とうにょうびょう
糖尿病
血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高値となる病気。長期に放置すると眼、神経、腎臓など多くの臓器に悪影響が出る
36人の医師がチェック 308回の改訂 最終更新: 2023.10.11

糖尿病の治療薬:インスリン製剤の特徴、副作用など

インスリン製剤は糖尿病の代表的な治療薬です。さまざまな種類があり、その人その人の病状やライフスタイに合ったインスリン製剤を選択することができます。ここでは、どのような種類があるかや、副作用、注意点について詳しく説明します。

1. インスリン製剤を使うのはどんな場合か

インスリン注射

注射の道具を渡されて「自分で打ってください」と言われると、大変なことになったと思ってしまうかもしれません。インスリン注射が出されるのは、糖尿病が悪化したからでしょうか?

確かに飲み薬では不十分と判断されてインスリンが処方される場合もありますが、インスリンを注射しながら日常生活を続けることはできます。インスリンが使われる場面の例を挙げます。

  • 血糖値が極端に高い場合
    • インスリンは素早く確実に血糖値を下げます
  • 飲み薬を使ったが血糖値がうまく下がらない場合
    • インスリンは飲み薬が効きにくい人にも効果が期待できます
  • 重度の肝障害、腎障害がある場合
    • インスリンは飲み薬に比べて肝臓や腎臓に負担をかけない薬です
  • 1型糖尿病
    • 身体がインスリンを作れなくなっているので、飲み薬では治療困難です
  • 妊娠中
    • お腹の赤ちゃんには飲み薬よりもインスリンのほうが安全です

どれもインスリンの強みが活かされた使い方です。インスリンは注射でなければ使えないのが弱点ですが、注射だからといって危ない薬ではありません。

上記はあくまで一部の例です。ほかにも重症の感染症がある時、手術の時、口から食べられず点滴で栄養を摂っている時など、状況に応じてインスリンが使われます。

2. インスリンの特徴と副作用

インスリンは膵臓で作られているホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。インスリンは飲むと消化されてしまうので、注射して使います。副作用として、血糖値が下がり過ぎる低血糖や、注射後のアレルギー反応などがあります。

低血糖

インスリンに限らず、一般に血糖値を下げる薬の副作用として、血糖が下がり過ぎる「低血糖」に対して注意が必要です。ふらつき、脱力、冷や汗、吐き気、動悸(どうき)などの症状が出たら、血糖値を測ってください。血糖値が70mg/dLより低くて症状があれば、ブドウ糖10gから20g程度に当たる量の糖分を摂ってください。低血糖はインスリンを打った直後だけでなく、思わぬタイミングで現れることもあります。特に風邪などで体調を崩した時や、いつもはしっかり摂っている食事を抜いてしまった時は、低血糖になることも、逆に高血糖になることもあります。

念のためブドウ糖を含む食品を携帯しておくことで、低血糖の症状を感じた時に応急処置ができます。

3. インスリン製剤にはどんな種類があるか

インスリンの注射剤(インスリン製剤)は複数種類があり、作用時間や器具が違います。使う人の血糖の状態やライフスタイルに合わせて適したものを選べるようになっています。

作用時間による分類

「打って何分で効きはじめ、作用が何時間持続するか」によって大きく5種類に分けられます。

  • 超速効型
  • 速効型
  • 持効型
  • 中間型
  • 混合型

効き始めるまでの時間によって、食事の10分前に打つのか30分前に打つのかといった違いがあります。間違えると血糖値がうまく下がらなかったり、下がりすぎてしまったりしますので、よく確認してください。

器具による分類

注射に使う器具の形によって、中に入っている薬が同じでも種類が分かれます。

  • プレフィルド製剤/キット製剤
    • 薬と注入器が一体となっている。使い捨てという意味のディスポーザブルタイプとも呼ばれる
  • カートリッジ製剤
    • 専用のペン型注入器に薬のカートリッジをセットして打つ
  • バイアル製剤
    • 薬が入ったビン(バイアル)から注射器で吸引して打つ

カートリッジ製剤はキット製剤より少し安いものがあるのですが、取り替え操作がないキット製剤のほうが使いやすい人もいます。

どの器具も基本的には注射のため専用の針を使いますが、最近の器具は針が細く短く改良されていて、あまり痛くありません。

器具の違いによって、薬の製品名が違っています。たとえばノボラピッド®の名前を持つ製品は以下のものがあります。

  • ノボラピッド®注 フレックスペン®
  • ノボラピッド®注 フレックスタッチ®
  • ノボラピッド®注 イノレット®
  • ノボラピッド®注 ペンフィル®
  • ノボラピッド®注 100単位/mL

