睡眠障害が疑われるときにはどんな検査が行われるのか:質問の内容や睡眠時ポリグラフ検査(PSG)など
睡眠障害の有無や程度、その原因については、
目次
1. 問診:状況の確認
問診では睡眠の状況や自分の困っている背景が確認されます。以下は睡眠障害の
- 睡眠時に困っている症状について
- 寝付きの悪さ
- 睡眠中に目が覚めることの有無
- 朝早く目が覚めることの有無
- 寝起きにぐっすり眠れたという感覚の有無
- いびきや睡眠中の無呼吸の有無
- 日中の症状について
- 日中の眠気の有無
- 日中の身体のだるさの有無
- 睡眠障害の経過について
- 症状が現れた時期
- 症状が現れる頻度
- 睡眠障害に対して市販の睡眠薬の使用の有無
- 医療機関での睡眠障害の治療歴の有無
- 睡眠のリズムについて
- 起床時間・就寝時間
- 昼寝の有無・費やす時間
- 睡眠リズムが大きく崩れることの有無
- 治療中の病気について
- 通院中の病気の有無
- 使用中の薬について
- 使用中の薬の種類
- 薬を使用し始めた時期(いつから薬を飲んでいるのか)
- 薬による効果の程度
- 飲酒の習慣について
- 飲酒の量や頻度
- 就寝前の飲酒の有無
- カフェインの摂取について
- お茶やコーヒー、栄養ドリンクを飲む頻度とその量
- カフェインを含むものの摂取時間
睡眠障害の症状や原因は多様ですが、お医者さんは問診によって困っている症状を明確にしたり原因を絞り込んだりしていきます。問診が適切に行われると、的確な治療を選ぶことができるようになります。
次に特に重要な問診の内容を具体的にあげて説明します。
睡眠の際に困っている症状について
睡眠障害による影響はさまざまな形で現れます。睡眠障害に関連する症状は次の5つのパターンに分けることが多いです。
- 寝付きが悪い
- 睡眠中に目が覚める
- ぐっすり眠った感じがしない
- 朝早くに目が覚める
- いびき・睡眠中の無呼吸の有無
自分がどの症状で困っているかを考えてみてください。どの症状で困っているかによって使う薬の種類を使い分けるほうが効果的なので、必ず医療者に伝えるようにしてください。例えば、寝付きが悪い人には即効性の高い薬が選ばれ、睡眠の途中に目が覚める人にはより長く効く薬が選ばれます。
また、睡眠中にいびきや呼吸が止まるといった症状がある場合には、睡眠時無呼吸症候群の関与を強く疑います。睡眠時無呼吸症候群に対しては「呼吸を助けるマスクをつけて寝る治療」(持続陽圧呼吸:CPAP(Continous Positive Airway Pressure))を行います。睡眠障害で病院を受診する前に、周囲の人に睡眠中の自分の様子を聞いておくと、より多くの情報をお医者さんへ伝えることができます。
睡眠のリズムについて
人間には体内時計が備わっており「寝ている時間」と「起きている時間」のリズムがあります。
この体内時計にくるいが生じると、夜になっても眠くならなかったり、昼に強い眠気がおそってきたりします。体内時計が乱れる原因として、「不規則な就寝時間」や「長時間の昼寝」などがあります。体内時計が乱れることで睡眠障害が起きている場合には、生活習慣を正すことや薬(メラトニン受容体作動薬など)を使うことにより睡眠のリズムを正すことが有効な治療になります。
治療中の病気について
持病や過去に経験した病気が影響して睡眠障害が起きることがあるため、持病や経験した病気を医療者に伝えることは重要です。睡眠障害の原因になる主な病気は次のものです。
- 睡眠障害を起こしやすい病気
- まれに睡眠障害を起こす病気
