はいそくせんしょう(えこのみーくらすしょうこうぐん)
肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
手足の静脈に血栓ができ、血管の中を流れて肺の血管に詰まってしまう病気。呼吸が苦しくなったり、場合によっては命に関わる
21人の医師がチェック 213回の改訂 最終更新: 2020.07.29

肺塞栓症の検査について:血液検査、超音波検査、造影CT検査など

肺塞栓症は、心臓から肺に血液を送り出す血管に血の塊(血栓)が詰まってしまう病気です。心臓や肺など重要な臓器に影響が及ぶため、命に関わることも少なくありません。肺塞栓症が疑われる人には血液検査、心電図検査胸部X線レントゲン)検査、心臓超音波エコー)検査、造影CT検査などがよく行われます。ここでは肺塞栓症の診断や治療方針決定のために行われる検査について説明します。

1. 身体診察、バイタルサインのチェック

受診のきっかけとなった症状や、持病などその他の背景から肺塞栓症の可能性が考えられた人には、まずは血圧測定などの簡単な検査が行われます。パルスオキシメータという指につける小型の機械で、脈拍数や酸素飽和度(体内の酸素が足りているかを測る)もチェックされます。これら血圧、脈拍数、酸素飽和度、意識状態などは「バイタルサイン」と呼ばれます。

バイタルサインに目立った異常がある人では急いで検査や治療を進める、あるいはより高度な医療機関への転院が必要になるため、真っ先にチェックされるわけです。バイタルサインのチェックは重症度を判定するうえでとても大事で、しかも簡単な検査なので、お医者さんの問診の前に行われることもあります。

また、肺塞栓症の大半は、脚の静脈で生じた血栓が心臓まで流れてきて詰まりを起こしたものです。そのため、お医者さんの診察では、胸の聴診など肺塞栓症に関連した部位だけではなく、血栓を生じた影響で脚が腫れたり変色していないか、なども確認されます。

肺塞栓症では脚に血栓の影響と考えられる腫れがあって、胸が痛くて苦しい、など典型的な症状がでることもよくありますが、一方で症状や見た目の変化に乏しい人もいます。特に血栓が小さい人では症状が目立たないことがあります。このように症状の乏しい肺塞栓症もあるため、「手術前の全身チェックでたまたま小さな肺塞栓症が見つかった」、「がんの治療中で血栓ができやすい状態なのでチェックしてみたら、症状はないが小さな肺塞栓症が見つかった」などという人もいます。

以下では問診や身体診察で肺塞栓症が疑われた人に行われる検査、あるいは手術の前に血栓の有無を調べるために行われる検査、などについて説明していきます。

2. 血液検査(Dダイマーなど)

血液検査ではさまざまな項目がチェックされます。その中で、血栓があるかどうかを判断するために重要な項目として「Dダイマー」があります。Dダイマーは肺塞栓症以外のさまざまな状況で異常値を示すため、「Dダイマーが異常値なので肺塞栓症」とは言えません。しかし、肺塞栓症などの血栓が体内にある人では、基本的にDダイマーが異常値を示します。つまり、「Dダイマーが正常範囲内なので肺塞栓症ではないようだ」と考えることはできます。したがって、基本的にはDダイマーが異常値の人のみ、肺塞栓症を見つけるためのより詳しい検査、つまり造影CT検査などへと進んでいきます。ただしDダイマーが正常範囲内でも、「他の状況証拠がいかにも肺塞栓症らしい」という人では、肺塞栓症の可能性を血液検査だけでは否定しきれず、造影CT検査が必要となりえます。

なお、血液検査は血栓が出来やすくなる背景の有無を調べたり、肺塞栓症の重症度を判断するためにも利用されます。心臓の機能が落ちていることが確認できるBNPやNT-proBNP、あるいは心臓のダメージを反映するトロポニンTやトロポニンIなどの項目も血液検査で調べられることが多いです。また、肺塞栓症の影響で体内の酸素が不足している可能性が考慮される人などでは、脚の付け根にある動脈から採血されることもあります。これは「動脈血ガス分析」と呼ばれ、救急医療の現場ではよく行われる検査です。

3. 心電図検査

心電図検査は健康診断でも行われるおなじみの検査です。肺塞栓症では脈が速くなったり、血栓が詰まることによる異常事態がさまざまな形で心電図に反映されます。しかし、「この心電図異常は肺塞栓症によるものだ」と断言できるほどの精度はなく、肺塞栓症でも目立った異常が見られないこともあります。つまり、肺塞栓症の診断において心電図検査が特に有用というわけではありません。しかし、肺塞栓症が疑われる人には基本的に心電図検査が行われます。これは「胸が痛い」など肺塞栓症の症状と似たような症状が出る、心筋梗塞狭心症不整脈など他の心臓病の診断に心電図検査が役立つからです。このように、他の心臓の病気ではなさそうという確認の面もあって、心電図検査は肺塞栓症が疑われる人に行われます。

4. 胸部X線(レントゲン)検査

胸部X線(レントゲン)検査も健康診断で行われるおなじみの検査です。肺塞栓症では心臓が大きく見えたり、心臓から肺に向かう血管が太く見えたり、肺そのものの見た目が変化することがあります。しかしやはり「このX線異常は肺塞栓症によるものだ」と断言できるほどの精度はなく、肺塞栓症でも目立った異常が見られないことも多いです。つまり、肺塞栓症の診断において胸部X線検査が特に役立つわけではありません。しかし、肺塞栓症が疑われる人には基本的に胸部X線検査が行われます。これは「呼吸が苦しい」など肺塞栓症の症状と似たような症状が出る、肺炎気胸など他の肺の病気をチェックするのに胸部X線検査が役立つからです。このように、他の肺の病気ではなさそうという確認の面もあって、胸部X線検査は肺塞栓症が疑われる人に行われます。

