けっかんえんしょうこうぐん(そうろん)
血管炎症候群(総論)
免疫細胞により血管が攻撃される病気の総称。攻撃される血管のサイズや原因によってより細かく分類されている。
1人の医師がチェック 12回の改訂 最終更新: 2022.03.28

血管炎症候群とはどんな病気?症状・原因・検査・治療など

血管炎症候群は血管に炎症が起きることで、発熱、息苦しさ、血尿発疹、手足のしびれなどがあらわれる病気です。治療にはステロイド薬免疫抑制薬、生物学的製剤・分子細胞標的薬などを使います。一部は難病指定されています。

1. 血管炎とはどんな病気?

血管炎症候群は免疫の異常により起こる病気です。免疫とはウイルス細菌などの外敵が身体の中に入ったときにそれら外敵を駆除するシステムのことです。免疫は通常、外敵だけを攻撃し、自分の身体は攻撃しないように制御されています。

しかしながら、血管炎症候群ではこの免疫の制御が上手く働かなくなり、自分の身体を攻撃してしまいます。そのため、治療する時には、このおかしくなった免疫を正常化するため、免疫を制御(抑制)する薬を使います。

2. 血管炎症候群の症状

身体の中にある臓器は血管を介して栄養をもらっています。血管炎症候群は血管が障害されることで様々な臓器に関連した症状が起こります。具体的な症状は以下の通りです。

  • 全身の症状:熱・だるさ・体重減少など
  • 目の症状:目の充血、痛みなど
  • 耳の症状:会話や音が聞き取りにくい(難聴
  • 呼吸器症状:咳・息苦しさ・血痰など
  • 心臓の症状:胸が痛い、心臓がばくばくするなど
  • 消化器症状:腹痛・血便など
  • 神経症状:手足のしびれ・麻痺など
  • 関節の症状:腫れ、痛み
  • 皮膚症状:紫色をしたぽつぽつした発疹(紫斑)、皮膚がえぐれており、赤黒くなっている(潰瘍)など
  • 腎臓の症状:血尿・タンパク尿
  • その他の症状:脈が触れにくい、むくみなど

ここで述べたいくつかの臓器の症状が同時にあらわれる場合に、血管炎症候群を疑います。血管炎症候群の症状は治療を行うことで良くなりますが、治療が遅れると後遺症を残すこともあるので、注意が必要です。

詳しくは「血管炎症候群の症状」で説明しています。

3. 血管炎症候群の分類

血管炎症候群は血管に炎症が起こる病気をまとめて指す呼び名です。しかし、細かく見ていくと血管炎症候群に分類される病気は、病気ごとに症状や病気の特徴が少しずつ異なっています。

血管炎症候群は「原因があるか・ないか」と「炎症が起きる血管のサイズ」で分類されます。「原因があるか・ないか」ということは血管炎の治療を考える上で重要です。また「炎症が起きる血管のサイズ」は、どのサイズ(太さ)の血管が障害されるかによって、どの臓器が障害されるか、どんな症状があらわれるそうかを予想することができるという点で重要です。

血管炎症候群の分類をまとめると以下のようになります。

詳しくは「血管炎症候群の種類」で説明しています。

4. 血管炎症候群の検査

血管炎症候群は病気の診断や状態を把握することを目的として診察や検査が行われます。血管炎症候群は発疹など診察を通して見つかるものがある一方で、腎臓の障害など症状があらわれる前から検査の異常が出るものもあり、診察や検査を組み合わせて病気の状態を把握してきます。血管炎症候群で行われる診察や検査には以下のものがあります。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 尿検査
  • 画像検査
  • 血管造影検査
  • 生検

これらについて以下で簡単に説明します。

問診

問診では診断を行うために「どういう症状」が「いつからあるか」、「持病があるか」、「何か薬を飲んでいるか」などを確認していきます。

身体診察

身体診察は診察室で医療者に身体を調べられることをいいます。身体診察の結果を通して、血管炎症候群が疑わしいかを判断していき、必要な検査を決定していきます。

血液検査

血液検査では内臓に障害がないか、炎症の程度などを確認していきます。これらの結果は血管炎症候群の診断や重症度を判定するために重要な情報です。

尿検査

血管炎症候群では腎臓の血管が障害され、濾過する膜が壊れることで、血液中の成分が尿に漏れ出ることがあります。尿の中に血液やタンパク質がないかを確認することで、腎臓の障害を予想することができます。

