たはつせいこつずいしゅ
多発性骨髄腫
血液がんの一種。免疫細胞の一種が異常ながん細胞となり、骨髄の中で増殖する状態。骨や免疫が弱くなったりする。
9人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2020.01.15

多発性骨髄腫の治療について

多発性骨髄腫の治療の基本は抗がん剤による治療(化学療法)です。一口に抗がん剤といってもさまざまな種類があるので、その中から一人ひとりに合った抗がん剤を選んで適切な治療を行います。また、人によっては自家造血幹細胞移植骨髄移植の一種)を抗がん剤治療と組み合わせて行います。ここでは化学療法と自家造血幹細胞移植(自家移植)による治療について詳しく説明します。

1. 多発性骨髄腫の治療方針について

多発性骨髄腫の治療には「抗がん剤を使った化学療法」と「自家造血幹細胞移植(自家移植)」の2種類があります。自家移植は多発性骨髄腫に対する効果は大きいですが、身体に対する負担も大きい治療です。そのため、自家移植を行うかどうかは患者さんの年齢(目安として65歳未満かどうか)と、心臓や肺など重要な臓器に問題がないかなどの全身の状態を確認して判断します。自家移植は化学療法で病気の勢いを抑えたあとに行います。一方で、自家移植をしない場合は化学療法のみで病気をコントロールします。

自家造血幹細胞移植を行う人の治療の流れ

年齢が若く(目安として65歳未満)心臓や肺など重要な臓器に問題がないことを確認できた人は、化学療法を行ったあとに自家移植を行います。

まず、化学療法では1から3種類の薬を組み合わせて、病気の勢いを十分に抑えます。1つ目の薬の組み合わせで病気の勢いを十分に抑えられない時は、異なる薬の組み合わせに変更して治療します。2つ目の薬の組み合わせでも病気の勢いが抑えられない時は、さらに異なる薬の組み合わせを使います。このように、病気の勢いを抑えられるまで薬の組み合わせ変えながら治療をしていきます。化学療法で病気の勢いを十分に抑えた後、自家移植を行います。

自家造血幹細胞移植を行わない人の治療の流れ

年齢(目安として65歳以上)が高い人や心臓や肺など重要な臓器に心配な点がある人は、身体への負担を少なくするために、化学療法のみを行います。化学療法については自家移植を行う人と同様で、病気の勢いを十分に抑えられるまで、薬の組み合わせを変えながら治療をしていきます。

2. 多発性骨髄腫の薬物治療について

多発性骨髄腫の治療ではさまざまな薬を使います。薬は大きく3種類に分けられ、これらをうまく組み合わせて治療を行います。

【多発性骨髄腫の薬物治療】

  • 分子標的薬
  • 免疫調整薬
  • ステロイド薬
  • 細胞障害性抗がん剤

これらの薬について詳しく説明します。

分子標的薬

分子標的薬はがん細胞を主に攻撃する薬です。がん細胞の特徴を利用して攻撃をすることで、正常の細胞に対する影響をできるだけ少なくしています。多発性骨髄腫でよく使われる分子標的薬は次の3種類です。

これらについて詳しく説明します。

■プロテアソーム阻害薬

プロテアソームは細胞の中に存在する酵素で、要らなくなったタンパク質を分解して処理する役割があります。このプロテアソームの働きを抑えるのがプロテアソーム阻害薬です。がん細胞は増殖が早いので、不要なタンパク質が細胞内に溜まるのも早いです。プロテアソームの働きを阻害薬で抑えると、がん細胞内に要らないタンパク質が蓄積し、がん細胞は死んでしまいます。一方で、正常細胞はがん細胞ほど影響を受けることはないので、治療薬として使うことができます。

具体的には、ボルテゾミブ(ベルケイド®)、カルフィルゾミブ(カイプロリス®)、イキサゾミブ(ニンラーロ®)といった薬があります。副作用として手足のしびれなどが起こることがあるので、気になる症状が出てきた時はお医者さんに相談してください。

■ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(HDAC阻害薬)

骨髄腫細胞では、ヒストン脱アセチル化酵素という化学反応に関わる物質が活発に働いています。HDAC阻害薬はこの酵素の働きを抑えることで骨髄腫細胞を減らします。薬にはパノビノスタット(ファリーダック® )があります。

