[医師監修・作成]血管炎症候群の治療:ステロイド薬・免疫抑制薬・生物学的製剤など | MEDLEY(メドレー)
けっかんえんしょうこうぐん(そうろん)
血管炎症候群(総論)
免疫細胞により血管が攻撃される病気の総称。攻撃される血管のサイズや原因によってより細かく分類されている。
1人の医師がチェック 11回の改訂 最終更新: 2021.12.15

血管炎症候群の治療:ステロイド薬・免疫抑制薬・生物学的製剤など

血管炎症候群では熱などの全身症状や血管の炎症を和らげるため、ステロイド薬免疫抑制薬などの薬を使います。血管炎症候群の一部では生物学的製剤を使います。重症例では血漿交換療法が選択されることもあります。

1. 血管炎症候群はどんな病気か

血管炎症候群の治療を考える上で、どんな病気であるのかを理解することは非常に重要です。血管炎症候群は免疫の異常により起こる病気であることがわかっています。

免疫とはウイルス細菌などの外敵が体の中に入ると駆除する体の中のシステムのことです。免疫は通常、外敵だけを攻撃し、自分の体は攻撃しないように制御されています。

しかしながら、血管炎症候群ではこの免疫の制御が上手く働かなくなり、自分の体を攻撃するようになってしまいます。そのため、血管炎症候群の治療では免疫を制御(抑制)する薬を使い、おかしくなった免疫を正常化することを目指します。

2. 寛解導入療法、寛解維持療法とは?

血管炎症候群の治療は薬を継続することで症状がない状態を維持することが目標です。薬を使うことで症状が抑えられている状態を医学用語で「寛解(かんかい)」と呼びます。寛解に至れば、病気を患っていない方々と同じように生活を送ることができます。

血管炎症候群の治療は、症状がある状態から寛解を目指す寛解導入療法と、寛解になった人が寛解の状態を維持することを目的とした寛解維持療法に大きく分けられます。寛解導入療法は強い治療を必要とする分、副作用が出やすい側面があります。それに対し寛解維持療法では副作用がなるべく出ないよう最低限の治療を行うことを目標とします。

3. 血管炎症候群の薬物治療:ステロイド薬、免疫抑制薬など

血管炎症候群の薬物治療では免疫細胞や免疫細胞を活性化する物質を抑える薬を用います。具体的に血管炎症候群で用いられる治療薬には以下があります。

以下でくわしく説明していきます。

ステロイド薬

ステロイド薬は炎症を抑える作用のある薬で、血管炎症候群の中心的な治療薬になります。血管炎症候群の治療としては飲み薬や点滴薬のステロイド薬をよく使います。ステロイド薬の代表的な製剤としてはプレドニゾロン(商品名:プレドニン®など)があります。ほかにもメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®など)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®など)などのステロイド薬も使われます。ここでは血管炎症候群でのステロイド薬の使用方法と副作用につき見ていきたいと思います。

■飲み薬(内服療法)

血管炎症候群では病気の重症度に応じてステロイド薬の投与量が調整されます。プレドニゾロンを使用する場合、重い病態である場合にはプレドニゾロンとして1日30-60mgを投与されます。そのあと、病気の勢いが抑えられた後には徐々にステロイド薬の減量を進めていきます。ただし、血管炎症候群の治療でステロイド薬を中止することは難しく、通常ある程度の量のステロイド薬を継続することが多いです。具体的には1日5mgから10mg程度のプレドニゾロンとするのを目標に減らしていきます。ただし、10mgで病気の勢いが抑えられない場合には、より多い量を飲むこともありますし、逆に5mgでしばらく安定している場合には更に減量していきます。あとで詳しく述べますが、血管炎症候群はしばしば再燃といって、安定している状態から再び悪化することがあります。その際には、ステロイド薬を再度増量することで対応されます。

