肺塞栓症とは:症状、原因、検査、治療、予防など
肺塞栓症は、心臓から肺に血液を送り出す血管に
目次
1. 肺塞栓症(肺血栓塞栓症)とはどんな病気か
肺塞栓症という病気を理解するためには、まず「深部静脈血栓症」という病気を理解する必要があります。人間の血管には、心臓から送り出される血液が流れる「動脈」と、心臓に戻る血液が流れる「静脈」があります。手足の静脈には、皮膚のすぐ下を走る「表在静脈」と、より深いところを走る「深部静脈」があります。この深部静脈に血の塊(血栓)ができる病気を「深部静脈血栓症(DVT)」と呼びます。
深部静脈にできた血栓は、静脈の流れに乗って心臓まで来てしまうことがあります。心臓に流れ着いた血栓は次に肺へと送り出されます。しかし、肺の中を走る血管はとても細いため、血栓は心臓から肺へと向かう血管に詰まってしまいます。この状態を「肺塞栓症」と呼びます。「肺血栓

深部静脈血栓症(DVT)との関係とは
上で説明した通り、深部静脈に血栓ができてしまう病気を「深部静脈血栓症」と呼びます。英語で「Deep Vein Thrombosis(深部静脈血栓症)」というので、しばしば「DVT(ディーブイティー)」と略して呼ばれます。DVTは腕などにできることもまれにありますが、多くは脚や骨盤内など下半身の静脈内にできます。
肺塞栓症の多くは、下半身の深部静脈にできた血栓が心臓・肺に流れてきて詰まってしまうことが原因です。したがってDVTは肺塞栓症に至る前段階であると言えます。また肺塞栓症では、心臓や肺などの重要な臓器の働きに問題が生じて突然死の原因となることもあるため、DVT単独よりもDVTに肺塞栓症を
エコノミークラス症候群との関係とは
「エコノミークラス症候群」は、航空機の利用にともなって生じたDVTや肺塞栓症を指す用語です。飛行機に乗っている間はDVTや肺塞栓症を起こしやすくなります。これは、長時間にわたり同じ姿勢でいること、脱水状態になりがちなことなどで血栓ができやすくなるためです。必ずしもエコノミークラスでなくても、ビジネスクラスやファーストクラスでも同じ現象が起こりえます。また、飛行機に限らず休みなしに長時間車に乗っているようなケースでもDVTや肺塞栓症は起こりやすくなります。日本では地震災害が多く、震災が起こると車中泊をする人が増えるため、DVTや肺塞栓症の患者さんが多くなることが知られています。エコノミークラス症候群が心配されるような状況では、こまめに身体を動かすこと、必要な水分を摂取することが重要です。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)との関係とは
肺塞栓症によって心臓から肺へと送り出される血管に詰まってしまった血栓は治療によって、あるいは自然に溶けていきます。しかし、うまく溶けずに古くなった血栓(器質化血栓)が血管の内側にへばりついて固まることで、血管が狭くなったり詰まったままになることがあります。この状態が長期的に続くと、その結果、その血管で血圧が上昇してしまいます。この状態を「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」と呼びます。英語で「Chronic ThromboEmbolic Pulmonary Hypertension」というので、頭文字をとって「
2. 肺塞栓症の症状について
肺塞栓症では心臓から肺に流れる血管に血栓が詰まることで、以下のような症状がみられます。
【肺塞栓症の主な症状】
- 呼吸が苦しい (出ることが特に多い)
- 胸の痛み (出ることが多い)
- めまい、
失神 (出ることもある) - 冷汗 (出ることもある)
動悸 (出ることもある)- 発熱 (出ることもある)
- 咳 (出ることがまれにある)
血痰 (出ることがまれにある) など
上記のような症状が強く出ている人は肺塞栓症を含めた重大な病気である可能性があるため、直ちに医療機関を受診してください。肺塞栓症を専門とする診療科は主に循環器内科や心臓血管外科ですが、診断や初期対応については救急科、一般内科、呼吸器内科などでも可能な場合があります。肺塞栓症では専門的な治療が必要になるため、比較的大規模な医療機関で治療されることが一般的です。
なお、肺塞栓症は基本的に深部静脈血栓症(DVT)から発症します。そのため、肺塞栓症の症状に先行して、あるいは同時に以下のようなDVTの症状が見られることもあります。
【DVTの主な症状】
- 脚の
むくみ - 脚の痛み
- 皮膚が赤黒く変色する
- こむら返り
- 脚が重だるい
- 脚の皮膚の痒み など
肺塞栓症を起こすようなDVTがある人では、上記のような症状が膝下ではなく膝上(太もも)で見られることが多いです。また、静脈の流れ方の関係で、DVTは右脚よりも左脚にできやすいことが知られています。両側の脚で同時にDVTを発症することはあまり多くありません。
