マイコプラズマ肺炎の基礎知識
POINT マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマという細菌によって起こる肺炎です。若い人に起こることが多く、咳などによって周囲に感染をうつします。主な症状は、発熱・倦怠感・頭痛・咽頭痛・咳・胸痛・息切れなどです。まれに重症になると意識障害を起こすことがあります。 検査でマイコプラズマ抗体や抗原を調べることができますが、実際には症状と経過、流行状況を見て診断されることも多いです。治療は抗菌薬を用いて行われます。マイコプラズマ肺炎が心配な人や治療したい人は、総合内科・小児科・呼吸器内科・感染症内科を受診して下さい。
マイコプラズマ肺炎について
- マイコプラズマという
細菌 に感染することで起こる肺炎 - 非定型肺炎とよばれる肺炎の一種
- もともと持病がない若い人で感染しやすい
- しつこい咳が出る一方で痰は少ない
聴診 などの診察で異常が出にくい潜伏期間 は2-4週間- 潜伏期間には症状がないが細菌が体内にいるので周りにうつす可能性がある
- 治ってからも1週間ほどは周りにうつす可能性があるので注意が必要
- ごくまれにギラン・バレー症候群を引き起こす
- マイコプラズマのワクチン(予防接種)はない
- 子供に多いが、大人にもよく起こる
- マイコプラズマと言えば普通はマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae、肺炎マイコプラズマ)のこと
- 肺炎マイコプラズマ
感染症 はほとんどが肺炎と気管支炎であるが以下の状態になることもある
マイコプラズマ肺炎の症状
- かぜのような症状と、しつこい咳、痰が特徴
- 発熱などの症状に遅れて咳が現れ、しだいに激しく痰が出るようになり、熱が下がってからも数週間症状が続くという経過をとることが多い
- しつこい咳のみの軽症の場合がほとんどであるが、発熱や息切れを伴い入院が必要になるほど重症になることもある
- 主な症状
- 発熱(38度以上の高熱が多い)
- 頭痛
- だるい、
倦怠感 、疲労感 - のどの痛み
- 咳
- 声枯れ、声が出ない(嗄声)
- 鼻水、痰(たん)
- 小さい子供で出るが大人では出にくい
喘鳴 (喘息のように息がヒューヒュー、ゼーゼー鳴る)- 小さい子供で出るが大人では出にくい
- 胸痛
皮疹 、発疹 、皮膚にブツブツが出る- 関節痛
- まれに錯乱などの
意識障害 を起こすことがある - 症状はすべてが揃うとは限らない
- 熱がないこともある
マイコプラズマ肺炎の検査・診断
ウイルス 性肺炎や、マイコプラズマ以外の細菌性肺炎と区別が難しいことも多い- 血液検査:
炎症 の程度や抗体 の程度を調べる- ペア血清:感染初期と回復後の血液で抗体の量を比較する
- 届出基準ではペア血清で抗体陽転(陰性から陽性に変わる)または抗体価の
有意 の上昇があれば抗体検出ありとする
- 届出基準ではペア血清で抗体陽転(陰性から陽性に変わる)または抗体価の
- ペア血清:感染初期と回復後の血液で抗体の量を比較する
- 迅速診断キット
- 抗原検査(イムノクロマト法):あまり正確性は高くないが、喉の拭い液で迅速に調べられるのでよく使われる
- 抗体検査(IgM抗体):血液を使って検査する
- 届出基準では迅速診断キットでIgM抗体陽性なら抗体検出ありとする
- 画像検査
胸部レントゲン (X線 )検査を行い肺炎の有無を確認する
- 重症の場合や正確な診断のため
胸部CT が撮られることもある 細菌検査 :痰などから病原体を調べる- 基幹定点医療機関でマイコプラズマ肺炎が診断された場合、保健所に届け出る基準が決められている
マイコプラズマ肺炎の治療法
- 解熱薬で熱を下げなくてもよい
- 熱があるだけで悪化の原因になったり後遺症を残すことはない
- 高熱があっても重症とは限らない
抗菌薬 (抗生物質 、抗生剤)で治療を行う- 治療期間は通常7日から14日程度
- マクロライド系抗菌薬
- アジスロマイシン(商品名:ジスロマック®など)
- クラリスロマイシン(商品名:クラリス®など)
- エリスロマイシン(商品名:エリスロシン®など)
- ニューキノロン系抗菌薬
- レボフロキサシン(商品名:クラビット®など)
- シプロフロキサシン(商品名:シプロキサン®など)
- テトラサイクリン系抗菌薬
- ミノサイクリン(商品名:ミノマイシン®など)
- ドキシサイクリン(商品名:ビブラマイシン®)
- 6歳未満の子どもが飲むと歯が黄色くなることがある
- マイコプラズマには細胞壁がないので、細胞壁の合成を阻害するβ-ラクタム系抗菌薬は効かない
- ペニシリン系抗菌薬(商品名:サワシリン®など)は効かない
