すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 206回の改訂 最終更新: 2023.05.30

膵臓がん以外の膵臓の病気:膵炎、IPMNなどについて

膵臓がん以外の膵臓の病気は多岐に渡ります。がん以外にも膵炎など命に危険を及ぼす病気は多数あります。また膵臓がんとの区別が難しい病気もいくつかあります。ここでは膵臓の病気について解説します。

1. 膵臓の主な病気一覧

膵臓に発生する病気はたくさんの種類があります。分類としては、腫瘍(しゅよう)と炎症に分けることができます。腫瘍には膵臓がん、膵嚢胞性腫瘍(すいのうほうせいしゅよう)、膵神経内分泌腫瘍(すいしんけいないぶんぴつしゅよう)があります。炎症の病気は自己免疫性膵炎急性膵炎慢性膵炎があります。

膵臓の病気で命に危険を及ぼすものは?

膵臓の病気には生命に危険を及ぼすようなものがいくつかあります。膵臓がんは代表的です。ほかに急性膵炎の重症の場合も命に関わります。

膵臓がんが見つかってからの生存率を表に示します。

ステージ
(UICC 第7版)
5年生存率(%)
I(1) 53.4
II(2) 22.2
III(3) 6.1
IV(4) 1.5

参照:「がんの統計2022」

膵臓がんは診断時に転移がある状態で発見されることも多く、進行も早いので手術でがんを取りきったと考えられる場合でも再発することが多く、生存率はかなり厳しい数字が並んでいます。

膵臓に炎症が起きる急性膵炎も重症化した場合は命に危険を及ぼします。

  全体 重症例
死亡率 2.6% 10.1%

参考:Pancreas 2014;43:1244-1248

急性膵炎はお腹の火傷と言われるようにかなり重症化することがあり、良性(がん以外)の病気としては死亡率もかなり高い数字になっています。

「膵臓が腫れる」とは?

腫れているとは膵臓が通常の大きさより大きくなっているときなどに用いられる表現です。膵臓が腫れる(腫大する)原因としては、自己免疫性膵炎急性膵炎などがあります。自己免疫性膵炎急性膵炎はともに治療が必要な病気です。しかし、がんではありません。

「膵臓が腫れている」と言われたときに、「腫大している」という意味であれば、「膵臓がんではないか」と過剰に心配する必要はありません。しかし、医療関係者の中には「何か大きなものがある」という意味で「腫れている」という表現を使う人もいます。

医療者の言葉が何を指しているかよくわからないと思ったら、言い換えや詳しい説明を求めてください。ほどよく質問することで医療者にとっても説明がしやすくなります。

2. 急性膵炎の症状・原因・治療は?

急性膵炎はアルコールと胆石を主な原因とする病気です。膵臓はタンパク質などを溶かす消化酵素という物質を分泌します。消化酵素は膵管(すいかん)を通って腸の中に出て行きます。膵管内では消化酵素は活性化していない状態です。つまり、消化酵素が膵管を溶かすことはありません。しかし、アルコールの過剰摂取や胆石が膵液の流れを塞ぐことで消化酵素が活性化し、膵臓を溶かし始めることがあります。この状態を急性膵炎といいます。

急性膵炎の症状

  • 腹痛、背部痛
  • 悪心・嘔吐
  • 発熱
  • 血圧の低下
  • 脈が早くなる(頻脈

症状は炎症の重症度により異なりますが、最も多い症状は腹痛です。急性膵炎による腹痛はみぞおちから背中にかけて強い痛みが持続します。胸を膝につけるような姿勢になると痛みが軽減します。アルコールや脂肪を摂取すると腹痛や背部痛が増悪します。