3. 肺塞栓症の原因、メカニズム、リスク要因について
静脈に血栓ができる要因としては、以下の3つが知られています。
【血栓ができる三大要因】
- 血管の内側の壁に傷がある
- 血液が固まりやすくなっている
- 血液の流れが滞っている
上記のような状態を引き起こしてDVTや肺塞栓症を発症しやすくなるリスクとして、具体的には以下のようなことが分かっています。
【DVTや肺塞栓症を発症しやすくなる主な状態】
〈静脈の内側の壁に傷がある状態〉
- 骨折などの大怪我や手術の後
- 血管の中に治療用のカテーテルが挿入された状態
- 血管炎や
膠原病 など血管にダメージが出る病気 - 喫煙 など
〈血液が固まりやすくなっている状態〉
- 体内に
悪性腫瘍 がある場合 - 妊娠中や出産後
- 骨折などの大怪我や大火傷、手術の後
- ピルや
ステロイド などの薬を内服中 - 何らかの
感染症 で炎症 がある場合 - ネフローゼ症候群
- 血球が異常に増加する血液の病気
- 先天的に血液が固まりやすい病気(プロテインC欠損症、プロテインS欠損症など)
- 脱水状態 など
〈血液の流れが滞っている状態〉
- 長時間動いていない、寝たきり、
麻痺 がある、などの状態 - 肥満
- 妊娠中
- 心臓や肺の病気
- 高齢者 など
上記のように、多くの要因でDVTや肺塞栓症を発症しうることが分かっています。上記で当てはまるものが多い人ほど、血栓の予防に留意した生活が望ましいと言えます。また、何かの症状で医療機関を受診した際に、血栓に関連した症状を疑われて検査が必要になることが多くなります。
4. 肺塞栓症の検査・診断について
まずは
【肺塞栓症の可能性が考慮された場合の主な検査】
- 血液検査(Dダイマーなど)
心電図検査 胸部X線 (レントゲン )検査心臓超音波 (エコー )検査造影 CT検査 など
どれも有用な検査なのですが、Dダイマー検査や造影CT検査以外の上記の検査は、肺塞栓症を検出する
このような問題があるため、肺塞栓症が疑われる症状や、血栓が出来やすくなる背景がある人は検査前にお医者さんにしっかりと伝える必要があります。逆にお医者さんにとっては、検査前から肺塞栓症の可能性を考慮して検査を組まないと診断しにくいため、比較的見逃しやすい注意すべき病気とも言えます。
以下では、それぞれの検査について概要を説明します。
血液検査(Dダイマーなど)
血液検査ではさまざまな項目がチェックされます。その中で、血栓があるかどうかを判断するために重要な項目として「Dダイマー」があります。Dダイマーは肺塞栓症以外のさまざまな状況で異常値を示すため、「Dダイマーが異常値なので肺塞栓症」とは言えません。しかし、DVTや肺塞栓症などの血栓が体内にある人では、基本的にDダイマーが異常値を示します。つまり、「Dダイマーが正常範囲内なので肺塞栓症ではないようだ」と考えることはできます。したがって、基本的にはDダイマーが異常値の人のみ、肺塞栓症を見つけるためのより詳しい検査、つまり造影CT検査などへと進んでいきます。ただしDダイマーが正常範囲内でも、「他の状況証拠がいかにも肺塞栓症らしい」という人では、肺塞栓症の可能性を血液検査だけでは否定しきれず、造影CT検査が必要となりえます。
なお、血液検査は血栓が出来やすくなる背景の有無を調べたり、肺塞栓症の重症度を判断するためにも利用されます。また、肺塞栓症の影響で体内の酸素が不足している可能性が考慮される人などでは、脚の付け根にある動脈から採血されることもあります。これは
心電図検査
心電図検査は健康診断でも行われるおなじみの検査です。肺塞栓症では脈が速くなったり、血栓が詰まることによる心臓の負担がさまざまな形で
胸部X線(レントゲン)検査
胸部X線(レントゲン)検査も健康診断で行われるおなじみの検査です。肺塞栓症では心臓が大きく見えたり、心臓から肺に向かう血管が太く見えたり、肺そのものの見た目が変化することがあります。しかしやはり「この
心臓超音波(エコー)検査
心臓超音波(エコー)検査は、胸の上からゼリーをつけたプローブ(探触子)を当てて、心臓の動きをリアルタイムに観察できる検査です。専門の検査技師さん、あるいは循環器内科、心臓外科、救急科、麻酔科などのお医者さんによって行われることが一般的です。実際に詰まっている血栓が観察できる検査ではないので、肺塞栓症を診断するための精度は高くありません。しかし、血栓が詰まることで心臓が負荷を受けている様子を観察できたり、心筋梗塞など他の心臓病を見つけることにつながる検査ではあります。そのため、
造影CT検査
造影CT検査は実際に詰まっている血栓を観察することができるため、肺塞栓症を確認するために最も有用な検査と言えます。また、脚や骨盤内の血栓(DVT)まで同時にチェックできる点でも便利です。一方で、造影CT検査にも以下の注意点があります。
【造影CT検査の注意点】
- 放射線被曝があるので、妊娠中などは特に注意が必要である
