Beta マイコプラズマ肺炎のQ&A
- 血液検査
- マイコプラズマに対する抗体反応を確認します
- 1回の採血である程度あたりを付けることができる場合もありますが、精度を高めるにはペア血清といって、1-2週間空けて採血を2回行う方法がとられます
- 血液検査は肺炎自体以外に炎症の程度や他の臓器に影響が及んでいないかなどの全身状態の把握にも有用です
- 迅速検査
- のどを綿棒でぬぐった際の液体を用いてマイコプラズマの有無を調べます
- キットの種類によっては精度が十分に高くないことが問題です
- 60歳未満
- 基礎疾患がない、もしくは軽微
- 頑固な咳がある
- 胸部聴診上異常がない
- 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が特定されない(痰の染色検査など)
- 血液検査で白血球数が10000/μl以下である
マイコプラズマ肺炎の治療法について教えて下さい。
マイコプラズマ肺炎の治療では抗菌薬(抗生物質)の使用が基本となります。マイコプラズマは少し変わった性質をもった菌のため、ペニシリン系などの基本的な抗生剤が効かないという特徴があります。そのためキノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系などの抗菌薬を用いることが必要となります。
体内の酸素が低下していれば酸素療法を行います。重症型の劇症型マイコプラズマ肺炎という病態が稀にありますが、そのような他臓器に影響が出るような重症な場合はその補助療法も考慮されます(昇圧剤や人工透析など)。また、自己の免疫過剰が原因とも考えられており、ステロイドなどの免疫を抑えるような治療を併用することが考慮されます。
マイコプラズマ肺炎はどんな症状で発症するのですか?
一般的な細菌性肺炎は急性の経過(1-2日のイメージ)で発症しますが、マイコプラズマ肺炎はもう少しゆっくりとした経過で発症することが多いと言われています。そして発熱、咳などの症状は目立ちますが、痰は少なめです。また、風邪のようなのどの痛み、頭痛などの全身症状も目立つのが特徴とされています。
マイコプラズマ肺炎はどのように診断するのですか?検査はありますか?
マイコプラズマ肺炎はその他の肺炎と同様、症状、背景・状況、呼吸音の聴診、胸部レントゲン写真を元にまずは診断を進めます。これらを元に十分にマイコプラズマ肺炎が疑わしいとなれば、その時点で治療が始められますし、そうでない場合には血液検査や迅速検査キットの結果を参考にする場合もあります。
上記以外では、胸部CTで肺を精密に検査するとマイコプラズマに特徴的と言われる様子が見つかることがありますが、軽症の方が一般外来で受けることはあまりない検査です。
マイコプラズマ肺炎の原因、メカニズムについて教えて下さい。
マイコプラズマ肺炎は、肺炎の中でもマイコプラズマという菌が原因で起こります。通常は気管支や肺にこの菌はいません。口などから気管に菌が侵入しても、痰に絡めて咳などにより外に追い出す仕組みが働いているのですが、何らかの理由で菌が侵入しても追い出せない場合にマイコプラズマ肺炎を発症します。
一般的な肺炎(定型肺炎といいます)と少し特徴が異なるため、非定型肺炎と表現されることがあります。
定型肺炎と非定型肺炎の区別のため、下記のような項目で3つ以上合致すると非定型肺炎の疑いが強まるといわれています。
マイコプラズマ肺炎が重症化すると、どのような症状が起こりますか?
マイコプラズマ肺炎では、肺化膿症といって肺自体の組織が部分的に死んでしまうことがあります。また、肺の炎症が強いと全身に影響が波及して全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症という状態になり、他の臓器まで影響が及びます。
肺の炎症が強い場合には器質化肺炎といって、免疫反応が過剰に働いて起こるタイプの肺炎が起こることがあります。その場合はマイコプラズマ肺炎の治療に加えて、別途ステロイドなどの薬剤を用いた治療を検討します。
マイコプラズマ肺炎は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?
特に基礎疾患が目立たず普段通りの生活をしているような人に起こる肺炎を「市中肺炎」と呼びますが、マイコプラズマ肺炎は市中肺炎の原因菌の約10-15%を占めるといわれています。一般的なかぜと似た症状を呈する点ことがあるため、厳密にはもう少し頻度が高いのかもしれません。
マイコプラズマ肺炎の、治療薬の使い分けについて教えて下さい。
マイコプラズマ肺炎であればキノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系などいくつかの種類の抗菌薬の選択肢があります。しかし、場合によってはマイコプラズマが原因の肺炎なのか、その他の一般的な肺炎なのかの区別がつきづらいことがあります。
一般的な肺炎の原因菌で多い肺炎球菌やインフルエンザ桿菌には通常はペニシリン系やその親戚であるセフェム系の抗菌薬を使用しますが、キノロン系も有効です。つまり、マイコプラズマ肺炎を疑うもののその他の一般的な肺炎も否定できない場合にはキノロン系などのどちらにも効く抗菌薬を選択せざるを得ないことがあります。一般的にキノロン系のような色々な菌に効いてしまう抗菌薬は耐性菌の出現リスクを高めるため、原因菌にピンポイントで効く抗菌薬を選ぶように心がけることが必要です。
マイコプラズマ肺炎と診断が紛らわしい病気はありますか?