以上の特徴が典型的ですが、当てはまらない場合もあります。

膵液はタンパク質を溶かすものです。タンパク質は人間の体を形成しています。膵液の体への影響は深刻です。「急性膵炎はお腹の火傷」と表現されることがある程です。

さらに重症になると以下の症状が現れます。

  • 強い腹痛
  • 腸が動かなくなる
  • お腹の中で出血をして痛みが出る
  • 呼吸困難
  • 血圧が下がったり、脈が早くなる
  • 尿が出なくなる

重症例を急性壊死性膵炎といいます。

急性膵炎が重症化すると全身に影響が及ぶことになります。急性膵炎で激しい炎症が起きるといろいろな種類の炎症に関わる物質(サイトカイン)が出ることで、血管から水分が失われたり、呼吸や全身の機能に様々な問題を引き起こします。

  • 呼吸ができなくなる(肺水腫) 
  • 血行が保てなくなる(循環不全)
  • 全身の血管内に血液の塊ができて臓器への血流が悪くなる(播種性血管内凝固症候群、多臓器不全)
  • 胃や腸から出血する(消化管出血
  • 尿が作れなくなる(腎不全
  • 膵臓が溶けた場所に感染する(感染性膵壊死)
  • 出血(膵炎によって発生した仮性動脈瘤が破裂する)

全てが一緒に起こるわけではありませんが、重い病態が起こることが予想され、集中治療室での長期的な入院も必要になる可能性があります。

急性膵炎の原因

急性膵炎は飲酒と胆石が主な原因です。

飲酒について、1日あたり純エタノール換算で48g以上の飲酒で膵炎発症のリスクは2.5倍になるとされています。純エタノール48gを換算すると、1日量でビール1.2リットル、日本酒2.4合に相当します。

アルコールの大量摂取は意識状態に影響することもあり、適量を守って飲酒を楽しむべきです。

胆石はいろいろな原因で発生します。胆石があるだけで害がない人もいます。胆石が膵管に詰まると急性膵炎の原因にもなります。

3. 慢性膵炎の症状・原因・治療は?

慢性膵炎とは膵臓に慢性的に炎症が起きている状態のことを指します。慢性膵炎を発症した人は腹痛などの症状を認めます。アルコールなどが原因になります。

慢性膵炎の存在は膵臓がんの発生にも強く関わっています。

慢性膵炎の症状

長い時間に渡る腹痛が主な症状です。背中の痛みを起こすこともあります。

慢性膵炎がかなり進行して、膵臓が機能しなくなると食べ物の消化が上手くできなくなり下痢をしたりすることもあります。膵臓はインスリンという物質を分泌していますが、インスリンも出なくなります。インスリンが出なくなると糖尿病が発生し、体重の減少や尿量の増加(多尿)、倦怠感、口の乾きなどの症状が出ることがあります。

慢性膵炎の原因

慢性膵炎は、アルコールを原因とすることが大多数です。脂の多い食事なども原因の一つとされます。

純エタノール換算で1日80g以上の飲酒が長期間続いている場合、慢性膵炎の危険性が高くなります。純エタノール80gはビール2リットル、日本酒4合に相当します。

つまり、慢性膵炎はかなり飲酒量が多い場合に発症すると考えられます。アルコールの大量摂取は慢性膵炎のみならず、他の病気の引き金にもなります。適正な量の範囲で飲酒を楽しむことが健康のためになります。

慢性膵炎の治療

慢性膵炎はまず、食事療法や消化酵素の内服などの保存的(内科的)な治療が行われます。保存的治療で症状が改善しない場合には、痛みの原因となる病変を取り除くための手術を行います。

4. 自己免疫性膵炎の症状・原因・治療は?

免疫とは、感染症やがんなどから体を守るために人間の体に備わっているものです。免疫の働きは数多くの種類の細胞によって担当されており、体に害を及ぼすものを攻撃して排除します。

ところが、免疫が有害に働いてしまうこともあります。何らかの原因により、免疫が自らの身体を攻撃してしまう場合です。これを自己免疫疾患と言います。自己免疫疾患の多くは原因不明です。

自己免疫性膵炎は自らの細胞に対して、免疫細胞による攻撃が起きて膵炎を起こしてしまう病気です。

自己免疫性膵炎の症状

症状は軽度であることが多いですが、腹痛、腹部不快感や黄疸などの症状が現れることがあります。膵臓の破壊が進んでいると糖尿病などを引き起こすこともあります。自己免疫性膵炎による糖尿病は、肥満などによる糖尿病とはしくみがまったく違います。

5. 膵臓の腫瘍とは?

