睡眠障害の原因について:加齢・長時間の昼寝・薬の影響・睡眠障害を起こす病気(うつ病・むずむず脚症候群など)
身体の変化や生活習慣、薬の副作用、病気などさまざまなことが睡眠障害の原因になります。原因によって治療が変わることがあるので、治療の前に原因を詳しく調べる必要があります。ここでは睡眠障害の原因について説明をしていきます。
1. 睡眠障害の原因になる身体の変化
睡眠障害は身体の変化によって起こることがあります。ここでは睡眠障害の原因になることの多い加齢と肥満について説明します。
加齢
年齢を重ねると睡眠障害が起きやすくなる人が多いです。加齢の影響で、以前に比べて起床時間が早くなったり、夜中に目が醒めてしまったりします。これはメラトニンという睡眠のリズムを調整する物質が体内で減少することが関係しています。
睡眠の変化は誰にでも起こりうることです。睡眠時間が短くなったり眠りが浅くなったりしても、日中の生活に問題を起こすような
一方で、睡眠障害の症状が日常生活に影響を及ぼしている場合には治療が必要になります。かかりつけのお医者さんがいる場合にはまず相談してみてください。特に通院先がない場合は、精神科・心療内科・内科などを受診して困っている症状について相談してください。
肥満
「睡眠中に呼吸が止まる」ことが影響して睡眠障害が起こる場合があります。睡眠中の呼吸が止まってしまう病気を睡眠時無呼吸症候群といいます。睡眠時無呼吸症候群は日中の眠気を引き起こします。また、重症になると心臓の病気の原因となることがあります。
睡眠時無呼吸症候群は空気の通り道が狭くなることや脳の呼吸に関する反応が鈍くなることで起こる病気ですが、睡眠時無呼吸症候群を起こしやすい人の特徴として肥満が知られています。
睡眠中には舌が口の奥に落ち込むため、空気の通り道が狭くなります。肥満の人の空気の通り道は周囲に脂肪が存在するので、空気の通り道がさらに狭くなり、寝ている間に満足な呼吸ができなくなることがあります。
寝ている間に呼吸が止まると、体内の酸素が不足して心臓に負担をかけたり、昼間の強い眠気や居眠りの原因になったりします。
睡眠時無呼吸症候群と診断されていて肥満体型の人は、減量することでその程度を軽くすることができます。食事療法や運動療法を取り入れて、自分に合った減量方法を見つけると長続きします。
睡眠時無呼吸症候群の診断は「睡眠時無呼吸症候群の基礎情報ページ」を参考にしてください。
2. 睡眠障害の原因になる生活習慣
生活習慣の中にも睡眠障害の原因は潜んでいます。睡眠障害を起こしやすい生活習慣は次のものが知られています。
- 就寝前の飲酒
- 就寝前のカフェインの摂取:お茶、コーヒー、栄養ドリンク(エナジードリンク)など
- 長時間の昼寝
- 不規則な就寝時間
睡眠に悪影響を及ぼす生活習慣はさまざまです。生活習慣が睡眠障害の原因となっている場合、それを正すことで睡眠にも良い影響を与えて睡眠障害が治ることも期待できます。そのため、自分の睡眠に悪影響を与えている生活習慣に関して知っておく必要があります。
次にそれぞれについて説明していきます。
就寝前の飲酒
寝付きを良くする目的で就寝前に飲酒をする人がいます。アルコールは意識をぼんやりさせるので眠りやすくなるのですが、反面眠りが浅くなることがわかっています。眠りが浅いと、睡眠の途中で目覚める(中途覚醒)原因になります。つまり、アルコールを飲むと眠りやすくはなりますが、全体として睡眠の質が低下するため、就寝前の飲酒はできるだけ避けた方が望ましいです。睡眠障害に困っている場合には飲酒に頼るのではなく、医療機関を受診して原因を調べて適切な治療を受けるようにして下さい。
就寝前のカフェインの摂取:お茶、コーヒー、栄養ドリンク(エナジードリンク)
お茶やコーヒー、栄養ドリンク(エナジードリンク)にはカフェインという成分が含まれています。このカフェインには覚醒作用があるため、就寝前に多く摂りすぎると眠れなくなることがあります。
