すいみんしょうがい
睡眠障害
睡眠に何らかの問題がある状態。寝付くことができない、途中で目が覚める、熟眠感がない、など様々なパターンがある
9人の医師がチェック 201回の改訂 最終更新: 2023.06.12

睡眠障害の治療について:日常生活の改善や睡眠薬による治療など

睡眠障害には睡眠薬などの「薬を用いた治療」と睡眠を妨げる心理や行動を改善する「薬を使わない治療」があります。これらを組み合わせることによって睡眠障害の改善が期待できます。

1. 薬を使わない治療:非薬物療法

睡眠障害の治療となるとまずは睡眠薬を想像されるかもしれません。睡眠薬は上手に使えば睡眠のリズムを整えることができ、睡眠障害の治療に有効です。しかし、状況によっては睡眠障害に対して睡眠薬以外の治療法を選択するほうが良いこともあります。

睡眠障害の原因の1つに睡眠を妨げる行動や心理(気持ち)面の問題があることが知られています。この2つは睡眠障害の促進要因と呼ばれます。促進要因を取り除くことで睡眠障害の改善が期待できます。促進要因を取り除く方法にはいくつかありますが、ここでは次の3つの方法を紹介します。

  • リラクゼーション法:眠る前に心や体の緊張をほぐす
  • 睡眠指導:睡眠に対する正しい知識をつける
  • 睡眠日誌:日々の睡眠の記録をつける

これらの方法は睡眠障害の原因になっている気持ちや行動を明らかにして、それらを取り除くことを目的にしています。次に、それぞれの方法の特徴を説明します。

リラクゼーション法:眠る前に心や体の緊張をほぐす

床についた時に気持ちが落ち着かない場合や身体が緊張を覚える場合には、リラクゼーション法を行うと有効なことがあります。

リラクゼーション法にはいくつか方法がありますが、ここでは「呼吸を利用して気持ちを落ち着ける方法(呼吸法)」と「身体の力を抜く方法(漸進的筋弛緩法)」を説明します。

■呼吸法:呼吸を利用して気持ちを落ち着ける方法

「呼吸を利用して気持ちを落ち着ける方法(呼吸法)」は、心地よい呼吸をゆっくりと行うことでリラックス効果をねらったものです。

具体的には、座った状態(または仰向けの状態)で鼻から息を深く吸い口から吐きます。息を吸う時は3-4秒を、息を吐く時は6-7秒を目安にします。息を長く吐く意識を持つことがポイントです。この呼吸を眠る前に行うようにして下さい。気持ちが落ち着いて入眠しやすくなります。

■漸進的筋弛緩法:身体の力を抜く方法

「身体の力を抜く方法(漸進的筋弛緩法)」では筋肉の緊張やこわばりを和らげることで身体をリラックスさせます。具体的には、身体の一部に力を入れた後に力を抜くという動作を繰返します。手や足などを中心に行うことができます。力を入れたり抜いたりすることを繰り返すことによって、だんだんと力が抜けた状態になります。

代表的な2つのリラクゼーション法を説明しました。効果は個人差があるので、まずは試してみて自分にあったやりかたを探して、だんだんとやりやすいようにアレンジしてみるのもよいです。

睡眠日誌:日々の睡眠時間を記録する

睡眠状況を記録して客観的に振り返る方法として睡眠日誌があります。睡眠日誌では主に次のことを記録します。

  • 床についた時間
  • 眠りについた時間(推定)
  • 目が覚めた時間
  • 床を離れた時間
  • 熟睡感の自己評価(5段階評価で)

睡眠に関するこれらの記録を確認することで、寝床で過ごす時間が適正かどうかの判断ができます。寝床で過ごす時間は「睡眠時間+30分以内」が適正とすることが多いです。なかなか寝付けずに寝床で過ごす時間が30分以上になってしまう人には、「眠くなるまでできるだけ寝床につかない」ようにするなどのアレンジが有効なことがあるので、試してみてください。

また、睡眠時間をアレンジしてみたあとも睡眠日誌は有用です。睡眠時間を振り返ることで治療の効果を判断することができます。就寝時間を少し遅くしてから熟睡感を覚えるようになった人は、睡眠時間を遅らせることが有効であったと考えられます。

