かぜ(きゅうせいじょうきどうえん)
かぜ(急性上気道炎)
鼻やのど(上気道)が炎症を起こしている状態の総称。原因はほとんどがウイルス感染であるため、抗菌薬を使用するメリットに乏しい
26人の医師がチェック 327回の改訂 最終更新: 2024.10.10

風邪(急性上気道炎)とはどういった病気か?

風邪とは、基本的に自然治癒するウイルス感染症であり、咳・鼻水・喉の痛み・熱・頭痛・怠さなど多彩な症状が出ます。誰もが一度はかかったことがあるでしょう。ここでは風邪とはどういう状況なのか、詳しく解説していきます。

1. 風邪とはどんな状況を指すのか?かぜ症候群について

まず医学的に正確に、風邪(急性上気道炎)というものを言い表してみましょう。

  • 基本的に自然治癒するウイルス感染症である。
  • 鼻や喉など上気道にウイルス感染が起きている。(これに対して、肺の中の空気の通り道である気管支や、肺そのものは下気道と呼びます。)
  • 咳、鼻水、喉の痛み、熱、頭痛、怠さ、など多彩な症状が出る。

上記を全て満たすものを風邪と呼びます。医学的に正確には、急に上気道にウイルス性の炎症が起こるので、「急性上気道炎」と呼ぶことが多いです。胃腸のウイルス感染症である「急性胃腸炎」のことを「お腹の風邪」というように呼ぶこともありますし、間違ってはいないのですが、一般的には風邪といった場合には急性上気道炎を指します。

繰り返し「ウイルス」という用語が出てきますが、ウイルスと細菌の違いを理解することが、風邪を理解するうえで必須となります。その違いを簡単に見てみましょう。

  ウイルス 細菌
構成単位 ウイルス粒子 細胞
大きさ 1/10,000 mm 前後 1/1,000 mm 前後
治療法 対症療法(辛い症状を和らげる治療) 抗菌薬抗生物質)が効く

ウイルスは細菌よりも10倍ほど小さいものが多く、細菌は通常の顕微鏡(光学顕微鏡)で観察することができますが、ウイルスは特殊な顕微鏡(電子顕微鏡)を使わないと見ることができません。また、ウイルスは自分の力だけで増殖することができません。ウイルスは他の生物の細胞を利用して増殖していくという点で細菌と大きく異なり、微生物学的に重要な特徴です。

患者さんにとって最も重要な点は、ウイルス感染と細菌感染では治療法が異なるということでしょう。インフルエンザウイルスや、ヘルペスウイルスといったごく一部のウイルスに対しては専用の抗ウイルス薬が開発されていますが、ほとんどのウイルスに対しては抗ウイルス薬は存在せず、ウイルスそのものを狙って倒す治療は出来ません。風邪を引き起こすほとんどのウイルスに対しても抗ウイルス薬は存在しません。したがって、熱が辛ければ解熱薬、咳が辛ければ咳止め薬、痰が切れなければ痰切り薬、というように症状に合わせた治療薬を使っていく、つまり対症療法しかないのです。

対症療法を行うと症状は多少ラクになるかもしれませんが、風邪そのものが早く治るわけではありません。風邪は「基本的に自然治癒するウイルス感染症」なので、本当にただの風邪であれば、必ずしもわざわざ医療機関を受診する必要はないのです。

仕事が忙しかったり、旅行の予定があったり、と風邪を半日でも早く治したいケースは多いと思いますが、残念ながらどんな名医でも風邪を早く治すクスリはお出しできません。むしろ、風邪に対して「念のため」などの理由で抗菌薬を使ってしまったりすると、体内の善い菌が死んでしまい、やっかいな耐性菌を増やすだけの結果となります。抗菌薬は一般的に、アレルギーをはじめとした副作用を起こしやすい系統の薬だということもあり、風邪に対して抗菌薬を使うことは害しかないと言えるでしょう。医療現場でも、患者さんの求めに応じてやむなく風邪に対して抗菌薬を処方しているケースなどもあり、これに対して2017年6月に厚生労働省は「かぜ患者に対して抗菌薬を処方しないように」と医師に対する手引書を公表しました。

