スキルス胃がんについて:症状や、生存率、治療法
スキルス胃がんは胃がんの一種です。胃の壁の中で広がるので進行すると胃が固くなって発見されることがあり、進行が早いなどの特徴があります。普通の胃がんと同じように手術で治療できます。
目次
1. スキルス胃がんは普通の胃がんと違うのか?
スキルス(scirrhous)はギリシア語で硬いという意味です。スキルス胃がんの特徴のひとつは進行が早いことです。
スキルス胃がんの組織を顕微鏡で観察すると、未分化型
このような特徴をもつスキルス胃がんは胃の粘膜の下に隠れて広がることがあります。
2. スキルス胃がんの症状について
スキルス胃がんの
スキルス胃がんは胃の壁の中で広がっていきます。進行すると胃の壁の多くががんに侵されている状態になります。その状態では胃は固くなり、胃が広がらなくなったりします。そのため少ししか食べられなくなる場合があります。
3. スキルス胃がんの生存率について
スキルス胃がんの生存率は胃がんの中でも比較的低いと言われます。統計上は、スキルス胃がんになる人は少ないので、スキルス胃がんだけを集計した報告は多くはありませんが、研究結果を一つ紹介します。
スキルス胃がん | その他の胃がん | |||
人数(人) | 人数 | 5年生存率(%) | ||
8 | 85.70% | 59 | 88.20% | |
ステージII | 25 | 30.40% | 46 | 51.80% |
ステージIII | 51 | 6.30% | 48 | 48.30% |
ステージIV | 98 | 4.90% | 88 | 10.70% |
合計 | 182 | 12.50% | 241 | 67.30% |
これは過去の検討で、全員が手術をしています。ステージは数字が大きくなるほど進行していることを表します。スキルス胃がんのほうがその他の胃がんに比べて進行して発見されることが多く、生存率も高くない傾向があります。
この研究は2000年代前半の報告なので、
4. スキルス胃がんのステージについて
胃がんのステージはIからIVの4つに大きく分類されます。ステージは「胃でのがんの深さ」、「
詳しくは「胃がんのステージとは?」で詳しく説明しているので参考にしてください。
5. スキルス胃がんの原因について:ピロリ菌や遺伝は関係があるのか?
スキルス胃がんの原因はわかっていません。胃がんの家族歴や
スキルス胃がんとピロリ菌
スキルス胃がんは顕微鏡で観察すると未分化型がんというもので構成されています。未分化型がんの全てがスキルス胃がんになるわけではありませんが、未分化型がんの一部がスキルス胃がんの原因になります。未分化型がんはピロリ菌が感染しているまたは過去に感染が合ったことを示すピロリ菌
参考:Acta Oncol.2008;47:360-5
スキルス胃がんと遺伝
スキルス胃がんと遺伝子変異が関係しているとする研究が進んでいます。具体的には、CDH1という遺伝子の変異によってスキルス胃がんが発生しやすくなることがわかっています。しかし、親がスキルス胃がんになったから子どももなるというほどはっきりした遺伝はあ現在のところ確認されていません。
6. スキルス胃がんの検査について
スキルス胃がんは通常の検査ではスキルス胃がんは胃粘膜の下で広がるので胃の粘膜を観察する内視鏡検査ではわかりづらいことがあります。
レントゲン(上部消化管造影検査)
胃をレントゲンで撮影するには
バリウムを含む造影剤を使うことから「バリウム検査」あるいは「
上部消化管造影検査では放射線の一種であるX線を体に当てます。特に
スキルス胃がんがある場合、レントゲンでは胃が通常より固くなっている様子や太いしわ(ひだ)などが見えることがあります。こうした特徴が見つかった時は、スキルス胃がんを念頭においてその後の検査を行うことになります。
腹部超音波検査
お腹から当てる超音波検査では胃がんの診断は難しいですが、
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
進行したスキルス胃がんがあると、胃が固くなり、胃カメラでしめ縄状に連続したひだが見られることがあります。しかし、スキルス胃がんは胃カメラで見つけにくい場合があります。
スキルス胃がんは胃の粘膜の下で進行していきます。粘膜には
しかし、スキルス胃がんが疑われる場合でも、胃カメラによって組織を取り出すことができる点は非常に重要です。次に説明します。
生体検査(組織診)
胃カメラの先は小さな器具を送り出して操作できるようにできています。胃の壁から組織を切り取ることもできます。体の組織を取り出して調べる検査を生体検査と言います。
