にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 259回の改訂 最終更新: 2026.02.12

乳がんのホルモン療法①:治療期間や効果は?

乳がんに対するホルモン療法は病理検査でホルモン受容体陽性と診断された人に対して行われます。手術前後にも、治療後の転移や再発が見つかった時にもホルモン療法を使う場合があります。

乳がんのホルモン療法を使うには、あらかじめ病理検査で効果を予測する必要があります。病理検査は体から取り出したがんの組織を直接調べる検査です。詳しくは「乳がんの手術とは?」で説明しています。
病理検査でホルモン療法に関係する検査項目は、ホルモン受容体(HR)です。
ホルモン受容体が陽性の時にホルモン療を検討できます。ホルモン受容体が陰性の場合は、ホルモン療法は効果がないと考えられるので、原則として行われることはありません。ホルモン受容体が陽性でも、下記の条件に当てはまる人には、ホルモン療法ではなく抗がん剤が追加される場合があります。

  • 腋窩リンパ節転移が4個以上 
  • がん細胞の悪性度が高い
  • Ki67が高値である
  • ホルモン受容体は陽性だが割合が少ない

ホルモン受容体が陽性の乳がんは、エストロゲンというホルモンががん細胞にあるホルモン受容体と結合することで、がん細胞の増殖が加速します。ホルモン療法では、エストロゲンとホルモン受容体が結合することを阻止することでがん細胞の増殖を抑えます。
エストロゲンはもともと体が常に作っているホルモンですが、女性では閉経の前後でエストロゲンの作られる場所が変化します。

  • 閉経前:主に卵巣でエストロゲンが作られる
  • 閉経後:脂肪組織、副腎でエストロゲンが作られる

閉経による変化に応じて、ホルモン療法も閉経前と閉経後で違う方法を使います。

閉経前のホルモン療法は、エストロゲンと乳がん細胞のホルモン受容体が結合するのを防ぐ薬(抗エストロゲン薬)が基本になります。これに加えて卵巣からエストロゲンが出るのを防ぐ薬(LH-RHアゴニスト)を併用することもあります。遠隔転移(乳房から離れた場所の転移)がある場合は、抗エストロゲン薬とLH-RHアゴニストを両方使って治療することが多いです。
抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニストの作用・副作用などについて詳しくは、「乳がんで使うホルモン剤はどんな薬?」で解説しています。

閉経後には、卵巣からエストロゲンが出ることはほとんどありません。脂肪組織からエストロゲンが作り出されます。脂肪組織でエストロゲンを作るのはアロマターゼという酵素です。そのため、閉経後はアロマターゼの働きを阻害すると、体内のエストロゲン濃度が低下し、乳がんの再発予防の効果が得られます。また閉経前と同様にエストロゲンとホルモン受容体が結合するのを阻害する抗エストロゲン薬も選択されることがあります。

  • アロマターゼ阻害薬
  • 抗エストロゲン薬

アロマターゼ阻害薬、抗エストロゲン薬にはいくつか種類があります。詳しくは「乳がんで使うホルモン剤はどんな薬?」で解説しています。

乳がんの手術後に再発を予防するためのホルモン療法は、5-10年間行うことが推奨されています。ホルモン療法(タモキシフェン)によって再発が予防できることを示した研究を紹介します。

手術後に抗エストロゲン薬を内服した場合の効果

手術後の治療  タモキシフェンを手術後5年内服 手術後の治療なし
再発率 5年 16.4% 28.7%
再発率 10年   25.9% 40.1%
再発率 15年 33.0% 46.2%
乳がんによる死亡 5年 8.6% 11.9%
乳がんによる死亡 10年 17.9% 25.1%
乳がんによる死亡 15年 23.9% 33.1%

Lancet.2011.378;771-84

この研究は、乳がんの手術を行ったあとにタモキシフェンを5年間内服する人と、乳がんの手術後に経過観察を行う人を比較した研究です。ホルモン受容体の中でもエストロゲン受容体陽性の人を対象とした場合、タモキシフェンを内服した方が、再発予防、死亡率を下げる結果が導かれました。
その後この研究以外にもタモキシフェンを10年内服する研究や抗エストロゲン薬ではなくアロマターゼ阻害薬を内服する研究などが行われました。多くの研究で乳がんの再発予防効果などが確認されています。
ホルモン療法の種類や期間は、再発の危険性や体の状態などを考慮して判断されます。ホルモン療法は長期に及ぶことが多いため、副作用について理解して付き合っていくことが重要です。副作用は薬によって異なり、タモキシフェンでは子宮体がん血栓症、アロマターゼ阻害薬では骨粗鬆症(骨密度低下)などに注意が必要です。

乳がんが再発・転移した場合には、薬物療法が治療の主体になります。薬物療法は、大きく分けて抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬の3種類です。
ホルモン療法が適しているのは、ホルモン療法の効果が期待でき、病状の進行が比較的ゆっくりで、早く効く治療を急ぐ必要がない人です。ホルモン療法は閉経しているかどうかで方法が異なります。

閉経前の再発・転移乳がんでホルモン受容体が陽性の場合、治療の基本は「卵巣からのエストロゲン分泌を抑える治療(LH-RHアゴニストなどによる卵巣機能抑制)」を行い、その上でホルモン療法を組み合わせることです。
具体的には、受容体をブロックする薬(タモキシフェンなど)や、アロマターゼ阻害薬、(場合によっては)受容体を分解する薬などが使われます。
病状に応じて、ホルモン療法に分子標的薬(例:CDK4/6阻害薬など)を追加して効果を高める治療が選ばれることもあります。
1つの治療で効果が弱くなってきた場合は、薬の組み合わせを変更して治療を続けます。薬剤ごとに適応や保険の条件が異なることがあるため、主治医と相談しながら選択します。

閉経後には、卵巣からエストロゲンが作られることはほとんどありません。代わりに、脂肪組織などでエストロゲンが作られます。脂肪組織でエストロゲンを作るときに働くのが、アロマターゼという酵素です。

閉経後のホルモン療法では、アロマターゼの働きを阻害して体内のエストロゲン量を減らすことで、がんの増殖を抑える効果が期待できます。まずはアロマターゼ阻害薬が基本になりますが、治療を続けるうちに効果が弱くなることがあります。その場合は、作用の異なる別のホルモン療法へ切り替えて治療を続けたり、ホルモン療法に分子標的薬を併用することもあります。それでも病気のコントロールが難しいときには、ホルモン療法から抗がん剤治療への切り替えが検討されます。
ホルモン療法の考え方としては「効くものを長く続ける」ことが基本で、効果と副作用のバランスを見ながら段階的に選択肢を切り替えていきます。