性病
性病はナイーブな話ですのでなかなか人に相談できない病気です。それでいて放っておいても治ることは期待できません。また、ともすれば不妊症の原因になります。 性病を起こす原因や治療法について考えていきましょう。
最終更新: 2023.02.28

梅毒とは?症状、検査、治療について

梅毒は性器の潰瘍(皮膚がえぐれる症状)などを初期症状として、進行するとともに全身の症状を起こします。妊娠中に母親から胎児に感染することがあります。梅毒の症状など、気を付けたい点を説明します。

1. 梅毒の原因は?

梅毒の原因は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌の感染です。梅毒は主に性行為でうつります。身体の小さな傷から梅毒トレポネーマが侵入し、血流に乗って感染が全身に広がっていきます。また、妊婦が梅毒にかかっている場合、胎盤を通して胎児に感染します。これを先天梅毒と呼びます。

梅毒は20世紀に抗菌薬抗生物質)が発明されたことで激減しましたが、日本では最近再び増えています。原因は主に性行為です。

症状が出ている場所に触れることで感染します。コンドームを使っていても、性器以外に症状が出ている場所があれば、キスなどでも感染します。もし症状らしいものを見つけたら決して触れないでください。

2. 梅毒の潜伏期間は?

梅毒トレポネーマに感染してから10日から90(平均で20日)程度は症状が出ない潜伏期間です。この間、梅毒トレポネーマは身体の中で増殖して全身に広がっていきます。症状がないときに血清反応(血液検査)が陽性になって見つかった梅毒を無症候梅毒(むしょうこうばいどく)と呼びます。

潜伏期間を過ぎると皮疹や潰瘍などの症状が現れます。梅毒の症状が明らかなものを顕症梅毒(けんしょうばいどく)と呼びます。

梅毒に感染したかもしれないと思う出来事があれば、症状が出ていなくても検査を受けてください。

3. 梅毒の初期症状から第4期までの症状

梅毒の症状の出る時期は大きくわけて4期あります。典型的な初期症状は感染した場所の潰瘍(かいよう)です。

第1期梅毒の症状

感染した場所の皮膚に潰瘍が出現します。性病でできる皮膚の潰瘍を下疳(げかん)と言い、梅毒でできた下疳は周りの皮膚より硬いので特に硬性下疳(こうせいげかん)と呼びます。硬性下疳は痛みが出にくいとされていますが、性器ヘルペスの潰瘍はほとんどの場合で痛みを伴います。

足の付根のリンパ節が痛みなく腫れることもあります。

第2期梅毒の症状

第1期梅毒の症状が始まってから6週間くらいで第2期に至ります。第2期ではは体中に激しい症状が出ます。全身症状として、発熱・皮疹・のどの痛み・筋肉痛が目立つようになります。この時期は症状が出たり消えたりしながら数年以上続きます。

第2期梅毒の症状をまとめます。

  • 全身症状
    • 発熱、だるさ、食欲低下
    • のどの痛み
    • 関節痛
    • 全身のリンパ節の腫れ
    • かゆみ
  • 皮疹
    • 皮膚にボツボツと数mm程度の盛り上がりができる(扁平コンジローマ)
    • 皮膚からが出る
    • 脱毛
  • 粘膜疹
    • 全身の粘膜が荒れてただれる、潰瘍になる
  • 神経の症状
    • 頭痛、めまい
    • 妄想、記憶力低下、ゆっくりな話し方、人格変化

第3期梅毒

第3期には神経梅毒、ゴム腫、心血管梅毒など全身でじわじわと病気が進行していきます。

以下にその症状を簡単に説明します。

  • 神経梅毒
    • 梅毒が神経を冒す状態です。頭痛や顔面の麻痺や人格の変化が起こります。
  • ゴム腫
    • 内臓、皮膚、筋肉、骨などにゴムのようなしこりができます。これをゴム腫といいます。鼻の骨にゴム腫ができると鼻が陥没してしまいます。
  • 心血管梅毒
    • 心血管梅毒とは心臓や心臓の近くの大きな血管に感染が及ぶ状態です。この状態になると弁膜症(心臓にある血流の逆流防止弁が壊れる病気)や動脈炎を起こして、息苦しくなったり不整脈を起こしたりします。

第4期梅毒

第3期よりもさらに進行すると、身体が動かせない・感覚がないといった麻痺の症状が現れます。検査や治療が確立した現代では第4期まで放置されることはほとんどありませんが、治療しないまま何年も経過すれば深刻な状態になってしまうことはありえます。

4. 症状の出ない梅毒(無症候梅毒)とは?