カフェインの覚醒作用がどの程度睡眠に影響するかには個人差があります。このため、睡眠に影響しない量について一概に言うことはできません。一般的には、睡眠障害を自覚している人は就寝前にはカフェインの摂取をやめておいた方がよいと考えられています。夕食後のコーヒーやお茶を楽しみにしている人も多いですが、この習慣が睡眠に悪影響を与えているかもしれません。
睡眠障害に困っている人はカフェインを摂取した時間と量などを記録して睡眠に与える影響を調べてみるののも良い考えです。記録を振り返ることで上手なコーヒーやお茶の楽しみ方が見えてくるかもしれません。
長時間の昼寝
長時間の昼寝は睡眠障害の原因になると考えられています。
人間は昼間に行動をして夜に睡眠をとる昼行性の動物です。昼間に長時間の睡眠をとると、睡眠のリズムにくるいが生じて夜に眠りにくくなることがあります。
睡眠障害の影響で昼寝をしてしまうために、ますます夜眠れなくなってしまう人は、昼寝をやめることで睡眠のリズムを取り戻せます。ただし、日常生活や仕事への影響が出るほど眠気が強い人は短時間の昼寝を行った方が望ましいです。昼寝を30分以内で済ますと夜の睡眠への影響を少なくすることができます。
不規則な就寝時間
人間は日中に活動して夜に睡眠をとることを基本とする昼行性なので、夜に就寝時間をとることが適切ですが、仕事(夜勤)などの関係で夜間に就寝できない場合があります。就寝時間が不規則になると体内時計にくるいが生じて睡眠障害が起こりやすくなります。
深夜に長時間に及ぶ勤務をする場合には、就寝時間が不規則になってしまいます。勤務などのために就寝時間が不規則な人は、休日は夜更かしをせずにできるだけ元の就寝時間を守るようにすることも大切です。
3. 睡眠障害の原因になる薬
持病の治療のために飲んでいる薬が睡眠障害の原因になることがあります。睡眠障害を起こす薬剤として主に次のものが知られています。
ステロイド薬 - プレドニゾロン(プレドニン®など)
- メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®など)
- デキサメタゾン(デカドロン®など)
- パーキンソン病治療薬
- レボドパ(L-ドパ)製剤(ネオドパストン®など)
- COMT阻害薬(コムタン®など)
- ドパミンアゴニスト(ビ・シフロール®など)
- 片頭痛治療薬
- エルゴタミン製剤(クリアミン®など)
- 抗うつ薬
- 喘息治療薬
- テオフィリン(テオドール®など)
服用中の薬によって睡眠に障害が出ていると考えられる人は、薬の中止や変更を行う必要があるので、使用している薬の内容を詳しく医療者に伝えるようにしてください。薬を伝える際には、お薬手帳を携帯しておくと、もれなく伝えることができます。
上に挙げた薬の中でも特に抗うつ薬には注意してください。抗うつ薬は不安を和らげる効果があり、睡眠障害の治療に用いられることがあります。一方で、状況によっては反対に副作用で睡眠障害を起こしたり悪化させたりすることがあるので、治療の副作用の有無に注意する必要があります。抗うつ薬が睡眠障害の原因になっていると疑われる場合は薬の調整が必要です。
また、市販薬やサプリメントも睡眠障害の原因になることがあるので、忘れずに医療者に伝えるようにして下さい。
4. 睡眠障害の原因になる病気
睡眠障害を起こす病気はさまざまです。その中には「睡眠障害を起こしやすい病気」もあれば「まれに起こす病気」もあります。睡眠障害の原因になる病気は次のものがあります。
- 睡眠障害を起こしやすい病気
- まれに睡眠障害を起こす病気
睡眠障害を起こしうる病気は沢山あるため、睡眠障害の症状だけでなく持病や過去になった病気についても忘れずにお医者さんに伝えるようにして下さい。原因となっている病気がわかると、治療の方法が変わってきます。
