はいそくせんしょう(えこのみーくらすしょうこうぐん)
肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
手足の静脈に血栓ができ、血管の中を流れて肺の血管に詰まってしまう病気。呼吸が苦しくなったり、場合によっては命に関わる
21人の医師がチェック 213回の改訂 最終更新: 2020.07.29

肺塞栓症で知っておきたいこと:受診の目安、予防法、エコノミークラス症候群など

肺塞栓症は、心臓から肺に血液を送り出す血管に血の塊(血栓)が詰まってしまい、時に命に関わる病気です。ここでは肺塞栓症になりやすい人や予防法、受診する診療科など、知っておくと役立つことを解説していきます。

1. 肺塞栓症は危険な病気なのか

肺塞栓症では脚や骨盤内の血管の中で作られた血栓が、心臓から肺へと流れる大事な血管に詰まってしまいます。そのため、心臓や肺といった重要な臓器に不具合が生じ、命の危険があることも少なくありません。日本と欧米では医療事情や人種は異なるものの、欧米のデータでは肺塞栓症が治療されなければ30%の人が亡くなるというデータがあります。一方で、早期に十分な治療が行われた場合には2-8%まで死亡率を下げられるとされています。このように早期に適切な治療がされれば助かる可能性も高い病気ではありますが、日本国内で年間15,000人以上が肺塞栓症を発症しており、肺塞栓症で亡くなる人は決して珍しくありません。

肺塞栓症は命に関わることがある危険な病気です。したがって、肺塞栓症と診断された人は軽症でも基本的には入院が必要となります。入院期間はその人がもともと持っている病気や、肺塞栓症の重症度によって異なります。軽症の人では最短で1週間以内に退院できることもあります。

2. 肺塞栓症は何科を受診すればよいのか

肺塞栓症の治療は循環器内科が中心となって行われることが一般的です。ただし、診断や初期対応については救急科、血管外科、一般内科、呼吸器内科などでも可能な場合があります。肺塞栓症が心配な人は、緊急での血液検査や心電図検査胸部X線レントゲン)検査などができる設備の整った医療機関を受診することが望ましいです。また、本格的な検査や治療は緊急で造影CT検査、入院受入ができる程度の中〜大規模病院で行われます。

急激に呼吸が苦しくなった、胸が痛くなった、失神した、動悸や冷や汗が止まらない、といった症状がある人は急いで受診する必要があり、救急車での受診も検討してください。

肺塞栓症と紛らわしい病気は?

肺塞栓症では以下のような症状がよく見られます。

【肺塞栓症の主な症状】

  • 呼吸が苦しい (出ることが特に多い)
  • 胸の痛み (出ることが多い)
  • めまい、失神 (出ることもある)
  • 冷汗 (出ることもある)
  • 動悸 (出ることもある)
  • 発熱 (出ることもある)
  • 咳 (出ることがまれにある)
  • 血痰 (出ることがまれにある) など

こうした症状が見られる病気は肺塞栓症以外にも数多くあります。以下に列挙します。

【肺塞栓症と紛らわしいことがある病気の例と主な専門診療科】

このように数多くの病気が挙げられます。これらの病気を見つけるための検査をいきなり全て受けることは現実的でないため、まずはお医者さんから問診・診察を受けて、どの病気が疑われるのかを確認します。息苦しさや胸の痛みなどの症状が急に出てきた、脚や骨盤内に血栓ができていると思われる症状がある、といった人では特に肺塞栓症が疑われます。また、次の項目で記載してある「血栓ができやすくなる主な状態」にあてはまる人では、肺塞栓症である可能性が高まります。

3. 肺塞栓症は予防できるのか

まず、肺塞栓症のように全身から心臓・肺に還ってくる血管に血栓ができる原因としては、以下の3つが知られています。

【血栓ができる三大要因】

  • 血管の内側の壁に傷がある
  • 血液が固まりやすくなっている
  • 血液の流れが滞っている

上記のような状態を引き起こして、肺塞栓症などの血栓症を発症しやすくなるリスクとして具体的には以下のようなことが分かっています。

【血栓ができやすくなる主な状態】

〈静脈の内側の壁に傷がある状態〉

  • 骨折などの大怪我や手術の後
  • 血管の中に治療用のカテーテルが挿入された状態
  • 血管炎膠原病などの血管にダメージが出る病気
  • 喫煙 など

〈血液が固まりやすくなっている状態〉

  • 体内に悪性腫瘍がある場合
  • 妊娠中や出産後
  • 骨折などの大怪我や大火傷、手術の後
  • ピルやステロイドなどの薬を内服中
  • 何らかの感染症炎症がある場合
  • ネフローゼ症候群
  • 血球が異常に増加する血液の病気
  • 先天的に血液が固まりやすい病気(プロテインC欠損症プロテインS欠損症など)
  • 脱水状態 など