アルコールは睡眠に影響を与えます。睡眠日誌にはアルコール摂取も記載しておくと良いです。アルコールの睡眠に与えている影響を客観的に調べることができます。

睡眠指導:睡眠の正しい知識をつける

睡眠に対して正しい知識を身につける方法として睡眠指導があります。この方法は医療者から睡眠時の環境や行動についての生活指導を受けるものです。睡眠の正しい知識を得て実践することで、自力で睡眠を改善することができるようになります。

睡眠指導で教えてもらう一般的な内容は次のものです。

  • 自分に適した睡眠時間は個人差が大きいので気にしすぎる必要はない
  • 睡眠前の刺激物を避ける
  • 寝具や寝室の明るさを見直す
  • 食事を規則正しくする
  • 運動の習慣を作る
  • 昼寝は短時間で済ませる
  • 就寝前の飲酒を避ける
  • 眠たくなってから床につく
  • 床についてからは時計を確認しない

この中で特に知っておいて欲しいものについて説明します。

■自分に適した睡眠時間は個人差が大きいので気にしすぎる必要はない

必要な睡眠時間は個人差が大きく、さらにその日の体調などにも影響されます。また、年齢とともに睡眠の途中で目がさめることも多くなってきます。仮に睡眠時間が減っても、日中に眠気などの悪影響が出ていなければ、睡眠時間は足りていると考えてよいです。睡眠の時間ばかりを気にしすぎると、睡眠に対して過度の不安を感じるようになってしまいます。睡眠時間だけを気にするのではなく、睡眠の環境や熟眠度にも気を配るようにしてください。

■睡眠前の刺激を避ける

入眠はリラックスした状態で起こるため、就寝の前に過度な刺激を心身に与えることは睡眠の妨げにつながります。

刺激にもさまざまな種類があります。覚醒作用のあるカフェインの摂取はもちろん、睡眠前のテレビ・パソコン・携帯電話などの使用は目に強い刺激を与えるので避けるほうが良いです。また、高温の風呂への入浴も身体にとっては強い刺激になるので、就寝前には意識的に温度が低いお湯に入るようにしてください。

■就寝前の飲酒はしない

アルコールは意識をぼんやりさせるので就寝前に飲むと入眠しやすくなります。このため、入眠しにくいと感じている人の中には就寝前の飲酒を好んで行う人がいます。

しかし、アルコールは睡眠を浅くしてしまいます。アルコールに頼った眠り方をしても、睡眠の途中で目が醒めてしまい、結局のところ睡眠時間の減少や睡眠の質の低下などの原因になります。

就寝前の飲酒は睡眠障害を改善するどころか悪化させかねないので、避けるようにしてください。

■眠たくなってから床につく

なんとか眠るために眠くならないうちから床についても、あまり効果が見られないことが多いです。そればかりか、かえって逆効果となる可能性もあります。

体内リズムの関係で、人間は眠くないのに眠ろうしてもなかなか寝られません。いくら眠りたいからといって、早く床についても効果は期待できず、眠らなくてはいけないというプレッシャーがさらに目をさえさせてしまうこともあります。このような悪循環を避けるために、眠けを感じてから床につく方がよいと考えられます。

2. 薬を使った治療:薬物治療(睡眠薬など)

薬を使わない治療で十分な効果が見られないときに、睡眠薬を中心とした治療を行うことがあります。薬を使った治療は上手に行うと睡眠障害に対して有効です。ここでは薬を使う際の注意点とそれぞれの薬の特徴について説明します。

睡眠障害にはどのような薬を使うのか

睡眠障害と一括りで言っても、実はさまざまな場合があります。具体的にいうと、「寝付きが悪い場合(入眠障害)」と「睡眠の途中で目が覚めてしまう場合(中途覚醒)」では同じ睡眠障害といえども状況は違います。このように、自分の状況に合わせて適した睡眠薬が選ばれます。

睡眠障害の治療に使われる薬は以下のものになります。

上のリストにあるように睡眠障害に使われる薬は数多くありますが、これらの薬は主に次の点で違いがあります。

  • 薬の効果が現れるまでの時間及び効果が持続する時間
  • 薬が作用するメカニズム
  • 副作用

この違いを踏まえた上で症状や身体にあった薬が選ばれます。

例として、「効果が現れるまでの時間」に注目して説明します。

「寝付きが悪い(入眠困難)」人はできるだけ早く効果が出る薬を使うほうがよいです。このため効果が早く出る超短時間型の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などを使うと入眠しやすくなります。

