にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 207回の改訂 最終更新: 2024.05.29

乳がんの症状①:初期症状のセルフチェック、しこりの特徴

通常の乳房は柔らかいのですが、乳房の中にがんなどの異物がある場合、硬いものを触れることがあります。これがしこりです。乳房にあるしこりは乳がんを疑う材料ですが、その全てが乳がんというわけではありません。乳房のしこりに注目して説明します。

しこりとは「硬いもの」という意味です。皮膚の下にある場合、その上から触った時に、硬いものを感じることがあります。この硬いものをしこりと言います。

本来ないものを皮膚の上から感じると、「悪いもの=がん」ではないかと思ってドキッとするかもしれません。しかし、しこりの全てががんではありません。がん以外にもしこりとして触れるものがあります。

がんは悪性腫瘍(あくせいしゅよう)とも言います。悪性腫瘍と対になる言葉が良性腫瘍です。腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に分類されます。

腫瘍というのは「できもの」というイメージで理解しておけばおおむね問題ありません(血液系の腫瘍などはややイメージが違いますがここでは省きます)。では良性と悪性の違いとは何でしょうか。典型的な特徴を表にまとめます。

【良性腫瘍と悪性腫瘍の性質の違い】

良性腫瘍 悪性腫瘍(がん)
大きくなるスピードが緩やか 大きくなるスピードが速い
周囲の組織を破壊しにくい 周囲の組織を破壊しやすい
転移しない 進行すると転移する

上の特徴は典型的な場合に限ります。例外はたくさんあります。しかし、乳房にできる良性腫瘍と乳がんの対比としては多くの場合で成り立ちます。

乳房にしこりがある場合は乳がんが疑われます。その一方で、乳がん以外でも乳房にしこりを作ることがあります。たとえば、乳腺炎や乳腺症、乳腺線維症などでも乳房にしこりができます。乳房を触っただけでは乳がんとほかの病気を区別することは簡単ではありません。
あくまで目安としてですが、乳がんのしこりにはいくつか特徴があり、診断の参考とされる場合もあります。

乳頭を中心に、乳房を上下内外に区切って4か所に分けた場合に、上方の外側(最も脇に近い1/4)に乳がんができやすいことが分かっています。乳がんのおよそ50%が上方外側にできます。続いて上方の内側、下方の外側、下方の内側の順です。

乳がんは上方外側にできる傾向はありますが、それ以外の部分にできたしこりが乳がんでないとは言えません。乳房に明らかなしこりがあるときは医療機関を受診してください。

しこりに触った感触で乳がんなのかそれ以外なのかを区別することは簡単ではありません。専門的には乳がんには次の特徴が現れやすいとされています。

  • 硬い
  • 表面が凸凹といびつである
  • 周囲の組織にへばりついてなかなか動かない
  • 周囲の組織との境界が分かりにくい

こうした特徴は、日頃から乳がんの診療をしている医師であれば判別可能な場合もありますが、自己診断するのはほとんど無理です。どれかに当てはまるかもしれないと思ったら、迷わず乳腺外科などで相談してください。

上の特徴について、乳がんの性質の理解のために解説します。

がんは無秩序に増殖していびつな形態になる傾向があります。また、周囲の組織に入り込んでいく(浸潤する)性質を有しています。浸潤があると周囲の組織とずらそうとしても動かないことがあります。また良性腫瘍は周りの組織との境界がはっきりとしているのに対して、がんは周囲の組織に浸潤して境界がわかりにくい場合があります。

これらの特徴は触った人の感覚によっても変わってきますし、特徴に当てはまらないからと言ってがんではないという保証はありません。

自分で乳房に触って乳がんを探す方法があります。乳がんは自覚症状で発見される人が半数以上です。
乳がんをチェックする時のポイントは「いつもと違うものはないか」です。見た目・手触りの変化や違和感が気付くきっかけになります。

乳がんは以下の特徴を現すことがあります。

  • 乳房のしこり
  • 乳頭からの分泌
  • 乳房のへこみ
  • 乳頭のただれ
  • 乳房の皮膚の変色
  • 乳房の皮膚のガサつき
  • 脇のしこり
  • つっぱっているような感覚
  • 痛み

