ようついねんざ(ぎっくりごし)
腰椎捻挫(ぎっくり腰)
急に重いものをもちあげたり、体を強くひねったりすることで、背骨のまわりの組織に障害が生じ、急激な痛みが出た状態
12人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2023.08.28

腰椎捻挫(ぎっくり腰)の検査:レントゲン検査、CT・MRI検査など

腰痛の原因は多くあります。腰痛の原因としてぎっくり腰は多くを占める原因ですがそれ以外の病気と区別することが大事です。ぎっくり腰とその他の病気を見分けるための診察や検査などを紹介します。

1. ぎっくり腰の検査の目的

ぎっくり腰は身体診察や画像検査を用いて診断します。ぎっくり腰は多くの場合は自然に改善します。ぎっくり腰と似たような症状でも緊急で対応しないと後遺症が強く残る病気や命に危険を及ぼす病気であることも中にはあります。

ぎっくり腰の検査は重い病気が隠れていないかを見分けることが目的です。

2. ぎっくり腰の診察:問診・身体所見

ぎっくり腰は他の病気と同様に問診や身体診察などを行い腰痛の原因がぎっくり腰かどうかを判断します。問診や身体診察で観察された情報(所見)からぎっくり腰以外の病気の可能性が低い場合はいくつかの画像検査を省略することができます。

問診

問診は腰痛の原因について探るためにとても大切です。以下ではよく用いられる問診内容やその意図について説明します。受診時の参考にしてもらえればと思います。

  • 痛みの場所
    • 痛む場所がはっきりとしているならば場所を指差したり押さえたりして伝えてもよいです。
  • 痛みの発生したときの状況
    • 例えば重いものを持ち上げたときや不自然な姿勢をとったときなど具体的に状況を伝えてください。
  • 痛みの変化
    • 痛む場所や痛み方の変化は病気の推定に重要なことがあります。
  • 他の症状の有無
    • 足などに痺れはないか
      • ぎっくり腰は痺れなどの症状はないことが多いです。足が痺れていれば伝えてください。
    • 排尿や排便がなくなったりしていないか
      • 重症の椎間板ヘルニアは排尿や排便をコントロールする神経に影響することがあります。排尿や排便に影響がある場合は直ちに治療しなければならないことがあります。
    • 体重減少・発熱の有無
      • 背骨椎間板(背骨と背骨の間のクッション)に炎症や感染が起きていることがあります。
  • 今までにかかったことのある病気
    • 手術歴や入院歴、通院中の病気などがあれば伝えてください。
      • 過去にかかった病気や現在治療中の病気が腰痛に関係していることがあります。
  • 服用している薬
    • 他の病院で処方されている薬などについて説明してください。お薬手帳などを使うのも効果的です。外用薬、市販薬、サプリメントや健康食品なども影響する場合があります。

身体診察

ぎっくり腰は痺れや下肢の痛みなどの症状はないことがほとんどです。

ぎっくり腰と似た症状が現れる病気に腰椎椎間板ヘルニアがあります。ぎっくり腰は腰椎椎間板ヘルニアとの区別が重要です。身体診察が両者を見分けることの役に立ちます。代表的な診察方法にSLRテストとFNSテストがあります。

整形外科の診察では多く用いられる方法なのでやり方や意味について理解しておくことは診察を受ける上で役にたつと思います。

【SLRテスト:straight leg raising test】

SLRテストは下肢挙上テストともいい、ぎっくり腰と腰痛椎間板ヘルニアを見分けるのに役立ちます。SLRテストは以下の手順で行います。

  1. 仰向けで横になります。
  2. 膝を伸ばしたまま股関節を曲げていきます。
  3. 床と上がった足の角度が70°以上まで痛みなく上がれば正常と判断されます。
  4. 両足で検査を行います。

神経が圧迫されている場合には70°未満で痛みがでます。

SLRテストは背骨の腰の部分の下の方(第4、5腰椎と仙骨)から出ている坐骨神経に圧迫があるかを判断する検査です。

【FNSテスト:femoral nerve stretch test】

FNSは大腿神経伸張テストともいいます。SLRテスト同様にぎっくり腰と椎間板ヘルニアの区別に用いる検査です。

FNSテストは以下の手順で行います。

  1. うつぶせになります。 
  2. 膝を曲げて地面と垂直にします。
  3. 検査をする人は足首を持って足を天井方向に引っ張ります。
  4. 太ももの前側に痛みが現れるとFNSテスト陽性と判断します。
  5. 両足で検査を行います。

FNSテストではSLRより頭側の背中の神経への圧迫を調べています。第2腰椎から第4腰椎の間からでる神経に圧迫があると陽性になると考えられています。

ぎっくり腰と椎間板ヘルニアの区別に用いる代表的な2つの身体診察について紹介しました。紹介した身体診察は道具などを必要としないので自分でもできそうなものですが、その解釈には専門的な知識が必要になります。自己判断で腰椎椎間板ヘルニアではないと考えるのは危険なこともあるので整形外科医の診察を受けることが大事です。

参考文献
・中村利孝, 松野丈夫/監, 標準整形外科, 2017, 医学書院

3. ぎっくり腰に画像検査は使う?

