にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 215回の改訂 最終更新: 2025.02.26

乳がんの転移:骨転移・脳転移などの症状、診断、治療

乳がんは進行すると骨・脳・肺などに転移します。骨転移と脳転移を例に、転移によって現れる症状や、転移に対する治療について説明します。 

乳がんの転移しやすい部位として骨があります。乳がんが転移した患者さんの約30%で最初に骨転移が起きています。

骨転移が起きる理由は、乳がんが血管の壁を破壊して、がん細胞が血管の中を流れていき、骨でがん細胞が増殖するからです。

乳がんの骨転移では疼痛(とうつう;痛み)が主な症状となります。

さらに背骨脊椎)に転移した場合は神経にがんが浸潤して運動麻痺などの症状が現れることもあります。神経は脳から出た命令を伝えて体を動かす働きがあります。神経は重要な仕組みなので、大事な部分(脊髄)は硬い背骨の中に存在しています。骨への転移が進行すると神経が圧迫されたりして体を動かす命令が不十分に伝わったり、伝わらなくなります。

骨転移のある乳がん患者さん全員に神経症状が現れるわけではありませんが、手などを動かしにくいと感じるときは速やかに主治医の先生に相談することが大事です。放射線治療などで、骨の痛みが緩和されたり神経への浸潤を抑えることが可能です。

骨転移の症状としては痛みが問題になります。他にも症状があります。

解説します。

痛みは、骨転移の代表的な症状です。転移がある場所が痛みます。

乳がんの骨転移には骨を溶かすタイプ(溶骨性)と骨が硬くなるタイプ(造骨性)があります。溶骨性骨転移では骨がもろくなります。特に足の関節など体重を支えるのに大事な骨が骨折してしまうとその後の生活に支障が出てしまうので注意が必要です。

骨転移は脊椎(背骨)にもよく発生します。脊椎(せきつい)の中には脊髄(せきずい)という神経があります。脊髄は人間の体を動かすのに重要な役割を果たしています。脊髄にがんが浸潤した場合には、運動麻痺などの深刻な症状が現れ、治療しても残ることがあります。

手や足が動かなくなると生活に支障が出てしまいます。

しびれなどが脊椎への転移を知らせるサインになることがあります。しびれや手の動かしにくさを感じたときは主治医に相談してみてください。

骨にはカルシウムが多く含まれています。骨転移によって骨が破壊されるとカルシウムが血液中に移動して高カルシウム血症という状態に陥ります。

高カルシウム血症では、意識が「ぼーっと」したり、便秘気味になったりすることがあります。高度な高カルシウム血症は、入院して集中的な治療が必要になる場合があります。

症状などから乳がんの骨転移が疑われたときは、次のような検査で骨転移の場所や程度を確認します。

  • レントゲンX線写真)
  • MRI検査
  • CT検査
  • 骨シンチグラフィ
  • PET、PET-CT検査
  • 血液検査

レントゲンは素早くできる検査です。放射線であるX線を使って骨の写真を撮影します。骨転移は周りの骨より黒くなるなどの特徴が表れます。

乳がんがある人に痛みなどの症状が出た場合、まずレントゲンを撮影することが多いです。レントゲンの結果がはっきりしない場合は、MRI検査、CT検査などが行われます。

MRI検査は画像検査です。放射線を使いません。磁気を利用して撮影します。体にペースメーカーなどの金属製品が植え込まれている人は、磁気により影響を受ける可能性があるため、MRI検査を使えない場合があります。

骨転移の評価にはMRI検査が重要です。脊椎に骨転移が疑われる場合には特にMRI検査がよく用いられます。転移したがんと神経の位置関係を確認するにはMRI検査が適しています。

CT検査は骨転移の評価のために行われることがあります。骨転移に対してはMRI検査も有効な検査ですが、身体の中に金属が入っていたりしてMRI検査を使えない人に対しては、CT検査が行われることがあります。

骨シンチグラフィは骨転移の有無を調べる画像検査です。放射線を使います。

体の中に99mTc(99mテクネチウム)という放射性物質を入れて撮影します。放射性物質を体に入れることから、核医学検査という種類に分類されます。

骨転移がある場所では、骨が物質を活発に取り込んでいます。骨シンチグラフィには骨に取り込まれやすい物質と99mTcを結合させた薬剤を使います。この薬剤を注射すると骨転移に取り込まれます。すると骨転移の中に99mTcが集まることになります。99mTcは放射線を放出するので、画像を撮影すると骨転移から多くの放射線が放出されている様子が写ります。

