クラビット500mg(レボフロキサシン)が効かない病気は?副作用はあるの?

この記事のポイント
お医者さんにかかると処方される抗生物質(抗菌薬)の代表としてクラビット®(レボフロキサシン)があります。クラビットは多くの感染症に対して有効な薬ですが、近年その効果が弱まってきています。これはどういったことなのでしょうか?
◆クラビットの効能は?有効な感染症は多い
クラビットはどんな病気に有効なのでしょうか。
抗生物質には適応症があらかじめ決められています。適応症とは、その薬が効果を発揮しやすい病気のことです。
クラビットを出されたときの診断名が、以下のリストにある適応症の中にあるか探してみてください。
- 表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)
- 外傷・熱傷および手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍
- 咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染
- 膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、尿道炎、子宮頸管炎、胆嚢炎、胆管炎
- 感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、コレラ
- バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎
- 涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎
- 外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎
- 化膿性唾液腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎
- 炭疽、ブルセラ症、ペスト、野兎病、肺結核及びその他の結核症、Q熱
専門的な言葉が並びますが、皮膚の感染から肺の感染までかなり幅の広い感染症に対して効果があることになります。実際クラビットのおかげで治療できる感染症は多いです。
◆クラビットの良いところは?
ニューキノロン系抗生物質の代表格であるクラビットは非常に多くの場面で使われている抗生物質です。
使われるということは良い点があるからなのですが、それは具体的にどういったものなのでしょうか?
クラビットの良い点を考えてみましょう。
- グラム陰性桿菌(GNR)に強い上にグラム陽性球菌(GPC)に対しても効果を発揮する
- 緑膿菌という特殊な菌にも有効である
- 性病の原因となる淋菌とクラミジアに対して有効である
- 抗酸菌(結核など)に有効である
- 飲み薬である
これらがクラビットの有効性(強み)になります。
この有効性について詳しく説明していきましょう。
◎グラム陰性桿菌(GNR)に強い上にグラム陽性球菌(GPC)に対しても効果を発揮する
グラム陰性桿菌には、大腸菌、クラブシエラ・ニューモニエ、インフルエンザ桿菌などがあります。クラビットはこれらに対する有効性が高いです。
特に膀胱炎や腎盂腎炎はこれらの菌が原因になることが多いので、クラビットは非常に有効です。
また、クラビットはレスピラトリーキノロン(呼吸器系の感染に強いキノロン系抗菌薬)と呼ばれているように、肺炎球菌などの肺炎を起こす菌にも強い抗生物質です。
肺炎球菌はグラム陽性球菌なのですが、黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌(溶連菌)といったグラム陽性球菌に対しても有効性があります。
◎緑膿菌という特殊な菌にも有効である
緑膿菌という特殊な菌があります。
通常は身体の中にいても特に悪さをしないのですが、免疫が弱くなったり他に持病があったりすると悪さをすることがあります。
あまり悪さをしない反面、緑膿菌が感染を起こすと重症になることが多いです。
そのため、緑膿菌に対して効果を発揮する抗生物質は貴重なのですが、クラビットは緑膿菌に対して有効性を持っています。
◎クラビットは性病でよく使われる
クラビットは性病の治療によく使われます。
クラビットの適応症にある、前立腺炎(急性症、慢性症)・精巣上体炎(副睾丸炎)・尿道炎・子宮頸管炎といった病気は、いわゆる性病の可能性が高いです。
性病の原因となる細菌で多いのは、淋菌とクラミジアになります。適応症を見る限り、淋菌とクラミジアが原因となる性病に対してクラビットは有効ということになります。
しかし、近年徐々に淋菌やクラミジアに対してクラビットは有効でなくなってきています。
どうして有効でなくなってきているのかに関しては後ほど詳しく説明します。
◎抗酸菌(結核など)に対して有効である
クラビットは抗酸菌に有効です。
抗酸菌を大きく分けると結核菌とそれ以外になりますが、いずれにも効果があります。
抗酸菌は治療薬が限られていますので、クラビットの存在は非常に重要になります。
また、抗酸菌の治療は長期間になります。そのため、クラビットのように広く使われて、有効性と副作用の情報が豊富な抗菌薬は貴重です。
しかし、その抗酸菌に有効であるということが、ときに悲劇を生む場合があります。どうして悲劇になるの詳細は後ほど説明します。
◎クラビットは飲み薬である
抗生物質が飲み薬であるということは非常に重要です。感染症の治療をするときに点滴の薬しかないと100%入院が必要になってしまいます。
入院すると安心するという方もいるとは思いますが、入院することで今まで動いていたことですら動かなくなることによって体力が大きく落ちてしまいます。
そのため、長い目で見れば入院は極力しないようにするほうが得策です。
クラビットには飲み薬がありますので、入院をしない治療が可能になります。
以上のようにクラビットは優れた点が多く存在しますが、その反面困ったことが起こっているのも事実です。どういったことが起こっているのでしょうか?