次に、睡眠障害を直接引き起こすことが多い「睡眠時無呼吸症候群」、「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」、「ナルコレプシー」、「うつ病」についてもう少し詳しく説明します。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は空気の通り道が狭くなることや呼吸をコントロールする脳の機能が鈍くなることが原因となって、睡眠中の呼吸が止まってしまう病気です。顎が小さい人や肥満の人、口蓋垂(のどちんこ)・
また、睡眠時無呼吸症候群の人に睡眠薬を使うと無呼吸が悪化することがあります。そのため、睡眠時無呼吸症候群の人の睡眠障害に対して用いる治療薬を慎重に選択する必要があります。睡眠時無呼吸症候群については「睡眠時無呼吸症候群の基礎情報ページ」でも詳しく説明しているので参考にして下さい。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
むずむず脚症候群は「脚に異常な感覚が起きる」病気のことです。むずむず脚症候群の症状には次のような特徴があります。
- 脚を動かしたい感じ
- 休息中や安静時に症状が強くなる
- 運動によって症状が和らぐ
- 症状は夕方から夜にかけて強くなる
症状は夕方から夜にかけて強く現れるので、眠れなくなることがあります。「むずむずする感じ」以外にも「足の裏がかっと熱くなる」「虫が這っている感じ」と自覚する場合がありますが、いずれも睡眠障害の原因となりえます。むずむず脚症候群の原因は不明ですが、生活習慣の改善(禁煙や禁酒など)や薬物療法によって症状を和らげることができます。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)については「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)の基礎情報ページ」でも詳しく説明しているので参考にして下さい。
ナルコレプシー
ナルコレプシーでは耐え難い日中の眠気や居眠りのために日常生活に支障をきたします。日中の眠気や居眠り以外のナルコレプシーの症状には次のようなものがあります。
- 突然身体の力が抜ける(情動脱力
発作 ) - 金縛り(睡眠
麻痺 ) - 入眠時の幻覚
ナルコレプシーの特徴として、笑い、喜びなどの感情が高ぶった際(感情刺激)に、全身の力が抜けて倒れてしまったり、膝の力が抜けてしまったりすることがあり、これを情動脱力発作といいます。
上記の症状があるためにナルコレプシーが疑われると、睡眠時ポリグラフ検査や反復睡眠潜時検査などの専門的な検査で睡眠時の様子が詳しく調べられます。
ナルコレプシーの治療には薬を用いることが多いですが、「睡眠のリズムを整えること」や「定期的な仮眠」が有効なことがあります。それでも日中に強い眠気を感じる場合は薬を使った治療が検討されます。
ナルコレプシーについては「ナルコレプシーの基礎情報ページ」でも詳しく説明しているので参考にして下さい。
うつ病
うつ病とは「気分が落ち込んで元気が出ない状態」または「興味・喜びを感じなくなること」のいずれかが2週間以上継続して1日中存在する状態のことです。
うつ病の人は睡眠障害を伴っていることが多く、睡眠障害からうつ病を指摘されることもあります。
睡眠障害に加えて気分の落ち込みや興味・喜びの消失などの症状がある人にはうつ病が睡眠障害の原因になっていないかを調べます。うつ病によって睡眠障害が起こっている場合には睡眠障害と並行してうつ病も治療します。
うつ病については「うつ病の基礎情報ページ」で詳しく説明しているので参考にして下さい。
参考文献
・日本睡眠学会認定委員会睡眠障害診療ガイド・ワーキンググループ/編, 睡眠障害診療ガイド, 文光堂, 2011
・小川朝生, 谷口充孝/編, 内科医のための不眠診療はじめの一歩, 羊土社, 2013
・日本睡眠学会/編, ナルコレプシーの診断・治療