■点滴薬

血管炎症候群ではしばしば点滴のタイプを使います。点滴を使うケースとしては大きく2つの場合が考えられます。

1つ目は血管炎症候群の治療中にステロイド薬の内服ができなくなってしまった時の補充です。

多くのステロイド薬で治療している血管炎症候群の方ではステロイド薬により症状が抑えられているので、ステロイド薬を急に中断すると病気が悪くなる可能性があります。

加えて、ステロイド薬はもともと体内のホルモンであるコルチゾールと同じ作用があり、ステロイド薬を長期に内服すると体の中でコルチゾールを作らなくなってしまいます。その状態で自己判断でステロイド薬を中止してしまうと、体内でコルチゾールの作用が不足し、ホルモン欠乏により命に関わることもあります。そのため、例えば体調が悪く薬が飲めなくなってしまった場合でも、点滴によりステロイド薬を継続しなければなりません。

2つ目はステロイド薬の内服よりも強力な治療が必要な場合です。つまり、飲み薬による治療でも血管炎症候群が良くならない重い病態である時や、病気の進行が早く一刻を争う時です。この場合、ステロイドパルス療法といって大量のステロイド薬を点滴で投与します。ステロイドパルス療法には、内服療法で用いられるプレドニゾロンではなくメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール®など)を使うことが多く、たとえばメチルプレドニゾロンを1日500-1000mg点滴静注、3日間といった形で使用されます。ステロイド薬には血圧上昇の副作用がありますが、メチルプレドニゾロンは血圧上昇が出にくい製剤であるため、ステロイドパルス療法など大量のステロイド薬が投与される場合にはメチルプレドニゾロンが選択されます。

■ステロイド薬の副作用は?

血管炎症候群においてステロイド薬は高い有効性をあらわす一方で、その副作用には注意が必要となります。ステロイド薬の副作用としては、免疫が抑えられたことにより感染症にかかりやすくなること、血糖上昇、血圧上昇、肥満コレステロール上昇、眠れない、気分の落ち込み・高ぶり、骨がもろくなる、などが挙げられます。またステロイド薬を大量に点滴静注するステロイドパルス療法では、副作用が強く出ることがあります。例えば、ステロイドパルス療法では大腿骨頭壊死という股関節の骨が壊れてしまう副作用が報告されています。

ステロイド薬を使用する場合には、種々の副作用を防ぐために、予防的に薬を飲むことがあります。例えば、感染症にかかりやすくなることへの対策としてはST合剤(エスティーごうざい)などの抗生物質を、骨がもろくなる対策としてビタミンD製剤ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症(こつそしょうしょう)治療薬を予防的に使うことがあります。

ステロイド薬使用中に体調変化があった場合には、まずは医師や薬剤師などに連絡・相談することが大切です。ステロイド薬(内服薬)の副作用に関してはコラム「ステロイド内服薬の副作用とは」でも紹介しています。

免疫抑制薬

免疫抑制薬は免疫細胞の活性化を抑える薬です。免疫抑制薬は臓器移植など様々な状況で用いられますが、異常になった免疫細胞の活性化を抑える目的で血管炎症候群でも用いられます。血管炎症候群で用いられる代表的な免疫抑制薬は以下の通りです。

  • シクロホスファミド
  • アザチオプリン
  • メトトレキサート
  • タクロリムス
  • シクロスポリン

以下でくわしく説明していきます。

■シクロホスファミド(商品名:エンドキサン®など)

シクロホスファミドはアルキル化剤という薬剤に分類されます。血管炎症候群の治療では免疫抑制薬として使われます。シクロホスファミドは生体内で代謝・活性化された後、細胞増殖に必要なDNAの合成を阻害する作用をあらわします。シクロホスファミドはDNAの合成を阻害することで免疫細胞の活性を抑え、血管炎症候群で治療効果を発揮します。