症状の出ない梅毒を無症候梅毒といいます。梅毒の初期などでは症状が出ないこともあります。無症候梅毒は検査で見つけられるので、梅毒に感染したかもしれないと思う出来事があれば、症状がなくても検査を受けてください。

梅毒の血液検査で異常が出ても、症状がなければ、無症候梅毒の状態なのかすでに治った梅毒なのかを正確に見分けることは難しいです。無症候性梅毒であればその後症状が出てくることがあるので、注意して様子を見ていかなければなりません。場合によっては、無症候性梅毒かどうか判断つかない状態で治療することもあります。

5. 梅毒の検査

梅毒の検査は大きく2種類があります。

皮膚を切り取って顕微鏡で観察する

皮膚が赤くなる、固くなる、潰瘍が出るなどの症状が出ている部分を切り取って、顕微鏡で調べることで、原因の梅毒トレポネーマを探します。梅毒トレポネーマを目で見て確かめることができれば、梅毒と診断する確実性が高いです。

暗視野顕微鏡という特殊な顕微鏡を使うのですが、現在はほとんどの医療施設でこの顕微鏡は置いていません。また、特殊な蛍光色素を使う検査もありますが、これも時間がかかってしまう弱点があります。

梅毒は第2期までは症状が目立ちますが、それ以降は目立ちにくくなる特徴があります。そのため、梅毒の原因となる梅毒トレポネーマを直接見つけることのできるシチュエーションはかなり限られてきます。

そのため血液検査を並行して行い、血液検査の結果が決め手になることも多いです。

血液検査

血液検査には2種類の項目があり、2つの組み合わせで診断します。

  • トレポネーマ検査(TP法:Treponema pallidum
    • 梅毒の見逃しが少ない検査です。梅毒トレポネーマに感染した直後を除いて、感染していればほとんど陽性になります。ただし、一度梅毒にかかってしまうと治療済みでも陽性になるので、治ったかどうかは判定できません。
  • 非トレポネーマ検査(STS法:Serologic Test for Syphilis)
    • 梅毒だと陽性になり、治療して梅毒トレポネーマがいなくなると陰性になるので、治療の効果判定ができます。ただし、感染してから3週間から6週間ほどの間と、第3期以降の進行した梅毒では、陰性となりやすいことが弱点です。また、妊娠など梅毒以外の原因でも陽性(生物学的偽陽性)になります。

血液検査の結果から推定できる診断を表にまとめます。

表 梅毒の血液検査の読み方

 

非トレポネーマ検査陽性

非トレポネーマ検査陰性

トレポネーマ検査陽性

梅毒

治療済みの梅毒

ごく初期か3期以降の梅毒

トレポネーマ検査陰性

生物学的偽陽性
膠原病
ウイルス感染急性期、
妊娠)

梅毒でない

梅毒に感染した直後

                           

検査結果に加えて「どんな症状が出ているのか」「いつから症状が出ているのか」「どんな性生活を送っているのか」などの手がかりから総合的に判断します。

検査は間違うことがあるので、何回か検査を繰り返したり、症状や検査結果が似ているほかの病気ではないかも一緒に調べます。

6. 梅毒の治療

梅毒の治療ではペニシリン系抗菌薬(抗生物質、抗生剤)を使います。ペニシリン系抗菌薬にアレルギーがある人は、種類の違う抗菌薬を使うこともあります。

治療薬の種類は飲み薬も点滴薬も両方あるため、どちらが適しているかを状況から判断して選択します。全身の状態が悪かったりHIVなどの他の感染症と同時に感染が起こっている場合は入院して点滴の抗菌薬を使うことになります。

