べーちぇっとびょう
ベーチェット病
主症状として口内炎、陰部の潰瘍、目の見えにくさ、発疹のほか、副症状として関節、腸、神経、血管、副睾丸が障害されうる病気。
13人の医師がチェック 236回の改訂 最終更新: 2023.06.20

ベーチェット病はどうやって診断するのか?検査は何をするのか?

ベーチェット病は診断基準に照らしあわせて診断されます。診断するために行われる検査としては血液検査、視力検査CT検査などがあります。

1. ベーチェット病が疑われたときに行う検査

ベーチェット病が疑われたときに行う検査としては以下のものがあります。症状にあわせてどの検査を行うかが決定されます。

  • 血液検査
  • 眼科検査(視力検査・眼底検査など)
  • CT検査
  • 髄液検査頭部MRI検査
  • 便潜血検査・内視鏡検査
  • 生検
  • 針反応検査

血液検査

ベーチェット病で見られる検査異常としては炎症反応(CRPの上昇、ESRの上昇、補体価の上昇、白血球数の増加)があります。炎症反応の数値は病気の勢いを知るためにも重要です。

またベーチェット病ではHLA(エイチエルエー、Human Leukocyte Antigen)の検査が行われることもあります。HLAは白血球の血液型に相当するものです。赤血球の血液型はA型、B型、O型、AB型の4つですが、HLAはたくさんの種類があります。HLA-B51やHLA-A26を持っている人がベーチェット病になりやすいです。

眼科検査

ベーチェット病の眼の障害の有無を確認するため、眼科検査が行います。ベーチェット病の目の障害は治療が遅れると失明する可能性があるので、早期発見のため、症状がなくても眼科検査が行われることがあります。

CT検査

ベーチェット病は全身のさまざまなところに障害が起こる可能性がある病気です。そのため、全身のチェックとしてCT検査が行われることがあります。CT検査によりベーチェット病の血管の障害を見つけることができます。また、腸の障害を見つけられることもあります。ベーチェット病の状態を調べるためのCT検査では造影剤が使われることが多いです。造影剤はCTの画像を見やすく写し出すための薬剤です。これによりCT検査の精度をあげることができます。

髄液検査・頭部MRI検査

ベーチェット病は脳の障害が出ることがあります。脳の障害が起こると例えば以下のような症状があらわれます。

  • 頭痛がする
  • 意識が朦朧とする
  • もの忘れが激しい
  • 性格が変わったと言われる
  • 急に立ったり歩いたりができなくなった

脳への障害が疑われる場合には髄液(ずいえき)検査や頭部MRI検査を行います。髄液とは脳や脊髄の周りにある液体で、髄液を調べることで脳の状態を予測することができます。髄液検査の方法・手順に関しては「腰椎穿刺(ルンバール)、髄液検査の目的と頭痛などの合併症」のページで詳しく説明しています。

頭部MRI検査は強力な磁力を用いて機械で頭の中の状態を把握することができます。MRI検査を用いることで、頭のどこの部位でどのような異常があるかを調べることができます。

便潜血検査・下部内視鏡検査

便潜血検査は便に血液が混じっていないか簡単に調べられる検査です。ベーチェット病により腸に潰瘍ができると便に血が混じります。便潜血検査はこの原理を生かして、ベーチェット病の潰瘍があるかを予測することができます。

便潜血検査が陽性であった場合には下部内視鏡検査大腸カメラ)が行われます。便潜血検査は腸や肛門のどこかで出血が起きていることは教えてくれますが、どこで起きているのか、またその原因がベーチェット病なのかはわからないためです。また、下部内視鏡検査で直接、腸を見ることは病気の程度の把握や治療効果の判定(治療を開始して潰瘍がよくなっているか)にも用いることができます。

生検

生検とは障害を受けている臓器の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で観察することをいいます。ベーチェット病で生検を行う目的は以下の2つが挙げられます。