■抗体医薬

近年、病気の原因となっている細胞にのみ作用し、正常細胞に対する副作用が少ない薬の開発が進んでいます。その一つが抗体医薬です。これは、身体の中で細菌ウイルスを認識し排除する抗体のような構造をしているので抗体医薬と呼ばれます。多発性骨髄腫の治療で使われる抗体医薬の中にはエロツズマブ(エムプリシティ®)やダラツムマブ(ダラザレックス®)があります。

これらの薬による副作用の一つに輸注反応があります。輸注反応とは投与している薬剤に身体が反応し、発熱、悪寒、蕁麻疹などの症状が出ることをいいます。重症になると呼吸困難感や血圧低下による症状が現れることもあります。輸注反応を予防するために、投与前にステロイドアレルギーの薬が使われます。

免疫調整薬

免疫調整薬はその名の通り免疫を調整する作用をもっています。骨髄腫細胞に直接働きかけて増殖を抑えたり、骨髄腫細胞を攻撃する免疫細胞の作用を強めるといった効果があります。免疫調整薬にはレナリドマイド(レブラミド®)、ポマリドミド(ポマリスト®)、サリドマイド(サレド®)があります。

サリドマイドと聞くと、お腹の赤ちゃんへの影響が問題になったことがあるので心配になる人もいるかもしれません。しかし、現在では薬を管理するための仕組みが作られ、安全に使用できるようになっています。治療を開始するときには、患者、医師、薬剤師を「サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS)」に登録して処方を管理します。また、妊娠の可能性がある患者は使用前に妊娠の有無を必ず検査で確認します。もし、処方されたあとに飲まなかった薬がある時は、その薬を捨てずに返却する必要があるので注意してください。

副作用の一つに血栓症(血管の中に血の塊ができてしまうこと)があります。血栓症の予防のために、免疫調整薬を内服するときはアスピリンを飲むことが多いです。

ステロイド薬

ステロイド薬は免疫機能を抑える薬です。ステロイド薬にはいくつかのタイプがありますが、飲み薬や点滴薬が使われることが多いです。

◼︎ステロイド薬の種類や量について

多発性骨髄腫の治療でよく使われるものにプレドニゾロン(プレドニン®)、デキサメタゾン(内服:レナデックス®️、点滴:デキサート®️など)があります。

◼︎ステロイド薬の副作用について

ステロイド薬を使用する時は副作用に注意が必要です。具体的には次のような症状があります。

【ステロイド薬の副作用】

  • 易感染性(感染症にかかりやすくなること)
  • 血糖上昇
  • 骨が弱くなる
  • 血圧上昇
  • コレステロール上昇
  • 皮膚症状(にきびなど)
  • 気分の高ぶりや落ち込み
  • ムーンフェイス(顔の形が丸くなる)
  • 肥満

これらのステロイド薬の副作用を防ぐために、予防的に薬を飲むことがあります。例えば感染予防のためにはST合剤という抗生物質が使われます。また、糖尿病の人はステロイドで血糖値が上がってしまうことが多いので、薬の調整や、一時的にインスリンを使い血糖値をコントロールすることがあります。

細胞障害性抗がん剤

細胞障害性抗がん剤は、一般的に「抗がん剤」といわれている薬です。多発性骨髄腫の治療でよく使われる薬には、自家移植の前処置などで使われるメルファラン(アルケラン®)や自家移植のときの幹細胞採取などで使われるシクロホスファミド(エンドキサン®)があります。その他骨髄腫治療で使われる薬にはドキソルビシン(アドリアシン®)、ビンクリスチン(オンコビン®)などがありますが、プロテアソーム阻害薬などの薬が登場し、使われることが少なくなっています。

抗がん剤にはがん細胞を攻撃して増殖を抑える効果があります。一方で、正常な細胞にも影響を与えるので、吐き気や粘膜障害(口内炎など)、白血球減少、貧血血小板減少などの副作用が出てしまうことがもあります。吐き気などには症状を和らげる薬を使い、貧血や血小板減少に対しては輸血で対応したりと、副作用をできるだけ抑えて治療を進められるようにします。

この他にも使用する薬剤によって特有の副作用がみられることがあります。治療前にお医者さんの説明をよく聞いて、体調の変化が出てきた時はすぐに相談するようにしてください。

3. 自家末梢血造血幹細胞移植について

造血幹細胞移植は骨髄移植とも呼ばれ、こちらの名前で聞いたことがある人も多いかもしれません。造血幹細胞とは血液細胞(白血球、赤血球、血小板)のもとになる細胞のことです。