膵臓には何種類かの腫瘍が発生します。膵臓がんは膵臓に発生する悪性腫瘍です。その他に一部が膵臓がんに進行していくIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)に代表される腫瘍性膵嚢胞(しゅようせいすいのうほう)などがあります。その他では膵臓が出すホルモン(内分泌)に関連したインスリノーマガストリノーマなどもあります。

膵臓には膵臓がん以外にも多くの腫瘍が発生します。どの腫瘍なのかを正確に診断し治療の必要があるのかを判断していくことが大事です。

6. 膵臓がんの症状・原因・治療は?

膵臓がんは膵臓に発生する悪性腫瘍です。腹痛などの症状を現すこともありますが、症状がないこともあります。治療法はステージなどによって異なります。膵臓がんを体からなくす可能性がある治療は手術だけです。

膵臓がんの症状

膵臓がんがあっても症状を示さないことは珍しくありません。腹痛などの症状が出ることもあります。膵臓がんに限った症状というものはなく、多くの症状が出現します。

膵臓がんの主な症状を表に示します。

症状 症状が出る割合
腹痛 78-82%
食欲不振 64%
お腹がすぐに一杯になる(早期の満腹感) 62%
体が黄色くなる(黄疸) 56-80%
体重の減少 66-84%
背部痛 48%

参照:World J Geteroenterol 2011;17:867-897

膵臓は沈黙の臓器と呼ばれます。膵臓がんも、進行するまで症状が出にくいがんの一つです。膵臓がんは背中側にある臓器なので背部痛などの症状を現すことがあります。膵臓がんに特徴的な症状はありません。上記の症状で当てはまるものが多い場合や症状が長引く場合には、医療機関を受診して原因を特定したほうがいいでしょう。膵臓がん以外の原因が見つかることもあります。

膵臓がんの原因

膵臓がんの発症を高めてしまう要因としては喫煙などの生活習慣などが明らかになっています。第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に膵臓がんの人がいる場合も膵臓がんになる危険性が高いことが分かっています。

危険因子 膵がん発症のリスクの増加(倍率)
糖尿病 1.94倍
肥満 20歳代にBMIが30kg/m2以上の男性で3.5倍
慢性膵炎 診断から4年以内は14.6倍、診断から5年以降は4.8倍
喫煙 1.68倍
飲酒 毎日の飲酒がビール750ml、日本酒1.5合以上で1.22倍
家族歴 第一度近親者に膵臓がん患者さんがいる人で4.6-32倍

参照:Eur J Cancer 2011;47:1928-1937Int J Cancer 2007;120:2665-2671Gastroenterology 2014;146:989-994Jpn J Clin Oncol 2011;41:1292-1302Int J Cancer 2010;126:1474-86Cancer Res.2004;64:2634-2638

膵臓がんと直接関係のある食事、食品は明らかになっていません。

ただし、膵臓がんのリスクを高める原因となる糖尿病肥満は食事と強い関連があります。糖尿病には1型と2型がありますが、1型は食事などで予防できるものではないのでここでは2型糖尿病糖尿病として解説します。2型糖尿病糖尿病のなかでも95%を占めます。

糖尿病肥満と強い関連があります。糖尿病を予防するためには、適正な体重を維持すること、それに伴って適切な食事をとることなどが重要です。糖尿病の予防について解説します。

糖尿病になりやすい人は?

糖尿病になりやすい人は明らかになっています。

  • 45歳以上の人
  • 肥満の人
  • 運動不足の人
  • 家族に糖尿病の人がいる肥満の人
  • 肥満で高血圧のある人
  • 肥満コレステロールが高い人

ここで言う肥満とは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)の値(BMI)が25を超えることと定義されます。身長160cmの人なら64kgを超えると肥満です。

糖尿病予防のための食事は?

