べーちぇっとびょう
ベーチェット病
主症状として口内炎、陰部の潰瘍、目の見えにくさ、発疹のほか、副症状として関節、腸、神経、血管、副睾丸が障害されうる病気。
13人の医師がチェック 236回の改訂 最終更新: 2023.06.20

ベーチェット病の治療とは?どんな薬を使うのか?

ベーチェット病ではコルヒチン、ステロイド免疫抑制薬などの治療薬が用いられます。また、近年登場したインフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤も高い有効性が確認されています。

1. ベーチェット病はどんな病気か

ベーチェット病の治療を考える上で、ベーチェット病がどんな病気なのかを理解することが重要です。ベーチェット病は免疫の異常により起こる病気であることがわかっています。免疫とはウイルス細菌などの外敵が体の中に入ると駆除する体の中のシステムのことです。免疫は通常、外敵だけを攻撃し、自分の体は攻撃しないように制御されています。しかしながら、ベーチェット病ではこの免疫の制御が上手く働かなくなり、自分の体を攻撃するようになってしまいます。そのため、ベーチェット病の治療では免疫を制御(抑制)する薬を使い、おかしくなった免疫を正常化することを目指します。

2. ベーチェット病にはどんな薬を使う?

薬物治療では主に免疫抑制薬やその仲間の薬を用います。これはベーチェット病が免疫の異常により起こる病気であるためです。ベーチェット病に用いられる治療薬には以下があります。

  • ステロイド
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs
  • コルヒチン
  • 免疫抑制薬
    • シクロホスファミド
    • メトトレキサート
    • シクロスポリン
    • アザチオプリン
  • 生物学的製剤
    • インフリキシマブ
    • アダリムマブ
  • 散瞳薬

3. ステロイド

ステロイドは炎症を抑える作用のある薬です。ベーチェット病の治療としては飲み薬、点滴薬、塗り薬、目薬をよく使います。ステロイドの代表的な製剤としてはプレドニゾロン(商品名:プレドニン®など)があります。ほかにもメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®など)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®など)などのステロイドも使われます。ここではベーチェット病でのステロイドの使用方法と副作用につき見ていきます。

飲み薬(内服薬)

ベーチェット病でステロイドを使って治療する場合、病気の重症度に応じて投与量が調整されます。例えば、プレドニゾロンというステロイドを使用する場合、重い病態である場合には1日30-60mgを投与されます。そのあと、病気の勢いが抑えられた後には徐々にステロイドの減量を進めていきます。ただし、減量の過程で症状がぶり返してくる場合には再度増量することもあります。

点滴薬

ベーチェット病ではしばしば点滴のタイプを使います。点滴を使うケースにては大きく2つの場合が考えられます。

1つ目は病気の進行が早く一刻を争う時です。具体的には急性神経型ベーチェット病の場合などが該当します。この場合、ステロイドパルス療法といって大量のステロイドを点滴で投与します。ステロイドパルス療法には、内服で用いられるプレドニゾロンではなくメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®)を点滴で使うことが多く、たとえばメチルプレドニゾロンを1日500-1000mg点滴静注、3日間といった形で使用されます。

2つ目はステロイド治療中に体調が悪く薬が飲めなくなってしまった時のステロイドの補充です。ステロイドはもともと体内の副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンを元にして作られたものです。コルチゾールは糖の代謝、タンパク質の代謝、脂質代謝など生命維持にとって非常に重要な役割を果たしています。ステロイドをある程度の期間継続している状態では投与されるステロイドに体が頼ることで、通常であれば副腎で作られるはずのコルチゾールの産生が抑えられます。その状態で突然、ステロイドの薬剤を中止してしまうと、体内で必要とされるホルモンまで不足し、最悪の場合ホルモン欠乏により命に関わる場合もあります。そのため、ステロイドの内服ができなくなってしまった場合には、点滴によりステロイドを継続しなければなりません。

塗り薬(外用薬)

塗り薬はベーチェットの発疹や陰部潰瘍によく用いられます。塗り薬にはたくさんの種類がありますが、それぞれ薬の強さに応じて以下の5段階にランク付けがされています。

  • ストロンゲスト(デルモベート®軟膏0.05%など)
  • ベリーストロング(アンテベート®軟膏0.05%など)
  • ストロング(リンデロンV®軟膏0.12%など)
  • マイルド(ロコイド®軟膏0.1%など)
  • ウィーク(プレドニゾロン外用薬など)

