とうにょうびょう
糖尿病
血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高値となる病気。長期に放置すると眼、神経、腎臓など多くの臓器に悪影響が出る
36人の医師がチェック 308回の改訂 最終更新: 2023.10.11

糖尿病の合併症:合併症の症状、原因、治療など

糖尿病の怖さは深刻な合併症の数々にあります。三大合併症として知られる糖尿病網膜症・糖尿病腎症・糖尿病神経障害に加え、糖尿病ケトアシドーシスなど突然起こるもの、致命的なものがあります。合併症予防のためには糖尿病の治療が重要です。

1. 糖尿病の合併症には急なものとゆっくり進むものがある

糖尿病は数多くの合併症を起こします。合併症とはある病気が原因で出現する他の病気のことです。

糖尿病は体内の物質のバランスを崩します。また、免疫を弱くします。このことによって急に悪くなる合併症(急性の合併症)が起こります。

さらに、糖尿病が何年も続くと全身で動脈硬化が進み、血管が細く硬くなります。すると全身のあちこちの臓器で血流が悪くなり、臓器の正常な機能が障害されてしまいます。このように時間をかけて悪くなる合併症(慢性の合併症)も深刻です。

糖尿病の代表的な急性合併症と慢性合併症として下記のものがあります。

合併症を予防するために何ができるのか、症状や対策について説明します。

2. 糖尿病の急性合併症:糖尿病ケトアシドーシス

糖尿病ケトアシドーシス糖尿病性ケトアシドーシス)は、急に始まって1日程度で進行する危険な合併症です。急激な口の渇きやだるさにはじまり、進行すると意識がもうろうとして昏睡してしまうなどの症状(意識障害)が出現します。緊急の治療をしなければ致命的な不整脈を起こす恐れがあります。

糖尿病ケトアシドーシスの症状は?

  • 口の渇き
  • 多飲
  • 多尿
  • 倦怠感
  • 意識もうろう
  • 腹痛
  • 吐き気
  • 過呼吸
  • 頻脈

糖尿病の治療中には、以上の症状に気を付けてください。

糖尿病ケトアシドーシスの原因は?

血液中に「ケトン体」という物質がたまることが原因です。

血糖値が高い状態が続くと、身体はむしろ血糖をエネルギー源として利用しにくくなります。その結果、脂肪を分解してエネルギー源とするようになります。脂肪が分解されるだけならよいのですが、分解された脂肪からはケトン体という物質ができます。ケトン体は酸性の物質なので、大量にケトン体がたまると血液が酸性になってしまいます。これが糖尿病ケトアシドーシスです。

糖尿病ケトアシドーシスを引き起こす原因には次のものがあります。

  • 糖質(炭水化物)の過剰摂取
  • 糖尿病治療の急な中止
  • アルコールの過剰摂取
  • 感染

糖尿病の治療中は暴飲暴食を避け、薬の用法・用量を守り、体調が悪い時には糖尿病に特有の危険にも注意して、万一の事態にも対応できるようにしてください。気をつけるべき状況のいち例として「ペットボトル症候群」について次に説明します。

糖尿病ケトアシドーシスを引き起こす「ペットボトル症候群」とは?

ペットボトル症候群とは、糖尿病の人が清涼飲料水を大量に飲んだときに意識を失うことを指します。高血糖でのどが渇くのでジュースを飲み、そのせいでさらに血糖値が上がってまたのどが渇く…という悪循環に陥ると、血糖値が極端に上がって糖尿病ケトアシドーシスを起こすことがあるのです。

糖尿病ケトアシドーシスは放置すれば意識を失うだけでなく、致命的な不整脈を引き起こす可能性もあります。緊急の治療が必要になりますので、疑わしい症状があるとき、特にインスリン注射を予定通り打っていないなどのときは、急いで医療機関にかかってください。

3. 糖尿病の急性合併症:高血糖高浸透圧症候群

高血糖高浸透圧症候群(こうけっとうこうしんとうあつしょうこうぐん)は、極度の高血糖が原因で血液が濃くなってしまい、意識もうろうや昏睡などの症状を引き起こす合併症です。症状は糖尿病ケトアシドーシスと似ていて、緊急に治療しなければ命に関わるという点も同じです。

高血糖高浸透圧症候群の症状は?

  • 意識障害(意識がもうろうとする、昏睡)
  • 多飲
  • 多尿
  • 倦怠感
  • けいれん
  • 振戦(手足の震え)

高血糖高浸透圧症候群は非常に危険な状態です。疑わしい症状があると思ったら医療機関にかかってください。特に次に挙げる原因に当てはまる時には気をつけてください。

高血糖高浸透圧症候群の原因は?

