とうにょうびょう
糖尿病
血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高値となる病気。長期に放置すると眼、神経、腎臓など多くの臓器に悪影響が出る
36人の医師がチェック 308回の改訂 最終更新: 2023.10.11

糖尿病の予防:なりやすい人、食事や運動の工夫など

45歳以上、肥満、運動不足、糖尿病予備軍などに当てはまる人は糖尿病になりやすいことが知られています。糖尿病の予防には運動や食事の工夫が有効です。

1. どんな人が糖尿病になりやすいか

糖尿病の予防が必要なのはどのような人でしょうか。医学的に糖尿病になりやすいとわかっているのは、次のような人です。

  • 45歳以上の人
  • 肥満の人
  • 運動不足の人
  • 肥満で家族に糖尿病の人がいる人
  • 肥満の女性で妊娠糖尿病といわれたことがある人
  • 肥満の女性で4,000g以上の巨大児を出産したことがある人
  • 肥満で高血圧のある人
  • 肥満コレステロールの高い人
  • 肥満の女性で多嚢胞性卵巣症候群PCOS)と診断されている人
  • ステロイド内服薬を長期的に使用している人
  • 膵臓に病気のある人
  • 糖尿病予備軍の人

特に境界型糖尿病(糖尿病予備軍)の人は、1年に4-6%の割合で糖尿病へと進行するといわれていますので注意が必要です。

また、ここで「肥満」という言葉が多く出てきました。当てはまるかどうかは見た目の体型で決まるわけではありません。医学用語で言う肥満は数字で基準が決められています。

肥満の基準値とは

肥満か否かの判断に最もよく使われるのがBMI(Body Mass Index)です。BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算されるもので、25を超えると肥満と診断されます。

BMIは身長と体重だけで計算しているので、筋肉質の人も肥満と判断しやすいという難点があります。とは言え、筋肉質でBMIが25、身長170cmなら体重72kg強を超えるというのはかなりのものなので、よほど鍛えこんだ人以外、「自分は肥満かもしれない」と思ったらBMIが肥満度の目安と考えていいでしょう。

また、BMIが22-25の人は正常範囲にはありますが、糖尿病の発症率が高くなるともいわれています。他にも過去の最大体重が重い人や、成人になってから体重が増えている人も糖尿病になりやすいと言われています。

予防できない糖尿病とは

糖尿病にも種類があります。かかる人は少ないのですが、1型糖尿病というタイプの糖尿病は、肥満や生活習慣が原因ではありません。

1型糖尿病の原因はよくわかっていませんが、ウイルスの感染などが関係していると言われています。このため、現在の医学では1型糖尿病の予防はなかなか難しいのが現状です。もし1型糖尿病にかかってしまっても、「予防できたのではないか」と考える必要はありません。

健診で見つかる糖尿病はほとんどが2型糖尿病です。ここでは特に断らない限り「糖尿病」と言えば2型糖尿病のこととします。2型糖尿病の原因は生活習慣(食事・運動)であることが多いです。そのため、2型糖尿病では予防策が効果を発揮します。

では、糖尿病にならないための予防策として、何ができるのでしょうか。

2. 食事の工夫

糖尿病と食事は切っても切れない関係にあります。食事で糖質を摂取すると、当然血糖値が上がります。であれば、糖質を摂らないようにすれば良いと考えるかもしれません。しかし、ご飯や甘いものを食べないようにしても血糖は体内から消えません。それはなぜでしょうか?

炭水化物(糖質)・タンパク質・脂質のバランスが大事

炭水化物、たんぱく質、脂質

そもそも血糖(グルコース)は、生きるために必要なエネルギー源です。食べ物に含まれている炭水化物(糖質)を分解して、身体はグルコース(ブドウ糖)を得ています。もし、食事から糖質を摂らないとどうなるでしょうか。

血糖値は一時的には下がります。しかし、グルコースがないと身体はエネルギーが足りなくなって、生命を維持することができなくなります。そこで、タンパク質や脂肪を変換してグルコースを作ります。つまり、筋肉に蓄えられているタンパク質や脂肪を材料にするのです。すると血糖値はまた上がります。

このように身体のタンパク質が消費されると、筋肉が減ってしまいます。筋肉が減ると、筋力が落ちるだけでなく、基礎代謝が落ちてエネルギーを消費しにくい身体になっていきます。

これでは上手に食事で予防をしているとはいえません。食事はバランスを保ちながら節制するのが良い、というのはこういうわけなのです。

では、どんな食事がバランスよく血糖値を下げていけるのでしょうか。次に説明します。

エネルギー摂取量の目安

糖尿病と言われてまず気になるのがカロリー(エネルギー)でしょう。エネルギー摂取量が多すぎると太ってしまうのですが、少なくしすぎる必要もありません。急に少なくしすぎると筋肉が消費されてしまうからです。1日に必要なエネルギーを過不足なく摂るのが望ましいです。