  • ベーチェット病の診断のため
  • がんなど似た症状を起こす病気の否定のため

具体的にベーチェット病で生検が行われることがある場所は以下の通りです。

  • 口腔粘膜
  • 腸粘膜
  • 皮膚

■口腔粘膜

口内炎や小さな潰瘍の生検はしません。大きな潰瘍があって、がんの否定が必要な場合に生検の対象になります。

■腸粘膜

ベーチェット病では腸の潰瘍ができることがあります。中でもベーチェット病の腸の潰瘍は小腸と大腸のつなぎ目にできることが多いとされます。この場所を医学用語で回盲部(かいもうぶ)と呼びます。回盲部にできた潰瘍を回盲部潰瘍と呼びます。回盲部潰瘍ができる病気としてベーチェット病は有名な病気の一つですが、他にもクローン病や腸に起こった結核で回盲部潰瘍ができることがあります。このようにベーチェット病と他の病気を見極めるために生検を行うことがあります。

■皮膚

ベーチェット病では発疹があらわれることがよくあります。ただし、発疹を起こす原因はたくさんあるため、ベーチェット病が発疹の原因であるかを判断する上で皮膚生検は重要な検査となります。実際の皮膚生検の方法は以下の通りになります。

  1. 生検をする場所の消毒を行う。(生検をする場所の毛が多い場合には、事前に毛を剃ることもある)
  2. 生検部位の麻酔を行う。
  3. 麻酔が効いているのを確認した後、メスなどで皮膚の一部を切り取る。
  4. 皮膚を切り取った後は、ガーゼで圧迫して出血を止める。出血が止まっているのが確認されたら、切り開いた場所を糸で縫う。その後ガーゼで保護する。
  5. 7-14日程度たったところで傷を縫っていた糸を切り取る。

検査に要する時間は1から4までで30分程度になります。

針反応検査

ベーチェット病では小さな傷ができた時に、その周りの皮膚が赤く腫れ上がる現象が起こることがあります。日常生活の中ではカミソリ負けがひどくなったと自覚される方もいます。このような状況を医学用語で「皮膚の過敏性が亢進(こうしん)した」といいます。

針反応検査はベーチェット病で見られる皮膚の過敏性を確かめる検査になります。具体的な方法は以下の通りになります。

  1. 滅菌(消毒)された医療用の針を準備する
  2. 医療用の針で腕に深さ5mmほどの傷をつける
  3. 48時間後に針をさした部分の腫れ具合を確認する
  4. 直径2mmを超える腫れがある場合に「陽性」と判定する

ただし、針反応検査は後で説明するスウィート病など他の病気でも陽性になることがあるため、検査結果の解釈には注意が必要です。そのため、最近はあまりやられることの少ない検査になっています。

2. ベーチェット病に診断基準はあるのか?

近年、診断を正確に行うためにさまざまな病気に対して診断基準が設けられるようになっています。ベーチェット病では厚生労働省から発表された「厚生労働省ベーチェット病診断基準」を用いることが多いです。(表記は一部改変しています)

主症状

  1. 口腔粘膜の再発性(繰り返す)アフタ性潰瘍
  2. 皮膚症状
    1. 結節性紅斑皮疹
    2. 皮下の血栓性静脈炎
    3. 毛のう炎様皮疹、痤瘡様皮疹
  3. 眼症状
    1. 紅彩毛様体炎
    2. 網膜ぶどう膜炎
    3. (a)(b)を経過したと思われる以下の症状
      1. 虹彩後癒着
      2. 水晶体色素沈着
      3. 網脈絡膜萎縮
      4. 視神経萎縮
      5. 併発性白内障
      6. 続発緑内障
      7. 眼球癆
  4. 外陰部潰瘍

副症状

  1. 変形や硬直を伴わない関節炎
  2. 副睾丸炎
  3. 回盲部潰瘍で代表される消化器病変
  4. 血管病変
  5. 中等度以上の中枢神経病変

診断の基準

  1. 主症状の4つが揃っている場合、完全型ベーチェット病と診断する
  2. 以下のいずれかを満たす場合、不全型ベーチェット病と診断する
    1. 主症状のうち3つがある場合
    2. 主症状のうち2つと副症状2つがある場合
    3. 眼症状と他の主症状1つがある場合
    4. 眼症状と他の副症状2つがある場合
  3. 以下の場合、ベーチェット病疑いとする
    1. 主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、および副症状を繰り返すもの

特殊型(特殊病型)ベーチェット病の診断の基準

完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。

  1. 消化器病変を伴うベーチェット病を腸管ベーチェット病とする
    1. 内視鏡で病変を確認する
  2. 血管病変を伴うベーチェット病を血管ベーチェット病とする
    1. 動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する
  3. 神経病変を伴うベーチェット病を神経ベーチェット病とする
    1. 髄膜炎脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型または体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する

3. ベーチェット病の重症度基準とはどんなものか?

