にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 212回の改訂 最終更新: 2024.11.07

乳がんのホルモン療法①:治療期間や効果は?

乳がんに対するホルモン療法は病理検査でホルモン受容体陽性と診断された人に対して行われます。手術前後にも、治療後の転移や再発が見つかった時にもホルモン療法を使う場合があります。

乳がんのホルモン療法を使うには、あらかじめ病理検査で効果を予測する必要があります。病理検査は体から取り出したがんの組織を直接調べる検査です。詳しくは「乳がんの手術とは?」で説明しています。
病理検査でホルモン療法に関係する検査項目は、ホルモン受容体(HR)です。
ホルモン受容体が陽性の時にだけホルモン療法を検討できます。ホルモン受容体が陰性の場合は、ホルモン療法は効果がないと考えられ行われることはありません。
ホルモン受容体が陽性でもホルモン療法ではなく抗がん剤が選択される場合があります。

  • 腋窩リンパ節転移が4個以上 
  • がん細胞の悪性度が高い
  • Ki67が高値である
  • ホルモン受容体は陽性だが数が少ない(その細胞の割合が10%以下) 


以上の項目に該当すれば抗がん剤治療のほうが効果的と考えられています。
ホルモン受容体が陽性の乳がんは、エストロゲンというホルモンががん細胞にあるホルモン受容体と結合することで、増殖が加速します。ホルモン療法では、エストロゲンとホルモン受容体が結合することを阻止することでがん細胞の増殖を抑えます。
エストロゲンはもともと体が常に作っているホルモンです。女性では閉経の前後でエストロゲンの作られ方が大きく変化します。

  • 閉経前:主に卵巣でエストロゲンが作られる
  • 閉経後:脂肪組織、肝臓、副腎でエストロゲンが作られる

閉経による変化に応じて、ホルモン療法も閉経前と閉経後で違う方法を使います。

閉経前のホルモン療法は、エストロゲンと乳がん細胞のホルモン受容体が結合するのを防ぐ薬(抗エストロゲン薬)が基本になります。これに加えて卵巣からエストロゲンが出るのを防ぐ薬(LH-RHアゴニスト)を併用することもあります。遠隔転移(乳房から離れた場所の転移)がある場合は、抗エストロゲン薬とLH-RHアゴニストを両方使って治療を開始します。
抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニストの作用・副作用などについて詳しくは、「乳がんで使うホルモン剤はどんな薬?」で解説しています。

閉経後には、卵巣からエストロゲンが出ることはほとんどありません。脂肪組織からエストロゲンが作り出されます。脂肪組織でエストロゲンを作るのはアロマターゼという酵素です。
閉経後はアロマターゼの働きを阻害することで体内のエストロゲン濃度が低下して再発を防ぐ効果が得られます。また閉経前と同様にエストロゲンとホルモン受容体が結合するのを阻害する抗エストロゲン薬も選択されることがあります。

  • アロマターゼ阻害薬
  • 抗エストロゲン薬

アロマターゼ阻害薬、抗エストロゲン薬にはいくつか種類があります。詳しくは「乳がんで使うホルモン剤はどんな薬?」で解説しています。

乳がんの手術後に再発を予防するためのホルモン療法は、5-10年間行うことが推奨されています。ホルモン療法(タモキシフェン)によって再発が予防できることを示した研究を紹介します。

手術後に抗エストロゲン薬を内服した場合の効果

手術後の治療  タモキシフェンを手術後5年内服 手術後の治療なし
再発率 5年 16.4% 28.7%
再発率 10年   25.9% 40.1%
再発率 15年 33.0% 46.2%
乳がんによる死亡 5年 8.6% 11.9%
乳がんによる死亡 10年 17.9% 25.1%
乳がんによる死亡 15年 23.9% 33.1%

Lancet.2011.378;771-84

この研究は、乳がんの手術を行ったあとにタモキシフェンを5年間内服する人と、乳がんの手術後に経過観察を行う人を比較した研究です。ホルモン受容体の中でもエストロゲン受容体陽性の人を対象とした場合、タモキシフェンを内服した方が、再発予防、死亡率を下げる結果が導かれました。
その後この研究以外にもタモキシフェンを10年内服する研究や抗エストロゲン薬ではなくアロマターゼ阻害薬を内服する研究などが行われました。多くの研究で乳がんの再発予防効果などが確認されています。
ホルモン療法の種類や期間については、再発の危険性などを考慮して判断されます。ホルモン療法は長期に及びます。長期に及ぶほど子宮内膜がん子宮体がん)や血栓症骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を発症する危険性が上昇することが知られています。各薬剤について副作用などを理解して付き合っていくことが重要です。

乳がんが再発・転移した場合には、薬物療法が治療の主体になります。薬物療法は、大きく分けて抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬の3種類です。
ホルモン療法が適している人は、ホルモン受容体が陽性でホルモン療法の効果が期待でき、転移の状況が軽症の人です。ホルモン療法は閉経しているかどうかで方法が異なります。

閉経前のホルモン療法は、エストロゲンと乳がん細胞のホルモン受容体が結合するのを防ぐ薬(抗エストロゲン薬)が基本になります。これに加えて卵巣からエストロゲンが出るのを防ぐ薬(LH-RHアゴニスト)を併用することもあります。遠隔転移(乳房から離れた場所の転移)がある場合は、抗エストロゲン薬とLH-RHアゴニストを両方使って治療を開始します。

  • 1次治療
    • 抗エストロゲン薬(タモキシフェン)+LH-RHアゴニスト
  • 2次治療
    • アロマターゼ阻害薬+LH-RHアゴニスト

1次治療は最初に行う治療、2次治療は1次治療で効果が不十分だったか効果が弱くなってきたときに行う治療という意味です。
抗エストロゲン薬の効果がなくなった時には、アロマターゼ阻害薬に変更して治療を続けます。この併用は、保険適用外となるため、主治医との相談が必要です。また2次治療のホルモン療法でも効果がない場合は、抗がん剤治療に変更して治療することが多くなります。

閉経後には脂肪組織でエストロゲンが作り出されます。脂肪組織でエストロゲンを作るのはアロマターゼという酵素です。閉経後はアロマターゼの働きを阻害することでエストロゲンの量が減少します。アロマターゼ阻害薬の効果がなくなってきたときは、ホルモン受容体が結合するのを阻害する抗エストロゲン薬に変更して治療を行います。

  • 1次治療
    • アロマターゼ阻害薬(非ステロイド性)
  • 2次治療
    • アロマターゼ阻害薬(ステロイド性)
    • 抗エストロゲン薬(フルベストラント、タモキシフェン)
    • メドロキシプロゲステロン(黄体ホルモン)
    • アロマターゼ阻害薬(ステロイド性)+エベロリムス(分子標的薬)

エベロリムスは分子標的薬に分類される薬ですが、乳がんの治療に使われるほかの分子標的薬とは種類が違います。
2次治療まで行っても効果がなかった場合には、治療を抗がん剤に変更します。