以下の説明では製品名の一部を省略した箇所があります。

上記のように注射器具の違いがあるほか、現在進歩しつつある技術として、インスリンポンプと呼ばれる機械を使って持続的にインスリンを注入する治療法もあります。

4. 超速効型インスリン

超速効型は注射後10分から20分で作用があらわれるので、「食直前」、つまり食事前10分(薬剤によっては15分)以内に注射します。なお、フィアスプ®やルムジェブ®は、超速効型インスリンの中でも特にはやく効果があらわれる製剤のため、通常、「食事開始時(食事開始前の2分以内)」に注射します。

ノボラピッド®

超速効型インスリン製剤であるノボラピッドには、ディスポーザブルタイプの「フレックスペン®」「フレックスタッチ®」「イノレット®」、カートリッジタイプの「ペンフィル®」、バイアル製剤の「ノボラピッド®注100単位/mL」があります。

最近自己注射用に処方されることが多いのはディスポーザブルタイプです。「フレックスタッチ」は「フレックスペン」からさらに改良され、注入ボタンを押しやすいなどの工夫が加えられています。「イノレット」は、より握力や視力が低下した人向きに、手で握れる大きさ、アナログ式の大きい目盛などが工夫されています。

フィアスプ®

フィアスプは、ノボラピッドの成分であるインスリンアスパルトにニコチン酸アミド(添加剤)を配合し、成分の初期吸収を速めた製剤です。皮下投与後、速やかに吸収されることで作用発現時間がノボラピッドよりはやい特徴をもっています。そのため、ノボラピッドの投与方法が通常「食直前(食事前10分以内)」であるのに対して、フィアスプは通常「食事開始時(食事開始前の2分以内)」に投与する製剤となります(必要に応じて、食事開始後(食事開始から20分以内)の投与も可能)。

フィアスプにはディスポーザブルタイプの「フレックスタッチ®」、カートリッジタイプの「ペンフィル®」、バイアル製剤の「フィアスプ®注100単位/mL」があります。

ヒューマログ®

超速効型インスリン製剤のヒューマログには、ディスポーザブルタイプの「ミリオペン®」、カートリッジタイプの「カート」、バイアル製剤の「ヒューマログ®注100単位/mL」があります。また、ヒューマログには、0.5単位刻みの投与量調節が可能な「ヒューマログ®注ミリオペン®HD」もあります。

ミリオペンは高齢者でも使いやすいように表示窓を見やすく、操作しやすく工夫されています。

ルムジェブ®

ルムジェブは、ヒューマログの成分であるインスリンリスプロにトレプロスチニル及びクエン酸(ともに添加剤)を配合し、成分の初期吸収を速めた製剤です。皮下投与後、速やかに吸収されることで作用発現時間がヒューマログよりはやい特徴をもっています。そのため、ヒューマログの投与方法が通常「食直前(食事前15分以内)」であるのに対して、ルムジェブは通常「食事開始時(食事開始前の2分以内)」に投与する製剤となります(必要に応じて、食事開始後(食事開始から20分以内)の投与も可能)。

ルムジェブには、ディスポーザブルタイプの「ミリオペン®」と「ミリオペン®HD(0.5単位刻みの投与量調節が可能)」、カートリッジタイプの「ルムジェブ®注カート」、バイアル製剤の「ルムジェブ®注100単位/mL」があります。

アピドラ®

超速効型製剤にはほかにアピドラ®があり、ディスポーザブルタイプの「ソロスター®」、カートリッジタイプの「カート」、バイアル製剤の「アピドラ®注100単位/mL」があります。

5. 速効型インスリン

速効型インスリンは注射後、30分から1時間くらいで作用があらわれ、効果が5-8時間程度持続します。注射は「食前」、つまり食事前30分以内です。

速効型インスリン製剤の例として、ノボリン®Rにはディスポーザブルタイプの「フレックスペン®」とバイアル製剤の「ノボリン®注100単位/mL」があります。またヒューマリン®Rにはディスポーザブルタイプの「ミリオペン®」、カートリッジタイプの「カート」、バイアル製剤の「ヒューマリン®R注100単位/mL」があります。

6. 持効型インスリン(持効型溶解インスリン)