飲み薬で治療する場合は、プロベネシド(ベネシッド®)という痛風の薬も一緒に飲むことがあります。プロベネシドを一緒に飲むと、ペニシリン系抗菌薬が血液中に長く残って効果が増強します。

治療期間は基本的には2週間です。ただし、病気が進行していると治療が長引きます。

治療はパートナーと同時に

梅毒が見つかった人のパートナーは感染している可能性が非常に大きいと考えられます。症状のある人だけが治療を行っても、パートナーが感染していればすぐにまたうつされてしまいます。こうした感染の仕方をピンポン感染といいます。ピンポン感染を防ぐために、必ずパートナーと同時に治療をするようにしてください。これは、ほかの性病でも同じです。

7. 梅毒は妊娠にも注意!先天梅毒とは

梅毒にかかっている母親が妊娠すると、お腹の中の子どもにも影響が及ぶことがあります。産まれたときにすでに梅毒に感染していることを先天梅毒といいます。

先天梅毒の症状として、産まれたときすでに現れているものがあります。

  • 肝臓や脾臓が腫れて大きくなる(肝脾腫
  • 皮膚の下で出血して、紫色のあざのような斑点ができる(紫斑
  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸
  • 出生時の体重が2,500g未満(低出生体重)

また、脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)といって、生まれつき梅毒の影響で眼に炎症が起こることで、視力が悪くなる場合もあります。

生まれたときには異常がなくても、小学校に通う年齢になってから視力の低下や難聴が出てくる場合もあります。お母さんが出産までに梅毒にかかったことがあれば、子供の身体に異変がないかよく観察してください。

先天梅毒には、治るものと治らないものがあります。しかし、治らないものでも早く見つけて薬を使えば進行を食い止められます。

子どもを先天梅毒にならないようにするために気をつけることがあります。

  • 妊娠を希望する場合は、妊活前に梅毒の検査を行う。
  • 妊娠したら婦人科が行う梅毒スクリーニング検査を受ける。

この2つに気をつければ先天梅毒を高確率で予防することができます。

8. HIV感染者の梅毒は特に注意!

HIV感染症梅毒と同じく性行為でうつる性病です。HIVと梅毒トレポネーマの両方に感染している人から、同時に両方がうつることがあります。どちらか一方に感染していたら、両方感染しているかもしれないと思ってください。

HIVに感染している人は、梅毒について注意するべきことが増えます。

HIV感染症の一般的な知識について「HIV感染症とエイズ(AIDS)の初期症状、検査、治療」で説明していますので、あわせてご覧ください。

症状が出にくい

HIVに感染すると時間とともに免疫力が落ちていきます。免疫力が落ちると梅毒の症状が出にくくなります。

梅毒は特徴的な症状の出る病気ですが、症状が出ないときに気付いて検査で見抜くことは容易ではありません。そのため、HIVに感染していると分かった場合は、梅毒の検査も必ず受けてください。

感染症にかかりやすい

免疫力が落ちると梅毒にも弱くなります。

実は梅毒の原因となる梅毒トレポネーマが身体に入っても、自分の免疫力だけで治ってしまうことも多いのですが、免疫力が落ちていると薬で治療してもなかなか治らなかったり、重症化しやすくなったりします。

梅毒の治療中に肺炎などほかの感染症が起こることも多くなります。

HIVに感染していて、少しでも体調がおかしいと思ったらかかりつけのお医者さんに相談してください。

薬の飲み合わせが悪いこともある

HIV感染症の治療薬には他の薬と飲み合わせの悪いものがあります。詳しいことは、HIVを専門に治療しているお医者さんか薬剤師がよく知っていますので、お薬手帳を見せて、「この薬を飲んでいるが飲み合わせは大丈夫?」と聞いてみてください。

9. まとめ

梅毒について覚えておきたい点をまとめます。

  • 症状が出ている場所に触れるとうつる
  • 潜伏期間は10日から90日
  • 初期症状は皮膚の潰瘍
  • 母親から胎児にも感染する
  • 治療はパートナーと同時に

梅毒が心配になったら、泌尿器科などの病院・クリニックで相談してください。



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