一方、「睡眠の途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)」人は効果が早く出るものより効果が持続するものを使うほうが良いです。

それぞれの薬の特徴については後述(「それぞれの薬の特徴について」で詳しく説明しているので参考にして下さい。)します。

睡眠薬を使う時の注意点

上の段落では睡眠障害に使われる薬を紹介しました。睡眠薬は睡眠障害に対して有効である一方で、いくつか注意点があります。

■副作用への理解を深める

日中の眠気やふらつき、疲労感などが睡眠薬で現れやすい副作用として知られています。睡眠薬によって寝られるようになったとしても、日中生活に支障が出る場合は再度受診をして薬の変更や減量などの調整が必要です。しかし、副作用としてどういったことが起こりうるのかを知っておかないと、自分の変化が薬のせいなのかに気づくことができません。このため、睡眠薬を飲み始める前には副作用についての説明を聞いて理解し、調整が必要な状況について確認をしておくことが大切です。

後述する「睡眠薬のそれぞれの特徴について」の情報を参考にして下さい。

■アルコールと同時に睡眠薬を飲まない

アルコールには入眠を促す作用があるので、睡眠薬を始める前に就寝前の飲酒が習慣化している人がいます。しかし、睡眠薬によってはアルコールによって睡眠薬の効果が強く出すぎてしまうことがあるので、アルコールと睡眠薬は同時に摂取するべきではありません。強い副作用が出てしまうことも懸念されます。

また、就寝前の飲酒は入眠を促す作用こそありますが、睡眠を浅くして中途覚醒や熟眠感のない睡眠の原因になります。睡眠障害に悩んでいる人は睡眠薬の使用の有無にかかわらず飲酒を控えるようにしてください。

■自分の判断で睡眠薬の中止や増量をしない

自分の判断で睡眠薬の量を調整しようとする人がいますが、自己判断で睡眠薬を調整するのは症状の悪化や危険を伴うので行わないようにして下さい。睡眠薬の効果には個人差があるので、自分に適した量を見つけるのは簡単でなかったりします。自己判断するよりも専門家に判断してもらうようにしてください。

睡眠薬の服用を始めたばかりの頃は、「薬が少ないのではないか」、「薬が合っていないのではないか」と考えてしまいがちなのですが、薬を飲み始めてからしばらく経ってから効果が現れることもあります。少なくとも次の受診日までは処方された薬を量を守って使ってください。

一方、睡眠薬の効果によって睡眠に問題を感じなくなると、睡眠障害が治ったと自己判断して薬を急にやめてしまう人がいます。急に薬を飲むのをやめると反動で強い症状が現れることがあるので、少しずつ量を減らしていくのが望ましい場合があります。内服してから睡眠の問題を自覚しなくなっていても、睡眠薬を自己判断で中止することはやめるようにして下さい。

それぞれの薬の特徴について

ここでは、上で紹介したそれぞれの薬の特徴について説明していきます。

◎ベンゾジアゼピン系睡眠薬

主に脳内のベンゾジアゼピン受容体(benzodiazepine受容体:BZD受容体)に作用し、神経伝達物質のGABA(gamma-aminobutyric acid:γ-アミノ酪酸)の働きを増強することで催眠・鎮静作用をあらわす薬です。

■ベンゾジアゼピン系の作用

GABAは脳内で抑制性の神経伝達物質として働き、催眠、鎮静、抗不安作用などをもたらします。

詳しくは割愛しますが、GABAの受容体(GABAA受容体)はBZD受容体と複合体を形成していて、ベンゾジアゼピン系の薬がこのBZD受容体へ作用するとGABAに関わる神経伝達が亢進し、身体が睡眠をとる方向へ促されます。

■ベンゾジアゼピン系の種類

睡眠薬は一般的に不眠の種類など個々の病態に適した持続時間をあらわす薬剤が選択されます。BZD系睡眠薬もその作用の持続時間によって主に超短時間型(超短時間作用型)、短時間型(短時間作用型)、中間型(中間作用型)、長時間型(長時間作用型)に分かれます。以下は主な薬剤の一例です。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】

