まいこぷらずまはいえん
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマという細菌が起こす肺炎で熱、咳、皮疹などの症状が出る。20代以下の若者に多いが高齢者にもうつるので注意が必要
16人の医師がチェック 137回の改訂 最終更新: 2022.04.19

マイコプラズマ肺炎を診断するにはどんな検査を行う?血液検査、迅速検査、画像検査など

マイコプラズマ肺炎は状況から診断を確定させることは難しいですが、検査を行うことで診断の確率をより高くすることができます。例えば血液検査や細菌検査などがそれらにあたります。このページでは検査の内容について詳しく説明します。

1. マイコプラズマ肺炎に診断基準はあるのか?

マイコプラズマ肺炎の明確な診断基準はありません。とはいえ、診断に至るまでの流れは存在します。

マイコプラズマ肺炎の診断を行うためには、まず最初に肺炎の原因が非定型肺炎なのかどうかを考えなくてはなりません。非定型肺炎とはマイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎クラミドフィラ肺炎などのことを指し、通常の細菌性肺炎とは症状の特徴が異なります。

日本呼吸器学会が一般的な細菌性肺炎肺炎球菌肺炎など)と非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎など)の簡単な見分け方を公表しています。

細菌性肺炎と非定型肺炎の見分け方】

  1. 年齢が60歳未満
  2. 元来持病(基礎疾患)がない、あるいは軽微である
  3. 頑固な咳がある
  4. 胸部聴診を行っても所見が乏しい
  5. 痰がない、あるいは迅速診断法で原因となる細菌が見つからない
  6. 血液検査で白血球数が10,000/μL未満である

以上の6項目の中から4項目以上該当する場合は非定型肺炎が疑わしくなります。また、すぐに血液検査ができない場面では、1から5までで3項目以上該当する場合に非定型肺炎を疑います。

非定型肺炎を疑った場合には、マイコプラズマ肺炎の診断確率をさらに高める検査を行います。次の章で説明していきます。

2. マイコプラズマ肺炎を疑った時に行う検査は?

マイコプラズマ肺炎を疑ったときに行われる検査は以下が代表的なものです。

  • 血液検査
    • 炎症の程度
    • 抗体検査
    • 寒冷凝集反応
  • 迅速診断キット
    • 15分ほどで結果がわかる
    • 検査結果の信頼性はあまり高くない
  • 画像検査(胸部レントゲンCT検査)
    • 肺の中でマイコプラズマニューモニエの炎症が起こっている部分に白い影がうつる
  • 細菌検査(培養検査やPCR検査)
    • 痰(たん)などから病原体を見つける
    • マイコプラズマ以外の病原体が原因になっているかどうかを見分ける

これらの検査を用いてマイコプラズマ肺炎の診断確率を高めていきます。マイコプラズマ肺炎はウイルス肺炎マイコプラズマ以外の細菌性肺炎と区別するのが簡単ではありません。またマイコプラズマに加えてほかの病原体にも同時に感染(重複感染)することもあります。こうした場合には、身体診察や検査結果から複合的に判断することになります。

3. マイコプラズマ肺炎で行う血液検査とは?炎症反応、抗体検査など

マイコプラズマ肺炎を疑った際に血液検査を行うことがあります。血液検査では様々な項目が調べられます。以下が代表的なものになります。

  • 白血球数
  • CRP
  • 免疫グロブリン(IgM抗体、IgG抗体、IgA抗体)
  • 寒冷凝集反応

各々の項目についてもう少し詳しく見ていきます。

白血球数

白血球数は血液中にどの程度の白血球が存在するかを見る検査です。1マイクロリットル(一辺が1mmの立方体)の血液あたり3,500個から9,000個の白血球が存在する状況が正常と考えられています。

白血球は感染症などで体内に炎症が起こると増えることが多いです。しかし、マイコプラズマ肺炎では白血球数が上昇しないことも多い上に、他の原因で白血球が増えていることもあるため、白血球数を見てもあまり参考になりません。

CRP

CRPは感染症を疑うときによく測定される項目です。C-Reactive Protein(C-リアクティブプロテイン)の略で、体内で炎症が起こると血清中にこのタンパク質が上昇します。

