ずいまくえん
髄膜炎
脳と脊髄を包んでいる髄膜が、炎症を起こしている状態。場合によっては神経の重い後遺症が残ったり死に至ったりすることもある
17人の医師がチェック 199回の改訂 最終更新: 2018.10.20

髄膜炎菌の治療について:原因別の治療

髄膜炎は原因によって治療法が異なります。例えば、細菌性髄膜炎の治療は抗菌薬が中心ですが、ウイルス性髄膜炎では対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。ここでは、原因別の治療法に加えて、治療に用いられるガイドラインや入院期間についても説明します。

1. 細菌性髄膜炎の治療:抗菌薬(抗生剤)・ステロイド薬

細菌性髄膜炎の治療は抗菌薬とステロイド薬が中心です。それぞれの薬の役割について説明します。

抗菌薬治療

細菌性髄膜炎の治療では抗菌薬治療が最も重要です。診断された後にはなるべく早く治療を開始しなければなりません。起炎菌(感染の原因となっている細菌)ごとに有効な抗菌薬が異なるので、最適なものを選ぶためには起炎菌を特定しなければなりません。起炎菌は塗抹検査や培養検査(「髄膜炎の検査について」を参考)で調べられます。 しかし、非常に重症な人では検査より先に抗菌薬治療を始めなければならないこともあります。この場合は、過去の治療実績にもとづいて起炎菌が推測されて、最適な抗菌薬が選ばれます。具体的にいうと、一般的に起炎菌になることが多い肺炎球菌インフルエンザ桿菌に効果のある抗菌薬が使われます。ただし、「生後1ヶ月の赤ちゃん」と「50歳以上の人」、「脳の手術後や脳の中に器具を埋め込んでいる人」は一般的な細菌性髄膜炎とは起炎菌が異なることが多いので、抗菌薬治療にも工夫が必要です。

次に、それぞれの条件を持つ人について個別に説明していきます。(抗菌薬治療の種類や投与量などの詳しい内容は「細菌性髄膜炎の治療薬ページ」も参考にしてください。)

■生後1ヶ月の赤ちゃん

生後1ヶ月の赤ちゃんは主に産道を通過するときに母体からついた細菌によって、細菌性髄膜炎になると考えられています。産道から感染しやすいB群溶連菌や大腸菌、リステリアが原因になることが多く、これらの菌に合わせて抗菌薬が選ばれます。

■50歳以上の人

年齢を重ねると免疫機能が低下するので、健康な人とは異なる細菌にも感染するようになります。50歳以上の人では一般的な髄膜炎の起炎菌である肺炎球菌やインフルエンザ桿菌に加えて、免疫力が低下した人に感染が起こりやすいリステリアが起炎菌になることもあるので、抗菌薬もリステリアに効果があるものが選ばれます。

■脳の手術後や脳の中に器具を埋め込んでいる人の場合

一般的な髄膜炎と異なり、皮膚の常在菌(黄色ブドウ球菌などの)が起炎菌になることが多いです。肺炎球菌やインフルエンザ桿菌といった一般的な髄膜炎の起炎菌を想定して抗菌薬を選ぶと効果が不十分な場合があります。このため、黄色ブドウ球菌など皮膚の常在菌にも効果のある抗菌薬が使われます。また、脳に埋め込んだ器具に感染が起こっている場合、抗菌薬治療だけでは感染がよくならない人います。その際には感染を起こしている埋め込んだ器具の除去が検討されます。

ステロイド薬

抗菌薬治療の前にステロイド薬を用いると、後遺症が残りにくくなると考えられています。特に、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌が原因の場合はステロイド薬の効果が確認されています。これらの起炎菌が考えられる場合にはすみやかにステロイド薬を使い、その後、抗菌薬治療を始められます。

2. 無菌性髄膜炎の治療:原因に合わせた治療

無菌性髄膜炎は細菌以外の原因による髄膜炎を一括りにしたものです。例えば、ウイルス真菌といった感染症による場合あれば、がん自己免疫疾患のように病気を原因とする場合もあります。

【無菌性髄膜炎の原因】

  • ウイルス
  • 結核菌
  • 真菌
  • スピロヘータ
  • 悪性腫瘍(がん)
  • 自己免疫性疾患
  • 薬剤

効果のある治療は原因によって異なるので、原因に合わせて治療が行われます。次に、それぞれの治療法について詳しく説明します。

ウイルス

ウイルスと細菌は感染症という点では共通していますが、違う病原体です。細菌に有効な抗菌薬はウイルスには効果がありません。

また、ほとんどのウイルスには抗ウイルス薬がありません。そのため、ウイルス性髄膜炎では、もともと備わっている免疫機能によってウイルスが身体から排除されるのを待つことになります。ウイルス性髄膜炎の治療の目的は、排除されるまでの間の症状を和らげることです。具体的には、解熱鎮痛薬や制吐薬を用いて発熱や頭痛、吐き気などが抑えられます。

