不正性器出血(不正出血)の検査
不正性器出血の原因を調べるための検査は、
1. 問診
問診では身体の状況や生活背景を聞かれます。身体診察を行う前に問診を行います。病気を診断する際には問診がとても重要です。
よく聞かれる質問として以下のものがあります。
- 不正性器出血の詳細な症状や状況について
- 出血量はどのくらいか
- 出血の持続期間はどのくらいか
- 月経周期のどの時期に出血が起きたのか
- どんなときに出血が起きたのか
- 産婦人科の病気や検診の経験について
- 月経歴・妊娠歴・出産歴について
- 初経の年齢はいつか
- 月経周期は何日か
- 月経の持続日数は何日か
- 月経痛は強いか
- 最近の月経は何月何日から何日間あったか
- 妊娠の回数は何回か
- 出産の回数は何回か
- 産婦人科以外の病気や怪我の経験について
- 以前に治療した病気、けが、持病はあるか
- 常用薬や
経口避妊薬 の服用はあるか アレルギー はあるか
- 生活習慣について
- 喫煙をどの程度するか
- 飲酒をどの程度するか
- 食事は規則的か
- 運動習慣はあるか
- ストレスがあるか
- 家族の病気について
- 家族に出血しやすい病気をもつ人はいるか
問診の結果で不正性器出血の原因が推定されます。
月経がある女性の場合には、必ず月経周期を聞かれますので、最近2回程度の月経の開始日と終了日はきちんと把握していてください。
これらのなかで大事なことについてもう少し詳しく説明します。
不正性器出血の詳細な症状や状況
不正出血の原因を推定するために、詳細な症状や状況について聞かれます。
◎出血量
不正出血の量はどのくらいか聞かれます。例えば、おりものに血が混じる程度なのか、塊のような血が出るのかなどを伝えてください。月経(生理)の経血量が多いと感じている場合には、通常の生理用品では間に合わないことなどがあるか、3日目以降もレバーのような塊の出血があるのかなどを伝えてください。月経中に出血量が多い場合は過多月経と呼ばれます。閉経前の更年期では10-35%の人が過多月経を起こします。
◎出血の持続日数
出血がいつから持続しているのか、出血が止まっている場合には何日間くらいの出血があったのか伝えてください。月経が8日以上続く場合には過長月経と呼ばれます。閉経前の更年期では過長月経が起こりやすく、少ない出血が長い日数で続くことがあります。
◎月経周期との関連
月経周期に照らし合わせて、どの時期に出血が起きているかで、不正性器出血の原因を推定することができます。毎回同じ時期に性器出血が起きているかどうかなども診断の参考になります。月経と月経の間で定期的に起こる少量の出血では排卵期の出血が考えられます。
◎出血が起きた状況
出血が何かの動作に関連して起きたのか、何もしていない時に起きたのかで出血の原因を推定します。例えば、腹圧がかかった後や性行為後では、子宮頸部の
今までの子宮などの病気や手術の経験
子宮や卵巣の病気の経験があるかも重要な情報です。以前の病気が原因で不正性器出血を起こしている可能性があります。今までに、子宮や卵巣などの病気の診断をされた場合や、薬物治療や手術治療を受けたことがある場合には伝えてください。クラミジア感染症や淋菌感染症などの性感染症にかかったことがある場合も伝えてください。
その他に、人工妊娠中絶や、流産の手術(子宮内容除去術)を受けたことがある場合には、出血の原因になることがありますので伝えてください。
子宮体がんや子宮頸がんの検診歴
子宮体がんや子宮頸がんの検診を受けたことがある場合は、受けた時期と結果について伝えてください。
検診は自治体によって住民検診として行われている場合や、企業の検診の一環として行われている場合があります。
子宮頸がん検診は20歳以上で性行為経験がある場合には、全員の女性に推奨されています。2年に1回は検診を受けることで子宮頸がんの早期発見につながりますので、ぜひ受けてください。子宮頸がんであっても早期であれば、一部の手術のみですむため将来の妊娠出産が可能です。
子宮体がんは閉経前後に多いとされていましたが、最近では30歳代後半の患者さんも増えています。糖尿病、高血圧、肥満がある人で、妊娠出産歴がない場合は子宮体がんのリスクがありますので、検診の受診を検討してみてください。
月経歴・妊娠歴・出産歴
月経歴は産婦人科の病気の診断のためには重要な情報です。初経の年齢、月経の周期日数、月経の持続日数などを聞かれます。月経周期に関しては、月経周期がほぼ一定に来ている時期の日数を答えてください。月経周期を把握するためにも、自分の月経開始日と終了日を記録しておくと役立ちます。妊娠歴や出産歴については、妊娠した回数と、出産した回数について答えてください。
常用薬や経口避妊薬の服用
他の病気で内服している薬の影響で、出血しやすくなることがあります。
不正性器出血を起こすことがある薬の一例を次にあげます。常用薬でこれらの薬を飲んでいる場合には医療者に伝えてください。
- 抗
エストロゲン 薬- タモキシフェン(商品名:ノルバデックス®など)
- トレミフェン(商品名:フェアストン®︎)