感染症にかかると多くの場合でCRPは上昇します。しかし、CRPが上昇しているから感染症が身体の中で起こっているとするのは早計です。理由はいくつかあります。

■感染症以外の原因でもCRPは上昇する

例えばがん打撲などでもCRPは上昇します。また、同じ病気であっても、どの程度の値まで上昇するかも状況によって異なります。

■感染症にかかっていてもCRPが上昇しないことがある

例えば結核のような慢性的に長期的に感染の起こる病気などではCRPは上昇しないことが多いです。マイコプラズマ肺炎ではCRPが上昇することは多いですが、上昇しないこともあるので注意が必要です。

CRPを用いてマイコプラズマ肺炎を診断することは難しいですが、CRPはマイコプラズマ肺炎の診断において参考になります。

免疫グロブリン(IgM抗体、IgG抗体、IgA抗体)

体内で感染が起こるとこれを鎮める役目の物質が作られます。これを抗体と言います。マイコプラズマ肺炎に対しても抗体が作られるため、マイコプラズマ肺炎を診断する目的で体内の抗体の量をチェックします。

マイコプラズマ肺炎の検査でチェックする抗体は、IgM抗体・IgG抗体・IgA抗体です。マイコプラズマ肺炎の診断ではPA法(粒子凝集反応法)とCF法(補体結合反応法)という検査がしばしば用いられます。前者は主にIgM抗体を反映し後者は主にIgG抗体を反映すると言われています。

  PA法 CF法
抗体価の上昇する時期 症状が出てから1週間程度 症状が出てから2週間程度
抗体高値が持続する時期 1-2ヶ月程度 数ヶ月以上
検査に反映される抗体 主にIgM抗体 主にIgG抗体
マイコプラズマ肺炎を疑う抗体価の基準 単一血清:640倍以上 ペア血清:4倍以上 単一血清:64倍以上 ペア血清:4倍以上

*単一血清:感染している時期に1回の採血で調べた場合の抗体価

*ペア血清:1回目の採血後に数週間開けて2回目の採血を行って比較した抗体価

IgA抗体についてはELISA法(EIA)という検査を行って調べられます。この検査ではIgM抗体・IgG抗体・IgA抗体の全てを調べることができますが、検査を行える施設が限られています。

抗体検査は完璧な検査ではありません。抗体価の上昇のタイミングと持続期間は個人差があることには注意が必要です。以下の問題が常に存在します。

  • 感染したからといって絶対に抗体値が上昇するわけではない
  • 感染してから抗体価が上昇するまでにタイムラグがある
  • 以前の感染の影響を受けて抗体値が上昇したままでいることがある
  • ペア血清を用いたチェックは精度が高いが、2回目の抗体価がわかったときには病状が回復してしまっていることが多い
  • 単一血清の抗体価のみだと検査の信頼度が高くない

抗体検査の結果を機械的に鵜呑みにすることはできません。今の抗体価は今困っている感染症を本当に反映しているのかを常に考える必要があります。

寒冷凝集反応

寒冷凝集反応とは採血した血液の中から寒冷凝集素という物質の値を求める検査です。上で述べた抗体の中でもIgM抗体によって起こる反応です。256倍以上の値になるとマイコプラズマ肺炎を疑う異常値となります。

マイコプラズマ肺炎では寒冷凝集素が上昇します。症状が出現してから1週間前後で上昇することが多いのですが、マイコプラズマ肺炎になっても全く上昇しないことも少なくないので注意が必要です。

また、マイコプラズマ肺炎以外でも寒冷凝集反応は異常値となることがあります。

これらの病気で寒冷凝集反応が異常値となる場合があることがわかっています。つまり、寒冷凝集反応は正常値であろうと異常値であろうと決定的な証拠とはならないので、検査の結果を診断の参考にするのが妥当です。

4. マイコプラズマ迅速検査キットとは?