シクロホスファミドには内服薬と注射剤があり病態や用途などに応じて選択が可能です。内服薬の場合は50-100mgを連日内服、注射剤の場合には500-1000mg(病状に応じてより多い量を使用することもあります)を2-4週間に1回点滴投与で使います。シクロホスファミドの副作用の一つとして発がん性がありますが、これはシクロフォスファミドの使用量が多くなるほど、起こりやすくなることが知られています。そのためシクロホスファミドは血管炎症候群の病気の勢いがある時に一時的に使用されます。具体的には腎臓に障害がある場合や神経精神症状を呈する場合などで用います。

シクロホスファミドの副作用として易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)には注意が必要です。そのため、日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意が大切になります。

また腎臓から排泄されたシクロホスファミドが膀胱を傷つけ血尿の原因となることがあります。これを出血性膀胱炎と呼びますが、出血性膀胱炎は血の塊が尿道や尿管などの尿の通り道を閉塞するリスクがあることや膀胱がんの原因となることがあります。そのため、シクロホスファミドを点滴で使用する時は水を多めに飲む、ウロミテキサンと呼ばれる予防薬を使用するといった対応が取られます。

またシクロホスファミドを大量に使用すると卵子や精子に影響を与え、不妊の原因となることがあります。治療中に妊娠した場合、胎児に影響があらわれる可能性があります。そのため、妊娠中または妊娠している可能性のある女性への投与は避けることが望ましいとされています。

その他、副作用としてアナフィラキシー骨髄抑制(血液細胞数の減少)、間質性肺炎、心臓への障害、吐き気や口内炎などの消化器症状、肝機能障害などがあります。

■アザチオプリン(商品名:イムラン®など)

アザチオプリンはプリン代謝拮抗薬に分類される免疫抑制薬です。アザチオプリンはDNAの合成を阻害することで免疫細胞の活性を抑え、血管炎症候群に対する治療効果を発揮します。

アザチオプリンは連日内服する薬剤です。用量としては1日50-100mg内服します。最初は1日50mg内服(高齢者では25mg内服から開始することもあります)から開始し、副作用の出現に注意しながら週単位で増量します。この薬剤は蓄積毒性が少ないため、寛解維持療法として用いられることが多く、シクロホスファミドなどで寛解導入療法を施行された患者で用いられることが多いです。

アザチオプリンの副作用としては免疫を抑える薬であるため、易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)には注意が必要です。日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意も大切です。その他、骨髄抑制(血液細胞数の減少)や肝機能障害、腎障害などがあります。

■メトトレキサート(商品名:リウマトレックス®など)

メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬(ようさんたいしゃきっこうやく)と呼ばれる種類の薬剤です。メトトレキサートの作用の仕組みを考える上で重要となる物質に葉酸(ようさん)があります。葉酸は体内で代謝され活性化された後、細胞増殖などに関わります。メトトレキサートはこの葉酸を使った細胞増殖のプロセスを抑えることで、おかしくなった免疫細胞が増えないようにします。

メトトレキサートを服用する場合には通常、週1回または週2回の服薬日を決め、週の他の曜日は休薬とします。一般的に服用量が週6mgを超える場合では葉酸製剤(一般的にはフォリアミン®)を服用します。葉酸製剤を服用するのは、メトトレキサートを最後に服用した翌日または翌々日です。

仮にメトトレキサートを土曜日と日曜日に服用する場合、葉酸製剤を服用するのは通常、月曜日または火曜日となります。これらの服用日や服用時点に関しては個々の状態などによっても変わってきますので、主治医などからメトトレキサートの服用方法、必要があれば葉酸製剤の服用方法などをしっかりと聞いておくことが非常に大切です。

メトトレキサートの副作用としては、易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)には注意が必要です。使用している用量や体質などによっても感染の危険性は異なりますが、日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意も大切です。その他、副作用として口内炎、吐き気や食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制(血液細胞数の減少)、間質性肺炎、肝機能障害、腎障害などがあります。またまれですが、悪性リンパ腫の原因になるという報告もあります。これらの多くは葉酸の働きが阻害された影響により生じるもので、葉酸を適切に補給することによって予防したり症状を軽減することができます。メトトレキサートには催奇形性があるため、妊娠の3ヶ月前から服薬を中止する必要があります。