〈血液の流れが滞っている状態〉

  • 長時間動いていない、寝たきり、麻痺がある、などの状態
  • 肥満
  • 妊娠中
  • 心臓や肺の病気がある
  • 高齢者 など

こうした背景がある人や、過去に血栓ができたことのある人は、血栓ができにくいように気をつけて生活すると良いと考えられます。

予防法には何があるか

肺塞栓症などの血栓症を予防するために有効と考えられる対策としては、以下のようなものが挙げられます。

【肺塞栓症予防のために心がけるとよいこと】

  • デスクワークや乗り物での移動などで数時間にわたって動かない場合には、軽い体操やストレッチ運動を行う
  • こまめに水分を摂取する
  • アルコールを控える
  • 禁煙する
  • ゆったりした服装をして、ベルトをきつく締めすぎない
  • 眠るときは足をあげる
  • かかとの上げ下ろし運動や、ふくらはぎのマッサージをする など

また、お医者さんから脚の血栓予防用ストッキング(弾性ストッキング)を使うよう説明されている人は、指示通りに使用するようにしてください。

病院での予防法としては、弾性ストッキングやフットポンプという脚をマッサージしてくれる機械を用いたりします。予防的に血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)が使用されることもあります。これらの予防は、手術の後や、出産の前後などで、血栓ができやすいと判断された人に行われる方法です。

4. 肺塞栓症を妊娠中に発症した場合どうしたらよいのか

妊娠中は血栓ができやすくなることが分かっています。したがって、肺塞栓症などの血栓症を発症したことがある人や、血栓ができやすい背景のある人が妊娠した場合には予防的に抗凝固薬を使用することが検討されます。血栓症を発症したことがある、または肺塞栓症が心配な妊婦さんはまずは産婦人科の担当医に相談してみてください。

実際に妊娠中に肺塞栓症を発症してしまった場合、基本的な治療方針は妊娠していない人と同様です。ただし、妊娠中に抗凝固薬を使用する場合には飲み薬を避けて、ヘパリンという注射薬の点滴または皮下注射が選択されることが一般的です。飲み薬の抗凝固薬は胎児への悪影響が懸念されているためです。

肺塞栓症は命に関わることもある病気なので、産婦人科のお医者さんだけではなく循環器内科をはじめとする他科との連携が不可欠です。そうした場合では、産婦人科の医療機関から、循環器内科も併設されているような総合病院にかかりつけの変更が必要になることがあります。緊急での転院が必要になることも少なくありません。

5. 肺塞栓症とエコノミークラス症候群は別の病気なのか

肺塞栓症は、脚や骨盤内などでできた血の塊(血栓)が流れてきて、心臓から肺に血液を送り出す血管で詰まってしまう病気です。このように脚や骨盤内などの血管に血栓ができてしまう病気は「深部静脈血栓症」と呼ばれます。つまり、肺塞栓症は深部静脈血栓症から起こるより深刻な状態ということになります。

エコノミークラス症候群は、航空機の利用にともなって生じた深部静脈血栓症や肺塞栓症を指す用語です。長時間にわたり同じ姿勢でいること、脱水状態になりがちなことなどで血栓ができやすくなるため、航空機利用中は血栓症を起こしやすくなります。必ずしもエコノミークラスに乗らなくても、ビジネスクラスやファーストクラスでも同じ現象が起こりえます。また、飛行機に限らず休みなしに長時間車に乗っているようなケースでも深部静脈血栓症や肺塞栓症は起こりやすくなります。日本では地震災害が多く、震災が起こると車中泊をする人が増えるため、血栓症の患者さんが多くなることが知られています。エコノミークラス症候群が心配されるような状況では、こまめに身体を動かすこと、必要な水分を摂取することが重要です。

6. 肺塞栓症治療にガイドラインはあるのか

ガイドラインとは、学会などが病気の診断や治療方針に関して、大まかな指針を示したものです。日本中どこの医療機関にかかっても一定水準以上の医療を受けられるように、学会などが今までの研究成果を分かりやすくまとめたガイドラインを作っているわけです。ガイドラインはその分野に精通した専門医が集まって、検討に検討を重ねて作ったものですから、多くのケースでガイドラインにしたがった治療はベストな選択となります。ただし、医療は患者さんごとの年齢、体力、合併症、価値観、地域や医療機関ごとの医療事情などによってベストな選択が変わってくるものですから、ガイドラインを外れた診療をすることが必ずしも悪いものとは言えません。

肺塞栓症については、日本循環器学会が中心になって作成された「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」があります。多くの医療関係者がこのガイドラインを参考にして肺塞栓症の診断や治療、予防に携わっています。

参考文献:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

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