抗凝固薬 - ダビガトラン(商品名:プラザキサ®︎)
- リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®︎)
- アピキサバン(商品名:エリキュース®︎)
- エンドキサバン(商品名:リクシアナ®︎)
- ワルファリンカリウム(商品名:ワーファリンなど)
抗精神病薬 - クロルプロマジン(商品名:ウィンタミン®︎、コントミン®︎など)
- ハロペリドール(商品名:セレネース®︎など)
- スルピリド(商品名:ドグマチール®︎など)
- アリピプラゾール(商品名:エビリファイ®︎など)
- オランザピン(商品名:ジプレキサ®︎など)
- クエチアピン(商品名:セロクエル®︎など)
- リスペリドン(商品名:リスパダール®︎など)
- 抗うつ薬
- パロキセチン(商品名:パキシル®︎など)
- トラゾドン(商品名:デジレル®︎、レスリン®︎など)
- セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト®︎など)
- 制吐薬
- ドンペリドン(商品名:ナウゼリン®︎など)
- メトクロプラミド(商品名:プリンペラン®︎など)
- H2受容体遮断薬
- シメチジン(商品名:タガメット®︎など)
- ニザチジン(商品名:アシノン®︎など)
抗エストロゲン薬は乳がんの治療薬です。
抗凝固薬は心房細動や慢性心不全、脳梗塞などで使用します。全身の血液を固まりにくくする効果があるため、不正性器出血を起こすことがあります。
抗精神病薬、抗うつ薬、制吐薬、H2受容体遮断薬は高プロラクチン血症を起こします。プロラクチンは脳から分泌される
これらの薬剤を服用していても多くの人には何も副作用は起きませんが、月経異常や不正性器出血がおきた場合には、産婦人科を受診するとともに、処方をしてもらっているお医者さんにも合わせて相談してください。
経口避妊薬の服用をしている場合も伝えてください。経口避妊薬の飲み忘れなどがあった場合にも伝えてください。飲み忘れによって出血が起こる場合や妊娠をしている場合があります。
食事や運動習慣
食事がうまく取れない摂食障害、過度のダイエット、激しい運動などは月経異常の原因となり、不正性器出血を起こします。過度の体重減少や運動負荷は脳からでる卵胞を育てるホルモンの分泌異常を起こすため、月経異常や不正性器出血につながることがあります。
ストレスの状況
精神的なストレスが多いと脳からでる卵胞を育てるホルモンの分泌異常が起こり、無月経や、機能性子宮出血が起こることがあります。
2. 身体診察
身体診察では
バイタルサインのチェック
医療現場で使われる「バイタルサイン」という言葉は、脈拍、血圧、呼吸、体温、意識状態などを指します。バイタルサインから生命を維持する機能の状態を推定します。
不正性器出血は色々な原因で起こりますが、緊急処置が必要な病状かを判断するためにバイタルサインが参考にされます。例えば、出血量が多いと脈拍数が増え、さらに出血量が多くなると血圧が低下し、意識状態が朦朧としてはっきりとした受け答えができなくなります。
このようにバイタルサインの異常を参考に、病状を推定し、検査や治療がすすめられます。
腹部の診察
不正性器出血と合わせて腹部を押した時の痛み(圧痛)があるかどうかを調べるために腹部の診察が行われます。不正性器出血に腹部の圧痛が合わさって起きている場合には、お腹の中で炎症が起きていることを表します。なかにはきちんと治療をしなくてはいけない病気の場合もあるので圧痛の有無は重要です。腹部の診察は仰向けになって行われます。医師ははじめにお腹の形を目で見て、その後
産婦人科診察
産婦人科の診察は内診台で行われます。子宮頸部まではクスコという金属の道具を膣に入れることで観察ができます。性行為経験がない場合には、最低限の内診のみが行われます。
診察では尿道などからの出血なのか、性器の出血であるかどうかを見分け、さらに膣や子宮頸部の出血なのか、もっと奥からの出血なのかを調べます。炎症やポリープや腫瘍があるかどうかなどを調べることができます。
3. 血液検査
血液検査では不正性器出血に伴う貧血がないかどうかと、出血を起こしやすい病気がないかどうかを調べます。状況によっては感染症がないかなどを調べるために炎症反応などを血液検査で調べます。
貧血の検査
不正性器出血の量が多い場合や、長い期間続いている場合には貧血を起こしていることがあります。貧血の有無を血液検査で調べます。医学用語の「貧血」は血液の中の
過多月経は1回の月経の経血量が多いことと定義されますが、多くの場合は正確な経血量はわかりません。血液検査で貧血があった場合には、過多月経の診断の参考になります。
出血しやすい病気がないかの検査
血液が固まる(止血)時には
出血しやすい病気にはさまざまなものがあり、その一部は遺伝するものです。自分以外の家族でも出血しやすい体質があり、自分も不正性器出血が多い場合には、遺伝する出血しやすい病気の可能性もありますので、その検査も行います。