その一方で、細菌感染症の場合には、医療機関を受診すべきケースも多くあります。なぜならば、細菌感染症は風邪のように自然治癒するとは限らないですし、抗菌薬(抗生物質)による治療ができるからです。もちろん細菌感染症の中にも、抗菌薬なしで自然に治ってしまうような病気も多くありますし、抗菌薬による適切な治療をしないと命にかかわったり後遺症を残すような病気もあります。

では、ただの風邪なのか、肺炎などの細菌感染症なのか、はどうやって見分けたらよいのでしょうか?これは医師としても腕の見せどころであり、かぜ症状で病院に来られる多くの患者さんの中から、ただの風邪ではない患者さんを見抜くのは必ずしも簡単なことではありません。

風邪は「咳、鼻水、喉の痛み、熱、頭痛、怠さ、など多彩な症状が出る」ことが特徴です。対して、喉の痛みと熱しか出ないだとか、咳と痰と高熱しかない、など症状の種類が少なければ、細菌感染症を疑うひとつの重要な要素ではあります。上気道のウイルス感染では多領域におよぶ感染症状が出やすく、細菌感染では菌が感染した1つの臓器に関連した症状以外は出にくい、という特徴があるからです。例えば肺炎であれば肺に菌が感染した症状として、発熱、咳、痰、息苦しさが見られる、といった具合です。発熱、咳、痰、息苦しさ、などはいずれも肺だけの感染症状として説明可能です。風邪のように鼻水も喉の痛みも咳もでる、という広範囲に及ぶ症状は、細菌感染では説明しにくいのです。

しかし、風邪の初期では症状の種類が少ないこともありますし、どんな重大な病気でも本当の初期には症状は軽いものです。その軽い症状が風邪のような症状であれば、いきなり詳しい検査が行われることは基本的に無いでしょう。風邪かな、と自覚している患者さんには以下の点を知っておいて頂きたいと思います。

  • ただの風邪と思うならば、基本的に医療機関を受診する必要はない。(ただし、もともと病気があり、敷居を低くして受診するよう指示されている患者さんは例外)
  • 病院を受診しても、風邪を早く治すことはできない。
  • ただの風邪としては症状が長過ぎる、強すぎる、症状の出方がおかしい、など違和感があれば医療機関を受診するべきである。
  • 一度は風邪と診断されても、症状がどんどん悪化していく、風邪としてはおかしいと感じたら再受診する。(どんな名医でも、本当に初期に受診された場合には、仮に重病だったとしても正しく診断できるとは限りません)

上記の通り、風邪の定義について、ウイルスと細菌の違いについて、病院を受診すべきタイミングについて、これらを患者さんにはぜひ知っておいて頂きたいと思います。

2. 風邪になるとどんな症状が出る?鼻水、咳、くしゃみ、発熱、寒気、頭痛など

風邪(急性上気道炎)は以下のような特徴を持つ病気です。

  • 基本的に自然治癒するウイルス感染症である。
  • 鼻や喉など上気道にウイルス感染が起きている。(これに対して、肺の中の空気の通り道である気管支や、肺そのものは下気道と呼びます。)
  • 咳、鼻水、喉の痛み、熱、頭痛、怠さ、など多彩な症状が出る。

このように多彩な症状が出るのが特徴ですが、ここでは風邪の症状に関して、よくある症状や、注意すべき危険な症状について解説します。

よくある症状

  • 咳(咳嗽)
  • 鼻水(鼻汁
  • 喉の痛み(咽頭痛)
  • 痰(喀痰)
  • 発熱
  • 寒気(悪寒)
  • 頭痛
  • だるさ(倦怠感
  • 筋肉痛
  • 関節痛
  • 眼の充血(結膜炎