例外として、単純ヘルペスウイルスには、抗ウイルス薬があるので、対症療法に加えて治療に用いられることがあります。

ウイルス性髄膜炎は順調に回復することが多く、後遺症が残ることは少ないです。ウイルス性髄膜炎については「ウイルス性髄膜炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。

結核菌

結核菌は細菌の一種ですが、治療や検査が一般的な細菌性髄膜炎とは異なるため、無菌性髄膜炎として扱われます。結核菌が原因の髄膜炎には抗結核薬という薬が用いられます。具体的には次のものです。

  • イソニアジド
  • リファンピシン
  • エタンブトール(もしくはストレプトマイシン)
  • ピラジナミド

最初の2ヶ月は上に示した4剤を同時に服用します。

エタンブトールという薬は目の持病があると使いにくいことがあるので、目の持病がある人にはストレプトマイシンという薬に変更されます。2ヶ月後からはイソニアジドとリファンピシンの2剤を継続して、10ヶ月間服用します。また、細菌性髄膜炎と同様に後遺症を残りにくくする目的でステロイド薬が使われます。

結核薬の服用についてのさらに詳しい説明は「結核の治療」や「結核性髄膜炎(脳結核腫)の治療薬のページ」を参考にしてください。

真菌

真菌と細菌は名前は似ているものの違う種類の病原体です。細菌と同じように真菌にもたくさん種類があり、そのうち「カンジダ」と「クリプトコッカス」の2つが髄膜炎の原因になりやすいです。それぞれの抗真菌薬を用いて治療されます。

【真菌性髄膜炎の治療薬の例】

  • カンジダ性髄膜炎
    • アムホテリシンBリポソーム製剤(+フルシトシン)→フルコナゾール
  • クリプトコッカス性髄膜炎
    • アムホテリシンBリポソーム製剤+フルシトシン→フルコナゾール

カンジダが原因の場合、アムホテリシンBリポソーム製剤(フルシトシンも同時に使われることがある)を使った治療を数週間行います。その後、カンジダが身体から消えたのが検査で確認されるまでフルコナゾールを服用します。

クリプトコッカスが原因の場合、アムホテリシンBリポソーム製剤とフルシトシンによる治療が4週間から6週間行われます。その後、6ヶ月から12ヶ月にわたってフルコナゾールによる治療が行われます。

治療薬については「クリプトコッカス症の治療薬ページ」でも詳しく説明しているので参考にしてください。

スピロヘータ

スピロヘータは細菌の1グループを指しますが、特殊な構造をしています。特殊なタイプの細菌であるために、一般的な細菌が原因の細菌性髄膜炎とは区別されて、無菌性髄膜炎に分類されることが多いです。

スピロヘータによる髄膜炎のなかで代表的なものは梅毒トレポネーマによる神経梅毒です。他にはレプトスピラ症ワイル病)とライム病があります。

代表的な神経梅毒の治療について以下で説明します。

神経梅毒

梅毒は性行為でうつる感染症で、梅毒トレポネーマという細菌が原因です。梅毒トレポネーマは、感染すると血液やリンパ液の中に入り込んで全身に広がります。梅毒による髄膜炎は神経梅毒と言われ、次のような抗菌薬によって治療が行なわれます。

神経梅毒の治療で使われる抗菌薬】

  • ペニシリン系抗菌薬(ベンジルペニシリンなど)
  • セフェム系抗菌薬(ロセフィン®など)

一般的な梅毒の治療は飲み薬で行うこともできますが、神経梅毒では点滴で治療することが多いです。治療で使われる抗菌薬については「梅毒の治療」や「梅毒の治療薬ページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。

悪性腫瘍(がん)

がん細胞が脳脊髄液に入り込んで髄膜炎を起こすことがあります。これをがん性髄膜炎と言います。がんが脳転移をした人に起こることが多く、脳転移しやすい肺がん乳がんが主な原因となります。がん性髄膜炎は根本的に治すことは難しいです。このため、治療の目的は症状を和らげることが主体になります。具体的には、炎症や脳のむくみを抑える薬を使います。また、頭痛や吐き気に対しては鎮痛薬や制吐剤を用いて、出来る限り症状を緩和する治療が行なわれます。