必要なエネルギーは体格や運動量によって違いますが、大まかには男女別で目安を考えられます。

  • 男性:1日に1600kcalから2000kcal
  • 女性:1日に1400kcalから1800kcal

このうち、5-6割程度のエネルギーを炭水化物から摂るのが良いとされています。

食品分類表などを参考にして、どんな食べ物にはどのくらいの炭水化物が含まれているかを大まかに覚えておくと、食事制限をイメージしやすくなります。たとえば、茶碗1杯の白ご飯にはおよそ60gの炭水化物が入っています。炭水化物1gで4kcalですから、およそ240kcal分の炭水化物となります。

甘いもの、ごはんやパン、うどんなど穀物でできているもの、ポテトやさつまいもなどの芋類は炭水化物を多く含んでいます。餃子の皮や揚げ物の衣など、小麦粉でできているものを合わせると、気づかないうちに1日300gぐらいにはなるものです。いつも食べているものに置き換えるとどれぐらいの量が適量なのか計算してみてください。

食品ごとの違い

さて、次は食事の内容についてです。

エネルギーと炭水化物の量を調整するには、日本糖尿病学会が作成している「糖尿病食事療法のための食品交換表」というものが参考になります。この表を見ながら献立を考えれば、カロリーと炭水化物の割合を適量に収めやすくなるでしょう。

ほかに、医学研究によって、食べると糖尿病になりにくいと考えられている食品もあります。

  • 食物繊維を多く含むもの
  • グリセミック指数(GI値)の低いもの
  • 緑色野菜

以上の4つは糖尿病の予防効果が期待できるものと考えられています。

GI(ジーアイ)値という言葉について簡単に補足します。

GIは、炭水化物50gを含む食品を食べたときに、どの程度血糖値が上がるのかを食品ごとに比較した数値です。ブドウ糖の血糖値を上げる力を100として数値を計算します。GIが高い食品ほど、食べてすぐに血糖値が上がるということです。

主食で比べると表のようになります。

GI 食品の例
高い パン、白米
中程度 うどん
低い パスタ、そば、玄米

※GIは測定の仕方によっても多少のずれがあります。

糖尿病予防には、より血糖値を上げにくいそばや玄米が望ましいと考えられます。お菓子などの甘いものはGIが高いので要注意ということになります。

また、魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸の摂取量が多い人は糖尿病になりにくいことがわかっています。日本人においては、魚の摂取量が多いほど糖尿病になりにくくなる傾向がわかっており、魚の摂取による糖尿病の予防効果が期待されています。

逆に、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸やマーガリンなどのトランス脂肪酸は糖尿病を発症させるリスクであるという報告もあり、脂肪の摂取の仕方にも注意が必要です。

個別の食品について見ると、このように比較的望ましいものとそうでないものがあると言えるのですが、糖質制限や低GI食にこだわって全体のバランスが崩れてしまっては本末転倒です。まずは必要な栄養素がしっかり取れるように、なるべく多くの種類の食品を食べるようにしながら、その中でときどき意識するぐらいがちょうどいいでしょう。

食事の習慣で注意する点

食事で糖尿病を予防するために、全体として次のことに気を付けてください。

  • 腹八分目でやめておく
  • 食べる食品の種類をできるだけ増やす
  • 食物繊維を多く摂る
  • 朝食・昼食・夕食を規則正しくする
  • なんとなく間食する習慣をやめる
  • ゆっくり噛んで食べる

とはいえ、誰でも暴飲暴食してしまうことはあります。歓送迎会のシーズンや忘年会のシーズンには、付き合いで食生活が乱れてしまうこともあるでしょう。食べ過ぎてしまったら、週の単位で考えてみてください。ある日に摂り過ぎた分を残りの6日で割って、少しずつ減らすことで帳尻をあわせることは案外できるものです。

あまり難しく厳密に考え過ぎるとかえって食事の管理はやりたくなくなるものです。このように、柔軟にそして臨機応変に考えていくほうが長続きします。

3. 運動の工夫

糖尿病予防には運動も効果的です。糖尿病予防に適した運動を紹介します。

糖尿病予防にはどんな運動が良い?

