症が出ることもある
  • 検査でマイコプラズマが原因と確定した
    • 気道からマイコプラズマが分離・同定された
    • 気道からマイコプラズマの抗原が検出された
    • 気道からPCR法でマイコプラズマの遺伝子が検出された
    • 血液からマイコプラズマ抗体が検出された
      • ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意の上昇
      • 単一血清で間接血球凝集抗体価320倍以上、補体結合抗体価64倍以上、ゼラチン粒子凝集抗体価320倍以上、IgM抗体の検出(迅速診断キット)のいずれか

(健感発第 0308001号別紙「医師及び指定届出機関の管理者が都道府県知事に届け出る基準」をもとに作成)

この基準をもとに考えると、マイコプラズマ肺炎と診断するにはマイコプラズマニューモニエの存在を証明するか抗体の上昇を証明することが必要です。しかし、治療のために行われる診断は必ずしもこの基準のとおりとは限りません。検査を行わずに流行状況と症状と身体所見から総合的に診断することも多いです。実際に海外の成書でも、症状と状況からマイコプラズマ肺炎が疑わしい場面で、特に他に疑わしい原因がない場合には、検査を行わずにマイコプラズマ肺炎と診断することもあると記載されています。(Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition)

マイコプラズマ肺炎の診断には、必ずしも検査は必要でないということになります。(マイコプラズマ肺炎の検査に関しては「マイコプラズマ肺炎を診断するにはどんな検査を行う?血液検査、迅速検査、画像検査など」で説明しています。)

11. マイコプラズマ肺炎は大人よりも子供に多いというのは本当か?

肺炎は高齢者に多い感染症ですが、マイコプラズマ肺炎は若い人に多いと言われます。大人よりも子どもに多いというのは本当なのでしょうか。

マイコプラズマ肺炎になりやすい年齢は?

マイコプラズマ肺炎は20歳以下の人にかかりやすいです。肺炎の原因となりやすい微生物を年齢別に示します。

  • 生まれて1ヶ月直前まで
    1. 溶連菌
    2. ブドウ球菌
    3. 大腸菌
  • 1ヶ月-1歳直前まで
    1. 肺炎球菌
    2. ウイルス感染
    3. 百日咳
  • 1歳-5歳直前まで
    1. 肺炎球菌
    2. ウイルス感染
    3. マイコプラズマ
  • 5歳-15歳まで
    1. 肺炎球菌
    2. マイコプラズマ
    3. クラミドフィラ

上のリストにあるように1歳未満でマイコプラズマ肺炎になることは珍しいです。しかし、1歳以上ではマイコプラズマニューモニエは肺炎の原因微生物の上位になります。

子どもがマイコプラズマ肺炎になると大変?

子どもはマイコプラズマ肺炎になりやすい一方で、子どものマイコプラズマ肺炎が重症になることはあまり多くありません。しかし、重症になった場合や合併症が出現した場合には注意が必要です。子どもは大人よりも体力がないので、感染症の勢いが強くなると身体がぐったりとなってしまいます。そのため、どんなときにマイコプラズマ肺炎が重症になってしまったと考えなくてはならないかを知っておいて下さい。

どんな人が重症のマイコプラズマ肺炎になりやすい?重症になったサインはどんなものか?

肺炎が重症になりやすい人の多くは、すでに肺や心臓に持病がある人や免疫力の低い人です。子どもの持病は大人の持病とは少し様相が異なります。

また、持病以外にも肺炎が重症になるパターンもあります。

  • 気管支喘息などの肺の持病がある
  • もともと免疫の弱くなる病気を指摘されている
  • 風邪を引いたあとに肺炎の症状が出てきた
  • 脱水(口の中が乾く、汗が出ない、おしっこが出ないなど)の症状がある

これが1つでも当てはまる場合は、肺炎は重症になりやすいのでよくよく注意して下さい。また、いつもよりぐったりとしているというのは感染症が重症になっているサインなので注意が必要です。上で述べた、重症になったときに出る肺炎の症状が出てきたら必ず医療機関にかかるようにしたほうが良いです。

高齢者はマイコプラズマ肺炎にならない?

マイコプラズマ肺炎は20歳以下の人に多い感染症です。確かに60歳以上の人がマイコプラズマ肺炎に罹患することは多くはありませんが、決して高齢者はかからないというわけではありません。2011年には天皇陛下がマイコプラズマ肺炎の治療をされたというニュースが流れました。特にちまたでマイコプラズマ肺炎が流行している場合や家族がマイコプラズマ肺炎にかかっているような場合は、年齢に関係なく手洗いやマスク着用を行って感染予防に努めて下さい。