この他、不安・緊張、肩こりなどの改善といった睡眠改善目的以外で使われることもあるエチゾラム(主な商品名:デパス®)などの抗不安薬として使われるベンゾジアゼピン系の薬剤を夜(就寝前など)に服用することで不眠改善に使うケースもあります。

一般的にBZD系の睡眠薬はそれ以前に開発された睡眠薬に比べて、安全性や有用性などが高いとされています。

BZD系睡眠薬が登場する以前に使われていた主な睡眠薬としてペントバルビタール(商品名:ラボナ®)などのバルビツール酸系の睡眠薬がありますが、有用な催眠作用を持つ一方で、耐性や依存が早期に形成しやすく、仮に過量投与となってしまった場合には呼吸抑制などの重篤な症状を引き起こす危険性もあります。またバルビツール系の欠点を改善すべく開発されたブロモバレリル尿素(商品名:ブロバリン®)などの非バルビツール酸系と呼ばれる睡眠薬も耐性や依存性が強い傾向にあり、現在ではバルビツール酸系薬物ともども、睡眠改善目的での使用は限定的となっています。

これらの薬剤に比べるとBZD系の睡眠薬はあくまでGABAを介した作用をあらわす特徴などから、生命の維持機構に関連する脳幹の抑制などへ懸念がかなり少ないといったメリットが考えられます。

■ベンゾジアゼピン系睡眠薬による筋弛緩作用や持ち越し効果とは?

バルビツール酸系の睡眠薬などに比べると一般的に安全性が高いといえるBZD系睡眠薬ですが、耐性や依存性が「ゼロ」というわけではなく、また筋弛緩(筋肉の緊張を緩ませる)作用、持ち越し効果(翌朝まで薬の作用が持ち越す)、健忘(一過性の物忘れ)などへの懸念も少なからずあります。

一般的に中間型や長時間型といった作用の持続時間が長めの薬剤は、筋弛緩作用や持ち越し効果への懸念が高くなる傾向があり、例えば高齢者のようにふらつきや転倒、骨折などへのリスクが高い場合には特に注意が必要です。その他、アルコールの摂取により薬剤成分の血中濃度が著しく上昇する傾向があるトリアゾラム、食事した後にあまり間隔をあけずに服用すると薬剤成分の血中濃度が上昇する懸念があるクアゼパムなど、個々の薬剤によっても注意すべき事項が異なる場合もあります。

また肝臓や腎機能の機能低下がある場合には薬の代謝や排泄が滞ることで、必要以上に薬の作用が強くあらわれたり、薬の有効作用時間が過度に延長することで持ち越し効果などがあらわれやすくなることが考えられます。BZD系の睡眠薬の中にはロルメタゼパムなどのように腎機能や肝機能になんらかの障害があっても比較的安全に使える薬剤もあるため、個々の持病などを含めて事前に医師や薬剤師によく相談し、睡眠薬が出された際は注意点などをしっかりと聞いておくことが大切です。

◎非ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系(BZD系)の睡眠薬と同様に主に神経伝達物質GABA(γ-アミノ酪酸)の働きを亢進することで催眠・鎮静作用をあらわす薬です。

ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるのは、BZD系の薬とは異なる化学構造を持つということなどの分類上の理由によるもので、作用の仕組みに関してはBZD系とほぼ同様にBZD受容体に作用することで神経伝達物質のGABAの働きを高めます。

医療現場では主にゾルピデム(主な商品名:マイスリー®)、ゾピクロン(主な商品名:アモバン®)、エスゾピクロン(商品名:ルネスタ®)といった薬剤が使われていて、この3つの薬剤はいずれもその作用持続時間から超短時間型(超短時間作用型)に分類されています。

この3剤の中でもゾルピデムは特に頻用されている薬で、BZD系睡眠薬と比べて一般的に筋弛緩作用が弱く、ふらつきや転倒などのリスクが少ないなどのメリットが考えられます。これにはBZD系睡眠薬との作用の仕組みの若干の違いが影響しているとされています。