運動には大きくわけて、ウォーキングや水泳のような有酸素運動と、筋肉トレーニングのようなレジスタンス運動があります。そのどちらも重要ですが、糖尿病の予防には身体への負担が比較的軽く、長時間続けやすい有酸素運動が適しています。

一般にウォーキングなどの有酸素運動を週に150分以上行うことが望ましいとされます。できれば毎日、難しければ週に3-5回に分けて、1回に20分以上の有酸素運動をするのが目安になります。これに加えて週に2-3回のレジスタンス運動を行うとより高い効果が期待できます。

ただし、強い運動ほど良いわけではないこともわかっています。急に強すぎる運動をすると身体を痛めるもとになりますし、動けないほど疲れてしまうと生活の負担になり、長く続けられません。心拍数が運動の強さの目安になるので、自分で脈を取ってみてください。50歳未満の人は最大でも心拍数が1分間に100回から120回程度、50歳以上の人であれば100回以内になる強さが適切な強さです。

運動しながら「ややきつい」と感じるくらいまでが上限、「きつい、やめたい」と感じるレベルの運動はオーバーワークになると考えれば、心拍数の目安とおおよそ一致するはずです。

また、けがをしないためにも、運動前後の準備体操・整理体操は欠かさないようにしてください。

運動しても体重が減らないんだけど大丈夫?

運動をすると肥満の人には減量効果が見込めます。けれども実は、「運動しているのに体重が減らない」ということはよくあります。運動しているのに体重が減らないと、運動している意味はあるのだろうかと悩んでしまうかもしれません。体重の減らない運動は間違っているのでしょうか? それとも体重が減らなくても効果はあるのでしょうか?

答えは「効果はある」です。体重が減少しなくても、運動で糖尿病は予防できます。

ひとつの例としては、運動することで脂肪が減り、筋肉が増えた場合です。その場合は体重は見かけ上減っていません。しかし、脂肪という贅肉が筋肉に置き換わったのなら効果があったと言えます。筋肉を動かすことでブドウ糖や脂肪酸が消費されます。エネルギーの消費量が増えることは血糖値を下げることに有利に働きます。

運動しているのに体重が減らなくても、悩む必要はありません。ぜひ運動を続けてください。

運動するとどんな効果があるの?

運動不足は肥満や糖尿病につながります。日本人を対象とした研究で、仕事や通勤によって日常的に身体活動量の多い人は、2型糖尿病の発症リスクが下がったという報告もあります。運動不足を解消することは糖尿病発症を予防するうえで非常に重要といえます。

運動にはどんな効果があるでしょうか?

  • ブドウ糖や脂肪酸が消費されて血糖値が下がる
  • インスリン抵抗性が改善する
  • エネルギー消費量が増えて、減量できる
  • 加齢や運動不足による筋力低下を抑え、骨を丈夫にする
  • 高血圧症脂質異常症(高コレステロール血症)を改善する
  • 心肺機能を高める
  • 運動能力を改善する
  • 爽快感や快活な感情を得られる

このように運動にはいろいろな面で身体に良い効果があります。積極的に運動をして、糖尿病を予防しましょう。

4. 禁煙

喫煙は糖尿病のリスクになります。喫煙することで男性は1.3倍、女性は1.4倍糖尿病になりやすいと言われています。糖尿病予備軍と言われた人は、喫煙習慣があれば、この機会にぜひ禁煙にチャレンジしてください。

5. 糖尿病予防にはアルコールを避けるべきか

現在のところ、少量から中等量の飲酒で糖尿病になりやすくなることはないと考えられています。しかし、大量に飲んだ場合に糖尿病になりやすくなるかどうかの結論は出ていません。

ただし、飲み過ぎで起こる病気はアルコール性肝障害などほかにもいろいろあります。総合的には、飲酒はほどほどが良いと言えます。

6. 睡眠と糖尿病に関係はあるか

夜型の生活が糖尿病のリスクを高めるという報告があります。仕事でどうしても遅くなってしまうことがあるかもしれませんが、できるだけ早寝早起きの生活になれるように工夫してみてください。

7. 予防法の自己管理

糖尿病の予防法をいくつか紹介してきました。気を付けることがいろいろあって、実行するのは大変です。「これは自分にとってはかなり厳しい」と感じるものがあったかもしれません。

糖尿病の予防を実践するために一番大切なことは、やると決めたことをしっかりやる、そして長く続けるということです。まずは無理なく続けられる目標を立てて、毎日あるいは毎週、達成できたかチェックしてください。どんなに良い予防法も、こうしたセルフモニタリング(自己把握:自己管理と自己節制)がなければ絵に描いた餅です。

効果があるかないか半信半疑では続けるのも難しいので、まずは納得できるものを見つけて、生活の中に取り入れてみてください。そしてどんな効果があらわれているか探して実感してください。

自分に合った方法で、糖尿病を予防する生活にしていきましょう。

参考文献 ・厚生労働省:日本人の食事摂取基準 ・日本糖尿病学会, 糖尿病食事療法のための食品交換表, 文光堂, 2013