[医師監修・作成]多発性骨髄腫の検査について | MEDLEY(メドレー)
たはつせいこつずいしゅ
多発性骨髄腫
血液がんの一種。免疫細胞の一種が異常ながん細胞となり、骨髄の中で増殖する状態。骨や免疫が弱くなったりする。
9人の医師がチェック 115回の改訂 最終更新: 2022.05.30

多発性骨髄腫の検査について

多発性骨髄腫が疑われた人はいろいろな検査を受けることになります。このページでは多発性骨髄腫に関連する診察や検査について説明していきます。

1. 問診

問診とは患者さんとお医者さんの対話による診察のことです。患者さんは困っている症状を伝えて、お医者さんからは症状などについて詳しい質問を受けます。次は問診の例です。

  • 困っている症状は何か
  • いつから症状があるか
  • いままでにかかったことのある病気はあるか(既往歴)
  • 今飲んでいる薬はあるか

多発性骨髄腫の人は骨がもろくなり、骨折しやすくなっています。今まで骨折(腰の圧迫骨折など)をしたことがある人、腰や背中などに痛みがあったりする人はお医者さんに伝えるようにしてください。また、骨髄腫細胞の増殖や大量に作り出されるM蛋白の影響で全身にさまざまな症状が現れることがあります。身体の不調があれば何でも遠慮せずに伝えてください。

2. 身体診察

お医者さんがくまなく身体を調べることを身体診察いいます。具体的には次のようなことを確認されます。

  • バイタルサイン(脈拍数、体温、血圧など)
  • 視診
  • 触診
  • 聴診
  • 神経学的診察

バイタルサインを確認することで身体の変化を早く見つけることができます。そのため、身体診察ではバイタルサインを最初に確認されることが多いです。視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。多発性骨髄腫の人は出血による紫斑(あざ)が見られることがあるので、紫斑がないか全身をくまなく診察します。また、まぶたの裏側(眼瞼結膜)を見ることで貧血があるかどうかを確認することができます。

骨の痛みを自覚する人は、触診でどの骨に痛みがあるのかを触って確認されることが多いです。また、まれではありますが、多発性骨髄腫の人では骨が変形して神経が圧迫され、手足のしびれや麻痺を自覚することがあります。神経に関する診察は神経学的診察と呼ばれ、具体的には感覚の確認や、腱反射の確認などが行われることが多いです。

3. 血液検査

血液検査は多発性骨髄腫の診断をする場面と、今後の病状の見通しを立てる場面で用いられます。具体的には以下のような項目を確認します。

【血液検査の項目】

  • 血算(白血球ヘモグロビンなどの測定)
  • 血液像(顕微鏡で血液をみる検査)
  • 腎機能(クレアチニン、BUN) 
  • 総蛋白、アルブミン
  • カルシウム
  • 免疫グロブリン
  • M蛋白の確認
    • 蛋白分画
    • 免疫電気泳動法、免疫固定法
    • 血清遊離軽鎖比
  • β2ミクログロブリン

それぞれの検査項目について説明します。

血算(白血球、ヘモグロビンなどの測定)

多発性骨髄腫が疑われたら、血算という検査で貧血がないかを確認します。血算ではヘモグロビンの値(貧血があるかの確認)と、白血球(免疫に関わる細胞)の数、血小板(出血を止める機能のある成分)の数を機械で計測します。

血液像(顕微鏡で血液をみる)

血液を顕微鏡で観察する検査を血液像といいます。血液の成分である白血球、赤血球、血小板の数や形を見て、問題がないかを確認します。

腎機能(クレアチニン、BUN)

多発性骨髄腫の人は腎機能が低下していることがあるので、腎機能に問題がないかを確認します。クレアチニンやBUNは身体に不要な老廃物で、本来腎臓で濾しとられて尿として排泄されます。しかし、腎臓の機能が落ちてくると、うまく濾しとられずに血液中のクレアチニンやBUNの濃度が上昇してきます。そのため、腎臓の機能を推測する検査として用いることができます。検査結果の用紙では、クレアチニンは「Cre」、BUNは「尿素窒素」と書かれていることもあります。

総蛋白、アルブミン

総蛋白は血液の中のタンパク質全体の量を表しています。通常は総蛋白のうちもっとも多いのがアルブミンというタンパク質で、全体の約6割を占めています。多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞がM蛋白というタンパク質を大量に作り出すので、アルブミンの値は正常にも関わらず、総蛋白の値が高くなります。

カルシウム

多発性骨髄腫の人は骨が溶けることで、血液中のカルシウム濃度が高くなることがあります。検査値は「Ca」と書かれているところに記載されていることが多いです。カルシウムの基準値は検査のキットなどにもよりますが、通常8.4から10.2 mg/dLであり、10.4 mg/dLを超えると高カルシウム血症といいます。高カルシウム血症についてはこちらのページも参考にしてください。

