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全身性エリテマトーデス(SLE)
本来なら身体を守ってくれる免疫のシステムが自分自身を攻撃してしまい、全身に様々な症状を起こす病気
13人の医師がチェック 141回の改訂 最終更新: 2022.04.21

全身性エリテマトーデスの症状は?

全身性エリテマトーデスの症状は全身に多彩な症状があらわれます。ここでは全身性エリテマトーデスで出ることがある症状や、症状が似ている病気を説明します。

全身性エリテマトーデス(SLE)は、倦怠感、関節の痛みや腫れ、発疹、尿の異常、息切れなど多様な症状を来たします。ただし、最初からすべての症状があらわれることは少なく、時間経過と共に症状が増えることも珍しくありません。ではどのような症状が初期から現れるのでしょうか。

だるさなどの全身症状、関節の痛みや腫れ、発疹は初期から現れやすいとされています。これらの症状はいずれも半数以上の方で診断時に現れていると考えられています。

参考文献

  • Kelley and Firestein's Textbook of Rheumatology, 10th Edition

全身性エリテマトーデスでは全身に様々な症状が現れます。ここでは、全身性エリテマトーデスであらわれるそれぞれの症状の特徴を説明します。

  • 全身
  • 皮膚
  • 関節
  • 腎臓
  • 心臓・肺
  • 血液
  • 脳・神経

発熱やだるさ、体重減少が全身症状とされます。これらの症状は全身性エリテマトーデスの多くの方が自覚します。発熱は微熱程度のものから38度を超えるものなど人により程度はさまざまです。

全身性エリテマトーデスでは以下のように特徴ある皮膚症状があらわれます。

  • 両頬から鼻にできる赤い発疹(蝶形紅斑

  • 顔や手などにできる丸い発疹(ディスコイド疹)

  • 寒さの刺激で手が青白くなる(レイノー症状)

  • 霜焼けに似た発疹(凍瘡皮疹

  • 脱毛

また日光に当たった皮膚が赤くなったり水ぶくれができること(日光過敏症)も特徴の1つです。日光に当たることで、他の症状も悪くなることがあります。そのため、全身性エリテマトーデスでは日焼け止めや日傘などを利用して、日焼けを避けることが重要です。

全身性エリテマトーデスでは関節の腫れや痛みを自覚することがあります。この関節の腫れや痛みのことを関節炎と呼びます。全身性エリテマトーデスで関節炎が起こる関節は以下の通りです。

  • 手首

  • 肘(ひじ)

  • 膝(ひざ)

  • 股関節(こかんせつ)

このように全身性エリテマトーデスでは様々な関節に腫れや痛みが起こり、生活の質を下げる原因になります。全身性エリテマトーデスの関節の痛みや腫れは治療により改善することができますので、関節の気になる症状があれば担当医に申し出るようにしてください。

全身性エリテマトーデスは腎臓の障害もしばしば起こします。腎臓の障害による症状としては尿の泡立ちや血尿などがあります。急激に腎臓の機能が悪くなった時には、手足のむくみが現れます。

腎臓は本来、体の中の毒素を濾過して尿として排出する臓器です。全身性エリテマトーデスでは濾過をする膜が破壊され、尿に蛋白や血液が流れ出ることで尿の泡立ちや血尿などの異常を自覚します。全身性エリテマトーデスにおける腎臓の障害は将来の経過に大きく関わるとされており、見つかった場合にはしっかりと治療することが大事です。

全身性エリテマトーデスでは心臓や肺を包む膜が攻撃されることがあります。これは心膜炎や胸膜炎と呼ばれ、息を深く吸った時の胸の痛みが症状として現れます。心臓や肺を包む膜の攻撃が進んでくると、心臓や肺の周りの水が増えて、心臓や肺の機能に影響を及ぼします。

また全身性エリテマトーデスの一部の人では、肺高血圧症といって心臓から肺に向かう血液の流れが悪くなることがあります。肺高血圧症は心臓や肺に負担をかけるので、息切れや疲れやすいといった症状が現れます。全身性エリテマトーデスの肺高血圧症は初期であれば、免疫抑制療法の効果が期待できます。

全身性エリテマトーデスでは血液の障害が起こることがあります。ふらつき(貧血)や歯茎などから出血しやすい(止血異常)といった症状を自覚します。血液細胞は細菌などから体を守る白血球、全身に酸素を運搬する赤血球、止血に関わる血小板に分けられます。全身性エリテマトーデスではこれらの血球細胞が壊されることで、貧血が起きたり血が止まりにくくなったりします。

全身性エリテマトーデスでは脳や神経が障害されることがあります。具体的には気分の落ち込み、頭痛、けいれん、手足のしびれなどの症状が現れます。全身性エリテマトーデスの神経障害は、治療が遅くなると障害が残ってしまい、その後の経過に大きく関わるとされています。このため、神経障害がある全身性エリテマトーデスの方では、なるべく早く治療を開始する必要があります。

蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)は両頬から鼻にできる赤い発疹のことです。赤くなっている領域が蝶の形をしていることからこのように呼ばれ、全身性エリテマトーデスに現れる特徴的な発疹のひとつとされています。