BZD系睡眠薬や非BZD系睡眠薬が作用するBZD受容体(ベンゾジアゼピン結合部位)にはω1、ω2、ω3のタイプがあるとされ、ω1は主に催眠・鎮静作用に関わり、ω2は筋弛緩作用や抗不安作用などに関わるとされています。ゾルピデムはBZD受容体のタイプの中でもω1受容体に選択的に作用するとされ、この特徴などにより一般的に筋弛緩作用があらわれにくく、反跳性不眠(睡眠薬を急に減量したり、中断した場合に以前より強い不眠が出現すること)などへの懸念も少ないと考えられています。ゾピクロンやエスゾピクロンもω1受容体に比較高い親和性を示すとされ、この特徴などがBZD系睡眠薬と比較した際の筋弛緩作用の少なさの一因とされています。

これらの特徴などからゾルピデムなどの非BZD系睡眠薬はふらつきや転倒などのリスクが特に高い高齢者の不眠治療などにおいて有用であるとされています。ただし、筋弛緩作用、健忘などへの懸念が全くないわけではなく注意は必要です。

ゾピクロンでは、唾液に薬剤成分の一部が混じることで苦味を感じるなどの味覚異常を引き起こすことがあります。ゾピクロンを元に造られたエスゾピクロンでは一般的にゾピクロンに比べて苦味などの味覚異常の軽減が期待できますが、注意は必要です。エスゾピクロンでは食事と同時または食後すぐに服用すると薬剤成分の血中濃度が低下し薬剤の効果に影響が出る可能性もあるため、合わせて注意したいところです。

またゾルピデムなどのω1受容体へ選択的に作用する薬剤は筋弛緩作用の軽減が期待できる一方で、抗不安作用も軽減することで不安や焦燥感などを伴う不眠に対しては、他の睡眠薬がより適するという場合も考えられます。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に限ったことではありませんが、不眠や不眠に伴う症状などを事前に医師や薬剤師によく相談しておくことが大切です。

◎ラメルテオン

日本では2010年に承認された薬剤で、睡眠と覚醒のリズムに働きかけることで主に不眠症における入眠困難の改善に使われます。

脳の松果体(しょうかたい)という部分から分泌されるホルモンであるメラトニンは、抗酸化作用により細胞の新陳代謝などに関わる他、脳内で覚醒と睡眠を切り替えることで自然な眠りを促すため「睡眠ホルモン」と呼ばれることもあります。

ラメルテオン(商品名:ロゼレム®)はメラトニンの受容体に作用することで、睡眠中枢を優位に導き自然に近い睡眠を促す作用をあらわします。

ラメルテオンは、睡眠薬として主に使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD系睡眠薬)や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(非BZD系睡眠薬)などの薬剤とは異なる作用の仕組みにより効果をあらわすため、鎮静作用や抗不安作用によらない睡眠を促すメリットなどが考えられます。

BZD系などの睡眠薬では依存性、筋弛緩作用、反跳性不眠(睡眠薬を急に減量したり、中断した場合に以前より強い不眠が出現すること)などの副作用に注意が必要となりますが、ラメルテオンではこれらの副作用への懸念がかなり少ないというメリットが考えられます。

ただし、副作用が全くないわけではなく、めまいや頭痛などの精神神経系症状、便秘などの消化器症状、倦怠感などに注意が必要です。また頻度は稀とされていますが、乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンの上昇が引き起こされる可能性があり、月経異常、乳汁漏出、性欲減退などにも注意が必要です。

またラメルテオンを食事と同時または食後すぐに服用すると薬剤成分の血中濃度が低下し薬剤の効果に影響が出る可能性もあるため注意が必要です。

ラメルテオンは睡眠のリズムを調節する働きが期待できるため、海外渡航時のいわゆる「時差ぼけ」を解消するために利用されることがあるなど、通常の睡眠薬とはまた別の有用性も考えられる薬剤になっています。

◎スボレキサント、レンボレキサント

オレキシンという神経伝達物質の働きを抑えることで睡眠を促す作用をあらわす薬です。
オレキシンは覚醒と睡眠を調節する重要な神経伝達物質のひとつで、オレキシンが自身の受容体(オレキシン受容体)へ作用すると覚醒システムを活性化させ覚醒状態が維持されますが、この覚醒システムが過剰に働いている状態では不眠などの症状を引き起こします。