原因として多いものを以下に並べます。

  • 感染症
  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 手術
  • 糖(炭水化物)の過剰摂取
  • 利尿薬
  • ステロイド内服薬

高血糖高浸透圧症候群の原因になるものごとの中には、自分の意思では避けられないものもあります。たとえば、処方されている薬剤が心配だったとしても、自己判断で飲むのをやめることや、量を変えて飲むことはしないでください。心配な点は薬を処方した医師に相談してください。原因に当てはまる状況であれば、症状の変化に気をつけるなど、万一の事態にも素早く必要な治療を受けられるようにすることが対策になります。

4. 糖尿病の急性合併症:感染症

糖尿病で高血糖の状態が続いていると免疫機能が低下してしまい、細菌ウイルスに感染しやすくなります。つまり、感染症も糖尿病の合併症です。

感染症は、糖尿病患者の死因としては、悪性新生物(がん)、血管障害(心筋梗塞脳梗塞など)の次に多いものです。特に、治療をしているにもかかわらず血糖値が高いままの人に感染症が多いこともわかっています。合併症としての感染症を予防するためにも、糖尿病を治療して血糖値を下げることが重要なのです。

糖尿病によって起こりやすく、特に気をつけるべき感染症について説明します。

糖尿病の治療中に注意するべき「シックデイ」とは?

糖尿病の人が感染症にかかると血糖値が乱高下します。また、食事を取れない状態になると血糖値は下がってしまいます。感染で食事もとれない状態をシックデイと呼ぶのですが、シックデイには血糖値はいつもより乱れ、急性合併症の危険が増してしまいます。

乱高下する血糖値をいつもより多い回数で血糖測定して把握することと、血糖を下げる治療を継続する必要があります。また、糖尿病の治療中に食事がとれないときは必ず医療機関にかかることも大切です。

糖尿病の合併症としての感染症:肺炎

糖尿病患者の人が肺炎になると入院が必要になるリスクが高いことがわかっています。また、「糖尿病によって感染症にかかりやすい」ので肺炎の予防が必要です。

肺炎で命の危険に晒されないためには、日頃から手洗いを忘れてはいけません。

また、肺炎球菌ワクチンの公費助成を受けられる人はぜひワクチンを打ってください。市中肺炎の原因として最も多い細菌は肺炎球菌とわかっています。肺炎球菌ワクチンを打てば、肺炎球菌による肺炎にかかりにくくなります。

65歳以上で5の倍数の年齢の人は公費助成を受けられます(2023年9月時点)。糖尿病がある人は特に肺炎の危険性が高くなっているため、公費助成の年齢に該当しなくてもワクチンを接種することをお勧めします。公費助成がないと自費で打つことになり、かかるお金が高くなりますが、肺炎になったときはその何倍ものお金がかかるうえに、最悪の場合は命に関わります。

糖尿病と言われたら、肺炎球菌ワクチンの接種をぜひ検討してください

糖尿病の合併症としての感染症:インフルエンザ

冬になると毎年流行するインフルエンザも、糖尿病の人には大敵です。インフルエンザウイルスに感染すると血糖値が乱高下し、急性合併症の糖尿病ケトアシドーシス高血糖高浸透圧症候群によって昏睡に陥ってしまう場合があります。

糖尿病になったらインフルエンザ予防のためにも、手洗いを忘れてはいけません。

また、インフルエンザワクチンもぜひ毎年打ってくださいインフルエンザワクチンはインフルエンザを予防し、感染に弱い糖尿病の人には特に貴重な効果をもたらします。糖尿病の人がインフルエンザワクチンを打つことで実際に死亡率が下がったというデータがあります。

糖尿病の合併症としての感染症:肺結核症

結核は決して過去の病気ではありません。今でも毎年全国で2万人近くの人が新たに結核にかかり、多くの死者が出ています。糖尿病の人は結核にも注意が必要です。

血糖コントロールができていない人が結核にかかると、進行しやすく菌を身体の外に出しやすいこともわかっています。結核菌は非常に感染力の高い菌ですので、菌を身体の外に出すことは大勢の人にうつすことになります。そのため、結核の感染が見つかると、隔離された病棟に入院することになります。

糖尿病の治療が不十分で血糖がコントロールできていない場合が特に危険なので、血糖値が適切に維持されるようにしっかりと治療することが重要です。

糖尿病の合併症としての感染症:尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)

糖尿病の人は神経の障害を受けやすいことがわかっています(糖尿病神経障害)。糖尿病神経障害によって、膀胱(ぼうこう)に尿が溜まったことに気づきにくくなり、また膀胱から尿を出しにくくなります。すると膀胱の中で尿が溜まったままになってしまい、細菌が繁殖しやすくなります。膀胱に細菌がいるだけでは問題のないことが多いのですが、繁殖した細菌が膀胱の組織を荒らすと膀胱炎に、さらに体の奥にある腎臓にまで感染が広がると腎盂腎炎(じんうじんえん)という病気になって、高熱や腰痛の症状を起こします。