どの強さの塗り薬を使うかは皮疹の重症度やできた部位に応じて決定されます。塗り薬は飲み薬や点滴薬に比べて、副作用が少ないのが利点です。ただし、塗り薬でも長期に使うことで皮膚が弱くなるといった問題が起こることがあるので注意して使っていきます。

目薬(点眼薬)

目薬はベーチェット病の眼の病変に対して用いられます。具体的にはベタメタゾン(リンデロン®点眼液0.1%)やフルオロメトロン(フルメトロン®点眼液0.1%)などが用いられます。

目薬は眼の病変に対して薬が直接作用するというメリットがあります。また、飲み薬や点滴薬に比べて副作用が少ないのが利点です。それでも全く副作用がないわけでなく、眼圧上昇や眼の感染症が問題になることがあります。ステロイドの目薬はベーチェット病の眼病変の効果的な治療薬ですが、目薬のみで十分な改善がない場合には飲み薬や点滴薬を一緒に使いながら治療します。

ステロイドの副作用は?

ステロイドを使用する場合、その副作用に注意が必要です。ステロイドの副作用としては、免疫が抑られたことにより感染症にかかりやすくなること、血糖上昇、血圧上昇、肥満コレステロール上昇、眠れない、気分の落ち込み・高ぶり、骨がもろくなる、などが挙げられます。またステロイドを大量に点滴静注するステロイドパルス療法では、副作用が強く出ることがあります。例えば、骨がもろくなる副作用の強いものとして大腿骨頭壊死という股関節の骨が壊れてしまう副作用が報告されています。

ステロイドを使用する場合には、種々の副作用を防ぐために、予防的に薬を飲むことがあります。例えば、感染症にかかりやすくなることへの対策としてはST合剤(エスティーごうざい)などの抗生物質を、骨がもろくなる対策としてビタミンD製剤ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症(こつそしょうしょう)治療薬を予防的に使うことがあります。その他、顔などのむくみや体重増加があらわれたり、血圧や血糖値が上がったりした場合など体の状態になんらかの変化が生じた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが必要です。

避けたいのは副作用が心配だと思うあまり、自己判断でステロイドを中止したり減量(あるいは増量)したりすることです。ステロイドはもともと体内の副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンを元にして作られたものです。コルチゾールは生命維持にとって非常に重要な役割を果たしています。ステロイドをある程度の期間継続している状態では投与されるステロイドの薬剤に体が頼ることで、通常であれば副腎で作られるはずのコルチゾールの産生が抑えられます。その状態で突然、自己判断でステロイドの薬剤を中止してしまうと、体内で必要とするホルモンまで不足し、最悪の場合ホルモン欠乏により命に関わる場合もあります。

ステロイド内服中に万が一体調変化があった場合には、かかっている医師や薬剤師に連絡・相談するようにしてください。

4. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(ロキソニン®、セレコックス®など)

非ステロイド性抗炎症薬は解熱鎮痛薬の一つです。「熱冷まし」や「痛み止め」としてよく使われる薬です。ベーチェット病でも高熱や関節の痛みがある時に非ステロイド性抗炎症薬が用いられます。副作用として消化器障害(胃痛、胸やけ、消化性潰瘍など)や腎機能障害などの副作用があらわれることがあり、注意が必要です。

5. コルヒチン

痛風の治療薬であるコルヒチンですが、ベーチェット病で用いられることがあります。ベーチェット病の皮膚症状や関節症状、眼病変などに有効であるとされます。さらにこれらの症状があらわれるのを予防する効果もあり、一度症状が出た方が少量のコルヒチンを長期間飲み続けることもあります。注意が必要な副作用として消化器障害(下痢、嘔吐)や肝機能障害などがあります。

6. 免疫抑制薬

ベーチェット病は免疫の異常により起こる病気です。そのため、異常になった免疫を正常化するため、免疫抑制薬を治療に用いることがあります。免疫抑制薬の例として以下の薬剤があります。

  • シクロホスファミド
  • メトトレキサート
  • シクロスポリン
  • アザチオプリン

以下でそれぞれの薬について詳しく説明していきます。

シクロホスファミド(エンドキサン®など)

シクロホスファミドはアルキル化剤という薬剤に分類されます。シクロホスファミドは細胞増殖に必要なDNA合成を阻害する作用があり、異常になった免疫細胞の増殖を抑えることでベーチェット病に対する効果を発揮します。その高い免疫抑制効果から重症のベーチェット病で用いられることが多いです。