スボレキサント(商品名:べルソムラ®)やレンボレキサント(商品名:デエビゴ®)はオレキシンの受容体への結合を阻害する(オレキシンの受容体へ拮抗作用をあらわす)ことで、過剰に働いている覚醒システムを抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へ移行させる作用をあらわします。

服用開始から早期に睡眠の改善が期待でき、投与開始日から入眠までの時間を短縮したり中途覚醒時間を短縮する効果などが確認されています。また一般的に反跳性不眠(睡眠薬を急に減量したり、中断した場合に以前より強い不眠が出現すること)への懸念が少ないなどのメリットも考えられるとされています。

適切な量を使った場合の安全性は一般的に高いとされていますが、注意すべき副作用としては頭痛やめまいなどの精神神経系症状や疲労感などがあらわれる場合があります。
また頻度は稀とされますが、睡眠時麻痺(睡眠時に全身の脱力と覚醒が同時に起こった状態)や入眠時幻覚(入眠時に生じる鮮明な知覚体験で恐怖感を伴うこともある)などがあらわれる可能性もあり注意が必要です。その他、スボレキサントは食事と同時または食後すぐに服用すると薬剤成分の血中濃度が低下し薬剤の効果に影響が出る可能性もあるためこの点に関しても注意が必要です。

スボレキサントは他の薬剤との相互作用(飲み合わせ)にも注意が必要で、特にCYP3Aという種類の薬物代謝酵素に関わる薬剤との相互作用には注意が必要です。CYP3Aを阻害する作用を持つ薬剤の例として、一部の抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾールなど)、一部の抗菌薬(クラリスロマイシンなど)、一部の抗ウイルス薬(リトナビルなど)などがあり、これらと併用することでスボレキサントの作用が過度に増強されてしまうおそれなどが考えられ、特に注意が必要です。ここで挙げた薬剤以外にも併用に注意が必要となる薬剤はあり、他に服用している(または今後、服用する可能性がある)薬剤がある場合には事前に医師や薬剤師に相談しておくことが大切です。

スボレキサント製剤のベルソムラ®は、発売当初は規格が「15mg錠」と「20mg錠」の二規格でしたが、2016年に「10mg錠」の規格が追加となり、他の薬剤との相互作用や肝機能の低下などの理由で減量が必要な場合における規格の選択肢が広がりました。

◎その他(抗うつ薬、抗ヒスタミン薬など)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD系睡眠薬)の欄でも少しふれましたが、バルビツール酸系や非バルビツール酸系と呼ばれる薬剤も睡眠薬としての選択肢のひとつではありますが、その耐性や依存性などの副作用などへの懸念から、ベンゾジアゼピン系など他の種類の睡眠薬に比べると使用は限定的です。ここではこれらの他に、睡眠改善目的で使われることが考えられる薬剤に関してみていきます。

一般的には抗うつ薬に分類されるトラゾドン(主な商品名:デジレル®、レスリン®)、ミアンセリン(商品名:テトラミド®)などは睡眠改善の目的で使われることもある薬剤です。トラゾドンは不安や焦燥感などを伴う睡眠障害に対しても有用とされ脱力感などに注意する必要はありますが、適切に使った場合には高齢者などに対する安全性も高いとされています。ミアンセリンは睡眠の導入・維持や睡眠の深さを増強する効果が期待でき、口渇や排尿困難などを引き起こす抗コリン作用(神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑える作用)が比較的少ないとされ、こちらも適切に使った場合には高齢者などに対する安全性は高いとされています。

初期に開発された抗うつ薬(三環系抗うつ薬)であるクロミプラミン(商品名:アナフラニール®)やイミプラミン(主な商品名:トフラニール®)はレム睡眠を抑える作用などにより中途覚醒の改善効果などが期待できるとされています。同じく三環系抗うつ薬に分類されるアミトリプチリン(主な商品名:トリプタノール®)も比較的強い鎮静・催眠作用をあらわし、BZD系睡眠薬だけでは改善が不十分であったり熟眠障害が残ったりするような場合の選択肢となることが考えられます。ただし、これら三環系抗うつ薬はテトラミドなどのそれ以降に開発された抗うつ薬に比べて抗コリン作用が強くあらわれる傾向があり、口渇、排尿困難、眼圧上昇などへの懸念から前立腺肥大や緑内障などを持病として持っていることが多い高齢者への使用に対して特に注意が必要となります。