セルフチェックの手順に沿って説明します。

乳房をまんべんなく触ってチェックする前に、まずは乳房をしっかりと見ます。上から胸を見て観察するのでは乳房の下側が見えにくいので、鏡を使うと乳房の全体が見やすくなります。

次に乳房を触ります。全体をまんべんなく触ります。触る時の体勢は、立って触ったり座って触ったりするのではなく、仰向けに寝て触ります。仰向けになると乳房が均一に広がり、触れやすくなります。また背中の下に座布団やタオルを敷くと胸を張った姿勢になってさらに触りやすくなります。

乳首をつまんで分泌物が出てこないかを確認します。乳がんがあると本来は出てこない分泌物が出てくることがあります。

親指以外の指を使って乳房の外側も内側も圧迫しながら触っていきます。乳房がたるむ感じになると触りにくくなりますので、うまく反対の手も使いながらまんべんなく触ります。

セルフチェックの動作は何回かやってみるうちに慣れてきます。うまくできるか自信がなくてもまずはやってみてください。

乳房を触ったあとは脇の下に指を入れて、脇の奥にしこりがないかを確認します。
乳がんが進行するとリンパ節転移を起こします。リンパ節転移が起こるとリンパ節は大きく固くなります。
乳がんのリンパ節転移は脇のリンパ節にできやすいことがわかっています。脇のリンパ節を触ることはリンパ節転移を探す狙いがあります。

月経(生理)の周期によって乳房は変化します。月経のあとは女性ホルモンの影響を受けて乳腺が発達して乳房が張り、しこりが隠れやすくなります。月経が終わって数日したくらいの時期は胸の張りが治まってチェックしやすくなります。
セルフチェックは毎日やる必要はありません。乳がんは数日で急に大きくなることはないので、月に1回か2回で十分と考えられます。

授乳中は乳房が張っているため、授乳中に乳がんチェックをすることは簡単ではありません。乳房の奥まで触ることが難しくなります。
授乳中には乳がんではないのに乳房にしこりを感じることがあります。この現象は乳汁の分泌が盛んな時期にはたびたび起こります。授乳中にしこりを感じても、乳がんによるものではない場合が多いと言えます。しかし授乳中に乳がんが見つかることもないとは言えません。乳房に違和感があった場合は一度医療機関で診てもらうといいでしょう。

乳がんのチェックにはパートナーが協力することができます。
乳房をパートナーにくまなく調べられることに抵抗感のある人もいるでしょう。
自分で調べればいいと思われるなら、無理にパートナーに頼むことはありませんが、パートナーのチェックは自分自身よりも客観的です。また、ちょっとした見た目の変化やわずかな感触の変化は見逃してしまうことも少なくないと思われますが、自分以外の人とダブルチェックすると見逃しを少なくすることも期待できます。

乳房のしこりは乳がん以外でも生じます。乳房にしこりができる病気として以下のものがあります。

また、授乳中には特に異常がなくてもしこりを感じることがあります。乳房にしこりがある人はみな乳がんがあるというわけではありません。しこりを感じても乳がんである人は一部だけです。

詳しくは「乳がんには種類がある?似ているものとの違いは?」で説明しています。検査に行く目安として、しこりが消えない場合には受診したほうが良いと考えられます。

乳がんは乳房のしこりとして感じ取れる場合があります。
しかし、乳がんが乳房の中にできて間もない時には、しこりを感じないことがほとんどです。
乳がんは初期症状を感じることがほとんどありません。ある程度がんが成長してから症状が感じられるようになってきます。

乳がんでしこりを感じられないことはあります。

がんの状態によってはしこりができにくいこともありますし、がんができた位置によってはしこりが分かりにくいこともあります。また、初期の乳がんは多くの場合しこりを感じられないことにも注意が必要です。

乳がんの症状は乳房のしこり以外にもあります。症状の例を挙げます。

  • 脇の下のしこり
  • 乳房の皮膚の変色
  • 乳房の皮膚のただれ
  • 乳房の皮膚の凹みや突出
  • 乳頭からの分泌物

また乳がんがかなり進行すると骨の痛みや食欲低下や体重減少、全身衰弱などを起こすことがあります。
これらの症状を自覚した場合は、医療機関で一度検査をしてもらうことが望ましいです。たとえ乳がんではなかったとしても深刻な病気による症状の可能性が高いからです。