髄膜炎の原因について:子どもと大人の起炎菌の違いや起こりやすい人の特徴(手術後・免疫不全など)
髄膜炎は細菌性髄膜炎と無菌性髄膜炎の2つに大別されます。細菌性髄膜炎の原因は
1. 髄膜炎の原因と種類について:細菌感染やウイルス感染など
髄膜炎は細菌性髄膜炎(細菌感染が原因)と無菌性髄膜炎(細菌以外が原因)の2つに大別されます。主に
【髄膜炎の主な原因】
- 細菌性髄膜炎
- 肺炎球菌
- インフルエンザ桿菌
髄膜炎菌 - リステリア
- 無菌性髄膜炎
- ウイルス
- 真菌
結核菌 - スピロヘータ
悪性腫瘍 (がん)- 自己免疫性疾患
- 薬剤
それぞれ治療法が異なるので、原因を特定することが重要です。
次に原因について詳しく説明します。
2. 細菌性髄膜炎の起炎菌について
起炎菌(起因菌または原因菌)は感染を起こしている菌のことです。最も効果が高い
次に、年齢や身体の特徴に注目して細菌性髄膜炎の起炎菌を説明します。
年齢ごとの髄膜炎の起炎菌:赤ちゃん、子ども、大人
年齢によって髄膜炎の起炎菌になりやすいものが異なります。
生後3ヶ月以内の赤ちゃんではB群溶連菌や
髄膜炎が起こりやすい特徴がある人の起炎菌:易感染状態の人や脳外科手術後の人
次の特徴がある人は、健康な人に比べて髄膜炎になりやすく、その起炎菌も異なります。
- 易感染状態の人(感染症に対する抵抗力が落ちている人)
- 脳の手術後の人や脳の中に器具を埋め込んでいる人
次にそれぞれの条件を持つ人が感染しやすい起炎菌ついて説明します。
■易感染状態の人
易感染状態とは感染症への抵抗力が落ちている状態のことです。具体的には、主に「糖尿病の人」や「
- 肺炎球菌
- 髄膜炎菌
- リステリア
緑膿菌
健康な人の主な起炎菌である肺炎球菌や髄膜炎菌に加えて、易感染状態の人ではリステリアや緑膿菌が起炎菌になります。
■脳の手術後の人や脳に器具を埋め込んでいる人
脳の手術で頭を開いた時に、細菌が頭の中に紛れ込んでしまい、髄膜炎が起きることがあります。また、身体の中にある異物は細菌がついて繁殖しやすいので、感染の原因になります。頭に埋め込んでいる器具に感染が起こると、髄膜炎になることがあります。脳の手術後の人や脳に器具を埋め込んでいる人の髄膜炎は次のような細菌が原因になることが多いです。
黄色ブドウ球菌 - コアグラーゼ陰性
ブドウ球菌 - 緑膿菌
正常な人の主な起炎菌である肺炎球菌やインフルエンザ桿菌ではなく、皮膚の常在菌(黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が起炎菌になりやすいです。また、手術直後は免疫機能が低下しているので、易感染状態の人と同じく緑膿菌なども起炎菌になることがあります。
3. 無菌性髄膜炎の原因について
無菌性髄膜炎は細菌感染以外の原因によるものを一括りにしたものです。その原因はウイルスや真菌などの感染症、がん、薬の副作用などさまざまです。
【無菌性髄膜炎の原因】
- ウイルス
- 真菌
- 結核菌
- スピロヘータ
- 悪性腫瘍(がん)
- 自己免疫性疾患
- 薬剤
それぞれの原因について詳しく説明します。
ウイルス
ウイルスも細菌も感染症を起こす病原体として知られていますが、全く異なる微生物です。例えば、大きさを比較すると、ウイルスは細菌の1/10から1/100 程度しかありません。
髄膜炎を起こすウイルスには主に次のようなものがあります。