一般的にはアレルギー疾患などの治療に使われている薬剤も場合によっては睡眠改善に用いられることもあります。ヒドロキシジン(商品名:アタラックス®、アタラックス®-P)はアレルギーなどに関わる体内物質ヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン薬のひとつですが、抗アレルギー作用の他、催眠・鎮静作用もあらわします。そのためヒドロキシジンは神経症における不安・緊張・抑うつに対しても保険で承認されており、皮膚の痒みや焦燥感などを伴う不眠に対する有用性も考えられます。

一般用医薬品(市販薬)として発売されているドリエル®EXやアンミナイト®などの睡眠補助薬はジフェンヒドラミンという抗ヒスタミン薬を主成分として含む製剤です。これらは抗ヒスタミン薬であらわれる「眠気」を利用した製剤で、主に一時的な不眠症状の改善に使われます(ドリエル®などのジフェンヒドラミン製剤はあくまでも「一時的な不眠の改善」を目的とした薬剤であり、慢性的な不眠では医療機関を受診するなど適切な対応が必要となります)。

ヒドロキシジンやジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬においても口渇、排尿困難などの抗コリン作用が少なからず懸念となるため、個々の体質や病態などによっては適さない場合が考えられ注意が必要です。

この他、抗うつ薬のひとつで不眠を伴ううつの治療などに有用とされるミルタザピン(商品名:リフレックス®、レメロン®)、抗精神病薬に分類され一般的に強い鎮静作用などをあらわすレボメプロマジン(主な商品名:ヒルナミン®、レボトミン®)やクロルプロマジン(主な商品名:コントミン®、ウインタミン®)などの薬剤が治療の選択肢となることも考えられます。

抗うつ薬や抗ヒスタミン薬などの薬剤には一般的によく使われている用途が睡眠改善ではないものも含まれるため、抗コリン作用などの副作用に対する注意点も含めて事前に医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことも大切です。

◎漢方薬

睡眠障害を改善する選択肢のひとつとして睡眠薬などを用いることがあります。

薬物療法にはベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD系睡眠薬)や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(非BZD系睡眠薬)などの薬剤が主に使われていますが、これらの薬だけでは睡眠の改善が不十分となることもしばしば見られます。

また、高齢者における睡眠障害のタイプの多くは中途覚醒や早朝覚醒ですが、一般的にこれらのタイプの睡眠障害には睡眠薬の中でも作用の持続時間が比較的長い中間型(中間作用型)や長時間型(長時間作用型)が適するとされています。

しかし、中間型や長時間型といった作用持続時間が長めの睡眠薬では、一般的に筋弛緩作用(筋肉に力が入らず転倒しやすくなる)や持ち越し効果(翌日まで眠気やふらつきが残る)などの懸念が増すとされ、特にめまいや転倒による骨折などのリスクが高い高齢者には使いにくいというジレンマもあります。

高齢者に対する睡眠薬としては一般的にゾルピデム(主な商品名:マイスリー®)などの筋弛緩作用などの懸念が少ない薬剤の使用が考慮されますが、ゾルピデムのように作用持続時間が短いタイプの睡眠薬では睡眠障害の改善が不十分となることもあります。(高齢者の不眠に関してはメドレーコラム「高齢者の不眠を解消するには!?」でも解説しています)

このようにBZD系や非BZD系の薬剤で効果不十分であったり、なんらかの理由でこれらの薬剤が使いづらいというケースでは漢方薬による治療も有用となることも考えられます。

またひとえに不眠といってもその症状は個々に異なる場合があります。漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にその「証」に適した漢方方剤が選択されるため、不眠以外の随伴症状(虚弱体質、精神不安など)の改善が期待できることもあります。

次に不眠に対して改善効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

■抑肝散(ヨクカンサン)/抑肝散加半夏陳皮(ヨクカンサンカハンゲチンピ)

体力中等度で神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラする、眠れないなどの精神神経症状を訴えるような証に対して適するとされている漢方薬です。不眠だけでなく、神経症、小児夜なき、小児疳症などの改善も期待できます。抑肝散の方剤名にある「肝」は「怒り」などをあらわす言葉で「怒りを抑える薬=抑肝散」というのが名前の由来とされています。