■メトトレキサート服用中の注意点

メトトレキサートの作用の仕組みにおいて葉酸がポイントとなります。葉酸は野菜などの食品にも含まれる物質です。しかし、通常の食事の範囲なら治療に影響する心配ありません。主治医から特別な指示がない場合には日常生活での食事の内容に制限は必要ないと考えられます。ただし、サプリメントなどの健康食品には比較的多くの量の葉酸を含むものがあり、メトトレキサートの効果を弱めてしまう可能性も考えられるため注意が必要です。サプリメントなどの健康食品を摂取してもいいかどうかは事前に主治医と相談することが必要です。

■タクロリムス(商品名:プログラフ®など)

タクロリムスはカルシニューリン阻害薬に分類される免疫抑制薬です。タクロリムスは、体内の免疫反応の中心的な役割を果たしているT細胞と呼ばれるリンパ球の活性化を阻害することにより、免疫抑制効果を発揮します。

タクロリムスには内服薬と点滴薬がありますが、血管炎症候群では内服薬が用いられることが多いです。用量は通常、1日3mgもしくはさらに少ない用量で使われます。またタクロリムスは同じ量を飲んでいても患者ごとに血中濃度のばらつきが大きいため、血中濃度のモニタリングを行いながら用量調整することが推奨されています。

タクロリムスの副作用としては、易感染性(いかんせんせい:細菌やウイルスなどに感染しやすくなること)があります。そのため、タクロリムス使用中は日頃から手洗い・うがいを行うなど日常生活における注意も大切です。

その他、腎障害、血圧上昇などの循環器症状、ふるえやしびれ、不眠などの精神神経系症状、高血糖(耐糖能異常)、肝機能障害などに注意が必要です。

■シクロスポリン(商品名:ネオーラル®など)

シクロスポリンは免疫抑制薬の一つで、タクロリムス同様、カルシニューリン阻害薬に分類される薬です。

シクロスポリンもタクロリムス同様に、内服薬と点滴薬がありますが、血管炎症候群では内服薬が用いられることが多いです。シクロスポリンは同じ量を飲んでいても患者ごとに血中濃度のばらつきが大きいため、血中濃度のモニタリングを行いながら用量調整することが推奨されています。

シクロスポリンの副作用として易感染性、多毛、歯肉増殖、腎障害、高血圧、高血糖、肝機能障害などがあります。

■タクロリムスやシクロスポリン内服中はグレープフルーツジュースを飲んではいけない?

タクロリムスやシクロスポリン内服中にグループフルーツを摂取した場合、タクロリムスやシクロスポリンの血液中の濃度が上昇する可能性があります。場合によっては腎障害などの副作用が現れることも考えられるため注意が必要です。同じ柑橘類でもみかん(温州みかん)では相互作用の問題がないとされていますが、八朔(ハッサク)などの柑橘類ではグレープフルーツほどではないにせよ相互作用が現れる可能性も考えられます。日頃から柑橘類をよく食べる習慣がある場合は、事前に医師や薬剤師に伝えるようにしてください。

生物学的製剤

医学の進歩に伴い、症状の原因となっている物質の解析が進んでいます。それに加えて最新のバイオテクノロジー技術を用いて、原因物質を直接阻害する薬の開発ができるようになりました。このような薬を生物学的製剤と呼びます。血管炎症候群では生物学的製剤の有効性が認められています。血管炎症候群で用いられることがある生物学的製剤は以下の通りです。

  • トシリズマブ
  • インフリキシマブ
  • メポリズマブ

以下でくわしく説明していきます。

■トシリズマブ(商品名:アクテムラ®)

トシリズマブは免疫細胞の活性に関わる物質であるインターロイキン6(IL-6)の働きを阻害する薬です。血管炎症候群の中でも巨細胞性動脈炎高安動脈炎への有効性が認められています。