風邪(急性上気道炎)の際にしばしば見られる症状を列挙しました。風邪は多彩な症状が出るのが特徴であり、咳も鼻水も喉の痛みもあって、微熱であり、普段の風邪と比べて特段症状が強いわけでなければ基本的には典型的な風邪と考えてよいでしょう。医療機関を受診しても、そのように診断される可能性が高いと思います。

逆に、症状の出ている部位が少ない、症状の程度が特に強い、という場合には風邪以外の細菌感染症などの可能性が高まります。例えば、高熱と咳と痰のみ、であれば肺炎の可能性なども考えられます。上気道(鼻や喉など)のウイルス感染症である風邪ではいろいろな臓器の感染症状が出ることが多く、細菌感染症では感染した臓器単独の症状が出ることが多いためです。高熱と咳と痰のみ、であれば全て肺という1臓器の感染で説明がつきます。

医師は上記のようなことを参考のひとつとして、風邪と風邪以外の病気を見分けています。ただ、患者さんがそれを見分けるのは難しいと思いますので、風邪としては症状が長過ぎる、強すぎる、症状の出方がおかしい、など違和感があれば医療機関を受診しておく、というスタンスをお奨めしたいと思います。

危険な症状

  • 意識が朦朧(もうろう)とする(意識障害
  • 高熱が持続する(目安として38℃以上が4-5日以上)
  • 激しい喉の痛み(唾液を飲み込むのも難しいくらい)
  • 激しい頭痛
  • 多くの血が混じる痰(血痰
  • 寒気で体が震えて、止めようと思っても止まらない(悪寒戦慄)

「風邪もどき」の危険な病気でよく見られるような症状を挙げました。風邪は基本的に自然治癒するウイルス感染症なので、風邪だけで上記のような危険な症状は出ないはずです。上記のような症状が見られた場合に、どのような危険な病気が隠れていることがあるのか、紹介していきましょう。なお、上記のような症状があれば医療機関を受診すべきであることは間違いありませんが、上記に当てはまらなくてもただの風邪とは限りません。ただの風邪として違和感がある点があれば、医療機関を受診するようにしてください。特に、もともと気管支喘息COPDなど肺の病気がある方、抗がん剤ステロイドなどの治療を受けていて感染に弱くなっている方、高齢者などでは受診の敷居を下げたほうが良いでしょう。

  • 意識が朦朧(もうろう)とする(意識障害)

風邪でも熱が出て辛ければ、多少ぼーっとすることはあるでしょう。しかし、受け答えが明らかにおかしい、今日の日付が言えない、今いる場所が正確に言えない、自分の氏名や生年月日を言えない、などの症状がある場合には医学的には意識障害と呼ぶべき状況です。意識障害がでる病気には様々な危険なものがあるので、詳しい検査が必要です。

  • 高熱が持続する(目安として38℃以上が4-5日以上)

大人の風邪ではそもそも38℃以上の発熱が出ないこともよくありますが、仮に38℃以上の発熱があっても、風邪は基本的に自然に治癒するウイルス感染症なので、特に治療しなくても数日以内には解熱するはずです。子供の場合にはただの風邪でも39℃以上の発熱になったり、数日続いたりすることはあります。しかし、年齢によらず、4-5日以上38℃以上の発熱が続くというのは、自然に治癒しているとは言いがたく、風邪以外の病気が隠れている可能性が高くなってきます。ただの風邪だと思っても、38℃以上の発熱が丸3日経っても治らないようなケースでは医療機関を受診したほうが良いでしょう。

  • 激しい喉の痛み(唾液を飲み込むのも難しいくらい)

みなさんご存知の通り、風邪でも喉の痛み(咽頭痛)はしばしば出ます。しかし、その喉の痛みばかりが目立つ場合には、ただの風邪ではないケースがよくあります。「風邪もどき」の病気で、喉の痛みが強いものとしては、A群溶連菌と呼ばれる細菌が喉に感染しているものがよく見られ、この病気では基本的に抗菌薬による治療が行われます。