構成生薬のひとつである釣藤鈎(チョウトウコウ)は、脳の細胞を保護する作用、睡眠を延長する作用、精神安定作用、学習記憶改善作用などをあらわすとされています。

漢方薬の作用にはまだまだはっきりとわかっていない部分も多くありますが、近年ではエビデンス(科学的根拠)に関する研究も行われ徐々に解明されてきているものもあります。抑肝散はそのひとつです。抑肝散においては脳内における神経伝達物質であるセロトニンの機能低下に対する改善作用などが明らかになってきています。また神経活動の興奮抑制に関わるセロトニンへの作用や興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸への作用が明らかにされてきています。

これらの作用もあり、抑肝散は近年ではイライラしたり怒りっぽいなどの症状があらわれる認知症の周辺症状(BPSDと呼ばれることもあります)の改善目的で使われることも多くなっています。

抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)はその名前の通り、抑肝散に生薬の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた漢方薬です。陳皮は健胃作用や中枢抑制作用などが期待でき、半夏は抗ストレス作用、鎮静・鎮痛作用、鎮吐作用などが期待できるとされる生薬成分です。これらのことからも抑肝散加陳皮半夏は抑肝散が適するとされる証よりも比較的体力が低下していて慢性化したような証に適する漢方薬とされています。

■帰脾湯(キヒトウ)/加味帰脾湯(カミキヒトウ)

帰脾湯は一般的に顔色が悪く貧血気味であったり、精神不安などがあるような不眠に適するとされている漢方薬です。

方剤名にある「脾」は漢方医学において造血及び消化機能などに関連する臓器と考えられていて、貧血や消化機能の低下している状態を改善する薬効からこの方剤名がついたとされています。

構成生薬として人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)を含むことから参耆剤(ジンギザイ)と呼ばれる漢方薬のひとつでもあり、特に気(呼吸、体内のガス、精神神経などの要因とされている)を補う効果が高い生薬の組み合わせです。その他にも中枢抑制作用や抗ストレス作用などが期待できる酸棗仁(サンソウニン)など計12種類の生薬から構成されている漢方薬で、虚弱体質(胃腸虚弱や貧血傾向など)、精神不安、神経症、取り越し苦労などを伴う不眠に対して有用とされています。

加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡(サイコ)と山梔子(サンシシ)という生薬を加えた漢方方剤で、帰脾湯よりもより精神症状が強いような証に適するとされています。

■酸棗仁湯(サンソウニントウ)

心身の疲れや精神不安などがあるような不眠に適するとされる漢方薬です。

主薬である酸棗仁(サンソウニン)は先ほどの帰脾湯(キヒトウ)などにも含まれる生薬で、中枢抑制作用や抗ストレス作用などが期待できるとされています。他に体内の「水(血液以外の体液)」の改善などが期待できる茯苓(ブクリョウ)など、計5種類の生薬から構成されている漢方薬です。

自律神経のバランスが乱れていたり、めまいがあるような証に対しても改善効果が期待できるとされ、高齢者で夜間眼がさえて眠れないといったような不眠に対しても有用とされています。

■その他の漢方薬

その他、顔色が悪く手足の冷えや口渇などがあるような不眠に対して柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、喉につかえ感があったり動悸やめまいなどを伴う不眠に対して半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)などが使われる場合もあります。

また婦人科領域で使われることも多い当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は不安を伴うような不眠に対しても有用とされています。同じく婦人科領域で使われることもある温清飲(ウンセイイン)はのぼせや手足のほてり、アトピー性皮膚炎などを伴う不眠や神経過敏などに対しても有用とされています。

冒頭でも少しふれましたが、一般的に漢方薬は個々の症状や体質など(証)に適したものが選択されます。不眠だけでなく不眠に伴う症状や体力、胃腸の状態などを医師や薬剤師とよく相談し、適する漢方薬を有効的に使うことが大切です。

■漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかしこれらの副作用がおこる可能性は非常に稀であり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状が現れた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

参考文献
・日本睡眠学会認定委員会睡眠障害診療ガイド・ワーキンググループ/編, 睡眠障害診療ガイド, 文光堂, 2011
・小川朝生, 谷口充孝/編, 内科医のための不眠診療はじめの一歩, 羊土社, 2013
・日本睡眠学会/編, ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン, 2010