画像検査

画像検査は、血管炎症候群の血管の炎症やそれに伴う臓器の障害を調べるために役立ちます。レントゲン検査、CT検査、MRI検査などが行われます。

血管造影検査

血管造影検査もレントゲン検査の技術を応用して、血管の形を調べることができる検査です。血管造影検査ではカテーテルという細い管を血管の中へ挿入し、観察したい血管の入り口まで持っていきます。そこからカテーテルを介して造影剤を注入することで、目的の血管をCT検査やMRI検査と比べてくわしく調べることができます。

生検

血管炎症候群は免疫の異常により自分の体が攻撃される病気です。血管炎症候群の方では障害を受けている臓器で免疫細胞による攻撃が起こっています。このことを確認するために生検という検査を行うことがあります。

ここであげたそれぞれの検査について、くわしくは「血管炎症候群の検査」で説明していきます。

5. 血管炎症候群の治療

血管炎症候群の薬物治療では免疫細胞を抑える薬や免疫細胞を活性化する物質を抑える薬を用います。具体的に血管炎症候群で用いられる治療薬には以下があります。

以下では簡単に説明していきます。

ステロイド薬

ステロイド薬は炎症を抑える作用のある薬で、血管炎症候群の中心的な治療薬になります。血管炎症候群の治療としては飲み薬や点滴薬のステロイド薬をよく使います。ステロイド薬の代表的な製剤としてはプレドニゾロン(商品名:プレドニン®など)があります。ほかにもメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®など)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®など)などのステロイド薬も使われます。

免疫抑制薬

免疫抑制薬は免疫細胞の活性化を抑える薬です。免疫抑制薬は異常になった免疫細胞の活性化を抑える目的で血管炎症候群で用いられます。血管炎症候群で用いられる代表的な免疫抑制薬は以下の通りです。

  • シクロホスファミド
  • アザチオプリン
  • メトトレキサート
  • タクロリムス
  • シクロスポリン

これらの治療薬は血管炎症候群の重症度などを踏まえて使い分けが行われます。免疫は本来、感染症から体を守る時にも重要な役割を果たすため、免疫抑制薬使用中の副作用として易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)に注意が必要です。そのため、日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意が大切になります。

生物学的製剤

医学の進歩により、症状の原因となっている物質の解析が進んでいます。それに伴い、原因物質を直接阻害する薬の開発ができるようになりました。このような薬には最新のバイテクノロジー技術が用いられ、生物学的製剤と呼ばれています。血管炎症候群で用いられる生物学的製剤は以下の通りです。

  • トシリズマブ
  • インフリキシマブ
  • メポリズマブ

分子細胞標的薬

分子細胞標的薬は病気の原因となる分子や細胞を標的とした治療薬です。分子細胞標的薬が広く用いられている分野はがん細胞を対象としたものですが、血管炎症候群でも病気と深く関わる細胞が分かってきており、分子細胞標的薬を治療に用いることがあります。血管炎症候群で用いられる分子細胞標的薬はリツキシマブです。

6. 血管炎症候群について知っておきたいこと

血管炎症候群は完治が難しく、付き合いも長くなる病気です。中には、すでに診断を受けていてこれからどうなるのかを不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。「血管炎症候群について知っておきたいこと」では血管炎症候群について知っておいて頂きたい以下の点についてまとめています。

  • 血管炎症候群は完治するの?
  • 血管炎症候群の治療は入院が必要?
  • 血管炎症候群の治療中の注意点
  • 血管炎症候群は再発(再燃)することはある?

7. 血管炎症候群は難病?申請方法は?

血管炎症候群の一部は厚生労働省により難病と指定されています。難病は重症度基準を満たす場合に医療費助成の対象となります。「血管炎症候群について知っておきたいこと」では難病に指定されている血管炎症候群の種類や医療費助成の申請方法などをまとめています。

参考文献
・日本循環器学会, 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)