IgM迅速診断法(イムノカードマイコプラズマ抗体)を用いてマイコプラズマ肺炎を素早く診断するツールがあります。この迅速検査キットを用いた検査では、綿棒を用いてのどの奥(咽頭)にある分泌液を採取します。採取した分泌液をキットに反応させると15分ほどで陽性あるいは陰性の結果が出ます。

この迅速診断法は素早く結果が出ることが大きな利点になりますが、検査の感度特異度があまり高くないことが課題です。感度とは「病気のある人が正しく検査陽性となる割合」のことを指し、特異度とは「病気のない人が正しく検査陰性となる割合」のことを指します。

現状のマイコプラズマ迅速検査キットは優れた精度を持つ検査であるとはいい難いので、陽性と結果が出ようが陰性と結果が出ようが、実際にマイコプラズマ肺炎なのかどうかを確定させることは難しいです。検査結果を信用できないということは、検査をしようがしまいが診断は変わらないということを意味します。

上で述べたように、血液検査でマイコプラズマ肺炎の診断をつけることはできますが、結果が出るまでに長く時間がかかりますのであまり現実的ではありません。一方で、迅速検査キットは素早く検査結果が出ますが、その正確度には課題が残ります。そのため、患者さんがどういった状況下にあってどういった症状が出ているのかを理解することがマイコプラズマ肺炎の診断をつける上で最も重要になります。

5. マイコプラズマ肺炎は画像検査で分かる?レントゲン検査、CT検査など

マイコプラズマ肺炎を疑った際に画像検査を行うことがあります。画像検査では胸部レントゲン検査(X線検査)か胸部CT検査のいずれかが行われます。

マイコプラズマ肺炎のレントゲン検査

胸部レントゲン検査では、X線を胸にあててその吸収率を測定することで肺の中身をみています。マイコプラズマ肺炎でみられるレントゲン検査の特徴的な所見は、粒状影と呼ばれる数mmの小さな白い影になります。ときに肺の中の広い範囲で大きな白い影(コンソリデーション)が見られることもありますが、マイコプラズマ肺炎に典型的ではありません。

胸部レントゲン検査ではいわば影絵のように肺を見ていますので、どうしても検査の限界があります。検査をしても肺の様子がはっきりとわからない場合があります。

現在の医療技術ではどうしてもある程度の確率でこれらの見逃しが生じますが、見逃しの確率を下げるためにマイコプラズマ肺炎に特徴的な画像所見を押さえておくことが大切です。

マイコプラズマ肺炎のCT検査

胸部CT検査を行うと、肺の輪切りの画像が等間隔に得られます。レントゲン写真は影絵のようなものであったのに対して、CT検査では明らかに精度の高い画像が得られるため、肺の中がよりよくわかります。

マイコプラズマ肺炎のCT画像で特徴的な所見はレントゲン写真と同じく粒状影です。CTで肺の中をより詳しく見ると、この粒状影が等間隔に並んでいるのがわかります。これを小葉中心性粒状影といい、肺胞ではなく細気管支領域が炎症の中心であることが示唆されます。また、すりガラス陰影(薄く透ける程度の淡い影)や気管支壁の肥厚(空気の通り道の壁が厚くなること)が見られる場合もあります。

一方で、レントゲン検査よりも胸部CT検査のほうが医療被曝量が多いです。放射線の人体への影響力を表す単位としてシーベルト(Sv)というものがあります。数字が高ければ高いほど人体への影響が強いことになります。胸部X線検査と胸部CT検査の被曝量は以下になります。

【胸部レントゲン検査と胸部CT検査における被曝量の比較】

検査内容 被曝量
胸部レントゲン検査 0.2mSv
胸部CT検査 7.0mSv
参考:東京⇔ニューヨークの往復 0.19mSv

胸部レントゲン検査を1回行うと、飛行機で東京とニューヨークを往復したときと同じ被曝量になります。単純計算で言うと、胸部CT検査をの被曝量は胸部レントゲン検査を35枚撮影したときと同じくらいになり、胸部CT検査のほうが人体への影響が危ぶまれます。