膀胱炎腎盂腎炎抗菌薬抗生物質)で治療できます。糖尿病があって尿が出にくいことが続き、高熱や腰痛の症状が出たときは腎臓内科や泌尿器科にかかるようにしてください。

5. 糖尿病の慢性合併症:糖尿病網膜症(糖尿病性網膜症)

画像:眼球の断面図。網膜が硝子体を包んでいる。糖尿病網膜症は網膜剥離による失明の原因になる。

糖尿病網膜症は、糖尿病によって突然の失明や視力低下を起こす合併症です。年間3,000人ほどの人が糖尿病網膜症で失明しています。失明に至る原因として糖尿病は代表的なものです

糖尿病網膜症の原因は?

どうして糖尿病で失明するのでしょうか。糖尿病網膜症はこのように進行します。

  1. 糖尿病によって動脈硬化が進行する
  2. 動脈硬化によって、眼の網膜やその周りの血流が悪くなる
  3. 血流の不足によって、網膜やその周囲の組織が壊れてくる(糖尿病網膜症
  4. 網膜が壊れることや、傷付いた血管から血液がにじみ出て光を遮ることで視力が低下する
  5. 網膜が完全に破壊され、失明に至る

糖尿病が5年ほど続くと糖尿病網膜症が少しずつ始まります。

糖尿病網膜症は治る?

糖尿病網膜症で一度傷ついた網膜は元には戻りません。放置すれば失明の恐れがあります。しかし、糖尿病網膜症の進行を食い止める治療として、薬や手術があります。

糖尿病網膜症で怖いのは、特に自覚症状がなかったのにある日突然見えなくなるという現れかたにあります。飛蚊症(ひぶんしょう)という、視野の中にごみのようなものが浮かんで見える症状から気付くこともありますが、気を付けていても突然見えなくなってしまうことはあります。

糖尿病網膜症以外にも、糖尿病は白内障緑内障に悪影響を与え、目の健康を脅かします。

眼の合併症を予防し進行を遅らせるためには、血糖をしっかりと管理することが重要です。また、症状がなくても、定期的に目の検査を受けるようにしてください。

糖尿病網膜症の治療

糖尿病網膜症の治療法は主に3種類あります。

  • 薬の治療
    • 血糖値を低く保つことで、糖尿病網膜症の進行を遅らせます。
    • 糖尿病と同時に高血圧があると悪化しやすいので、薬で血圧を下げます。
    • 糖尿病黄斑浮腫に対して、硝子体に注射する薬があります(商品名マキュエイド®、ルセンティス®、アイリーア®)。これらの薬は血管新生を抑えることで悪化を防ぎます。
  • レーザー治療
    • 将来の失明を防ぐための治療です。異常な組織にレーザーを当てて凝固させることで、さらに血管新生が増えるのを防ぎます。凝固した網膜は働かなくなります。このため、治療後に多少の視力低下が現れる場合があります。網膜を元の状態に治しているわけではありません。
  • 硝子体手術
    • 硝子体出血網膜剥離が起こってしまった場合、レーザー治療でも血管新生を抑える効果が見られなかった場合などで手術が必要になります。異常な組織を取り除いたり、剥がれた網膜を元の場所に戻したりします。手術をしても網膜の血管が元の状態に戻ることはありません。

6. 糖尿病の慢性合併症:糖尿病腎症(糖尿病性腎症)

糖尿病網膜症と同じように、糖尿病によって動脈硬化が進行することで腎臓にも異常が出てきます。糖尿病腎症と言います。

糖尿病腎症になると何が危険?

腎臓には血液に溜まった老廃物を尿として体外に捨てる機能があります。体中の血液を処理するために、腎臓には細かい血管がたくさんあるのですが、糖尿病によって動脈硬化が進むと腎臓の細かい血管がうまく流れなくなってしまいます。すると血液の中の老廃物が捨てられないまま全身に回ってしまいます。悪化して尿毒症(にょうどくしょう)の状態にまで進むと呼吸困難や昏睡の症状を起こします。尿毒症は命の危険があります。

糖尿病腎症の進行を防ぐには?