シクロホスファミドには内服薬と点滴薬があります。ベーチェット病でシクロホスファミドを使う場合は点滴薬を用いることが多いです。通常500-1000mg(病状に応じてより多い量を使用することもあります)を2-4週間に1回点滴投与で行います。

シクロホスファミドは副作用として感染症に注意が必要です。そのため、シクロホスファミド使用中は日頃から手洗い・うがいを行い、予防に努めることが重要です。その他、副作用として骨髄抑制、間質性肺炎、心筋障害、イレウス、吐き気や口内炎などの消化器症状、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、肝機能障害などがあります。また腎臓から排泄されたシクロホスファミドが膀胱を傷つけ血尿の原因となることがあります。これを出血性膀胱炎と呼びます。出血性膀胱炎は血の塊が尿道や尿管などの尿の通り道を閉塞したり、膀胱がんの原因となるため注意が必要です。そのため、シクロホスファミドを点滴で使用する時は水を多めに飲む、ウロミテキサン®と呼ばれる予防薬を使用するといった対応が取られます。またシクロホスファミドを大量に使用すると卵子や精子に影響を与えることが分かっており、不妊の原因となることがあります。治療中に妊娠した場合、胎児に影響があらわれる可能性があります。妊娠中または妊娠している可能性のある女性への投与は避けることが望ましいとされています。

メトトレキサート(リウマトレックス®、メトレート®など)

メトトレキサートは免疫抑制薬の一つで、葉酸代謝拮抗薬(ようさんたいしゃきっこうやく)に分類される薬です。ベーチェット病の様々な症状に用いられますが、中でも治療が難しいとされる慢性進行型神経ベーチェット病への効果が知られている薬剤でもあります。

メトトレキサートは副作用として感染症に注意が必要です。そのため、メトトレキサート使用中は日頃から手洗い・うがいを行い、予防に努めることが重要です。その他の副作用として口内炎、吐き気や食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、間質性肺炎、肝機能障害、腎障害などがあります。まれですが、悪性リンパ腫という血液のがんの原因になるという報告もあります。体調の変化がある場合、特に咳や発熱などがなかなか治まらない場合は医師や薬剤師に連絡するようにしてください。

メトトレキサートと葉酸

葉酸代謝拮抗薬であるメトトレキサートはどのようにして効果を発揮するのでしょうか。葉酸は体内で代謝され活性化された後、細胞増殖などに必要なDNAの合成に関わります。メトトレキサートは葉酸の活性化を抑えることで、ベーチェット病の原因となる異常な免疫細胞の増殖を抑えます。

メトトレキサート服用中の食事に注意?

メトトレキサートの作用の仕組みにおいて葉酸がポイントとなります。葉酸は野菜などの食品にも含まれる物質ですが、通常の食事の範囲なら治療に影響する心配はないです。主治医から特別な指示がない場合には日常生活での食事の内容に制限は必要ないと考えられます。ただし、サプリメントなどの健康食品には比較的多くの量の葉酸を含むものがあり、メトトレキサートの効果を弱めてしまう可能性もあるため注意が必要です。サプリメントなどの健康食品を摂取してもいいかどうかは事前に主治医と相談することが大切です。

シクロスポリン(ネオーラル®など)

シクロスポリンは免疫抑制薬の一つで、カルシニューリン阻害薬に分類される薬です。シクロスポリンはT細胞と呼ばれる免疫細胞の活性を阻害することで免疫抑制効果を発揮します。ベーチェット病の眼の症状などに対する有効性が確認されています。

シクロスポリンは副作用として感染症に注意が必要です。そのため、シクロスポリン使用中は日頃から手洗い・うがいを行い、予防に努めることが重要です。その他の副作用としては多毛、歯肉増殖、腎障害、高血圧、高血糖、肝機能障害などがあります。

シクロスポリン使用中には急性神経ベーチェット病に注意が必要?