マイコプラズマ肺炎を症状のみでその他の肺炎と完全に区別することはできず、血液検査などを用いても受診の時点で即診断を付けることが難しいのが実情です。
胸部レントゲンだけでは、原因が細菌ではない肺炎(間質性肺炎など)との区別や、場合によっては肺がんとの区別が難しいこともあります。必要に応じて胸部CT検査が検討されます。また、肺がんを区別するために気管支鏡という肺の内視鏡カメラによる検査も有用です。
マイコプラズマ肺炎は、他人にうつる病気ですか?
マイコプラズマ肺炎は、人から人へとうつっていく感染症です。
唾液や鼻水などが口の中に入り込むことによって感染する飛沫感染や、その中の細菌が周囲に付着して間接的に拡がっていく接触感染によって感染します。ただし、空気感染する病気ではありませんので、一緒の空間でただ同じ空気を呼吸するだけで感染してしまうということはありません。
マイコプラズマ肺炎を予防するために、何かできることはありますか?
マイコプラズマ肺炎は他の細菌性肺炎と異なり、若年者に多いという特徴があります。また、基礎疾患がなく体力がある状況でもかかりやすいというのも特徴です。患者さんの唾液、鼻汁などの体液が他者の口腔内に入ることで発症しますので、感染が広がらないように手洗い、うがい、マスク着用を心掛けることなどが大事な対策となります。
マイコプラズマ肺炎では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?
マイコプラズマ肺炎は重篤化することも多いので入院も考慮される病気ですが、体に酸素が取り込めていて食欲も保たれているなど、全身状態が保たれている場合は外来通院で抗菌薬内服により治療可能なこともあります。順調であれば2週間程度の抗菌薬内服で軽快するイメージです。
少し詳しい話になりますが、A-DROPといったような重症度判定スコアを基準に医療者は入院適応を判断しています。A-DROPとはAge(年齢)、Dyhydration(脱水)、Respiration(酸素状態)、Orientation(意識状態)、Pressure(血圧)の頭文字をとった略号です。これら項目の変化の有無も参考にしながら、入院の必要性を判断します。
マイコプラズマ肺炎の潜伏期間はどのくらいですか?
潜伏期間とは、実際にその病気に感染してから、最初の症状が出現するまでの時間差のことです。
マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は2-3週間と言われており、他の感染症よりも長いのが特徴です。これは逆に言えば、「マイコプラズマ肺炎の患者と触れ合ってから3日後に自分もマイコプラズマ肺炎を発症した」ような場合には、むしろその患者さんからうつった可能性は低く、その2-3週間前に既にどこかで感染していたと考えられるということです。
マイコプラズマ肺炎は、大人でもかかる病気ですか?
マイコプラズマ肺炎が最も生じやすいのは、小学生から大学生までの学童期および青年期です。これらの年代では感染しやすいことに加えて学校で狭い空間に大人数が集まるため、感染が広がりやすくなります。
一方で、マイコプラズマ肺炎は大人であってもかかる病気なので、子どもから親へと拡がる家族内感染は珍しくありません。
マイコプラズマ肺炎では出席停止になるのですか?
マイコプラズマ肺炎は、インフルエンザや水痘(水ぼうそう)などと異なり、自動的に出席停止となる疾患ではありません。
ただし、確かに学童期から青年期に感染が広まりやすいという特徴がある病気のため、校長の判断にもとづき、感染者を出席停止扱いとすることが可能です。特に発症後1週間は周囲への感染力が高いため、出席の判断については学校や医師と相談することが勧められます(法的に欠席しなければならない、という病気ではありません)。
マイコプラズマ肺炎の再発予防や日常生活で気を付ける点はありますか?
一度マイコプラズマ肺炎にかかったら二度とかからない、というタイプの病気ではありません。
患者の唾液などがくしゃみ、手などを介して他者の口、鼻に入ることで他者にうつります。その経路を断つには手洗い、うがい、マスクといった対策が基本となります。
マイコプラズマ肺炎は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?
マイコプラズマ肺炎の大部分は完治します。しかし中には稀ですが、肺化膿症(肺の炎症が強くて肺の一部が死んでしまう状態)や膿胸(肺の周りに膿が貯まってしまう状態)といった病状を通じて肺に損傷が残ったり、膨らみにくくなったり、肺の機能面で影響を残すことがあります。
マイコプラズマ肺炎が命に関わることはありますか?
一般的にマイコプラズマ肺炎は良好な経過をたどるといわれていますが、稀に劇症型マイコプラズマ肺炎というとても強い感染症になってしまい、その場合は命に関わる状況となります。
日本国内の統計では肺炎は死因の4位です。頻度が高く身近な感染症と言えますが、やはり重症化して命に関わることがあるため、楽観視はしない方がよいと思われます。