骨シンチグラフィの利点は、全身の骨を評価できることと、小さな骨転移でも見つけられることです。その反面、骨折や炎症が骨転移と似て見えることもあります。

骨シンチグラフィの結果がはっきりしない場合などでは続けてMRI検査やCT検査の検査も行います。

■検査の手順

薬を注射したあと、2-3時間程安静にしてから撮影を行います。撮影自体は30分程度です。食事の制限などは特に必要ありません。

■検査後の注意

骨シンチグラフィを行った直後は、体に放射性物質が残っています。体から放射線が出ているので、検査を受けた日はなるべく人と会うことを避けた方がよいです。特に小さな子どもや妊婦さんには注意してください。

検査を受ける施設で事前に注意事項の説明があります。心配なことがあれば検査前に質問しておいてください。

PET(ペット)は全身を調べる画像検査です。放射線を使います。PET-CT検査はPETとCT検査を組み合わせた検査です。

PETにはFDG(フルオロデオキシグルコース)という物質を使います。FDGを体内に注入すると、がん細胞は通常の細胞より盛んにFDGを取り込みます。FDGが取り込まれた場所では放射線が発生します。FDGによる放射線を利用して画像撮影を行います。

PETががんの転移を見分ける性能はCT検査やMRI検査より高いわけではありません。PETは必須の検査ではありません。

骨はカルシウムを多く含みます。骨転移では骨の破壊が起きるので、骨に含まれたカルシウムが血液中に放出され、血液中のカルシウム値が上昇します。また骨破壊があればALP(アルカリフォスファターゼ)の数値が上昇します。血液検査から骨転移が疑われることもあります。

骨転移の治療の目的は以下です。

  • 痛みを抑える
  • 神経への浸潤を予防する
  • 骨折を予防する

治療法として、放射線治療と薬剤があります。

以下では骨転移の治療に使われる薬について説明します。

ビスホスホネート製剤は骨を丈夫にする薬です。

骨は常に一部が壊されると同時に一部が新しく作られています。骨吸収と骨形成のバランスが取れていることで骨の量が一定に保たれています。骨吸収には破骨(はこつ)細胞、骨形成には骨芽(こつが)細胞という細胞がそれぞれ働いています。

ビスホスホネート製剤は破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の自滅(アポトーシス)の誘導作用や機能喪失作用を現します。また骨から血液中へのカルシウムの輸送を抑える働きもあります。血液中のカルシウムは骨芽細胞によって骨の形成に使われているので、血液中のカルシウム濃度が低下します。

以上の作用でビスホスホネート製剤は骨量や骨密度を改善します。加えて高カルシウム血症を改善します。さらに、がんが骨に転移したことで引き起こされる骨の痛みを減少させる効果、骨折を予防する効果を発揮します。

ビスホスホネート製剤のうち、がんの骨転移に対してはゾレドロン酸やパミドロン酸などがあります。

ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®など)はビスホスホネート製剤の中でも強い薬理作用を持つことが確認されています。がんの骨転移による痛みを和らげることや、骨折などの骨に関連した病気にゾレドロン酸が有効とされています。

ビスホスホネート製剤の主な副作用を挙げます。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 吐き気・下痢・便秘などの消化器症状
  • 関節痛・筋肉痛などの筋骨格系症状
  • 肝機能障害
  • 注射部位反応(注射による疼痛、腫脹発赤
  • 顎骨壊死

顎骨壊死(がっこつえし)は、かなりまれとはされていますが、注意するべき副作用です。ビスホスホネート製剤での治療中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯した場所の骨がむき出しになるなどの症状が現れることがあります。

ビスホスホネート製剤で顎骨壊死が発生する仕組みはまだ不明な部分があります。気を付けるべき状況としては、抜歯やインプラントなどの歯科的な処置・手術を行った場合、口腔内の不衛生、局所(あご付近)への放射線治療などの条件が重なった場合に顎骨壊死が起こりやすいと考えられています。

多くの場合、ビスホスホネート製剤による治療前に歯科受診の有無を確認されます。仮にビスホスホネート製剤による治療中に抜歯などが必要となった場合は、歯科医師などにビスホスホネート製剤で治療中の旨を伝えてください。

骨に転移したがん細胞は副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)などを放出し骨芽細胞を刺激し、RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)という物質を産生させます。RANKLは破骨細胞の形成・機能などを促進します。RANKLの作用により、骨吸収が強くなるほか、骨から腫瘍細胞の増殖因子(IGFなど)が放出され、がん細胞の増殖を引き起こすと考えられています。

デノスマブはRANKLに結合してRANKLの働きを阻害します。RANKLの作用を阻害することにより、破骨細胞の機能を鈍らせ、全身の骨吸収と局所の骨破壊を遅延させることで効果を現します。デノスマブの作用には骨量や骨密度の改善作用、骨病変の進行を抑える作用、抗腫瘍作用などがあります。