糖尿病を予防するためには、カロリーを制限する必要があります。制限するといっても極端に減らす必要はありません。カロリー制限が行き過ぎると体に悪影響を及ぼします。まずは、自分に必要なカロリーと、食べ物のカロリーの量を知ることが重要です。カロリーは糖質、タンパク質、脂質から摂取することができます。それぞれ1gあたりのカロリー量はおおむね以下のとおりです。

糖質 4kcal
タンパク質 4kcal
脂質 9kcal

カロリーのうち5-6割を糖質で摂取するのが良いとされています。

  • 男性:1日に1600kcalから2000kcal 糖質で200-300g
  • 女性:1日に1400kcalから1800kcal    糖質で175-275g

数字だけではイメージが浮かびにくいかもしれません。どの食品がどのような成分でできていて、どの程度カロリーがあるかを大まかに把握できれば理想的です。

成分とカロリーを考えながら食事を選べるようになると糖尿病予防の第一歩としては十分です。

カロリー以外にも糖尿病の予防によい食品はいくつか知られています。

  • 食物繊維を多く含むもの
  • グリセミック指数(GI値)の低いもの
  • 緑色野菜

GI値について説明します。

GIは炭水化物を50g含む食品を食べた時に、どの程度血糖値が上昇するかを表したものです。言い換えるとGI値が低い食品は血糖値の上がりにくい食品です。

GI 食品の例
高い パン、白米
中程度 うどん
低い パスタ、そば、玄米

糖尿病の予防には食事以外に運動なども有効です。食事にも気を使いつつ、健康な体を維持できるように生活全体に気を配ることが重要です。

膵臓がんの治療

膵臓がんを体からなくす(根治)には、手術が唯一の方法です。手術ができる条件は以下です。

  • 膵臓から離れた場所に転移がない(遠隔転移がない)
  • がんが重要な血管に接していない、もしくは接触・浸潤があってもその浸潤が軽度で手術によりがんを取り切る可能性がある

手術はがんを取りきれるかどうかが問題になってきます。膵臓がんは重要な血管に対して浸潤しやすい性質があります。重要な血管への浸潤が強い場合は手術でがんを取り切れる可能性が低くなるので、手術を行えない場合もあります。

7. 膵嚢胞(単純性膵嚢胞)とは?

膵嚢胞(すいのうほう)は膵臓に発生した水の袋で、腫瘍などとの関連がないものを指します。

膵嚢胞には、真性膵嚢胞と仮性膵嚢胞があります。

真性膵嚢胞は袋に上皮という層があり、仮性膵嚢胞には上皮という層がない点が異なります。

真性膵嚢胞は先天的(生まれもってのもの)、仮性膵嚢胞は膵炎などが原因で発生するとされています。

真性膵嚢胞は、症状などがなければ特に治療する必要がありません。対して仮性嚢胞の多くは、自然になくなることが多いのですが、消失しない場合や増大する場合は膵嚢胞に針を指して嚢胞を潰すこと(経皮的外ドレナージ術)や、手術などが治療法となります。

8. 膵嚢胞性腫瘍とは?

嚢胞とは液体がたまった状態を指します。膵嚢胞性腫瘍は、膵臓に嚢胞を発生させる腫瘍を指します。

膵嚢胞性腫瘍は3種類に分類されます。

  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
  • 粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
  • 漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは?

IPMN(アイピーエムエヌ)は日本名では、膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅとうねんえきせいしゅよう)といいます。一般的には英語のIntraductal Papillary Mucinous Neoplasmを略したIPMNとよばれることが多いです。

膵臓は食物を消化するための酵素を分泌します。分泌された酵素は膵液として膵臓の中にある膵管という管を通り十二指腸に流れ込みます。膵管の内側の粘膜に腫瘍ができることがあります。粘液が膵臓内に溜まって袋状に見えるものを、腫瘍性膵嚢胞(しゅようせいすいのうほう)と言います。腫瘍性膵嚢胞は3つに分類されます。

  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
  • 粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
  • 漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

腫瘍性膵嚢胞の大部分がIPMNです。

IPMNは、膵管から発生して成長していきます。見た目の形は「イクラ」や「ブドウの房」に例えられることもあります。IPMNは膵管の中に発生するので嚢胞と膵管はつながっています。