また、危険な病気として、細菌の感染で空気の通り道が塞がって窒息の恐れがある病気(急性喉頭蓋炎など)、で空気の通り道が塞がって窒息の恐れがある病気(扁桃周囲膿瘍咽後膿瘍、Ludwigアンギナ、など)、感染に伴って喉に血栓のできる病気(レミエール症候群)などがあり、これらは命に関わることもあります。感染症以外では、心筋梗塞動脈解離など血管の病気で喉が痛くなることもあります。

このように、激しい喉の痛みには怖い病気が隠れていることもあります。鼻水や咳はあまり出ないのに喉がとても痛い、つばも飲み込めない、息苦しさが酷い、などの風邪としてはちょっとおかしい症状があれば医療機関の受診をお勧めします。

  • 激しい頭痛

風邪をひいて熱がでたら頭が痛くなってきた、という経験はみなさん多少なりともあるかと思います。咳や喉の痛み、鼻水なんかも出ていて、熱に伴って頭が多少痛くなるだけであれば、風邪の発熱によって頭が痛いだけ、という可能性が高いでしょう。

しかし、他の風邪症状が無いのに、発熱と強い頭痛だけがある場合には注意が必要です。発熱と強い頭痛が出る病気の代表格として、脳や脊髄を覆っている膜の炎症である髄膜炎(ずいまくえん)があります。外来を歩いて受診できるくらいの元気さがある髄膜炎であれば、ほとんどがエンテロウイルス属などウイルスによるウイルス性髄膜炎です。夏季に流行することがあります。ウイルス性髄膜炎は基本的には自然治癒しますが、ウイルスによる髄膜炎かどうかというのはすぐには分からないので、髄膜炎と診断された場合は多くのケースで入院が必要になるでしょう。もしも細菌による髄膜炎細菌性髄膜炎)であれば、一刻もはやく治療しないと重い後遺症や死亡につながりかねませんので、熱と激しい頭痛のみが続く、という症状の場合には医療機関を受診しましょう。

  • 多くの血がまじる痰(血痰)

鼻血が垂れ込んできて痰に血が混じったり、咳のしすぎで喉が傷ついて僅かに出血したり、歯茎から出血することはありますが、上記のようなことがなく痰にしっかり血が混じっている場合には、重大な病気の可能性も考えられます。代表的なものとしては、肺結核肺がん気管支拡張症などがあり、いずれにしても早期に治療が必要です。痰に血が混じる、という症状は重大な症状なので、血痰がはじめて見られた場合には医療機関を受診したほうがよいでしょう。

  • 寒気で体が震えて、止めようと思っても止まらない(悪寒戦慄)

熱が出た時に寒気を感じることはよくあるでしょうが、止めようと思っても止まらないほど体が震えるような寒気があるということは尋常なことではありません。熱に伴ってこの症状がある場合には非常に高い確率で、血液にのって菌が全身をめぐっていると言われており、非常に危険な症状です。菌が全身をめぐっているとすれば一刻も早く、原因の診断と抗菌薬による治療を開始する必要があります。「患者さんが悪寒戦慄していたら、担当医が震え上がれ」と、研修医はよく教えられるものです。このような症状が出たら緊急で医療機関を受診したほうがよいでしょう。

参考文献
Tokuda Y, et al. The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness. Am J Med 118(12); 1417, 2005.

3. 風邪の原因はどんなものがある?