トシリズマブには静脈内注射タイプと皮下注射タイプの剤形がありますが、巨細胞性動脈炎高安動脈炎に使用する場合には皮下注射タイプのものが用いられます。注射は毎週行いますが、病状が良くなっている場合には注射の投与間隔を延長することもできます。また在宅での投与(自己注射)も可能です。また、ボタンを押すことで自動的に薬液が注入されるオートインジェクタータイプの皮下注射製剤もあります。

トシリズマブの副作用としては、他の血管炎症候群の治療薬と同様、免疫を抑える作用があるため、感染症に注意が必要です。炎症を抑える薬剤であるため、逆に感染症による炎症がわかりにくくなることあります。発熱、喉の痛み、咳、鼻水など風邪のような症状が現れた場合、最初は症状が軽度だったとしても医師や薬剤師などに連絡することが大切です。

また頻度は非常にまれとされていますが、薬に対するアレルギー反応により、血圧低下や呼吸困難などの症状が現れる場合があります。他にも口内炎や下痢などの消化器症状、血中コレステロール増加、発疹などの皮膚症状、注射をした場所にかゆみや痛みがあらわれることもあります。

■インフリキシマブ(商品名:レミケード®)

インフリキシマブは免疫細胞の活性に関わる物質であるTNFαの働きを阻害する薬です。血管炎症候群の中でも川崎病や血管型ベーチェット病への有効性が認められています。インフリキシマブは病院などの医療機関で投与(静注)する注射剤です。川崎病や血管型ベーチェット病の治療では個々の体重に合わせた薬剤量を初回・2週後・その4週後(初回投与から6週後)と投与し、その後は8週ごとの投与を行っていきます。病状によっては投与量の調整がされます。

インフリキシマブの副作用としては他の血管炎症候群の治療薬と同様、感染症に注意が必要です。最初は軽度な症状に感じても急に悪化するケースもあります。咳(空咳)、息苦しさ、発熱などの症状がみられた場合は医師や薬剤師などに連絡し受診や検査の必要の有無などを相談することが重要です。

その他、薬に対するアレルギー反応にも注意が必要です。製剤の特徴から、トシリズマブと比べるとアレルギー反応も起こりやすいです。アレルギーの結果として、血圧低下や息苦しさ、蕁麻疹じんましん)などが現れることがあります。これらのアレルギー反応はインフリキシマブ投与後、数時間以内にあらわれることが多いです。もし、インフリキシマブによる点滴治療を受けた後に、体調不良を自覚された場合には、できるだけ早く担当の医師と相談するようにしてください。

■メポリズマブ(商品名:ヌーカラ®)

メポリズマブ(ヌーカラ®)はインターロイキン-5(IL-5)という物質を制御して好酸球という細胞を抑える薬です。血管炎症候群の中で好酸球性多発血管炎性肉芽腫症への有効性が認められています。4週間ごとに皮膚に注射します。メポリズマブの副作用としては注射した部位の皮膚が痛くなったり腫れたりすること、頭痛などが報告されています。稀に酷いアレルギー反応を起こすこともあります。

分子細胞標的薬

近年医学の進歩に伴い、病気の原因となるような細胞の解析も進んでいます。分子細胞標的薬はそのような病気の原因となる細胞を標的とした治療薬です。分子細胞標的薬が広く用いられている分野はがん細胞を対象としたものですが、血管炎症候群でも病気と深く関わる細胞が分かってきているので、分子細胞標的薬を治療に用いられることがあります。血管炎症候群で用いられることがある分子細胞標的薬はリツキシマブです。

以下でくわしく説明していきます。

■リツキシマブ(商品名:リツキサン®)

リツキシマブは血管炎症候群と深く関わっている免疫細胞の中でもB細胞と呼ばれる免疫細胞を標的とした治療薬です。リツキシマブを投与することで、体の中からB細胞がほとんどいなくなります。もともとリツキシマブはB細胞のがんに対する治療薬として開発されましたが、2013年に顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症に対する有効性も認められ、これらの血管炎症候群に対しても用いることができるようになりました。