急に起きた腰痛の診察ではぎっくり腰以外の病気を否定できないこともあります。そのような状況では画像検査などを用いて調べます。

画像検査では他の病気の有無に注目します。ぎっくり腰は画像検査で変化を認めることはありません。

実はぎっくり腰の医学的な定義は一定していません。いくつかの立場がありますが、ここでは「急に起こった腰痛で、明らかな原因を指摘できないもの」をぎっくり腰と呼ぶことにします。この定義から、画像上の異常が確かめられればそれが原因と思われるので「ぎっくり腰ではない」と呼ばれることになり、ぎっくり腰では画像に異常はないということになります。

ではなぜ画像に異常がないのに激しい腰痛が出るのでしょうか。

ぎっくり腰の原因は腰椎という背骨の捻挫(ねんざ)と考えられています。少し難しい話ですが捻挫の定義は以下のものになります。

関節固有の生理的な範囲以上、あるいは生理的な方向以外の外力が加わることで関節包や靭帯の一部が損傷されたが、関節面相互の適合性が正常に保たれている状態

解説します。

関節に通常耐えうるより大きな力が及ぶと、関節を支える靭帯(じんたい)などの一部が傷つきます。しかし脱臼(だっきゅう)や骨折には至らず、関節の形には変化がないこともあります。これが捻挫です。

捻挫が起こった前後で骨の形などに変化はありません。しかし靭帯などの柔らかい組織は傷付いています。画像検査では、靭帯などを写し出す方法もありますが、柔らかい組織の損傷が写りにくい場合があります。このため、損傷があるけれども画像では指摘できず、原因が特定できないということは起こってもおかしくありません。ぎっくり腰はこのような状態だと考えられています。

診断の順序としては、画像検査で正常範囲内と考えられる変化しかなければぎっくり腰という診断になります。他に腰痛の原因になる病気が見つかれば診断はその病気になります。例えば腰椎に椎間板ヘルニアがある場合は腰椎椎間板ヘルニアの診断となります。

このように他の病気の可能性を排除していって残ったものを診断名とする方法を除外診断といいます。ぎっくり腰は除外診断によって診断されます。

参考文献
・中村利孝, 松野丈夫/監, 標準整形外科, 2017, 医学書院

腰痛の原因になる病気

ぎっくり腰の診断にいたるには他の病気の可能性を否定する必要があります。では腰痛の原因となる他の病気には何があるのでしょうか。骨や筋肉が原因だと考えている人が多いと思いますが実は内臓の病気も腰痛の原因になることがあります。

ぎっくり腰の場合は時間が経過するとともに症状は良くなりますが他の病気は治療が必要なことが多く中には緊急で治療しなければならないこともあります。

腰痛の原因を調べた結果、診察だけで明らかにぎっくり腰以外の病気が否定できる場合には画像検査は必要はありません。しかし症状などから他の病気の可能性が否定できないときには画像検査などを用いて調べます。

次は腰痛の原因について調べるための検査について紹介します。腰痛の原因を調べるにはCTMRI検査などの画像検査が役に立ちます。

レントゲン検査

レントゲン検査は放射線を用いて骨などの形をみることができます。主に骨のずれや骨折の有無などを調べる検査です。

超音波検査

超音波検査エコー検査とも呼ばれることのある検査です。放射線を使う検査ではないので放射線による影響はありません。

骨や神経の状態を観察して診断することに超音波検査は向いてはいません。しかし超音波検査は腹部の臓器を観察するのに適しています。特に膵臓や胆嚢、腎臓などの形をみるのによく用いられます。

問診や診察などで腹部の異常の可能性があると考えられたときに用いられます。

CT検査

CT検査は放射線を使った検査です。身体の中を放射線を用いて撮影して画像にします。CT検査はレントゲン検査に比べて放射線を使う量が多いので必要なときにだけ使われます。例えば腰痛の原因として血管や腹部臓器の病気が疑わしい場合にはCT検査による診断が適しています。

MRI検査

MRI検査は磁気を利用した検査です。CT検査とは違った方法で身体の中を観察できます。

MRI検査は放射線を使うことはないので放射線の体への影響を心配する必要はありません。体の中にペースメーカーなどの金属製品が入っている人では、磁気の影響を考えてMRIを使えない場合があります。

MRI検査は関節などを観察するのに向いているので椎間板ヘルニアなどが否定できない場合などに用いられます。