風邪(急性上気道炎)は以下のような特徴を持つ病気です。

  • 基本的に自然治癒するウイルス感染症である。
  • 鼻や喉など上気道にウイルス感染が起きている。(これに対して、肺の中の空気の通り道である気管支や、肺そのものは下気道と呼びます。)
  • 咳、鼻水、喉の痛み、熱、頭痛、怠さ、など多彩な症状が出る。

このように風邪は基本的にはウイルス感染症です。ただ、稀に細菌が風邪の原因となることもあります。特段区別する必要性が薄いケースが多いのですが、以下では風邪の原因となるウイルスや細菌に関して解説します。

ウイルス感染症:ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスなど

  • ライノウイルス

風邪の原因ウイルスとして最も高頻度なのがライノウイルスです。大人の風邪では特にライノウイルスが原因であることが多く、報告にもよりますが風邪の30-80%ほどはライノウイルスによるものと言われています。

ライノウイルスでは鼻水、鼻詰まり、くしゃみなどの症状が出やすいです。熱はそれほど高くならないことが多いです。

ライノウイルスの感染であるかどうかを調べる検査は、基本的に病院では行われません。

  • コロナウイルス

コロナウイルスも風邪の原因としてよく見られます。風邪の原因として10-15%ほどを占めると報告されています。

症状としては上記のライノウイルスに似ており、冬季に感染しやすいと言われています。

コロナウイルスの感染であるかどうかを調べる検査は、基本的に病院では行われません。コロナウイルスは通常はただの風邪を起こすだけですが、特殊なコロナウイルスは中東呼吸器症候群(MERS)重症急性呼吸器症候群(SARS)などの重大な感染症を起こすこともあります。

  • アデノウイルス

夏に流行する風邪の原因として時折みられ、子どもに多いのが特徴です。

アデノウイルスには現在50種類以上の型が確認されていますが、アデノウイルス3型などは咽頭結膜熱(プール熱)の原因として有名です。発熱、喉の痛み、眼の充血などが見られます。感染力が強いので、症状が治まってから2日間は学校に行かないよう定められています。

また、アデノウイルス8型などは流行性角結膜炎(はやり目)の原因として有名です。眼の充血が見られ、耳の前にあるリンパ節が腫れることがあります。

ウイルスそのものを狙った治療はありませんが、細菌の感染を合併しないように抗菌薬の目薬がしばしば使われます(抗菌薬はウイルスには効かないので、アデノウイルスに対する治療ではありません)。

流行性角結膜炎に関しては、医師が感染のおそれが無いと認めるまで学校に行かないように定められています。アデノウイルスの診断に際しては、症状だけで診断できることもありますが、必要に応じて眼や喉にアデノウイルスがいるかどうか素早くチェックする検査が行われます。

  • RSウイルス

11月から1月頃に流行するウイルスであり、乳幼児では気管支炎肺炎を起こす原因としてよく見られます。乳幼児における肺炎の50%、気管支炎の50%から90%ほどがRSウイルスによるものという報告もあります。

大人では喉の痛みや鼻詰まり、眼の充血が出やすいという特徴があります。大人がRSウイルスに感染してもただの風邪で済むことがほとんどですが、乳幼児では気管支炎肺炎となって重症化することもあります。

診断は鼻から分泌液を採取して、検査キットで調べれば数十分ほどでRSウイルスの有無が判定できます。

治療は原則としてウイルスそのものを狙った治療ではなく、症状にあわせた治療(対症療法)を行っていくことになります。米国など海外ではリバビリンという抗ウイルス薬が使用されることもありますが日本では一般的ではありません。また、パリビズマブ(シナジス®)という予防薬はありますが、とても値段が高く、月に1回の注射が必要で、もともと病気があったり早産の乳幼児にしか保険適用がないので、健康なお子さんのRSウイルス感染予防としては滅多に使われません。

  • インフルエンザウイルス

インフルエンザは毎年冬場に流行します。上気道のウイルス感染症であり、一般的には風邪の範疇に入ります。38度以上の高熱が出やすいこと、高熱が出るまでの時間が短いこと、関節痛・頭痛・筋肉痛などの全身症状が出やすいことなどが特徴的です。基本的には自然に治癒する病気ですが、もともと持病のある方や高齢者では特に肺炎や脳炎などを含めた合併症に注意が必要です。