蝶形紅斑に似た発疹は他の病気でも現れることがあります。具体的には以下の病気です。

全身性エリテマトーデスではこれら似た発疹を呈する病気を区別しながら、診断していきます。

全身性エリテマトーデスでこのような特徴的な形の発疹ができるのは、全身性エリテマトーデスには日光過敏症(日光に当たった部分が赤く腫れ上がる症状)という特徴があるためです。蝶形紅斑は痛みやかゆみなどの自覚症状ははっきりしないことが多いため、自身で鏡で見たり、他人に指摘された時などに気づくことが多いです。

全身性エリテマトーデスは免疫の異常により自分の身体が攻撃され、発熱や関節の痛みや腫れ、発疹など全身に症状があらわれる病気です。似たしくみで起こる病気は膠原病(こうげんびょう)と総称されます。全身性エリテマトーデスと似た症状を呈する病気をいくつか挙げていきます。

関節リウマチは免疫の異常により関節を中心として自分の身体が攻撃される病気です。関節の痛みが現れるため、全身性エリテマトーデスとしばしば区別が問題になります。

大きな違いとして関節リウマチは関節の痛みや腫れの症状が強く、全身性エリテマトーデスでは他の症状も現れます。また、関節リウマチでは骨の破壊や関節変形が全身性エリテマトーデスより起こりやすいとされます。

また病気と関連の知られる抗体の種類が異なります。関節リウマチではリウマチ因子、抗CCP抗体、全身性エリテマトーデスでは抗核抗体が関わっています。リウマチ因子、抗CCP抗体、抗核抗体は多くの病院やクリニックの血液検査で調べることができます。

シェーグレン症候群は免疫の異常により唾液を作る場所である唾液腺、涙を作る場所である涙腺が攻撃される病気です。その結果、主な症状として目や口が乾くこと(ドライアイドライマウス)になります。しばしば倦怠感、関節痛、全身性エリテマトーデスと似た赤い発疹が現れることがあり、全身性エリテマトーデスとの区別が問題になります。

これらの疾患の大きな違いとしてシェーグレン症候群は目や口が乾く症状が主体であるのに対し、全身性エリテマトーデスでは他の症状も現れます。またシェーグレン症候群と全身性エリテマトーデスでは関わっている抗体の種類が異なるため、血液で抗体検査を行うことでどちらの病気が疑わしいかを判断することができます。

皮膚筋炎は免疫の異常により皮膚や筋肉が攻撃される病気です。皮膚への攻撃がなく、筋肉のみが攻撃されている場合には多発性筋炎と呼ばれます。皮膚筋炎多発性筋炎の違いは皮膚筋炎では皮膚に症状があるのに対して、多発性筋炎では皮膚の症状がないことです。

皮膚筋炎では、赤い発疹や筋肉の痛み、筋肉に力が入らない症状(筋力低下)が現れます。多発性筋炎の場合は筋肉の症状のみが現れます。また、しばしば発熱や関節痛も伴い全身性エリテマトーデスとの区別が問題となります。

ただし、全身性エリテマトーデスでは筋力低下が見られることは稀です。また赤い発疹の広がり方や見た目も全身性エリテマトーデスと皮膚筋炎では異なります。

混合性結合組織病MCTD)は全身性エリテマトーデス、全身性強皮症多発性筋炎に見られる症状が混ざってあらわれる病気です。全身性強皮症は免疫の異常により全身が攻撃され、皮膚や内臓が硬くなる病気です。混合性結合組織病の症状はレイノー現象、手の指全体の腫れ、息切れ、食べ物の胸でのつっかえ感、筋力低下など様々です。レイノー現象とは寒さや精神的な緊張により手や足の指の血流が悪くなることで真っ白や青紫に変色し、その後血流が戻ると赤くなることです。

混合性結合組織病は抗U1-RNP抗体と強い関連が知られており、混合性結合組織病の方では必ず陽性になります。現れている症状の一部が全身性エリテマトーデスでも見られるものである一方、完全に一致しない場合や抗U1-RNP抗体が陽性の場合には混合性結合組織病を考える必要があります。

風邪などのウイルス感染症でも熱や関節の痛みを自覚することがあります。また一部のウイルス(パルボウイルスなど)では全身性エリテマトーデスに似た発疹を呈することがあります。

感染症の多くは、時間が経つと自然に症状が良くなるのに対し、全身性エリテマトーデスでは自然軽快しないことも多いため、時間経過は非常に大事です。また抗核抗体という血液検査は全身性エリテマトーデスではほぼ全員で陽性となるため、感染症との区別においても有用です。

がんも発熱や体重減少を引き起こすことがあります。また赤い発疹が出ることや関節の痛みが現れることもあり、がんと全身性エリテマトーデスの区別が必要になることがあります。

全身性エリテマトーデスでは通常、がんのような腫瘤(しゅりゅう;かたまり)は作りません。また全身性エリテマトーデスが疑われた場合には、生検と言って体の一部を取ってきて顕微鏡で見る検査をしばしば行いますが、生検もがんとの区別に有用です。