IPMNは時間を経て浸潤がんへと変化していくことがあります。IPMNを早期に診断し必要であれば手術によって取りきることで、浸潤がんになる前に治療が可能と考えられています。また、IPMNが見つかった患者さんは同時に通常型の膵臓がんを持っている場合があることも知られています。

IPMNのほとんどが無症状です。検診などを契機に発見されます。IPMNはできた場所によって主膵管型、分枝型と混合型の3つに分類できます。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の種類

主膵管型のIPMNは粘液を産生することで主膵管を閉塞したりしてまれに膵炎の原因になることがあります。膵炎の症状は上腹部痛、背部痛、悪心(吐き気)、嘔吐などです。

主膵管型のIPMNは浸潤傾向を認めることが知られているので、治療には手術を行います。

IPMNの手術は次に当てはまる場合に勧められる(適応がある)とされます。

  • 主膵管が10mm以上の場合
  • 閉塞性黄疸の症状がある
  • 造影CT検査で造影される結節の存在

分枝型や混合型は腫瘍の大きさや症状などを考慮して手術を行う場合もあります。

参照:Pancreatology 2012;12:183-197

粘液性嚢胞腫瘍(MCN)とは?

粘液性嚢胞腫瘍(ねんえきせいのうほうしゅよう)は、膵臓に発生する中身が液体の袋状の腫瘍です。英語のMucinous Cystic Neoplasm を略してMCN(エムシーエヌ)と言います。

MCNの中身は粘り気の強い液体です。

IPMNと比べて悪性化する可能性が高い、もしくはすでに浸潤傾向を示している可能性が高いために、MCNと診断された場合は、手術が考慮されます。

MCNの診断にはIPMNと区別する必要があります。IPMNと違ってMCNは膵管とつながっていません。また統計上、女性に発生した膵嚢胞性腫瘍は比較的MCNの疑いが強いと考えられます。MCNは卵巣由来の組織が関係しているとされます。

診断確定を行うために検査をいくつか行います。

MCNは膵臓の中でも膵体部・膵尾部に発生することが多いとされています。手術では腫瘍の切除とリンパ節の郭清も行われます。手術の方法については「膵臓がんの手術とは?」で説明しています。

MCNができる場所は主に膵体部・膵尾部なので胆汁が流れる胆管や食べ物が流れていく十二指腸とは離れた場所に発生します。MCNが胆管や腸に影響して症状を現すことは少なく、無症状で発見されることもあります。

MCNと診断された場合は手術での腫瘍の摘出を行う方針となります。IPMNよりも悪性の可能性が高く、浸潤傾向を示す場合も珍しくはありません。リンパ節への転移が見つかる場合もあります。MCNの治療として一般的には膵臓を切除します。膵頭十二指腸切除もしくは膵体尾部切除を行います。

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)とは?

漿液性嚢胞腫瘍(しょうえきせいのうほうしゅよう)は膵臓にできた袋状の腫瘍です。英語のSerous Cystic Neoplasmを略してSCN(エスシーエヌ)と呼びます。

IPMNやMCNと異なり腫瘍を満たす液体は粘り気がありません。良性の腫瘍と考えられています。女性に多いとされます。女性ではMCNが多いので、女性のSCNが疑われた場合はMCNと区別することが重要です。

漿液性嚢胞腫瘍は基本的には症状がありません。大きくなると、胆管を閉塞し黄疸の原因になったり、腹痛の原因になることもあります。

漿液性嚢胞腫瘍は良性腫瘍なので手術は基本的には行いません。

まれに大きくなることがあり、その影響で症状(腹痛、黄疸など)が出た際には手術が考慮されます。SCNが大きくなりすぎて胆汁の流れが悪くなったり、膵管の流れが悪くなり膵炎を発症したりすることでこれらの症状が起こります。胆汁や膵液の流れが悪い状態はさらに悪化につながる恐れがあり、治療が必要なためです。

9. 膵神経内分泌腫瘍とは?

