ぜんしんせいえりてまとーです(えすえるいー)
全身性エリテマトーデス(SLE)
本来なら身体を守ってくれる免疫のシステムが自分自身を攻撃してしまい、全身に様々な症状を起こす病気
13人の医師がチェック 141回の改訂 最終更新: 2022.04.21

全身性エリテマトーデスと言われたら、日常生活での注意点は?

全身性エリテマトーデスは強い日光を浴びることで病気が悪くなることがあります。妊娠に関しては全身性エリテマトーデスが治療され、症状がない状態であれば、行うことができます。

全身性エリテマトーデスでは日焼けにより、症状が悪くなることが知られています。これは、紫外線により傷ついた皮膚の細胞を免疫細胞が外敵だと見なしてしまうためだとされています。そのため、全身性エリテマトーデスでは強い日光を浴びることを避ける(日傘を用いる、日焼け止めを使う)ことが大事です。

全身性エリテマトーデスになっても妊娠することはできます。ただし、妊娠にあたってはいくつかの注意点があります。注意点をお母さん側の視点と赤ちゃん側の視点から挙げていきます。

妊娠にあたりお母さん側の視点から注意が必要な点は、全身性エリテマトーデスの症状が悪くなる可能性があることです。また、あとで述べるように妊娠中はお母さんが飲んだ薬が胎盤を通過して赤ちゃん影響を与えるリスクがあるため、使用できる薬が限られてしまうため治療が難しくなります。そのため、全身性エリテマトーデスの症状が落ち着いた状態で妊娠することが望ましいと言えます。

赤ちゃん側の視点で注意が必要な点は2点あります。

  • 全身性エリテマトーデスが赤ちゃんに与える影響

  • 全身性エリテマトーデスの治療薬が赤ちゃんに与える影響

赤ちゃんはお母さんの栄養や酸素をもらいながら成長していきます。そのため、お母さんの体調が悪い状態は赤ちゃんの発育を考える上でもあまり良い状態とは言えません。そういった観点からも、全身性エリテマトーデスの症状をしっかり治療し、お母さんの体調がなるべく良い状態で妊娠することが望ましいと言えます。

また、全身性エリテマトーデスが赤ちゃんに与える影響としてはもう一つ「自己抗体の移行」という問題もあります。全身性エリテマトーデスでは自己抗体と呼ばれる自分自身の身体を攻撃する物質が身体の中で作られます。自己抗体のひとつである抗SS-A抗体は、胎盤を経由して赤ちゃんに移行することが知られており、10%の頻度で全身性エリテマトーデスと似た発疹があらわれます(新生児ループスといいます)。また1%程度の頻度で赤ちゃんの不整脈を誘発することが分かっています。そのため、抗SS-A抗体が陽性の全身性エリテマトーデスのお母さんが妊娠した場合には、赤ちゃんの心臓の機能に問題がないか、チェックすることが大事です。

薬の効果と副作用は、医学研究として実際の患者さんに使用してもらうことで確認されています。しかし、妊婦や赤ちゃんを対象にした研究を実施するのは難しいため、妊娠していない成人に対して安全性を検証された薬でも、妊娠中については必ずしも同等の安全性があるとは言えません。妊娠中にどの薬なら比較的安心して使えるかは専門的な判断になります。

全身性エリテマトーデスで使われる代表的な治療薬と妊娠中の注意点について以下の通りになります。

■非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs

一般的な痛み止めの薬です。例としてロキソプロフェンナトリウム(商品名ロキソニン®など)やジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレン®など)が該当します。関節炎に対する痛み止めとしても使用されます。

妊娠後期(28週以降)に飲むことで、赤ちゃんの動脈管と呼ばれる血管を閉じてしまう副作用があります。そのため妊娠後期には非ステロイド性抗炎症薬を使うことができません。

ステロイド薬

炎症を抑える作用のある薬です。さまざまな病気に対して効果があり、目的に応じて外用薬(塗り薬など)として使われますが、全身性エリテマトーデスの治療としては飲み薬や点滴薬をよく使います。たくさんの量のステロイドを使うことで赤ちゃんの先天異常を引き起こす可能性が報告されています。一方で、お母さんの体調が悪いと赤ちゃんの発育にも良くないので、体調と副作用を天秤にかけてステロイドの量が調整されます。

■シクロフォスファミド

あとで説明するミコフェノール酸モフェチルと並び、重度の全身性エリテマトーデスに用いられることが多い薬剤です。妊娠前に大量に使用すると卵子や精子に影響を与えて不妊につながることが分かっています。妊娠中に使用されることはほとんどありません。

■ミコフェノール酸モフェチル

シクロフォスファミドと並んで重度の全身性エリテマトーデスに用いられることが多い薬剤です。シクロフォスファミドと異なりミコフェノール酸モフェチルは妊娠前の使用が不妊の割合を増やさないことが分かっているので、若い女性に使用が好まれる薬剤の一つになっています。

一方で、ミコフェノール酸モフェチルを内服している期間に妊娠すると、流産や先天異常が多くなると報告されています。そのため妊娠3ヶ月以上前からミコフェノール酸モフェチルを中止することが勧められています。妊娠を希望していて、ミコフェノール酸モフェチルを処方された場合は主治医の先生に相談してみてください。

■メトトレキサート

メトトレキサートを内服している期間に妊娠すると、流産や先天異常が多くなると報告されています。そのため、妊娠3ヶ月以上前からメトトレキサートを中止することが勧められています。妊娠を希望していて、メトトレキサートを処方された場合は、主治医の先生に相談してみてください。また男性にも同様の注意があります。男性がメトトレキサートを飲んでいる場合も妊娠の3ヶ月以上前から中止することが勧められています。

■アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス

アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムスは添付文書では「妊婦または妊娠している可能性のある婦人は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されています。

以前は妊婦または妊娠している可能性のある婦人に対しては禁忌と記載されていました。しかし、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムスを内服することによる赤ちゃんへの悪影響の根拠は十分ではなく、2016年に発表されたヨーロッパリウマチ学会のガイドラインでも、妊娠中に使用可能な薬剤として位置づけられており、日本でも妊婦に有益性が上回ると判断される場合に投与が可能となりました。

出典:Götestam Skorpen C, et al. The EULAR points to consider for use of antirheumatic drugs before pregnancy, and during pregnancy and lactation. Ann Rheum Dis . 2016 May;75(5):795-810.

■ヒドロキシクロロキン

ヒドロキシクロロキンは日本では2015年に認可されましたが、海外では長年使用されている免疫抑制薬です。妊娠中の赤ちゃんへの影響があるかを検証した研究もいくつかあります。そこでは、妊娠中にヒドロキシクロロキンを使用しても赤ちゃんに先天異常が起こる割合は使用しない時と変わらないと報告されています。そのため、日本皮膚科学会・眼科学会が発行しているヒドロキシクロロキン適正使用のための手引きでも「治療に必須の場合には、妊娠中であっても使用することは可能と考える」と記載されています。ただし、胎盤を介して赤ちゃんへ薬が移行することは分かっているため、使用に際しては主治医の先生に相談してみてください。

出典

妊娠と薬の関係に関しては国立成育医療研究センターが個別の相談を受け付けています。

こうした専門の窓口以外でも、心配な点があれば医師や薬剤師に相談してください。なお、処方された薬を自己判断で急にやめたり量を変えて飲んだりすることは危険です。全身性エリテマトーデスの治療中に妊娠したい・したかもしれないと思ったら、まずは主治医に相談してください。