花粉症に効果が期待できる漢方薬:小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯など
花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎への治療薬としては、フェキソフェナジン(主な商品名:アレグラ®)やロラタジン(主な商品名:クラリチン®)といった抗ヒスタミン薬などが一般的ですが、漢方薬(漢方処方製剤)が使われることもあります。
今回は、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎に対して効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げて紹介していきます。(なお、本記事に登場する薬剤に関して、株式会社メドレーは特定の製薬企業やその関係団体との利害関係はありません)
鼻みず・鼻づまりなどの症状に使われる漢方薬
漢方医学では個々の
ひとえに鼻炎といっても、「体力が充実している人(実証)」と「虚弱な人(虚証)」では適する漢方薬が異なってくる場合があります。また、鼻炎を悪化させる要因のひとつとして、からだの「冷え」がありますが、「冷えが顕著な人(寒証)」と「冷えというよりは熱(熱感)を伴う人(熱証)」では適する漢方薬が異なることも考えられます。以下の表は、花粉症などのアレルギー性鼻炎に対して効果が期待できる漢方薬(一例)の特徴を簡潔にまとめたものです。(時間のない方はこの表だけでも役立つと思います。より詳しく知りたい方は、表の下の解説も合わせて一読ください。)
【アレルギー性鼻炎に対して効果が期待できる漢方薬の例】
注)表中の「証」はあくまでも指標であり、それ以外の症状・体質に使われる場合も考えられる
小青竜湯(ショウセイリュウトウ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ) |
特徴(適する「証」など)
主な注意点
|
※麻黄による諸症状:
個々の証に適した漢方薬を考えるにあたっては様々なポイントがありますが、「鼻炎と漢方薬」に関して言えば、麻黄(マオウ)という生薬成分の有無(構成生薬として含まれるか否か)がひとつのポイントとなってきます。それを踏まえて、それぞれの漢方薬について、以下で詳しく説明していきます。
小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
一般的に水様性の鼻みずや痰、鼻づまり(鼻閉)、くしゃみ、咳などがある風邪や鼻炎などに対して使われている漢方薬です。からだを温める乾姜(カンキョウ)などの生薬を含むことから寒証に適していて、鼻炎に限れば冷えにより水のようなサラッとした透明な鼻みずが主となる場合に有用です。また、本剤は、体力中等度が適する証とされていますが、極端な実証・虚証でなければ比較的広い証で使えるという点もメリットと言えます。
鼻
花粉症などのアレルギー性鼻炎の治療薬としては抗ヒスタミン薬がよく使われていますが、この薬は少なからず眠気や口渇などの副作用が懸念されます。小青竜湯は、これら副作用に対しての懸念がかなり少ないこともあり、抗ヒスタミン薬と併用したり、抗ヒスタミン薬の代替薬として使われることもしばしばです。
なお、本剤は構成生薬として麻黄(マオウ)や甘草(カンゾウ)を含むため、麻黄による諸症状(下記の「生薬の麻黄(マオウ)の効果とは?」を参照)、甘草による偽アルドステロン症に対しては注意が必要となります。
生薬の麻黄(マオウ)の効果とは?
小青竜湯には麻黄(マオウ)という生薬が含まれていて、この生薬には主にエフェドリン類(エフェドリン、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリンなど)いう成分が含まれます。エフェドリンは交感神経を興奮させることで、血管収縮作用や
なお、麻黄は小青竜湯だけでなく、後で登場する葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)などの構成生薬にもなっているため、自身の持病が注意すべき病態に当てはまる場合には、事前に医師や薬剤師などに相談しておくことが、より安全かつ有効的に漢方薬を活用するポイントの一つと言えます。
※麻黄とエフェドリン類の重複には要注意⁉️
麻黄に含まれるエフェドリン類は、処方薬(医療用医薬品)・市販薬(OTC医薬品)問わず、多くの製剤で使われている成分でもあります。
エフェドリン類を含む処方薬の例としては、フェキソフェナジン(アレグラ®の成分)とプソイドエフェドリンの配合剤(主な商品名:ディレグラ®配合錠)があります。先ほど、小青竜湯とアレグラ®などの抗ヒスタミン薬を併用するケースがあることを紹介しましたが、小青竜湯とディレグラ®配合錠を併用した際には、エフェドリンの作用が過度に増強されることが考えられます。もちろん、処方薬に関しては、仮に成分が重複していたとしてもあえて併用するケースがありますが、交感神経の興奮に伴う諸症状に対しては当然注意が必要です。また、市販の風邪薬(総合感冒薬)や鼻炎用薬には、エフェドリン類が含まれていることが比較的多く、仮にこれらの薬と麻黄を含む漢方薬(麻黄剤)を知らず知らずのうちに併用した場合、先ほど同様、交感神経の過度な興奮による諸症状が引き起こされる可能性が高くなるため、注意が必要です。
葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)
その「名前(方剤名)」からも見てとれるように、一般的に「風邪の漢方薬」として知られる「葛根湯(カッコントウ)」に、川芎(センキュウ)及び辛夷(シンイ)という生薬を加えた方剤です。
葛根湯は主に体力が比較的あり(実証寄り)、頭痛などを伴う風邪の引き始め(急性期)に使われますが、鼻かぜや中耳炎などの改善も期待できる漢方薬です。この葛根湯を元に、川芎と辛夷を加えた本剤は、からだが冷えやすく(寒証)、鼻づまり(鼻閉)が強い副鼻腔炎などの
「麻黄の効果」に関しては小青竜湯の欄で紹介しましたが、本剤も構成生薬として麻黄を含みますので、交感神経の興奮による諸症状や食欲不振などの消化器症状には注意が必要です。また、麻黄以外の構成生薬として甘草(カンゾウ)を含むため、偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)に対しても注意が必要です。
辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
一般的には、体力が中等度からやや充実していて、鼻づまり(鼻閉)、頭の重さ、鼻の熱感や
肺の熱をさますことで痰がからむ咳などの改善が期待できる清肺湯(セイハイトウ)をベースに加減し、先ほどの葛根湯加川芎辛夷の欄で紹介した鼻炎症状改善に適した生薬である辛夷(シンイ)を加えた方剤で、その名前(方剤名)の由来にもなっています。
本剤は、慢性鼻炎や副鼻腔炎などに使われることも多く、鼻づまりが特にひどく乾燥感があるような症状の改善に適するとされています。また、先の2方剤(小青竜湯及び葛根湯加川芎辛夷)のように生薬の麻黄(マオウ)を含んでおらず、交感神経の興奮による諸症状に対して不適となるような体質・持病(心臓病、高血圧症など)がある場合の選択肢としても有用です。
ただし、適する証が比較的実証寄りということもあり、仮に胃腸虚弱の体質の人が使った場合には食欲不振などの消化器症状があらわれやすくなることが考えられます。また、構成生薬として黄芩(オウゴン)や山梔子(サンシシ)を含むため、その出現頻度は一般的にまれとされていますが、黄芩による間質性肺炎や山梔子による腸間膜静脈硬化症などといった副作用に対しての注意は必要です。
苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)
一般的に体力や胃腸が虚弱気味で冷えや貧血傾向を伴うような咳、痰、水様性の鼻みずなどの改善に適する漢方薬です。本剤は、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)、乾姜(カンキョウ)、五味子(ゴミシ)、細辛(サイシン)、半夏(ハンゲ)、杏仁(キョウニン)の7種の生薬から構成されていて、それぞれの生薬名から一文字ずつとったものが名前(方剤名)の由来になっています。
花粉症などのアレルギー性鼻炎や気管支炎・気管支喘息などの改善も期待でき、また、構成生薬として麻黄(マオウ)を含みません。そのため、小青竜湯などの麻黄を含む方剤(麻黄剤)で胃腸障害(消化器症状)が出るなど、なんらかの理由により麻黄剤が不適となる場合には特に有用となります。
なお、本剤は胃腸虚弱の体質に適することからも消化器症状などへのリスクがかなり少ないとも考えられますが、構成生薬として甘草を含むため、偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)などに対しては注意が必要です。
そのほか、花粉症に効果が期待できる漢方薬の例
麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)
一般的には体力が低下していて冷え(寒気)を伴うような風邪などに使われる漢方薬です。その「名前」の通り、麻黄(マオウ)、附子(ブシ)、細辛(サイシン)の3種の生薬から構成される方剤で、冷えや悪寒(寒気)があり水様性の鼻みずのほか、関節痛や咽頭痛などを伴う場合に適しています。からだを温める効果がかなり期待できるため、例えば、新陳
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
一般的に体力中等度程度で副鼻腔、耳、
上記のほかには、喘息や気管支炎などを伴う場合に適する柴朴湯(サイボクトウ)、構成生薬として麻黄を含み咳を伴うような場合に適する神秘湯(シンピトウ)や五虎湯(ゴコトウ)、麻黄をより多く含み強い鼻づまりや熱感を伴うような症状の改善が期待できる越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)などの漢方薬が選択肢となることも考えられます。
また、からだの冷えや体力低下・胃腸虚弱などは鼻炎症状を悪化させる要因にもなるため、例えば、胃腸虚弱などを改善する六君子湯(リックンシトウ)や全身の
漢方薬にも副作用はある?
一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。例えば、生薬の甘草(カンゾウ)は多くの方剤に使われていますが、過剰摂取などによって偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)と呼ばれる副作用があらわれる場合があります。
既に紹介した通り、花粉症などの鼻炎症状の改善に使われる漢方薬には生薬の麻黄(マオウ)が含まれていることが多く、交感神経の興奮に関わる諸症状には注意が必要です。また、黄芩(オウゴン)を含む漢方薬では間質性肺炎や肝障害などが引き起こされる可能性があります。近年では、一部の漢方薬によって腸間膜静脈硬化症と呼ばれる腸間膜の静脈に石灰化が生じることで腸管の慢性
このほか、麻黄や地黄(ジオウ)などの胃腸障害(消化器症状)が比較的あらわれやすい生薬を含む漢方薬を胃腸虚弱の人が服用する、などといったように証に合わない漢方薬を使った場合には副作用が助長されることが考えられます。
ただし、一般的には漢方薬によって副作用(特に重篤な副作用)がおこる可能性はまれとされていて、万が一あらわれたとしても多くの場合、その漢方薬を中止することで解消されます。特に医療機関への受診を経て処方される場合には、漢方薬の選択は通常、個々の体質や症状などを十分考慮した上で使われ、それでも体質に合わない場合には変更・中止するなどの適切な対応がとられます。注意したいのは、処方された漢方薬によって、仮に何らかの気になる症状があらわれた場合であっても、自己判断で薬を中止するとかえって治療の妨げになる可能性もあるということです。もちろん、非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、処方された漢方薬を使用することによってもしも気になる症状があらわれた場合には、自己判断で薬を中止せず、まずは医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することがとても大切です。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。