6. マイコプラズマ肺炎は細菌学的検査で分かる?塗抹検査、培養検査、遺伝子検査(PCR法、LAMP法)など

感染症の診断の基本は、感染の原因となっている微生物を証明することです。その意味でマイコプラズマニューモニエを証明するための細菌学的検査は非常に重要になります。

細菌学的検査では主に3つの検査を行います。

  • 塗抹(とまつ)検査
  • 培養検査
  • 遺伝子検査

これらはいずれも大切な検査ですが、各々の特徴について説明していきます。

マイコプラズマ肺炎の塗抹検査

肺炎の原因微生物を調べるために痰を薄く伸ばして顕微鏡で調べる検査を行います。これを塗抹検査といい、微生物を見つけやすくするために特殊な染色を行います。通常の細菌を見つけるためにはグラム染色という方法を用いられますが、グラム染色だとマイコプラズマ肺炎の起炎菌であるマイコプラズマニューモニエを見つけることは難しいです。ヒメネス染色という特別な染色方法を用いるとマイコプラズマニューモニエを見つけやすくなりますが、一般的に行われているわけではありません。

マイコプラズマニューモニエを塗抹検査で見つけることは難しいけれども、塗抹検査は非常に重要な検査です。なぜならマイコプラズマ属以外の原因微生物が他に存在していないかをすぐに判断できるからです。肺炎を起こしやすい細菌を塗抹検査で見つけることができれば、すぐに治療を開始することができます。塗抹検査は30分もあれば結果がわかることも優れています。塗抹検査は状況や症状から肺炎を疑った場合に確実に行っておきたい検査です。

マイコプラズマ肺炎の培養検査

痰に含まれるマイコプラズマニューモニエを培養して調べるためには、PPLO培地という特別な培地を用いる必要があります。この培地を用いて培養することでマイコプラズマニューモニエの存在が見つかればマイコプラズマ肺炎の診断がほぼ確定します。

しかし、培養検査は行われないことが多いです。

  • 培養が簡単ではない
  • 培養に時間がかかる(およそ数週間)

これらの理由からマイコプラズマ肺炎の診断の確定に有効な培養検査は必須の検査ではないです。

マイコプラズマ肺炎の遺伝子検査

マイコプラズマ肺炎の診断をつけるために、痰(たん)やのどの奥の分泌液を用いてマイコプラズマニューモニエの遺伝子検査を行うことがあります。しばしば用いられるのがPCR(polymerase chain reaction)法とLAMP(loop mediated isothermal amplification method)法です。

どちらも優れた検査精度を誇りますが、PCR法は不純物質が混ざると検査精度が落ちてしまう一方で、LAMP法は比較的影響を受けにくいとされます。

症状が出てから1週間以上経たないと陽性とならない抗体検査と違い、症状の出始めから遺伝子検査を行うことができます。また、検査結果が出るまでに数時間しか必要ありません。しかし、医療機関内で検査ができない場合は検査できる機関に検体を送って検査するため、結果が返ってくるまでに数日はかかります。

7. マイコプラズマ肺炎の診断の決め手になるのはなにか?

マイコプラズマ肺炎を診断するために行う検査はいずれも完璧な検査ではありません。残念ながら、「検査で陽性であったから確実に診断できる」あるいは「検査で陰性であったから確実に除外できる」といった類のものではありません。また、検査の結果が出るのに時間がかかるため、結果が出たときには感染が治りかかっているということも少なくありません。

マイコプラズマ肺炎と診断をつけるためには検査を行いますが、検査を行わずに流行状況と症状と身体診察から総合的に診断することも多いです。実際に海外の成書でも、マイコプラズマ肺炎が疑わしい場面で他に疑わしい原因がない場合には、検査を行わずにマイコプラズマ肺炎と診断して治療することもあると記載されています。(Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition)

マイコプラズマ肺炎を診断する際に決め手となるのが周辺状況や身体診察、症状です。特に次のことに注目すると良いかもしれません。

  • 20歳以下である
  • 頑固な咳がある
  • 発熱している
  • 頭痛がする
  • 痰はない
  • 鼻水はない
  • 聴診器で胸の音を聞いても特に目立った異常がない
  • 身近な人にマイコプラズマ肺炎になった人がいる