リツキシマブは病院などの医療機関で投与(静注)する注射剤です。顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症の治療では個々の体重に合わせた薬剤量を初回から1週間隔で計4回投与します。4回投与を行った後、半年間ほど間隔をあけてリツキシマブの再投与を行います。

リツキシマブの副作用としては他の血管炎症候群の治療薬と同様、感染症に注意が必要です。最初は軽度な症状に感じても急に悪化するケースもあります。咳(空咳)、息苦しさ、発熱などの症状がみられた場合は医師や薬剤師などに連絡し、受診や検査の必要の有無などを相談することが重要です。

その他、薬に対するアレルギー反応にも注意が必要です。インフリキシマブ同様、アレルギー反応も起こりやすいです。そのため、リツキシマブ使用前には事前にアレルギーの予防薬を投与します。アレルギーの症状としては、血圧低下や息苦しさ、蕁麻疹じんましん)などが現れます。これらのアレルギー反応はリツキシマブ投与後、数分から数時間以内にあらわれることが多いです。もし、リツキシマブによる点滴治療を受けた後に、体調不良を自覚された場合には担当の医師と相談するようにしてください。

4. 血管炎症候群の薬物治療以外の治療法

血管炎症候群の薬物治療以外の治療法には以下のものがあります。

  • 免疫グロブリン静注療法
  • 血漿交換療法

以下でくわしく説明していきます。

免疫グロブリン静注療法

免疫グロブリン静注療法は免疫グロブリン製剤を点滴投与する治療法です。免疫グロブリンとは免疫に関わる物質の1つです。血管炎症候群の中では、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の神経症状(しびれや手足が動かしにくいなど)や川崎病に対して、免疫グロブリン静注療法の有効性が認められています。

免疫グロブリン製剤は献血により得た健康な人の血液から免疫グロブリンを精製することで作られます。免疫グロブリン静注療法がなぜ血管炎症候群に有効なのか、はっきりとは分かっていませんが、健康な人の免疫グロブリンを投与することで血管炎症候群の人の血液中にある悪い免疫グロブリンの作用が弱くなることで効果を発揮するのではないかと考えられています。

血漿交換療法

血漿とは血液のうち、白血球赤血球血小板といった血球成分を除いた液体成分のことをいます。血漿には血管炎症候群の原因になる物質が含まれており、血漿を取り除いて、健康な人の血漿成分を投与する治療が血漿交換療法です。

血漿交換療法は薬物療法でも改善しない場合や、症状の進行が早い場合など重症な血管炎症候群の治療として用いられます。血漿交換療法は通常の点滴で用いられるものより太い管を首や足の付け根など太い血管があるところに挿入して、血液の回収を行う必要があります。そのため、永続的に行うことはできず、症状を良くするために一時的に行うことがほとんどです。

副作用としては補充に使う血漿は他人のものを用いるため、血漿に対するアレルギーが起こることがあります。また、血漿交換療法に必要な管を挿入する際には、出血、管を介しての感染症、気胸(肺に穴が開いてしまうこと)などに注意が必要です。

5. 血管炎症候群の外科手術

血管炎症候群の治療の基本は薬物療法です。しかし、病気の状態が深刻な場合など、免疫細胞により傷つけられた血管が薬物療法で十分良くならないことがあります。薬物療法を行った後でも血管壁に障害が残ってしまった場合には外科手術の対象となることがあります。

手術は高安動脈炎や血管型ベーチェット病など太い血管が障害された時に行われることが多いです。手術が検討されるのは以下のようなケースです。

  • 動脈瘤(どうみゃくりゅう)
    • 動脈がこぶのようになり(動脈瘤)、破裂の危険性がある場合
  • 動脈の閉塞
    • 脳や腎臓、心臓など大事な臓器に血液を送る動脈が詰まってしまった場合

動脈が破裂したり詰まったりすると生命に危険が及ぶ深刻な事態に陥ります。手術の目的は危険な状態に対してあらかじめ対処を講じることにより深刻な事態を回避することです。