持病が睡眠障害の原因と考えられる場合は、睡眠障害の治療と併行して持病の治療も行わなければなりません。問診では持病や過去に経験した病気を確実に医師に伝えるようにして下さい。
お医者さんへの上手な伝え方は「睡眠障害の悩み」で説明しているので参考にして下さい。
使用中の薬について
薬の副作用によって睡眠障害が起こることがあります。また、サプリメントの副作用でも睡眠障害が起きることがあるので、使用している薬やサプリメントを全て伝えるようにしてください。薬が睡眠障害の原因になっている場合、薬を調整するだけで症状が改善することもあります。
睡眠障害の原因になる薬については「睡眠障害の原因」で詳しく説明しているので参考にしてください。また、内服している薬を上手に伝える方法は「睡眠障害の悩み」で解説しているのでこちらも参考にしてください。
飲酒の習慣について
アルコールには意識をぼんやりさせる作用があるので、寝る前に飲むと入眠しやすくなります。このために、就寝前の飲酒が習慣化している人がいます。
一見、アルコールは睡眠に対して有効な働きをしているように思えますが、実はそうではありません。就寝前に飲酒をすると睡眠自体が浅くなってしまいます。睡眠が浅くなると、睡眠の途中で目が醒めたり(中途覚醒)、熟睡障害(ぐっすりと眠れない)などが起きます。つまり、就寝前の飲酒は寝付きこそ良くしますが、睡眠自体の質は下げてしまい睡眠障害の原因となります。
カフェインの摂取について
お茶やコーヒー、栄養ドリンク(エナジードリンク)に多く含まれているカフェインという成分には覚醒作用があり、就寝前に摂取すると眠れなくなることがあります。人によってはカフェインの摂取を控えるだけで睡眠障害が良くなることもあり、睡眠薬などの薬を使わずに治せることもあります。就寝前にお茶やコーヒーを飲む習慣がある人はお医者さんに伝えてください。
2. 身体診察
問診に続いて行われる身体診察では、身体の状態についてくまなく観察されます。睡眠障害の人の身体診察では次の2つが重要視されています。
視診
お医者さんが目を使って身体をくまなく観察する診察の方法が視診です。睡眠に障害がある場合、視診では以下のポイントが注目されています。
- 口蓋垂(のどちんこ)・
扁桃 の大きさ - 首の周りの肉付き
- 顎(あご)の大きさ
睡眠障害を起こす病気の1つに睡眠時無呼吸症候群があります。睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まる病気です。この病気があると日中の強い眠気や熟睡感障害などが起こります。
睡眠時無呼吸症候群は「扁桃が大きい」、「首の周りの肉付きがよい」、「顎が小さい」といった特徴がある人に多いとされています。このため、睡眠障害の人に対する視診はこれらの特徴の有無を中心に行われます。
身長・体重の測定
睡眠時無呼吸症候群の原因の1つとして肥満が知られています。身長・体重を測定すると肥満の有無を客観的に評価できます。肥満の指標として
- 体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]
BMIの正常値は18.5から24.9で、25を超えると肥満と診断されます。睡眠時無呼吸症候群を起こしている場合、その重症度はBMIと
治療中には定期的に体重を測定して、なるべく適正な範囲に体重をコントロールするようにして下さい。
3. 睡眠時ポリグラフ検査(終夜睡眠ポリグラフ検査・終夜睡眠ポリグラフィー検査)
睡眠障害の原因として特殊な病気が疑われる場合、睡眠時ポリグラフ検査という方法を用いて睡眠時の状態が詳しく調べられます。
どんな場合に行われる検査か?