◆クラビットの困った問題
適応症であれば必ず抗生物質が有効なわけではないですが、高い確率で有効であるはずです。しかし、近年クラビットが効かない場面が増えてきています。
◎クラビットの抱えるジレンマ
述べてきたようにクラビットは、非常に多くの感染症で使われる抗生物質です。
抗生物質は、治療に使われることで細菌を殺している一方で、耐性菌を増やしています。
その流れは以下のになります。
- 感染症に対して抗生物質を使う
- 感染の原因菌は、殺されまいと抗生物質の作用を学習する
- 一定の確率で抗生物質の効かない耐性菌が出てくる
耐性菌になるパターンは多数あるのですが、結局のところは上のように抗生物質を使うからこそ新たな耐性菌が新たに出現しているのが現状です。
このように、クラビットのような幅広い感染症に有効な抗菌薬には、使えば使うほど効かない菌(耐性菌)が増えてくるジレンマがあります。
実際に、淋菌やクラミジアや溶連菌でもクラビットが効かない耐性菌が増えてきています。
◎クラビットの効かない菌(耐性菌)を作らないためには
抗生物質を使うからこそ耐性菌が増えるのですから、耐性菌を作らないためには抗生物質を使わなければ良いのです。
しかし、感染症を治す上で抗生物質を使うことは必要です。どうしたらよいでしょうか?
クラビットのように何にでも効きやすいからという理由で安易に使うのをやめることが、耐性菌を作らない近道となります。クラビットにかぎらず抗生物質を使う際は、本当に必要なのかをお医者さんに確認するようにして下さい。
自己判断で買ったりもらったりした抗生物質を使うのはやめましょう。
◎抗酸菌に対して有効性があることに潜む恐ろしさ
抗酸菌の治療は非常に長期間必要ですし、数種類の抗生物質を使用します。
結核の場合は最低でも6ヶ月必要ですし、結核以外の抗酸菌(非結核性抗酸菌)に対しては年単位で抗菌薬の治療が必要です。この期間を短縮すると治療がうまくいきません。
クラビットは結核などの抗酸菌に対して有効ですが、この期間を短縮したりクラビットのみで治療することは良くありません。
また、無治療の結核の人がクラビットを飲むと有害であるというデータが有ります。
結核の発見が遅れたり、死亡する危険性が上昇すると言われています。
結核は自覚がないのに感染しているということも少なく無いですので、クラビットはくれぐれも必要な時以外に飲まないほうが良いでしょう。
◎クラビットによって体内の細菌のバランスを乱してはいけない
人間の体内には数百兆個の細菌が住み着いています。病気でなく健康な体の中でも存在する細菌を常在菌と言います。常在菌は基本的に病気の原因にはなりません。常在菌は、実は免疫の重要な役割を果たしています。多くの菌がいる腸の中を例にとって考えてみましょう。
- 腸の中には多くの常在菌がいる
- 腸に食べ物が流れてくると、常在菌が一部を食べてエネルギーを得る
- 腸の中にはときどき感染の原因となる細菌が入ってくる
- 侵入した細菌は常在菌にとってよそ者であるので、常在菌は自分のエサを取られまいと侵入者を攻撃してくれる
抗生物質を使って常在菌を殺してしまうとどうなるでしょうか。
常在菌が侵入者を攻撃してくれなくなってしまうので、免疫力が下がってしまいます。
そのため、感染症を抗生物質で治療するときは、原因となっている細菌を狙って倒し、常在菌をできるだけ殺さないことが望ましいのです。
ところが、クラビットは有効な菌が幅広い反面、常在菌を殺してしまうマイナス面がかなり強い薬なのです。
◆クラビットばかり出す医者は要注意
日本では多くの医者がクラビットを処方してます。それはこの有効性の範囲の広さにあると思います。
その一方で、クラビットを使うことによってクラビットの効かない菌(耐性菌)を生み出していることも事実です。
クラビットが本当に必要な場面はあります。しかし、そんなときに耐性菌ばかりだと、治せるものも治せなくなります。
クラビットに限らず、有効な抗菌薬を使えば使うだけ有効性が低くなるジレンマがあります。
だからこそ、我々は本当にクラビットが治療に必要なのかどうかきちんと考えてから使うようにしなくてはなりません。
もしお医者さんにクラビットを出されたときに、何の感染症に対して処方されたのか聞いてみるようにして下さい。
もし答えがないような状況で処方されていたのだとしたら、本当に必要なのかどうかもう一度考えるタイミングになります。
執筆者:園田 唯(呼吸器学会専門医、感染症が専門)
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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。