持効型インスリンは、作用の持続時間がおよそ24時間あるいはそれ以上で、一日中平均的に効果をあらわします。

注射を打つタイミングは朝に打つ、夜に打つ、朝と夜の2回に分けて打つなど使う人に合わせて指示されます。

トレシーバ®

トレシーバは24時間を超える作用持続時間が得られる持効型インスリンです。

トレシーバにはディスポーザブルタイプの「フレックスタッチ®」とカートリッジタイプの「ペンフィル®」があります。

なお、2019年にはトレシーバ®の成分(インスリンデグルデク)とGLP-1受容体作動薬のビクトーザ®の成分(リラグルチド)を一緒にしたゾルトファイ®配合注フレックスタッチが発売されています。

ランタス®

ランタス®は持効型インスリンの一つでディスポーザブルタイプの「ソロスター®」、カートリッジタイプの「カート」、バイアル製剤の「ランタス®注100単位/mL」があります。

さらに2015年に、「ランタス®XRソロスター®」が加わりました。「XR」はさらに平均的で持続的な効果が得られると考えられています。

なお、2020年にはランタス®の成分(インスリングラルギン)とGLP-1受容体作動薬のリキスミア®の成分(リキシセナチド)を一緒にしたソリクア®配合注ソロスターが発売されています。

「インスリンのジェネリック」

インスリングラルギンBS注カート®「リリー」やインスリングラルギンBS注ミリオペン「リリー」などはバイオ後続品と呼ばれ、「ジェネリック医薬品」に近い位置付けにあたります。

薬価としては2023年10月現在で、先発品であるランタス注カートが1本(筒)1,076円に対してバイオ後続品では747円、ランタス注ソロスターが1本(キット)1,368円に対してバイオ後続品では1,152円になっています。通常は保険が適用されて、窓口で負担する額はこの一部です。

その他の持効型インスリン

持効型インスリンにはこの他、レベミル®があります。レベミルにはディスポーザブルタイプの「フレックスペン®」とカートリッジタイプの「ペンフィル®」の他、「イノレット®」の剤形が存在します。

イノレット®はディスポーザブルタイプの中でも、持ちやすく目盛も見やすいなどの特徴があります。

7. 中間型インスリン

中間型インスリンは注射後、30分から3時間くらいで作用があらわれ、作用持続時間はおよそ18時間から24時間と製剤によって異なります。

中間型インスリン製剤として、ノボリン®N注フレックスペン®、ヒューマリン®N注ミリオペン®、ヒューマリン®N注カート、ヒューマリン®N注100単位/mLがあります。

8. 混合型インスリン

混合型インスリンは、複数のインスリン製剤を組み合わせて、一度の注射で短時間の効果と持続的な効果の両方を得られるようにしたものです。

一部の製剤を除いて注射の前に振り混ぜるという注意点があります。混ぜる前の見た目は濁った液体が不均一な状態ですので、濁りが均一になるようにしてください。

ノボラピッド®の混合型インスリン

超速効型に中間型を組み合わせたインスリン製剤です。

配合割合が違う「ノボラピッド®30ミックス注」「50ミックス注」「70ミックス注」があります。剤形はディスポーザブルタイプの「フレックスペン®」が中心ですが、ノボラピッド30®ミックスにのみカートリッジタイプの「ペンフィル®」も存在します。

ヒューマログ®の混合型インスリン

超速効型に中間型を組み合わせたインスリン製剤です。配合割合の違いによってミックス25とミックス50に分かれます。剤形にはいずれもディスポーザブルタイプの「ミリオペン®」とカートリッジタイプの「カート」があります。

ノボリン®の混合型インスリン

ノボリン®30Rは速効型と中間型を「3:7」の割合で含有する製剤です。

ノボリン®30R注にはディスポーザブルタイプの「フレックスペン®」とカートリッジタイプの「ペンフィル®」があります。また、名前は違いますがノボリン®30R注と同じ成分・同じ配合割合の製剤としてイノレット®30R注があり、握力や視力の低下した人に優しい剤形になっています。

ヒューマリン®の混合型インスリン

ヒューマリン®3/7注は速効型と中間型を「3:7」の割合で含有する製剤です。剤形としてディスポーザブルタイプの「ミリオペン®」、カートリッジタイプの「カート」、バイアル製剤の「ヒューマリン®3/7注100単位/mL」があります。

超速効型+持効型の混合製剤

ライゾデグ®配合注フレックスタッチ®は、ノボラピッド®の成分である超速効型のインスリンアスパルトとトレシーバ®の成分である持効型のインスリンデグルデクを「3:7」の割合で含有する製剤です。

従来の混合型のインスリン製剤と異なり、注射前に振り混ぜなくても均一になるように調整されている点もメリットです。見た目は無色透明です。