- 撮影前に造影剤の注射が必要であり、
アレルギー を起こすことがある - 腎臓の機能が低下している人や喘息の人には、造影剤を使用できないことがある など
このような注意点はありますが、血栓の存在を確認して肺塞栓症の診断が確定されるうえで造影CT検査はとても大事な検査です。したがって、他の検査から肺塞栓症が疑われて、造影CT検査が受けられる人には基本的に造影CT検査が行われます。
5. 肺塞栓症の治療について
肺塞栓症治療の中心は、
以下では抗凝固療法とそれ以外の治療法について説明していきます。
抗凝固療法
肺塞栓症治療の主役となる抗凝固薬には以下のようなものがあります。
【肺塞栓症治療に使われる抗凝固薬】
- ヘパリン :注射薬
- フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ®):注射薬
- ワルファリン:
内服薬 - リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®):内服薬
- アピキサバン(商品名:エリキュース®):内服薬
- エドキサバン(商品名:リクシアナ®):内服薬
状態に合わせて、これらを3ヶ月ほど使用されることが多いです。ただし、血栓ができてしまった原因がはっきりしない人や、原因の解消が難しい人では3か月以上の抗凝固治療が検討されます。
血栓溶解療法
上記で説明の通り、肺塞栓症治療の主役は抗凝固薬です。しかし抗凝固薬は血液をサラサラにしてさらなる血栓が作られないようにするだけで、既にできてしまった血栓をすぐに溶かす作用はありません。抗凝固薬を使用して血栓が次第に溶けていくのは、自身の血液中に含まれる成分が働いているためなのです。そこで、既にできた血栓を速やかに溶かしてくれる「組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)」のいう系統の薬が使われることがあります。肺塞栓症治療で使われるのは、具体的にはモンテプラーゼ(商品名:クリアクター®)という注射薬です。こうした薬で治療する方法は「血栓溶解療法」と呼ばれます。ところが血栓溶解療法は強力な治療なので、血栓を溶かす一方で出血が止まらなくなる問題が心配されます。したがって、肺塞栓症によって全身の血液がうまく循環せず命の危険が差し迫っているような重症の人でのみ血栓溶解療法が検討されます。
カテーテル治療、外科治療
上で説明の通り、肺塞栓症治療の主役は抗凝固療法であり、重症の人には血栓溶解療法が検討されます。しかし、これらの治療法が効かない、あるいは出血の危険が大きくてできない人もいます。そこで、
下大静脈フィルター
下大静脈は、脚や骨盤内を流れる静脈が合流して心臓へと還っていく太い血管です。お腹から胸にかけて、
この治療は肺塞栓症の人全員に行われるわけではありません。肺塞栓症は予防されますが、血栓自体はむしろできやすくなる、フィルターが動いてしまったり破損しうる、下大静脈が破れてしまう、などのトラブルも起こりうるからです。したがって、抗凝固療法をしっかり受けられる人では、下大静脈フィルターが使われるケースは多くありません。例えば脳出血を合併していて抗凝固薬を使用するのが危険な人や、抗凝固療法をしていても血栓が大きくなってくる人などで下静脈フィルターによる治療が考慮されます。
6. 肺塞栓症の予防について
エコノミークラス症候群をはじめとして、DVTや肺塞栓症は比較的身近な病気であると言えます。もともと血栓が出来やすくなる病気がある人は特に注意が必要です。また、ピルを飲んでいる人や妊娠している人、タバコを吸う人などでは、他の病気がない若い人でも突然発症することがあるため、やはり注意が必要です。
DVTや肺塞栓症を予防するために有効と考えられる対策として、以下のようなものが挙げられます。
【DVTや肺塞栓症予防のために心がけるとよいこと】
- デスクワークや乗り物での移動などで数時間にわたって動かない場合には、軽い体操やストレッチ運動を行う
- こまめに水分を摂取する
- アルコールを控える
- 禁煙する
- ゆったりした服装をして、ベルトをきつく締めすぎない
- 眠るときは足をあげる
- かかとの上げ下ろし運動や、ふくらはぎのマッサージをする など
また、お医者さんからDVT予防のストッキング(弾性ストッキング)を使うように説明されている人は、指示通りに使用するようにしてください。
医療機関でのDVTや肺塞栓症予防法としては、抗凝固薬を予防的に使用したり、フットポンプという脚をマッサージしてくれる機械を用いたりします。これらの予防は、手術の後や、出産の前後などで、血栓ができやすいと判断された人に行われる方法です。
参考文献:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
(2020.7.29閲覧)