5. 心臓超音波(エコー)検査

心臓超音波(エコー)検査は、胸の上からゼリーをつけたプローブ(探触子)を当てて、心臓の動きをリアルタイムに観察できる検査です。専門の検査技師さん、あるいは循環器内科、心臓外科、救急科、麻酔科などのお医者さんによって行われることが一般的です。実際に詰まっている血栓が観察できる検査ではないので、肺塞栓症を診断するための精度は高くありません。しかし、血栓が詰まることで心臓が負荷を受けている様子を観察できたり、心筋梗塞など他の心臓病を見つけることにつながる検査ではあります。そのため、心臓超音波検査をすぐに行うことのできる体制が整った医療機関ではしばしば行われる検査です。

6. 下肢超音波(エコー)検査

下肢超音波(エコー)検査は心臓超音波検査と同様に、検査技師さんやお医者さんが皮膚の上から超音波の出る機械を当てて行う検査です。脚の血管を丁寧に観察して血栓の有無を判定していきます。下肢の超音波検査は直接的には肺塞栓症に関する検査ではありません。しかし、肺塞栓症は脚や骨盤内などにできた血栓が心臓・肺へと流れてきて発症する病気なので、下半身にどれくらいの血栓があるか把握することでその後の治療方針の参考とすることができます。

次に説明の造影CT検査と比較して、下肢超音波検査のメリットとデメリットを考えてみます。まず超音波検査では放射線を使わないので被曝の心配がない点、造影CT検査と違って検査前の注射が必要ない点などで、超音波検査は身体に負担の少ない検査方法と言えます。一方で、造影CT検査と比較すると精度が劣る点、担当者によって検査の質に差が出やすい点などは欠点かもしれません。また、造影CT検査では胸部から足の先までまとめて検査することができますが、超音波検査では機械を当てたところしか血栓の有無がわかりません。

【下肢超音波検査と造影CT検査の比較】

  下肢超音波検査 造影CT検査
メリット
  • 被曝がなく、身体への負担が少ない
  • 広範囲をまとめて検査できる
  • 精度が高い
デメリット
  • CT検査に比べ精度が劣る
  • 一度に観察できる範囲が狭い
  • 放射線を使うので被曝がある
  • 造影剤の注射が必要

したがって、肺塞栓症で胸にある血栓を確認したい場合には造影CT検査が、脚にある血栓を確認したい場合には造影CT検査または下肢超音波検査が行われます。

7. 造影CT検査

造影CT検査は実際に詰まっている血栓を観察することができるため、肺塞栓症を確認するために最も有用な検査と言えます。また、脚や骨盤内の血管にある血栓まで同時にチェックできる点でも優れています。一方で、造影CT検査にも以下の注意点があります。

【造影CT検査の注意点】

  • 放射線被曝があるので、妊娠中などは特に注意が必要である
  • 撮影前に造影剤の注射が必要であり、アレルギーを起こすことがある
  • 腎臓の機能が悪い人や喘息の人には、造影剤を使用できないことがある など

このような注意点はありますが、血栓の存在を確認して肺塞栓症の診断が確定されるうえで造影CT検査はとても大事な検査です。したがって、他の検査から肺塞栓症が疑われて、造影CT検査が受けられる人には基本的に造影CT検査が行われます。

8. MRI検査

MRI検査は強力な磁石でできた筒の中に入り、磁気の力を利用して臓器や血管を撮影する方法です。造影CT検査と比較すると放射線被曝の心配がない点、造影剤を使わなくても血栓を検出できる点などで優れています。MRIの検査機器は近年かなり広く普及しているので、受けたことがある人も多いかもしれません。

MRI検査は身体への負担が少ないのは良い点なのですが、造影CT検査と比較すると血栓を検出する精度が低いため、肺塞栓症の診断ではあまり行われません。また、造影CT検査と比較すると、撮影のために息を止める時間が長い点、検査に時間がかかり緊急検査には向いていない点などもデメリットです。

9. 肺シンチグラフィ

シンチグラフィは放射性同位元素(微量の放射線を放出する物質)を利用して行う検査です。肺の中の血流や空気の入り具合を画像で確認することができます。肺塞栓症では空気の入り具合は健康な人と変わらないものの、血栓が詰まった部位の血流が悪くなっているのが確認されます。

造影剤の副作用の問題で造影CT検査ができない人などで、血栓の存在を確認するために肺シンチグラフィが行われることがあります。また、放射線は使用するものの造影CT検査よりも被曝量が少ないため、妊婦さんや子どもで行われることもある検査です。しかし、検査に対応している医療機関はあまり多くなく、比較的珍しい検査なので、基本的には緊急での検査には対応できません。また、造影CT検査のほうが肺塞栓症の診断精度が高いので、行われることは多くありません。

10. 肺動脈造影検査

肺動脈造影検査はカテーテルという細い管を血管内に入れて行う検査です。カテーテルは脚の付け根、首、腕などの静脈から入れ、肺動脈などの血栓があると想定される部位まで届かせます。ここから造影剤を流し込むことで1-2mm程度の小さい血栓まで検出でき、精度の高い検査です。

しかし、造影CT検査と同様に、アレルギーや腎臓の機能の問題などで造影剤が使えない人ではできない検査となります。また、血管の中に管を通すために皮膚を針で刺したりもするので、身体に負担のかかる検査と言えます。したがって診断だけのために肺動脈造影検査が行われることは珍しく、基本的にはカテーテルを用いた治療を同時に行う場合に、治療に役立つ情報を得るためについでに行われることが多いです。

参考文献:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

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