診断には鼻のぬぐい液を採取すれば短時間でインフルエンザウイルスの有無が判断できますが、流行していて症状が典型的であればウイルス検査はしなくても診断可能です。治療には抗インフルエンザ薬が使えますが、症状が出はじめて48時間以内に使用すれば半日から1日程度治るのが早くなる、という程度です。若くて元々健康な方であれば、冬の混んでいる病院に行って体力を使うよりは、抗ウイルス薬を使わないで家でゆっくり休んでおくのも十分合理的な選択でしょう。ただし、息苦しさがひどい、意識が酷くぼんやりする、などであればぜひ受診しましょう。

また、仕事の都合などでインフルエンザの診断書が必要ということであれば、医療機関を受診せざるをえないと思います。本来は家で休んでおけば大半が治る風邪の一種であるインフルエンザに関して、病院を受診して診断書を書いてもらうことを要求するシステムは不合理な面もあるのですが、システム上必要であれば仕方がないでしょう。救急外来などでは診断書は即時発行できず、再度病院に診断書を受け取りに行く必要が出てくるケースも多いことにはご留意ください。

参考文献
Turner B R. Epidemiology, pathogenesis, and treatment of the common cold. Ann Allergy Asthma Immunol 78(6); 531-539; quiz 539-540, 1997. 
Ann C. Palmenberg, et al, Sequencing and Analyses of All Known Human Rhinovirus Genomes Reveal Structure and Evolution. Science. 2009 April 3; 324(5923): 55-59. 
横浜市衛生研究所:感染症情報センター(2018. 2.1閲覧)
・学校保健安全法施行規則
国立感染症研究所:感染症情報(2018. 2.1閲覧)
Levine DA, et al. Risk of Serious Bacterial Infection in Young Febrile Infants With Respiratory Syncytial Virus Infections. Pediatrics 2004; 113: 1728.

細菌感染症:マイコプラズマ、クラミドフィラなど

風邪は基本的には自然治癒するウイルスの感染症なのですが、稀に細菌によって風邪をひく場合もあります。その原因となる細菌として代表的なのが次のものです。

  • マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae
  • クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae

しかし、これらは肺炎を起こすこともある菌であり、肺炎であれば抗菌薬(抗生物質)を飲んでおいたほうが良いでしょう。そこで、ただの風邪なのか、肺炎なのかの判断が大事になります。難しいところですが、38℃以上の高熱が続く、25回/分を超える荒い呼吸、息苦しさが強い、寝汗がとても多い、非常にぐったりしている、などの症状があれば肺炎の可能性を考慮して胸部X線レントゲン)検査などを受けると良いと思います。ただし、レントゲンでは小さい肺炎、初期の肺炎などは見つけられないので、一度は風邪と診断されても、症状がどんどん悪化していく、風邪としてはおかしいと感じたら再受診することを心がけてください。

このように細菌による風邪があったり、風邪だと思ったら初期の肺炎だったり、ということがあるならば、風邪をひいた時点で毎回抗菌薬を飲んでおけば良いではないか、と考えられる方もいるかもしれません。しかしこの考え方は正しくありません。風邪の範疇に入るような細菌感染症は抗菌薬なしでも自然治癒しますし、ウイルスによる一般的な風邪の方みなさんに抗菌薬を使うのは、ほとんどが「無駄打ち」になってしまうからです。

ウイルス性の風邪に対して「念のため」などの理由で抗菌薬を使ってしまったりすると、体内の善い菌が死んでしまい、やっかいな耐性菌を増やすだけの結果となります。抗菌薬は一般的に、アレルギーをはじめとした副作用を起こしやすい系統の薬だということもあり、ウイルス性の風邪に対して抗菌薬を使うことはデメリットが多すぎるのです。稀にあるだけの肺炎をカバーするために皆さんに抗菌薬を使うのは割に合いません。やはり、抗菌薬は肺炎など抗菌薬が必要な細菌感染症としての診断がしっかりついてから使うべきなのです。医療現場でも、患者さんの求めに応じてやむなく風邪に対して抗菌薬を処方しているケースなどもあり、これに対して2017年6月に厚生労働省は「かぜ患者に対して抗菌薬を処方しないように」と医師に対する手引書を公表しています。

参考文献
Diehr P, et al. Prediction of pneumonia in outpatients with acute cough--a statistical approach. J Chronic Dis 37(3): 215-225. 1984.