ウイルスは感染を起こす点で細菌と同じですが、細菌に有効な抗菌薬は効きません。そのため、ウイルス性髄膜炎にかかった場合は、抗菌薬で治療するのではなく免疫機能によってウイルスが排除されるのを待ちます。例外として、単純ヘルペスウイルスと水痘帯状疱疹ウイルスに対しては抗ウイルス薬があるので、状況に応じて使うことがあります。治療の詳しい説明は「髄膜炎の治療について」で説明しています。
結核菌
結核菌は主に肺に感染することが多いですが、
また、結核性髄膜炎であっても、塗抹検査から結核菌が検出されないことも多いので、塗抹検査だけでは見落とされてしまいます。このため、塗抹検査に加えて
治療には、肺結核と同様に結核菌に対して殺菌効果のある抗結核薬が用いられるほか、後遺症を残りにくくするために
結核性髄膜炎についてさらに詳しく知りたい人は「結核性髄膜炎(脳結核腫)の基礎情報ページ」も参考にしてください。
真菌
名前は似ていますが、真菌と細菌は違う病原体です。真菌はいわゆる「カビ」のことです。髄膜炎を起こす主な真菌は「
■カンジダ
次のような条件をもつ人にカンジダによる髄膜炎が起こりやすいと考えられています。
【カンジダによる髄膜炎になりやすい人】
- 火傷後の人
- 広域
スペクト ラムの抗菌薬(幅広い種類の細菌に有効な抗菌薬)を使用している人 ステロイド 治療(免疫力を抑える治療)中の人- V-P
シャント (水頭症の治療。詳しくは「水頭症の基礎情報ページ」)がある人 - 中心静脈カテーテル(身体の太い静脈に挿入する点滴用の管)を入れている人
症状は緩やかに現れる場合もあれば急激に現れる場合もあります。
■クリプトコッカス
免疫力が低下した人〔AIDS(後天性免疫不全症候群)や悪性リンパ腫の人、ステロイド治療中などの人〕に起こりやすいことが知られています。アムホテリシンBリポソーム製剤とフルシトシンという2つの薬で治療されることが多く、治った後も再発予防として、しばらく薬を飲み続ける必要があります。
スピロヘータ
スピロヘータは細菌のなかの1グループを指します。しかし、特殊な構造をしているので、一般的な細菌とは区別されることが多く、髄膜炎の分類でも無菌性髄膜炎に分類されることが多いです。スピロヘータにもいくつも種類がありますが、代表的なものが梅毒トレポネーマです。梅毒トレポネーマによる髄膜炎は神経梅毒という呼び名で知られています。その他の、髄膜炎を起こすスピロヘータにはレプトスピラ症(ワイル病)やライム病があります。
悪性腫瘍(がん)
がん細胞が、髄膜に包まれている
自己免疫性疾患
本来は自分の身を守ってくれる免疫機能の異常によって、自分の身体が攻撃を受けてしまう病気を自己免疫性疾患といいます。全身性エリテマトーデスやベーチェット病、強皮症などです。自らの免疫細胞が髄膜に
薬剤
薬の副作用によって髄膜炎が起こることがあり、
もし、髄膜炎が疑われたときには、服用している薬を市販薬をふくめて全て伝えるようにしてください。服用している薬に伝えもれがあると、お医者さんは薬剤性髄膜炎を疑うことができないこともあります。市販薬でも髄膜炎の原因になると聞くと心配になりますが、薬剤性髄膜炎の頻度は少ないので過度に心配する必要はありません。
【参考文献】
・「神経内科ハンドブック第5版」(水野美邦/編)、医学書院、2016年
・細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014-日本神経感染学会
・「レジデントのための感染症診療マニュアル第3版」(青木眞/著)、医学書院、2015年
・「がん患者の感染症診療マニュアル」(大曲貴夫/監)、南山堂、2012年
・厚生労働省 重篤副作用別疾患対応マニュアル 無菌性髄膜炎