まず、大量の抗がん剤を使って、患者さんの造血幹細胞をがん細胞もろともできるだけ死滅させる「前処置」を行います。そのあとに、正常な造血幹細胞を輸注することで、正常な造血幹細胞から新たな血液細胞が作られるようになります。いくつかある骨髄移植の方法の中で、多発性骨髄腫の治療で行われるのは「自家末梢血造血幹細胞移植」と呼ばれる方法です。

移植の大まかな流れは以下の通りです。

【自家末梢血造血幹細胞移植の流れ】

  • 造血幹細胞採取
  • 前処置
  • 造血幹細胞輸注(点滴で身体の中に投与すること)
  • 輸注後から生着まで
  • 移植後維持療法

これらについて詳しく説明します。

造血幹細胞採取

自家末梢血造血幹細胞移植では、化学療法で病気の勢いを十分に抑えた後に、自分の造血幹細胞を採取します。造血幹細胞は骨髄(骨の中)にあり、通常は末梢血(全身を流れている血液)には存在しません。そのため、採取の時は薬を使って造血幹細胞が末梢血に流れ出るようにします。そのための薬の一つに顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤があります。中でもフィルグラスチム(グラン®)、レノグラスチム(ノイトロジン®)がよく使われます。また、最近G-CSF製剤とは異なる効き方をするプレリキサホル(モゾビル®)という新しい薬剤も使われるようになっています。

一般的には、G-CSF製剤を4-6日連続で点滴もしくは皮下注射して、末梢血に造血幹細胞が出てきたタイミングで採取を行います。造血幹細胞を採取するときに使う機械は、献血で使われるようなものと同様で、血液の中の必要な成分のみを回収して残りの成分を身体に戻します。採取された造血幹細胞は輸注する時まで冷凍保存しておきます。

前処置

前処置とは、造血幹細胞を輸注する前に行う抗がん剤治療のことです。前処置では患者さんの体内に残る骨髄腫細胞をできるだけ少なくするため、通常の化学療法より強い抗がん剤を使います。最もよく使われる前処置がメルファラン(アルケラン®)という薬を2日連続で投与する「大量メルファラン療法」です。メルファランの副作用には口内炎などの粘膜障害があるので、投与前15分から投与後30分まで氷を口に含んで冷やし、口内炎を予防します。(この予防法をクライオセラピーと言います。)その他の副作用として貧血や血小板減少があります。貧血や血小板の値は採血で頻繁に確認し、場合によっては輸血が必要となることもあります。

造血幹細胞輸注

前処置終了から1、2日後に冷凍保存しておいた造血幹細胞を解凍し、輸血と同じように点滴で輸注します。輸注の時は心電図を確認したり、バイタルサイン(血圧や脈拍など)を定期的に計測したりして副作用がないことを確認しながら慎重に行います。

輸注後から生着まで

輸注された幹細胞が骨髄に定着し、造血(骨髄で白血球、赤血球、血小板をつくること)を始めることを生着と言います。生着は輸注してから2週間程度かかるため、それまでの期間は造血が安定しない状態が続きます。白血球が少ない状態が続くと、細菌やウイルス感染にかかりやすくなってしまうので、生着が確認されるまでは無菌室で生活し、感染の予防のために抗菌薬や抗ウイルス薬を内服します。また、赤血球や血小板が少ないと貧血や出血による症状が出ることがあるので、必要に応じて輸血されることがあります。

移植後維持療法

自家移植は多発性骨髄腫に対して非常に効果的な治療です。しかしながら、自家移植を行っても再発してしまう人が少なからずいます。そこで、再発の可能性をできるだけ少なくする目的で、自家移植後に軽めの化学療法を継続することがあります。これを移植後維持療法といいます。移植後維持療法の有効性は近年報告されたばかりで、さらなる検討がなされているところです。2019年4月現在では、染色体検査で骨髄腫細胞の染色体に異常が見つかるなど、リスクが高いと判断された人が維持療法を受けることが多いです。

4. 支持療法について

多発性骨髄腫では骨髄腫細胞に対する治療だけではなく、骨の病変に対する治療も大事です。骨痛や骨折の予防のために、ビスホスホネート製剤アレンドロン酸など)や、抗RANKL抗体(デノスマブ)を使います。場合によっては骨痛を和らげるために放射線による治療をすることもあります。