4. 風邪の治療はどうしたら良い?

まず前提として、風邪を早く治すことができると証明されている治療は何もありません。

風邪は基本的に自然治癒するウイルス感染症です。ウイルスが原因の病気に対して抗菌薬(抗生物質)を使っても全く効かず、風邪の場合にはむしろ有害となりうるので、風邪に対して抗菌薬を使用することは推奨されません。抗菌薬以外の治療薬にしても、いずれもつらい症状を緩和(対症療法)するための薬であり、風邪そのものを早く治すことはできません。本当にただの風邪であれば、つらいところわざわざ混んでいる病院に行ったり、薬局に行ったりして体力を消耗するよりは、自宅でゆっくり休んでおくということは十分合理的な選択と言えるでしょう。

特に効果が証明されている治療というわけではありませんが、一般論として栄養や水分、睡眠をしっかりとって、よく休まれることをお勧めします。

高熱があるときにお風呂に入ってはいけないと言われることがありますが、これも正しいことかどうかは分かっていません。むしろ欧米などでは発熱した子供を積極的にぬるま湯につからせて熱をとることが良いと考えられているケースもあります。特にデータがあるわけではありませんが、酷い高熱でぐったりしているような状況でなければ、お風呂に入っても問題はないと思います。

また、解熱薬の使用に関しても賛否両論あります。発熱は体がウイルスと戦うための反応なので、解熱薬を飲むとウイルスと戦う力が下がって風邪が長引くから解熱薬は飲まない方がよいという意見もあります。また、発熱により体力を消耗してしまい、そのせいでより体調が悪くなるから解熱薬を飲むべきだという意見もあります。この議論に関しても、しっかりとしたデータがあるような議論ではないので、熱が辛ければ解熱薬を使う、大したことがなければ様子を見る、くらいの考え方で良いと思います。

細かいことも書きましたが、風邪である限りは基本的に数日で自然に治癒していきます。むしろ、風邪の治療で重要なことは、風邪症状に隠れている重大な病気を見逃さないことです。風邪かな、と自覚している患者さんには以下の点を知っておいて頂きたいと思います。

  • ただの風邪と思うならば、基本的に医療機関を受診する必要はない。(ただし、もともと病気があり、敷居を低くして受診するよう指示されている患者さんは例外)
  • 病院を受診しても、風邪を早く治すことはできない。
  • ただの風邪としては症状が長過ぎる、強すぎる、症状の出方がおかしい、など違和感があれば医療機関を受診するべきである。
  • 一度は風邪と診断されても、症状がどんどん悪化していく、風邪としてはおかしいと感じたら再受診する。(どんな名医でも、本当に初期に受診された場合には、仮に重病だったとしても正しく診断できるとは限りません)

5. 風邪はうつる病気なのか?

風邪の原因となるウイルスは人から人へと感染していくことがあります。うつる経路としては、咳やくしゃみを吸い込むなどして感染する飛沫感染、唾液や鼻水が間接的に手に付着して、口や鼻から感染することなどによる接触感染があります。結核麻疹はしか)、水痘みずぼうそう)などのように同じ空間にいるだけで感染してしまう空気感染という感染経路もありますが、風邪の場合には空気感染は起こしません。

風邪を発症して1-2日目くらいが感染力の強い時期であることが多いですが、風邪症状が治ったあとも数日程度は他の人に感染することがあり、感染対策を怠らないようにしましょう。ウイルスの種類によっては、発症から2週間近く感染力をもっているようなケースもあります。

6. 風邪の予防にはどんなことが有効か?