手術の方法には以下のようなものがあり、病気や患者さんの状態に応じて選びます。

  • 動脈瘤に対する外科手術
    • 人工血管置換術
    • ステントグラフト内挿術
  • 動脈の閉塞に対する外科手術
    • 血管バイパス術

ステントグラフトは治療の性質上、カテーテル治療として説明されることもありますが、ここでは外科手術の1つとして解説します。以下で個別の治療について説明します。

参考文献
日本循環器学会ほか, 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン

動脈瘤に対する外科手術

■人工血管置換術

人工血管置換術は血管炎によって傷ついた血管を切り取り開き、その中に人工の血管を埋め込み正常な部分とつなぎ合わせます。人工血管置換術は、大動脈という体の真ん中の左寄りにある太い血管にこぶができた場合(大動脈瘤:だいどうみゃくりゅう)に検討される手術です。

大動脈は心臓から出て、足の方向に進み、それぞれの臓器に栄養を送る血管に分岐していきます。胸部の大動脈は胸部大動脈、腹部の大動脈は腹部大動脈とそれぞれ名前がついていますが、これらは一本の動脈です。つまり心臓を水源に例えると胸部大動脈が上流、腹部大動脈が下流になります。人工血管置換術を胸部大動脈瘤に対して行うときには胸を切って、腹部大動脈瘤に対して行うときにはお腹を切って行います。

人工血管置換術は胸部・腹部のどちらも体への負担が大きな手術です。対して、同じような効果を得られる治療にステントグラフト内挿術があります。ステントグラフト内挿術は体への負担が小さい治療なのですが、行うことができるケースが限定されていて全ての人に用いられる訳ではありません。

手術は勧められた際、薬物治療でどうにかならないのかと思うこともあるかもしれません。しかし、手術が勧められるときにはそれなりの理由があります。手術について、ためらう場合には医師の話をよく聞いて治療で得られる効果や合併症(治療に伴う望ましくない結果)などを聞いてみてください。そこには医師が妥当だと思う理由があり、納得の手助けになるかもしれません。

■ステントグラフト内挿術

ステントグラフト内挿術は血管炎により大動脈の一部がこぶ状に太くなってしまった際(大動脈瘤)に用いられる治療法です。こぶ状になった大動脈は壁が薄くなり破裂する危険性が高くなっています。ステントグラフト内挿術の治療目的は大動脈瘤の破裂を予防することです。ではステントグラフト内挿術はどのようにして破裂する危険をふせいでいるのでしょうか。

ステントグラフトは筒状の物体で、血管の中に挿入して血管の中で広げると血管が内側からステントグラフトによって裏打ちされます。ステントグラフトがうまく血管の中に挿入されると血液がその中を流れて外側にある大動脈の壁への負担を減らすことができます。このようにしてステントグラフト内挿術は、大動脈のこぶが破裂するのを予防します。

ステントグラフト内挿術は、お腹や胸を開くわけではなく足の付け根を数cm切開して行われます。ステントグラフト内挿術にかかる時間は人工血管置換術に比べて短く体への負担も少なくてすむことが多いです。

動脈の閉塞に対する外科手術

■血管バイパス術

バイパスは迂回路のことで、血管バイパス術は血管炎によって血管の中が狭くなった場合の治療です。イメージとしては狭くなった血管の先に血液が届くように、太く流れのよい血管から繋ぎ直す手術です。

血管が細くなるとどんな問題が起こるのでしょうか。血管は動脈と静脈の2つに分けられ、動脈が細くなり血液の流れが悪くなると酸素や栄養が行き渡りにくくなります。血液の流れが悪くなると様々な症状が現れます。例を挙げてみます。足へ向かう動脈が狭くなるとしばらく歩くと痺れや痛みが現れて、少し休憩するとまた歩けるようになるなどの症状が現れます。この症状を間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。間欠性跛行は、生活を送る上でも支障をきたしますし、進行すると足の先が壊死するなどの深刻な状態に陥ることもあるので、適切なタイミングで治療を検討しなければなりません。