ベーチェット病には病気の重症度を評価するための基準があります。医療費助成の患者さんの選定などに用いられ、Stage 2以上の方が医療費助成の対象です。重症度基準は以下のようになります。

4. ベーチェット病と間違えやすい病気とは?

ベーチェット病と間違えやすい病気は厚生労働省のベーチェット病研究班が紹介しています(厚生労働省ベーチェット病診断基準)。この中で、特にベーチェット病と見極めが重要な5つの病気についてここでは説明します。

感染症

感染症の中にはベーチェット病と似た症状を示すものがあります。特に単純ヘルペスウイルスや梅毒などが有名です。これらはベーチェット病と同様に陰部潰瘍の原因になったり、発疹が出ることがあります。また結核もベーチェット病と似た発疹が出たり、腸にできた結核がベーチェット病に類似することがあったりと注意が必要です。

ベーチェット病と感染症の区別は、この二つの病気の治療が大きく異なるという点でも重要です。例えば、単純ヘルペスでは抗ウイルス薬、梅毒であれば抗菌薬で治療されます。一方で、ベーチェット病で用いられる治療薬の多くは感染症が悪くなる副作用があります。そのため、ベーチェット病の治療を行う上では感染症との見極めが非常に大事になってきます。

感染症かどうかの見極めには、血液検査(抗体検査など)や潰瘍の分泌物の検査などを行います。

薬疹

薬疹とは薬剤が原因で発疹が出ることを言います。実は、薬疹は体の皮膚だけでなく、口の中、陰部の潰瘍、目の充血、発熱の原因になることもあり、ベーチェット病と症状が似ることがあります。

症状が似ている薬疹とベーチェット病ですが、その対応は異なります。薬疹の対応で何より大事なことは原因となっている薬剤を中止することです。原因となっている薬剤を中止しない限り薬疹はよくならないことが多いです。一方でベーチェット病では免疫抑制薬と呼ばれる種類の薬を使うことが多いです。免疫抑制薬やベーチェット病の治療に関しては「ベーチェット病の治療とは?どんな薬を使うのか」で説明します。

薬疹かどうかを見極める上では、「最近処方された薬はないか」、「発疹が出る直前に飲み始めた薬がないか」を考えることが何より重要です。

スウィート病

スウィート病は熱や倦怠感とともに体のあちこちに赤い痛みを伴う発疹があらわれる病気です。加えて、スウィート病では以下のような神経型ベーチェット病と似た症状があり、ベーチェット病とスウィート病との見極めがしばしば問題となります。

  • 頭が痛い
  • 意識を失う
  • けいれん
  • しゃべりにくい
  • 記憶力の低下
  • 手足が動かなくなる

スウィート病とベーチェット病の見極めは症状や血液検査、皮膚の生検などをもとに行われます。また血液検査ではHLA検査もスウィート病とベーチェット病を見極める参考になります。

クローン病

クローン病は小腸や大腸に炎症や潰瘍ができる原因不明の病気です。10代から20代に起こることが多いです。ベーチェット病も腸に病変を作ることがあり、クローン病との見極めが問題となることがあります。加えて、クローン病では以下のようなベーチェット病と似た症状があらわれることがあります。

  • 腹痛
  • 血便
  • 関節が痛い、腫れる(関節炎)
  • 目が充血する、痛い(ぶどう膜炎
  • 赤い痛みを伴う発疹(結節性紅斑

クローン病とベーチェット病の見極めのは症状、血液検査、腸の潰瘍の生検を参考に行われます。

高安病

高安病は全身の大きな動脈に炎症が起こる原因不明の病気です。その病気の特徴から大動脈炎症候群と呼ばれることもあります。15-35歳の若い女性に起こることが多いです。高安病は以下のようなベーチェット病と似た症状があらわれることがあります。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 動脈瘤
  • 赤い痛みを伴う発疹(結節性紅斑


高安病では手首の脈が取りにくくなったり、左右の腕で血圧の値が大きく異なったりと、ベーチェット病ではあまり見られない症状もあらわれます。これらの症状や各種検査を通して、ベーチェット病と高安病の見極めを行っていきます。