がんによる骨病変の進行を抑える目的で、デノスマブ製剤のランマーク®という注射薬が使われます。

がんの骨転移への治療に使う場合には通常、4週間に1回デノスマブを注射します。血液中のカルシウムが減り過ぎないようにカルシウムとビタミンDの飲み薬を毎日飲みます。一般的にはカルシウムとビタミンD(及び炭酸マグネシウム)が一緒に配合されているデノタス®配合チュアブル錠を通常「1日1回2錠」飲み続けます。

デノスマブ製剤(ランマーク®)で注意するべき副作用を挙げます。

  • 低カルシウム血症
  • 疲労感
  • 関節痛や筋肉痛などの筋骨格系症状
  • 下痢・吐き気などの消化器症状
  • 顎骨壊死

ビスホスホネート製剤と同じくデノスマブ製剤でも顎骨壊死への注意は必要です。

デノスマブ製剤によって顎骨壊死が引き起こされる仕組みは明らかになっていません。原因の一つとして骨代謝の抑制が考えられています。これまでに報告されている顎骨壊死の多くが、抜歯などの顎骨を傷付ける歯科治療や局所感染に関連して発現しています。

デノスマブ製剤による治療の前だけでなく、治療中に歯科的な処置が必要になった場合はその旨を医師などに伝えることが非常に大切です。

ゾレドロン酸とデノスマブは骨転移がある乳がんの治療に重要な薬剤です。一方で注意しなければいけないのが顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる副作用です。

顎骨壊死とは、ゾレドロン酸やデノスマブの投与中に抜歯などを行った場合に傷の治りが悪く、抜歯後の部位の骨がむき出しになったりすることです。顎骨壊死の治療は困難です。顎骨壊死は避けなければいけない合併症の一つです。

顎骨壊死を避けるためには、ゾレドロン酸の投与前に歯科を受診し、必要な歯科治療を行っておくこと、すでにゾレドロン酸の投与中に抜歯が必要になった際は主治医に必ず相談し、ゾレドロン酸とデノスマブの休薬が可能かを確認するといったことが重要です。

投薬前には歯科治療の必要性について確認することが多いですが、治療中に抜歯が必要になった場合などは、自己申告しなければなりません。ここは特に注意が必要です。

乳がんが転移しやすい場所を挙げます。

  • 肝臓

脳転移について説明します。

乳がんの脳転移は初期治療から1年後に起こることもあれば、かなり時間が経ってから出てくる場合もあります。

脳転移による症状は、転移がある場所によって大きく違います。症状の例を挙げます。

  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 体の動かしにくさ(麻痺)
  • 痙攣(けいれん)

がんは体の中でどんどん大きくなります。脳転移があると、転移したがんが大きくなるに従って脳が圧迫されて上記のような症状が出現します。

治療として、抗がん剤は脳の転移している部位まで届かず効果が発揮できません。症状を和らげる目的で放射線治療やステロイドなどの薬物治療を行います。条件がよければ手術による摘出も考慮します。

  • 手術
  • 放射線治療
    • 全脳照射 
    • 定位放射線照射 
  • 薬物治療
    • ステロイド 

脳転移の状況などから適切な治療を選択していくことになります。

脳転移を手術で摘出する場合があります。

転移の状態が一定の条件にかなう(病巣が1個、大きさが3cm以上、手術しやすい場所など)場合で、全身状態も良好であれば症状の改善を目的に手術が検討されます。

手術を行ったあとに、治療の効果を高めるために放射線治療を追加で行うことがあります。

放射線治療は神経症状を和らげるなどの目的で行います。

放射線治療には大きく分けて2種類の方法があります。

  • 全脳照射:脳全体に放射線を照射する
  • 定位放射線照射:位置を正確に決めて照射する

脳転移の数が少ないときは定位放射線照射が考慮されます。

全脳照射では正常な部分にも放射線が照射されるので、正常な部分への影響が懸念されます。転移している箇所が少ない場合や小さい場合は定位放射線治療を優先することがあります。

逆に転移が多い場合や大きい場合は、確認できた場所以外にも小さな転移が多くあると考えて、隠れた転移をカバーする目的で、全脳照射に利点があるとも考えられています。

放射線治療にかかる期間は、全脳照射で2-4週間程度が見込まれます。

放射線治療では体に大量の放射線を照射します。一度に照射すると危険なので、分割して少しずつ照射します。全脳照射には通常で合計30Gy(グレイ)ほどの放射線を使います。一般的には1回あたり2-3Gyに分割します。

転移している場所の状況などによって照射する放射線の量や回数を調整します。

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