インスリノーマガストリノーマなどはホルモンを産生する細胞が腫瘍化したものです。これらをまとめて膵神経内分泌腫瘍(すいしんけいないぶんぴつしゅよう)といいます。

膵神経内分泌腫瘍の原因になる「MEN」とは?

神経内分泌腫瘍を発症する原因の一つとして多発性内分泌腫瘍という病気があります。多発性内分泌腫瘍は英語のMultiple Endocrine Neoplasmを略してMEN(メン)ともいいます。MENには 3つタイプがあります。膵神経内分泌腫瘍が発生するのはMEN 1型というものです。MEN常染色体優性遺伝という遺伝パターンをとる遺伝性の病気になります。常染色体優性遺伝とは、MENを発症した患者さんの子供は男女にかかわらず50%の確率で同じ病気の原因遺伝子を持って生まれるということです。原因遺伝子を持っていれば必ず病気を発症するわけではありません。原因遺伝子を持っていて発症しない人からも、50%の確率で子供に原因遺伝子が受け継がれます。

MENでは膵臓以外の臓器にも腫瘍が発生します。遺伝カウンセリングなども必要な場合があります。信州大学が作成したウェブサイトに詳細な情報が掲載されているのでご紹介します。

参考サイト:多発性内分泌腫瘍情報サイト

MENの遺伝子を持っていない人でも、ほかの腫瘍を伴わない膵神経内分泌腫瘍が発生する場合はあります。

インスリノーマとは?

インスリンは血糖値を下げるホルモンです。血糖値が下がりすぎると命に危険が及ぶ場合があるのでインスリンの分泌量は適正な量に保たれています。インスリノーマはインスリンを過剰に分泌してしまう腫瘍です。

症状は、血糖値が低いときに見られる症状です。

  • 脱力
  • 発汗
  • 意識消失

症状は糖分を摂取することで改善します。意識消失などが頻繁にみられるなど症状が重いときには根本的な治療を行う必要があります。根本的な治療としては、腫瘍を手術により取り除くことが必要となります。

インスリノーマが発見された場合は原則として手術によって腫瘍を摘出します。インスリノーマを摘出することでインスリンの過剰分泌が緩和され低血糖などの症状が改善されることが期待されます。

ガストリノーマとは?

ガストリンは胃酸の分泌を促進する物質です。ガストリノーマはガストリンを多く出す腫瘍です。

ガストリノーマの主な症状を挙げます。

  • 上腹部痛
  • 気持ちの悪さ(悪心) 
  • 嘔吐 
  • 下痢 
  • 体重減少
  • 消化管からの出血

ガストリンという物質が多く出るため、それに伴い胃酸が多く分泌されます。胃酸が多く分泌されるために胃痛を原因とする上腹部痛が現れます。

ガストリノーマが発見された場合は手術を考慮します。手術を行うことでガストリンの産生が低下し胃酸が多く分泌されるなどの症状が改善されることが期待されます。

10. 膵臓腫瘍の病院の見つけ方

膵臓腫瘍に対する治療の中で手術は重要なものと言えます。膵臓の手術にはいくつかの術式がありますが、いずれの手術も合併症があり、がんの手術のなかでも難易度は高い部類に入ると考えられます。膵臓腫瘍の手術は、膵臓腫瘍の手術に慣れた医師のいる施設で行うことが適当です。

日本肝胆膵外科学会では高度技能専門医という制度を設立しています。高度技能専門医は難易度の高い肝臓、膵臓などの手術を安全にかつ確実に行うための技能を習得した外科医です。もし、手術の必要があり、手術する病院を探している最中であれば、高度技能専門医のいる施設が参考になるかもしれません。

高度技能専門医、施設は日本肝胆膵外科学会のウェブサイトで公開されています。

11. 膵臓腫瘍の検査で何がわかる?