睡眠障害の訴えがある人全員に行う検査ではありません。睡眠ポリグラフ検査を行うのは主に次の病気が疑われる場合です。
- 睡眠時無呼吸症候群
- むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
- ナルコレプシー
- 睡眠時遊行症
- レム睡眠行動障害
これらの病気は睡眠時の身体に異常が起きます。このため、睡眠時の身体の状態を詳しく調べられる睡眠ポリグラフ検査は有効です。睡眠ポリグラフ検査の必要性の有無は問診や身体診察の結果をもとに判断されます。
睡眠時ポリグラフ検査で調べられる内容
睡眠時ポリグラフ検査では睡眠時の身体の変化について調べることが出来ます。その中でも主に次の項目が注目されます。
- 脳波
- 眼球の動き
- 身体(足やアゴなど)の動き
- 呼吸の状態
- 酸素飽和度
これらの項目が身体のどのような変化を調べているかを次で説明します。
睡眠には
レム睡眠の時に異常が起こるレム睡眠異常症やナルコレプシーはレム睡眠のときの様子を観察することなどによって詳しいことがわかります。レム睡眠とノンレム睡眠は一定の周期で繰り返されており、どちらの睡眠パターンであるかは「眼球の動き」や「脳波」を調べることで知ることができます。
睡眠時に身体が勝手に動くむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)という病気があり、睡眠障害の原因の1つです。この病気を診断するために睡眠時の筋肉の異常な動きを調べられます。足や下アゴの近くの筋肉に注目することにより睡眠時の筋肉の動きを調べることができます。
睡眠中の呼吸の状態や酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対して実際に含まれている酸素の割合)を調べることで睡眠時無呼吸症候群の有無や程度を調べることができます。具体的には一定時間での無呼吸の回数や無呼吸の時間、そして酸素飽和度の値が調べられて参考にされます。
睡眠時ポリグラフ検査で異常が見つかって、睡眠に影響を与えている病気がはっきりと分かればそれに応じた治療をすることができます。具体例をあげると、睡眠時無呼吸症候群では呼吸を助けるマスクをつけて寝る治療(持続陽圧呼吸:CPAP(continous positive airway pressure))を行ったりすることができます。
どのように行うのか?
頭や顔、体幹、四肢にシールのようなものを貼り付けて睡眠を行います。こうすることにより睡眠中の脳波や目の動き、
4. 睡眠障害が心配なときにはどのタイミングで何科を受診すればいいのか?
睡眠の問題が続くと身体に影響が現れて日中生活にも支障をきたします。しかし、睡眠に問題があっても「医療機関に行くタイミング」や「相談する診療科」がわからないという人が多いようです。
ここではその2つについて説明していきます。
睡眠障害を医療機関で相談するタイミングは?
日中の強い眠気や
睡眠障害はストレスや環境の変化でも起こるので1度や2度経験しただけという場合は特に治療が必要ないことがほとんどです。一方で、毎日のように睡眠に問題が起きて睡眠不足に陥り、日中の強い眠気などのために生活に影響が出始めていることもあります。このような段階では一度医療機関を受診して、原因を調べて必要に応じて治療を受ける方がよいです。
睡眠に対する感じ方は個人差があります。このため、具体的にどれくらい睡眠障害が続いたら受診をすればいいかというはっきりとした数字はありません。日常生活に支障を感じる人は受診してみてください。
何科を受診すればいいのか?
睡眠障害を受診したいと考えた場合、どの診療科にいけばいいか迷うかもしれません。かかりけの医療機関がある場合とない場合の2つのパターンに分けて説明していきます。
■かかりつけの医療機関がある場合
持病があって定期的に医療機関を受診している場合、まずはかかりつけのお医者さんに睡眠障害について相談してください。睡眠障害は持病や治療薬が原因になることがあります。特に、病気が悪化した場合や治療薬を変更した場合は、原因として考えなければならないので、予定より早く受診をしてください。
持病や治療薬が原因ではない場合は、原因についてより詳しく調べなければなりません。必要に応じて睡眠障害を専門とする医療機関への紹介が勧められることもあります。
■かかりつけの医療機関がない場合
持病などがなくかかりつけの医療機関がない場合、睡眠障害を専門とする診療科への受診が勧められます。睡眠障害を専門とするのは精神科や心療内科、一部の内科などです。この中でもさらに専門としている医療機関を探すには受診する前にウェブサイトや電話で確認しておくとよいです。
また、持病や薬が睡眠障害の原因になっていることがあるので、初めてかかるお医者さんには持病や服用している薬について詳しく説明するようにしてください。持病や服用している薬の伝え方は「睡眠障害の日常生活の工夫」で説明しているので参考にしてください。
参考文献
・日本睡眠学会認定委員会睡眠障害診療ガイド・ワーキンググループ/編, 睡眠障害診療ガイド, 文光堂, 2011
・小川朝生, 谷口充孝/編, 内科医のための不眠診療はじめの一歩, 羊土社, 2013