はじめに簡単に血液検査で調べることができるのは、血小板数とPTやAPTTなどです。PTやAPTTは間接的に凝固因子がきちんと働いているかを調べる検査です。血小板数が少ない場合には原因となる病気がないかをさらに調べます。PTやAPTTに異常がある場合には、追加で個々の凝固因子が足りているか調べます。出血しやすい傾向が遺伝性にある場合には、フォンヴィレブランド因子(フォンウィルブランド因子)の数や機能も調べることがあります。
炎症の検査
不正性器出血の原因として、子宮などの炎症や、分娩後の感染症が疑われる場合には、血液検査の炎症の値を測定し診断の参考にします。
4. 妊娠反応検査
妊娠の有無は不正性器出血の診断や治療において重要です。卵巣や子宮を手術で取り除いている場合や、閉経していて12ヶ月以上月経がない場合、最近数ヶ月以上性行為をしていない場合など、妊娠が全く考えられない状況を除いて、多くの場合には妊娠反応の検査が行われます。少量の出血が起きて「こないだ月経が起きたばかり」と思っていても、その出血自体が不正性器出血であって病気が隠れていることもあります。妊娠反応検査は尿検査で行われます。
5. 感染症の検査
不正性器出血として感染が考えられる場合には次のような感染症の検査が行われます。
血液検査
出産後に子宮内に血液が溜まって感染した場合や、骨盤腹膜炎の場合には血液検査での炎症反応が高くなることがあります。骨盤腹膜炎ではクラミジアなどが膣から子宮体部、卵管を通って腹部に感染し、肝臓の周りに炎症を起こします。血液検査での炎症反応が診断や治療の参考にされます。
膣分泌物の検査
この検査で淋菌やクラミジアが検出された場合には、パートナーも淋菌やクラミジアに感染しているかどうかの検査を行うことが勧められます。なぜなら、パートナーが感染していた場合、本人のみが治療を受けても、再度パートナーから感染する可能性があるからです。
6. 病理検査
不正性器出血の原因として子宮頸がんや子宮体がんもあります。年齢に応じて子宮頸がんのみ、もしくは両方の検査を行います。
子宮頸がんの検査では内診時に膣の奥にある子宮頸部の細胞をブラシで擦りとります。軽い痛みや少量の出血が起こります。検査後数日は不正性器出血が起こることがあります。
子宮体がんの最多の初期症状は不正性器出血です。35歳以降の不正性器出血では、多くの場合には子宮体がんの検査も行われます。検査は子宮内に細い器具を入れて子宮内膜の細胞を取ります。痛みの強さは個人差がありますが、細胞をとる時に痛みがあります。検査後数日は不正性器出血が起こります。まれですが検査による子宮内の感染を起こします。検査後に下腹部痛や発熱などの症状が続く場合には検査を行なった医療機関に相談してください。
7. 画像検査
不正性器出血の原因を調べる時に最も多く行う画像検査は経膣超音波検査です。経膣超音波検査は簡単にできて、子宮内や卵巣、骨盤内を観察することができます。腫瘍や妊娠などの判定も行うことができます。経膣超音波検査で腫瘍などが疑われた場合には
超音波検査とMRI検査でそれぞれわかることなどを説明します。
超音波検査
超音波検査は、超音波を出す機械(プローブ)を調べたい場所に当てて、その場所の内部を画像に映し出すことができます。産婦人科の超音波検査では通常は膣から機械を入れて検査を行います(経膣超音波検査)。性行為経験のない場合にはお腹の上から機械を当てるか、直腸に入れる機械を使って超音波検査が行われます。
経膣超音波検査では子宮の内膜の厚さや、子宮筋腫の有無、卵巣腫瘍の有無、骨盤内に溜まった液体の有無、異所性妊娠の有無などの観察が行われます。超音波検査は放射線被曝などの心配がなく、簡便にできるため、不正性器出血の原因を調べる検査として広く行われています。
腹部骨盤MRI検査
経膣超音波検査で子宮内や卵巣などに異常があった場合には、詳しく調べるために腹部から骨盤部にかけてのMRI検査を行います。子宮筋腫や子宮腺筋症の大きさ、周りの臓器との位置関係や、がんが疑われた場合の広がりなどの把握に有用な検査です。
MRI検査は磁気を利用する画像検査です。放射線を使うことはないため被曝はしません。MRI検査は軟部組織を観察しやすいため、子宮内部や筋層の中、子宮の周りなどの評価に優れています。
ただし、持病によって検査を受けられない場合があります。また、大きな筒に入って検査を行いますが、画像の撮影をするために大きな音がすること、検査時間が20-30分程度かかることから、うるさい音をずっと我慢していないといけません。費用が高いことも欠点です。
腹部骨盤MRI検査を行うことができない可能性がある人は、体内に金属が入っている人と、閉所恐怖症の人です。MRI検査は磁気を利用するため、体内に金属が入っていると影響を受けてしまうことがあります。心臓
心臓ペースメーカーなどの製品が体内にあっても、使われている素材などによってはMRI検査を行うことができる場合もありますが、判断のためにも必ず医師に伝えて下さい。
また、MRI検査には20分程度、狭い筒の中でじっとしていなければいけません。そのため、狭いところでドキドキしたり不安を感じたりする人は事前に伝えてください。閉所恐怖症のためMRI検査を行うことができない人もいます。