- モノバクタム系抗菌薬(商品名:アザクタム®など)は効かない
- セフェム系抗菌薬(商品名:フロモックス®など)は効かない
- カルバペネム系抗菌薬(商品名:メロペン®など)は効かない
- 近年マクロライド系抗菌薬が効かない(
耐性 のある)マイコプラズマ肺炎が増えてきている- しかし、軽症のマイコプラズマ肺炎であればマクロライド系抗菌薬で十分と考えられている
- 抗生物質を飲んでも熱が下がらないなど改善の傾向がなければ抗菌薬変更を考える
- 入院は必要ない場合が多い
- 重症だと入院になる
- 重症の肺炎の治療で
ステロイド薬 を使うことがある - 学校保健安全法施行規則18条・19条では、出席停止の基準としてマイコプラズマ肺炎は明示的に挙げられていない
- 解釈によって、学校医の意見をふまえて出席停止とされる可能性がある
- マイコプラズマ肺炎が学校で流行する場合は少ないので、元気になれば出席して問題ないと考えられる
- 完治してもしばらくすると再感染することがある
- 肺に後遺症が残ることはまれ
マイコプラズマ肺炎に関連する治療薬
マクロライド系抗菌薬
- 細菌のタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
- 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
- タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
- 本剤は細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑える
- マイコプラズマやクラミジアなどの菌に対しても高い抗菌作用をあらわす
- 服用する際、比較的苦味を強く感じる場合がある
テトラサイクリン系抗菌薬
- 細菌のタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
- 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
- タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
- 本剤は細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑える
- 内服薬は薬剤の作用持続時間により(短い順に)短時間作用型、中等度作用型、長時間作用型に分けられる
- 他の種類の抗菌薬と比較した時の特徴
- ブルセラ症、ライム病などでは優先的に使用される薬剤
- ヘリコバクター・ピロリ感染での除菌治療で使用される場合もある(他の抗菌薬に耐性がある場合など)
- 熱帯熱マラリア予防などに使用する場合もある
ニューキノロン系抗菌薬
- 細菌の増殖に必要な酵素を阻害して殺菌的に抗菌作用をあらわす薬
- 細菌の増殖にはタンパク質合成が必要でそれには遺伝情報をもつDNAという物質が不可欠となる
- DNAの複製にはいくつかの酵素の働きが必要となる
- 本剤はDNA複製に必要な酵素を阻害し抗菌作用をあらわす
- 尿路感染症、腸管感染症、呼吸器感染症など幅広い感染症で有効とされる(薬剤によって抗菌作用の範囲は異なる)
マイコプラズマ肺炎の経過と病院探しのポイント
マイコプラズマ肺炎が心配な方
マイコプラズマ肺炎では、発熱に遅れて咳が現れ、数週間咳が続くことが特徴的です。感染者と濃厚に接触すると移るため、学校での流行は起こりにくいですが、家族・友人・知人でマイコプラズマ肺炎になった人がいて、自分も咳が長引く場合、マイコプラズマ肺炎にかかっている可能性が高くなります。また潜伏期間は2週間から4週間ほどです。
ご自身がマイコプラズマ肺炎でないかと心配になった時、最初に受診するのは一般内科のあるクリニックが適しています。
マイコプラズマ肺炎の診断は問診と診察、レントゲンで行われます。簡易迅速診断キットを置いてある病院もありますが、正確性がさほど高くないため、診断の補助として使われます。クリニックや病院に行って薬を処方されたけれども咳が治まらない場合、特に若い人であればマイコプラズマ肺炎を疑ってもう一度クリニック、病院を受診するのが良いと思います。
マイコプラズマ肺炎でお困りの方
マイコプラズマ肺炎の治療は抗菌薬(抗生物質)の使用になります。入院せず外来で治療できることが多いため、飲み薬での治療となります。抗菌薬はマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系のいずれかが使われます。抗菌薬に耐性を持った菌が増えてきているため、最初の抗菌薬が効かなかった場合、抗菌薬を変更する必要があります。呼吸の苦しさが強いなど、重症の場合は入院して治療します。