どんな方法をとっても風邪を100%防ぐことは不可能です。また、風邪の予防効果を厳密に調べた大規模な論文は乏しく、しばしば賛否両論ありますが、以下に考えられる予防法を列挙します。

  • 手洗いを励行する

手についたウイルスが鼻や口から侵入するのを防ぎます。指の間、爪、手の甲などもしっかり洗いましょう。アルコール消毒も追加すると有用ですが、実はアルコールでは死滅しない風邪のウイルスもしばしばあります。

  • 乾燥を防ぐ

ウイルスは乾燥した環境では空気中を漂いやすくなるので、生活環境を加湿しておくことは有用でしょう。ただし、どの程度加湿したらよいのかはあまり分かっていません。一般的に快適とされる40%から60%程度の湿度が無難でしょう。

  • 風邪をひいている人とタオルや食器などの共有を避ける

ウイルスが口や鼻から感染するのを防ぎます。もちろん洗った後のタオルや食器であれば使用して構わないでしょう。

  • 人ごみや感染者が多い場所(病院など)をなるべく避ける

他の人から風邪をうつされてしまう機会を減らすことも有用でしょう。

  • 予防接種をする

主にインフルエンザに関してですが、予防接種をしておくことで感染率をかなり下げることができます。

  • マスクを着用する

ひろく行われていますが、ウイルスは市販マスクの生地の穴よりもかなり小さいので、ウイルスの通過を防ぐ効果は十分でありません。ただし、咳やくしゃみの飛沫を防ぐ効果はあり、風邪をひいている患者さんがマスクをつけるのは特に有用かもしれません。

  • うがいをする

これも日本ではひろく行われている風邪の予防法です。うがいが風邪予防に有用であるというデータもさほど多いわけではありませんが、京都大学からの報告で、水でのうがいによって風邪が40%減るというものがあります。この報告では、消毒液を使ったうがいではむしろ風邪は減らせなかったとしており、喉にいる正常な菌まで殺してしまっていることが良くないのではないかと考察しています。

他にも緑茶でのうがいが良いとする報告、緑茶と水道水では変わらないとする報告などいろいろありますが、基本的には水道水でのうがいをして頂ければ良いと思います。

参考文献
Satomura K, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005; 29: 302-7.

7. 妊婦の風邪の注意点

妊娠中は感染に対する抵抗力があまり高くないと言われており、風邪をひきやすい状態ですが、たとえ妊娠中に風邪をひいても、風邪のウイルス自体が羊水や胎児に影響を及ぼすことは無いとされています。そのため、お腹の中の赤ちゃんが風邪をひくことはまずありませんし、基本的には妊娠していない時の風邪と同様、自然に治ります。

しかし、咳がひどすぎるとお腹に圧がかかったり、熱が高すぎると胎児の脈が異常に速くなり、胎児の負担になることもあります。38度以上の高熱の場合や、症状が数日で治らないような場合には一般的な風邪以外の病気も考えられ、医療機関を受診しておくのが無難でしょう。

問題はどの医療機関にかかるかですが、まずは普段通っている産婦人科に電話で相談することをお勧めします。かかりつけの産婦人科で診てくれる、かかりつけの病院の内科で診てくれる、近所の内科に電話してから行くよう指示される、などのパターンがあります。飛び込みで行くと、他の妊婦さんにうつる危険があるので断られてしまったり、内科でも妊婦さんの風邪は診られません、と言われてしまうケースもあります。

また治療薬についても注意が必要です。市販薬でも妊娠中に飲むことが望ましく無いものも多くあり、医師や薬剤師に相談してから飲むようにしましょう。特に妊娠2ヶ月から4ヶ月頃は胎児の重要な器官が形成されていく時期でもあり、胎児が薬の影響を最も受けやすいとされています。