自己免疫性疾患

本来は自分の身を守ってくれる免疫機能の異常によって、自らの身体が攻撃を受けてしまう病気を自己免疫性疾患と言います。自己免疫性疾患のなかでも全身性エリテマトーデスベーチェット病強皮症などが髄膜炎を起こしやすいことが知られています。自己免疫性疾患による髄膜炎の治療には確立されたものがありません。病気の状態や一人ひとりの身体の状態を鑑みて最適な方法が選ばれます。具体的には、ステロイド薬や免疫抑制薬、血漿交換(血液の成分の一部を交換すること)などが行なわれます。

薬剤

薬の副作用で髄膜炎が起こることがあり、薬剤性髄膜炎と呼ばれます。解熱鎮痛薬や抗てんかん薬が髄膜炎を起こす薬として知られています。薬剤性髄膜炎の治療は「原因となっている薬を中止する」ことです。原因となっている薬を特定するために、お医者さんに服用している薬は市販薬を含めてもれなく伝えなければなりません。医療機関から出ている薬については「お薬手帳」を活用すると上手に伝えられます。

3. 髄膜炎の治療に必要な入院期間はどれくらいか

髄膜炎の治療に必要な入院期間は、原因や身体の状況によって異なります。髄膜炎は感染症(細菌やウイルスなど)やがん、自己免疫性疾患など多様な原因によって起こります。原因によって病気の重さや治療の期間が異なるので、入院期間にも影響します。

また、身体の状況によっても入院期間は変わります。例えば感染症による髄膜炎の場合、易感染状態(感染に対して抵抗力が落ちた状態)にある人は通常の人より治るのに時間がかかることが多いです。

入院期間は気になる情報ですが、お医者さんからははっきりとした期間の説明がないこともあるかも知れません。軽症な病気と違い、髄膜炎は深刻な状況になることもあります。そのため、治療を始めたばかりの時期にはお医者さんも具体的な入院期間を明言しにくい側面があります。はっきりとした説明がないと不安になるかもしれません。不安に思うことは遠慮なくお医者さんや看護師さんに話してみてください。一つひとつ不安を解消してくことが精神面の安定に大切なことです。

4. 髄膜炎の治療ガイドラインはあるのか

髄膜炎には日本神経感染症学会によって作成された「細菌性髄膜炎ガイドライン」があります。ガイドラインが作成される目的は治療の成績や安全性の向上です。過去の治療結果などを根拠に、最適だと考えられる治療方法が示されています。一方で、医療は日進月歩で次々と有効な治療がみつかります。進歩についていくために、ガイドラインも数年に1回は改訂が行なわれます。 お医者さんはガイドラインを踏まえて治療を行いますが、ガイドライン通りに治療することが最適だとは限りません。ガイドラインの改訂前に新しい治療が浸透することもあれば、不明だった治療の効果が明らかになって治療法が変わることもあります。

また、ガイドラインは患者さんの一人ひとりの身体の違いを鑑みて作られているわけではありません。一人ひとりに最適な治療を行えるようにガイドラインはアレンジして使われます。

5. 髄膜炎は完治するのか

髄膜炎は原因や一人ひとりの身体の状態によって治りやすさが異なります。このため、どの程度の割合で完治するかは一概には言えません。

原因による治りやすさの違い

髄膜炎と一口に言っても原因によって完治のしやすさは異なります。ウイルス性髄膜炎は治りやすく後遺症も少ないと考えられています。一方で、細菌性髄膜炎は約25%の人が治らずに生命を落とし、10%から30%の人に後遺症が残ると言われています。また、がんが脳脊髄液に広がって起きた髄膜炎はさらに完治が難しいです。

身体の状態による治りやすさの違い

一人ひとりの身体の状態も完治のしやすさに関わってきます。例えば、同じ細菌性髄膜炎になって同じ治療をしても、正常な人に比べて糖尿病の人や免疫抑制薬を飲んでいる人は治りづらいです。また、後遺症が残りやすく生命が脅かされる可能性も高くなると考えられます。

完治するのか不安なときにはどうすればいいのか

髄膜炎という重い病気になったと告げられたら、どうしても「本当に完治するのか、後遺症は残らないのか」と不安な気持ちになるのはよく理解できます。その際にはお医者さんや看護師さんに不安な気持ちを聞いてもらってください。聞いてもらうだけでも、心の重みが解消されて治療に前向きになれることがあります。

【参考文献】

・「神経内科ハンドブック第5版」(水野美邦/編)、医学書院、2016年
細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014-日本神経感染学会
・「レジデントのための感染症診療マニュアル第3版」(青木眞/著)、医学書院、2015年
・「がん患者の感染症診療マニュアル」(大曲貴夫/監)、南山堂、2012年
厚生労働省 重篤副作用別疾患対応マニュアル 無菌性髄膜炎