免疫グロブリン

免疫グロブリンは、細菌ウイルスなどの外敵を排除する免疫に関わるタンパク質です。免疫グロブリンは重鎖と軽鎖という部分からできていて、重鎖はIgA、IgG、IgM、IgE、IgDの5種類があり、軽鎖にはκ(カッパ)とλ(ラムダ)の2種類があります。免疫グロブリンの検査ではIgA、IgG、IgM、IgE、IgDそれぞれの値を測定できます。

多発性骨髄腫では骨髄腫細胞が機能を持たない異常な免疫グロブリン(M蛋白)を産生します。M蛋白にもIgA、IgG、IgM、IgE、IgDの5種類があり、このうち1種類のみ作られることが多いです。そのため、多発性骨髄腫の人では免疫グロブリンのうち1種類の値が高くなることが多いです。

M蛋白の確認

多発性骨髄腫では骨髄腫細胞がM蛋白を産生します。以下のような検査から、M蛋白の有無とその種類を確認できます。

  • 蛋白分画
  • 血清遊離軽鎖比
  • 免疫電気泳動法、免疫固定法

それぞれについて説明します。

○蛋白分画

血液の中にはたくさんの蛋白質が含まれています。それらの蛋白質を大きく5種類に分けて測定するのが蛋白分画の検査です。それぞれ、アルブミン分画、α1グロブリン分画、α2グロブリン分画、βグロブリン分画、γグロブリン分画といいます。M蛋白はγグロブリン分画に分類されるので、多発性骨髄腫により大量のM蛋白が作られていると、γグロブリン分画の値が上昇します(これをMピークといいます)。

○血清遊離軽鎖比(κ/λ比)

血清遊離軽鎖比は血液中の免疫グロブリンの軽鎖のκとλの比を測定するものです。骨髄腫細胞は1種類のM蛋白だけを大量に作り続けるので、κ、λのうち片方の軽鎖だけが多く作られます。κ/λ比が0.26未満か1.65より大きい時は、正常ではない免疫グロブリンが作られている可能性があります。

○免疫電気泳動法、免疫固定法

M蛋白の存在が疑われた人に行われる検査が、免疫電気泳動法と免疫固定法です。免疫電気泳動法と免疫固定法では、M蛋白の有無とM蛋白の種類を調べることができます。たとえば、M蛋白を構成している重鎖がIgGで軽鎖がκであることがわかれば、「IgGκ型の骨髄腫」というように呼びます。

β2ミクログロブリン、LDH

骨髄腫細胞が増えることで、血液中のβ2ミクログロブリンやLDHが上昇することが知られています。β2ミクログロブリンとLDHの値から、その後の病状の推移をある程度予測することができます。

4. 尿検査

多発性骨髄腫が疑われる人では、尿検査の中でも「尿中のベンスジョーンズ蛋白」の確認が特に重要です。多発性骨髄腫の中には、血液検査では測定できず、尿検査でなければ測定できない種類のM蛋白があり、これをベンスジョーンズ蛋白といいます。ベンスジョーンズ蛋白はとても小さいので血液にはとどまらず尿に出てきてしまうため、血液検査ではなく尿検査で確認する必要があります。

尿検査では以下の項目を確認します。

【尿検査の項目】

  • 尿定性
  • 尿沈査
  • 尿蛋白
  • 尿中ベンスジョーンズ蛋白の確認
    • 蛋白分画
    • 免疫電気泳動法
    • 免疫固定法

これらの検査について説明していきます。

尿定性

尿定性検査は10-30分程度で結果が出るので、尿の状態を早く知りたい時には便利な検査です。尿の中に試験紙を入れて、白血球や蛋白質、血液などの有無や程度を調べることができます。結果は−、+、2+、3+と大まかな目安として表されるので、より詳しくを調べるために、尿沈渣などの他の検査で確認することが多いです。

尿沈査

尿沈渣は尿を機械で遠心分離して沈殿したものを顕微鏡で観察する検査です。実際に目で見て観察するので、尿中の赤血球や白血球の量を知ることができます。尿定性よりも精度が高い検査といえます。

尿蛋白

尿の中にタンパク質が漏れ出ているかどうかと、その程度を調べる検査です。尿定性よりも詳細に尿中のタンパク質の濃度を確認することができます。尿蛋白が増える病気は慢性腎臓病尿路感染症などさまざまなので、他の検査結果も合わせて判断されます。

尿中ベンスジョーンズ蛋白の確認

ベンスジョーンズ型と呼ばれる骨髄腫では、作られるM蛋白がとても小さいので血液にはとどまらずに尿に出てきます。そのため血液検査ではなく、尿検査でM蛋白を確認する必要があります。検査の方法は血液中のM蛋白の確認方法と同じで、「蛋白分画」、「免疫電気泳動法」、「免疫固定法」といった検査を尿を用いて行います。