シクロスポリンはベーチェット病に有効性が認められている薬ですが、まれに急性神経ベーチェット病に似た症状を起こすという報告があります。これはシクロスポリンによる中枢神経毒性によるものと考えられています。そのため、シクロスポリン使用中に発熱、頭痛、意識が朦朧(もうろう)とするといった症状があらわれた場合には、すぐに主治医に相談するようにしてください。

アザチオプリン(イムラン®など)

アザチオプリンは免疫抑制薬の一つで、プリン代謝拮抗薬に分類される薬です。アザチオプリンはDNA合成を阻害することで免疫細胞の増殖を抑え、免疫抑制効果を発揮します。副作用として感染症に注意が必要です。そのため、アザチオプリン使用中は日頃から手洗い・うがいを行い、予防に努めることが重要です。その他の副作用としては骨髄抑制、肝機能障害、腎障害などがあります。

7. 生物学的製剤

近年医学の進歩に伴い、症状の原因となっている物質の解析や原因物質を阻害する薬の開発が進んでいます。このような薬を生物学的製剤と呼びます。ベーチェット病に対して使われる生物学的製剤として、炎症物質であるTNF(TNFα)を阻害するTNF阻害薬の有効性が認められています。具体的には以下のTNF阻害薬が用いられることがあります。

  • インフリキシマブ
  • アダリムマブ

インフリキシマブ(商品名:レミケード®など)

インフリキシマブは国内では最初に発売されたTNF阻害薬です。2003年に発売されました。

ベーチェット病では眼病変や消化管病変に対する有効性が認められています。その高い有効性から重症のベーチェット病に用いられることが多いです。

インフリキシマブは病院などの医療機関で点滴投与する薬です。1-3時間程度をかけて点滴投与されることが多いです。投与時期は通常、初回・2週後・その4週後(初回投与から6週後)に投与し、その後は8週ごとの投与を行っていきます。ただし、症状が重症で8週間隔の投与で十分に良くならない場合には、投与間隔を8週より縮めて投与されることがあります。

アダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)

アダリムマブは、日本では2008年に発売されたTNF阻害薬です。ベーチェット病では消化管病変に対する有効性が認められています。

アダリムマブはインフリキシマブと違い皮下注射の製剤です。点滴はしません。投与の間隔は2週間に1回です。また医師によって妥当であると判断された場合には、ご自身による自宅での投与(自己注射)も可能です。そのため、病院に頻回に行けない方や、病院で点滴投与を受ける時間がない人には向いている薬剤と言えます。

TNF阻害薬の注意すべき副作用とは?

TNF阻害薬で特に注意したい副作用は免疫抑制作用による感染症です。中でも肺炎ニューモシスチス肺炎細菌性肺炎など)や結核といった肺の病気にはより注意が必要となります。重症化することはかなりまれとされていますが、最初は軽度な症状に感じても急に悪化するケースも少なからず考えられます。咳、息苦しさ、発熱などの症状がみられた場合は医師や薬剤師などに連絡し相談することが重要です。

その他、アレルギー反応などにも注意が必要です。そのため、抗アレルギー作用のある薬を事前に使用したうえでTNF阻害薬の投与を行うこともあります。またインフリキシマブの場合は投与速度を遅くすることでアレルギー反応は起こりにくくなると考えられています。稀ではありますが、アナフィラキシーと呼ばれる重症のアレルギー反応が起こることもあるため、投与後に何らかの体調の変化があらわれた場合には医師や薬剤師に相談するようにしてください。

8. アプレミアラスト(オテズラ®)

アプレミラスト(オテズラ®)はベーチェット病の口の潰瘍に対する新しい治療薬です。アプレミラストはこれまでも乾癬などの治療に使用されてきましたが、2019年9月にベーチェット病の口の潰瘍に対しても使用可能となりました。

オテズラの副作用としては、頭痛、下痢、嘔気などが多く報告されています。また、感染症などの副作用にも注意が必要な薬剤です。アプレミラストを飲み始め、体調の変化を自覚した場合は医師や薬剤師などに連絡し相談することが重要です。


参考文献:Hatemi G, et al. Apremilast for Behçet’s Syndrome — A Phase 2, Placebo-Controlled Study. N Engl J Med . 2015 Apr 16;372(16):1510-8.

9. 散瞳薬

点眼薬はベーチェット病の眼の病変を治療する上で重要な治療薬です。直接的に眼に薬が作用し、飲み薬に比べると副作用が少ないというのがその理由です。ベーチェット病で用いられる点眼薬には以下のものがあります。

  • ステロイド
  • 散瞳薬

ステロイド点眼薬に関してはこのページのステロイドについての節で説明を行っています。

散瞳薬は瞳孔を開く薬です。トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリンP®点眼薬)やアトロピン(アトロピン®点眼薬)などの散瞳薬が用いられます。ベーチェット病では眼の炎症が続くと、茶目(虹彩)と黒目(水晶体)の部分がくっついてしまうことがあり、これらの散瞳薬はこれを予防するために用いられます。