糖尿病腎症で一度ダメージを受けた腎臓は元には戻りません。糖尿病腎症は長年のうちに確実に進行していきます。

どうすれば腎臓の機能を落とさないように保っていけるのでしょうか? 現在わかっていることが2点あります。

  • 血糖値を適切な範囲に抑える
  • 血圧を130/80mmHg以下に保つ

血糖値と血圧を維持する2点の治療によって、腎臓の機能を糖尿病の合併症から保護することができます。

その他にも、減塩やタンパク質を摂り過ぎないようにすることも重要です。このため、糖尿病腎症が現れたときは「炭水化物の少ない食事で血糖値を下げる」という考え方を少し変える必要があります。

糖尿病腎症が進行すると透析が必要に

糖尿病腎症が進行し、腎臓の機能が著しく下がって尿が作れなくなった(老廃物を体外に出せなくなった)場合は、透析治療を行います。

透析(人工透析)は、身体から血液をいったん取り出し、人工的に老廃物を除いて身体に戻すという治療です。全身の血液をきれいにするためには、1回の治療に半日ほど横になっている必要があり、それが週に3回ほどあります。繰り返し大量の血液を取り出すために、多くの場合はシャントといって腕の血管をつなぎ変える手術をします。手術をした場所はかなり目立ちます。

週に3回も半日がかりの治療をするのはもちろん生活の大きな負担になりますし、透析を受けている人は立ちくらみや感染を起こしやすくなることがわかっています。

また、透析治療が必要なほど糖尿病腎症が進行すると5年以内に死亡する割合が約40%にのぼるというデータも有ります。透析治療が必要にならないうちに、なるべく手前の段階で悪化を防ぐことが糖尿病治療の目標になります。

7. 糖尿病の慢性合併症:糖尿病神経障害(糖尿病性神経障害)

糖尿病は神経にも障害を与えます。全身の神経がダメージを受けることにより、次のような症状が現れます。

  • 感覚の異常:しびれ、感覚の低下
  • 痛み:ピリピリとした痛み、じんじんとした痛みなど
  • 運動の異常:目の動きが悪くなるなど
  • 自律神経障害:排尿・排便障害、ふらつき、勃起障害など

このように、感覚神経、運動神経、自律神経のすべてに異常が現れます。自律神経は、血圧や脈拍を調節したり、排尿や排便を司る機能がある神経ですが、その働きも障害されます。

糖尿病によって起こるこれらの障害をまとめて糖尿病神経障害と呼びます。

糖尿病神経障害を予防し進行させないためにも、血糖値を下げる治療が重要です。

8. 糖尿病の慢性合併症:糖尿病足病変

糖尿病が進行すると、全身の血流が悪くなるうえ、感覚が鈍くなり、さらには免疫も弱くなります。この影響を受けやすいのが足です。糖尿病では足に潰瘍(かいよう)ができたり感染が起きたりしやすくなります。この合併症を糖尿病足病変とも呼びます。

糖尿病と言われたら、足を常に清潔に保ち、足がどんな状態かをこまめに観察してください。

糖尿病足病変が出やすい人は?

糖尿病足病変は神経の感覚が鈍っている人に多く出ます。足に傷やひび割れができた時、通常であれば痛みで気付くはずですが、神経が鈍っていると痛みを感じずなかなか気付けません。さらに、血流は悪く傷が治りにくい状態です。ケアしないまま放置した結果、細菌が感染し、気がついた時には足に壊疽(組織が死ぬこと)が起きていた、ということになってしまうのです。場合によっては足を切断しなくてはならなくなります。

足の切断という事態は衝撃的ですが、糖尿病を診ている診療科では何度も見かける光景です。糖尿病による足の潰瘍をもつ人の7-20%は足を切断しなくてはならなくなるという報告があります。

糖尿病足病変を防ぐには?

糖尿病足病変による足の切断といった悲劇を招かないためにも、糖尿病になったら血糖をきちんとコントロールすることと、足を清潔に保つことを心がけてください。

日常からできるフットケアとして清潔を心がけることはもちろんですが、深爪しないことや足にあった靴を履くことも心がけてください。

9. 糖尿病の慢性合併症:高血圧症

糖尿病は動脈硬化を引き起こす病気です。高血圧症はさらに動脈硬化を進行させるため、糖尿病がある人は特に気をつけなくてはなりません。

「糖尿病診療ガイドライン2019」では、血圧を130/80mmHg以下にするように推奨しています。こうすることで動脈硬化を予防し、多くの糖尿病合併症を防ぐことが期待されています。

10. 糖尿病の慢性合併症:動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞など

糖尿病は動脈硬化を引き起こす病気です。そのため、動脈硬化で起こりやすい合併症には注意が必要です。

動脈硬化が原因となる病気の中でも、心筋梗塞脳梗塞は身体へのダメージが大きいため要注意です。直接命を落とす恐れがあるだけでなく、脳梗塞の後遺症によってその後の生活が妨げられてしまう場合もあります。血糖値をしっかりとコントロールすることは、動脈硬化による病気の確率を下げることに役立ちます。