膵臓に腫瘍が発見されるとさらに詳しい検査が必要になります。

主な膵臓の検査は以下のものです。

  • 血液検査(腫瘍マーカー、膵酵素)
  • 腹部超音波検査 
  • 造影CT検査 
  • MRI検査、MRCP 
  • 超音波内視鏡検査EUS) 
  • 超音波内視鏡穿刺吸引法(EUS-FNA)
  • 内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP
  • 審査腹腔鏡

膵臓に腫瘍が確認された場合はそれがどのようなものなのかを診断する必要があります。これを質的診断といいます。

一般的に、膵臓腫瘍で最も悪性度が高いのは膵臓がんです。診断をしっかりと行い膵臓腫瘍がなんであるかを追求する姿勢が重要です。

検査について詳しくは「膵臓がんの検査で何がわかる?」のページで説明しています。

12. 膵臓腫瘍が経過観察でいいのはどんなとき?

主な膵臓腫瘍をまとめます。

膵臓の腫瘍は膵臓がんを代表として治療を行うことが余命を延長したり症状の緩和につながります。

上記の腫瘍で経過観察を行うのは、IPMNの分枝型や症状を伴わない漿液性嚢胞腫瘍などになります。膵臓腫瘍は良性でも大きくなることで膵液や胆汁の流れを滞らせたりすることがあります。その際には手術などによる治療を行う必要があります。

13. 膵臓の病気は子供にもある?

膵臓の病気は決して子供には多いとは言えません。特に膵臓がんが小児に発症することは極めてまれです。

ここでは2つの病気について解説します。

急性膵炎

膵臓はタンパク質や脂肪を吸収しやすくする消化液(膵液)を分泌することが役割の一つです。膵液は主膵管という管を通って十二指腸に流れ込み消化液としての効果を発揮します。主膵管内では膵液は消化液としての効果を発揮しない状態で流れています。主膵管の圧力が上昇すると膵液が活性化して膵臓を溶かしてしまうことがあります。この状態が急性膵炎という状態です。

成人に起きる膵炎はアルコールを原因とすることが大半です。

対して、小児に発生する膵炎は先天性胆道拡張症を原因とすることが最も多いとされます。胆道(胆管)は肝臓で作られた胆汁を十二指腸に運ぶ管です。胆管と主膵管は合流してその後十二指腸に流れ込みます。先天性胆管拡張症は文字通りに胆管が拡張し程度によっては膵管の流れが悪くなります。膵管の流れが悪くなると膵炎の原因になります。先天性胆管拡張症以外にも外傷などの強い刺激でも急性膵炎になることがあります。

急性膵炎は重症化すると命に危険が及びます。重症化をしないようにしっかりとした初期治療が必要です。子供の場合は、症状などの訴えが十分ではなく発見が遅くなることもあります。子供の腹痛の原因として急性膵炎は比較的まれなものではありますが、腹痛をたびたび訴えたりする場合は原因について調べておくことで病気が見つかることもあります。

仮性膵嚢胞

膵嚢胞(すいのうほう)は膵臓にできる、中身が液体の袋状のものです。膵嚢胞の種類には2つあります。袋に上皮という層があるものを真性膵嚢胞、上皮がないものを仮性膵嚢胞といいます。真性膵嚢胞は先天的にできたもので大きな問題になることはほとんどありません。

仮性膵嚢胞は、膵炎や激しい腹部外傷の後などに発生します。仮性膵嚢胞の中身は膵液のことが多いです。仮性膵嚢胞は出血や感染の原因になることがあり、破裂することもあります。仮性膵嚢胞が破裂すると腹膜炎などの重症な状態に陥ることになります。仮性膵嚢胞は自然に消失することもあるので、経過観察を行うことが多いですが、6週間を目安に消失しない場合は治療をします。治療は体の外から膵嚢胞に向かって針を刺して中身の液体を抜く治療(外瘻ドレナージ)や、膵嚢胞を切除する手術があります。

14. 食事は膵臓の病気の原因になる?

膵臓の病気で、食事などとの関係が示唆されるものは膵臓がん、急性膵炎慢性膵炎などです。

肥満糖尿病は膵臓がんができる確率を上げる要因になります。

急性膵炎慢性膵炎は、アルコールなどが原因に関係しています。