5. 骨髄検査:骨の中の成分を取り出す検査

多発性骨髄腫などの病気が疑われるときに行う検査として骨髄検査があります。骨髄検査について聞いたことのない人が多いと思うので、ここで詳しく説明します。

骨髄検査の目的

骨髄検査の目的は骨髄が正常に機能しているかどうかの確認と、骨髄腫細胞の有無を確認することです。

骨髄検査では、白血球(免疫に関わる細胞)、赤血球(酸素を運ぶ細胞)、血小板(出血を止める機能のある成分)が、骨髄できちんと作られているかどうかを確認することができます。また、骨髄腫細胞が骨髄で増えていないかを確認します。さらに、多発性骨髄腫の病期ステージ)を調べるために、骨髄腫細胞の染色体検査も行われます。

骨髄検査の具体的な方法

造血が起きている腸骨(おしりの骨)または胸骨(胸の骨)の中の骨髄を、専用の針を使って取り出します。胸骨は薄く、心臓などが近くにあって合併症のリスクが高いことから、安全のため腸骨で行われることが多いです。検査中は局所麻酔を使うので、痛みは最小限に抑えることができます。また、針を使うことによる出血は多少ありますが、大出血となることは非常にまれで比較的安全に行うことができます。

6. 画像検査

多発性骨髄腫が疑われる人は骨の痛みを自覚する人が多いです。画像検査では全身の骨に異常があるかどうかや、病気の広がりを確認します。具体的には以下の検査を行います。

  • レントゲン検査(X線検査
  • CT検査
  • MRI検査

これらの検査について説明します。

レントゲン検査(X線検査)

健康診断などで多くの人が受けたことがあり、イメージがつきやすい検査だと思います。健康診断では肺の検査に使われることが多いですが、多発性骨髄腫が疑われる人は全身の骨のレントゲン検査が行われます。レントゲン検査では、骨折の有無や溶骨性病変(骨が溶けている病変)を確認できます。

CT検査

CT検査はレントゲンと同じように放射線を使った検査ですが、レントゲンよりも細かく身体の状態を確認できます。例えば、足のしびれや麻痺が見られる人の背骨の状態を細かく確認したい時に使われることがあります。また、感染症が疑われる時には、感染している場所や広がりの確認のために行われます。

MRI検査

MRI検査では磁気を利用して身体の断面を画像化します。MRI検査は、骨の状態を詳しく確認したり、背骨の中を走っている神経の状態を確認するために使われることが多いです。

CT検査とは異なり放射線を使うことはないので被曝の可能性はありません。しかし、身体の中にペースメーカーなどの金属製品が入っている人では、磁気の影響からMRIを使えない場合があります。

7. 検査結果でわかること:病期分類

ここまでの検査を元に、多発性骨髄腫の診断に加えて今後の病気の見通し(予後)を立てることができます。予後予測に用いられるのが、多発性骨髄腫の進行度合いを示す病期(ステージ)です。検査の値を下記に示す基準に当てはめることで病期がわかります。

多発性骨髄腫では、以下の2種類の病期分類があります。

【病期分類の種類】

  • International Staging System (ISS)
  • Revised-International Staging System (R-ISS)

少し難しいので覚える必要はありませんが、検査項目の内容についてお医者さんから説明された時の理解に役立ててください。

また、下で生存率について触れていますが、生存率の数字を見るときに注意して欲しいことがあります。下記の生存率は古いデータを参考に出されたものなので、今の治療を受けている患者さんにそのまま当てはまるとは言えません。医療の進歩により、現在では予後がさらによくなっていると考えられます。

International Staging System (ISS)

ステージ 基準 50%生存期間※
I 血清β2ミクログロブリン<3.5mg/L
血清アルブミン≧3.5g/dL
62ヶ月
II I、III以外 44ヶ月
III 血清β2ミクログロブリン≧5.5mg/L 29ヶ月

※50%生存期間:それぞれのステージの患者のうち50%が生存できる期間のこと

ISS分類で示している50%生存期間は新しい薬(プロテアソーム阻害薬など)が使われる前のデータです。そのため、新しい治療薬が出てきている現在では生存期間はより長いと予想されます。

Revised-International Staging System (R-ISS)

ISS分類を改良した分類がR-ISS分類です。これは、ISS分類の基準に、染色体検査でわかる染色体異常の有無と、血液検査でわかるLDHの値の2項目を加えたものです。

ステージ 基準 5年生存率
I ISS分類でステージ I かつ  
染色体異常なし かつ LDH値が正常
82 %
II I、III以外 62 %
III ISS分類でステージIII かつ
染色体異常ありまたは
LDH値が高値
40 %

※5年生存率:診断から5年後に生存している人の割合

ISS分類よりも新しい分類ではありますが、R-ISS分類でも数字を読むときに注意が必要です。多

発性骨髄腫の治療は目覚ましい進歩を遂げています。この数値は2015年に報告されたもので、ダラツムマブなどの新しい薬剤の効果などは含まれていません。

参考文献
日本血液学会/編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2013, 金原出版, 2013
Palumbo A, et al. Revised International Staging System for Multiple Myeloma: A Report From International Myeloma Working GroupJ Clin Oncol. 2015; 33(26): 2863-9