生体検査で胃がんが見つかれば胃がんの診断が確定します。スキルス胃がんの診断にも生検は非常に重要です。
超音波内視鏡
内視鏡の先に超音波を出す機械が取り付けられたものです。胃の中から超音波を当てることで、胃の中の空気に邪魔されず、胃の壁の中の様子を画像に写し出すことができます。胃がんの深さなどを判断するのに適しています。
CT検査
CTは放射線を使って身体の中身を画像にすることができます。造影剤を注射することでよりはっきりと臓器を写し出せます。
PET検査(PET/CT)
PET(ペット)検査は画像検査で、放射線を使います。PET/CTはPETとCTを組み合わせた検査です。胃がんの検査としてはいずれも必須ではありません。
胃の中の
PET検査の弱点として、画像で陽性のものが必ずしもがんとは限りません。
MRI検査
胃がんが進行すると膵臓などに浸潤することがあります。MRI検査は膵臓などの周りの臓器への浸潤などを判断するのに適しています。MRI検査もCTと同じように造影剤を使うことがあります。
審査腹腔鏡
審査
審査腹腔鏡を行うことで、腹膜播種の有無がよりはっきりと診断できます。腹膜播種や小さな肝臓転移はCTなどの画像検査と比較しても審査腹腔鏡のほうが診断能力が高いと考えられています。
腹膜播種がある場合は手術で胃を切除しても根治は難しいです。腹膜播種がある場合は全身にまだ見えない小さながんの転移があると考え、
また、審査腹腔鏡で転移が認められなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行して治療を行う場合があります。
7. スキルス胃がんの治療について
スキルス胃がんの治療は原則として普通の胃がんと同じです。領域
胃がんの手術について詳しくは「胃がんの手術はどんな手術?」、抗がん剤治療については「手術前後の抗がん剤治療では何をする?」で説明しているので、参考にしてください。
8. スキルス胃がんの症状について
スキルス胃がんの症状は通常の胃がんとほとんど変わりはありません。
【胃がんの治療】
- 腹痛
- 体重減少
- 食思不振
- みぞおちのあたりの不快感
- お腹に塊を触れる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん))
- からだがだるい感じ(全身
倦怠感 (ぜんしんけんたいかん))
通常の胃がんに比べて異なるのは、スキルス胃がんは症状が出にくい点です。これらの症状がひとつも表れないままスキルス胃がんが進行している場合もあります。もちろんこれらの症状の多くはほかの原因でもよく現れるものです。特に40歳未満の人では、腹部腫瘤感以外のいくつかに当てはまったとしても、最初に疑うべき原因はスキルス胃がんではありません。
スキルス胃がんに初期症状はあるのか
スキルス胃がんも通常の胃がんと同様に初期の症状は乏しいです。また、スキルス胃がんは胃の粘膜の下で広がるので症状が出にくいと考えられます。
しかしながら、症状がないうちから検査をしてもスキルス胃がんの早期発見に結び付くとは言い難いのが現状です。ただ、スキルス胃がんは比較的まれな病気なので、知り合いなどがスキルス胃がんになって自分も心配になったとしても、将来スキルス胃がんになる確率は低いと言えます。
スキルス胃がんが進行すると現れる症状はどんなものか
スキルス胃がんは胃の粘膜の下で広がり、進行すると胃が固くなることがあります。胃が固くなると、膨らみにくくなるので、食事の量が減少し、結果として体重が減少したりします。
また、スキルス胃がんがかなり進行して腹膜播種(ふくまくはしゅ)を起こす場合もあります。普通の胃がんでも腹膜播種はありますが、スキルス胃がんは特に腹膜播種を起こしやすいとされます。腹膜播種が起こると、腹水が溜まってお腹が張ります。
腹水について
腹水とはお腹の中に液体が溜まった状態です。
お腹の中には腸などの隙間に腹腔(ふくくう)というスペースがあります。腹腔にがん細胞が散らばってしまうことを腹膜播種といいます。腹膜播種がおきると散らばったがん細胞が炎症を起こして液体を出します。この液体が腹水です。腹水が溜まっていくと動けないくらいにお腹が張ることもあります。
腹水は利尿剤などで症状が少し緩和されることもありますが効果には限界があります。腹水による症状が強くなれば針を刺すなどして腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。