慢性硬膜下血腫の症状:頭痛・嘔吐・麻痺・認知症など
慢性硬膜下血腫の
1. 慢性硬膜下血腫の主な症状
慢性硬膜下血腫は、
頭痛
頭の中の血腫が大きくなると脳の中の圧力(脳圧)が増します。脳圧が高くなると様々な症状が現れ、その一つが頭痛です。慢性硬膜下血腫による頭痛は治療をしないとよくなることに期待はできません。特に高齢者の頭痛が長引くときには慢性硬膜下血腫の可能性も念頭において一度医療機関を受診して調べてもらうことをお勧めします。
嘔吐
脳圧の上昇(脳圧亢進)は嘔吐を引き起こすこともあります。脳圧亢進による嘔吐は、噴水のように吐くことが特徴で朝方に症状がでることが多いです。
嘔吐は確かに慢性硬膜下血腫の症状の一つなのですが、他にも様々な病気の症状の一つとして現れます。主な病気は以下のようになります。
嘔吐の原因となる病気は数多くあります。嘔吐がある場合には、身体の中で何らかの異常が起きているのは確かです。嘔吐がいつまでも収まらない、症状がどんどんひどくなる、他の症状が現れてきたなどは深刻な病気が原因になっていることも想像されるので、医療機関を受診して原因について調べることをお勧めします。
麻痺:身体が自由に動かせない
血腫が大きくなると脳を強く圧迫します。脳への圧迫が強いと身体を動かす指令を出す部分にまで影響して麻痺が起こります。慢性硬膜下血腫による麻痺は左右のどちらか片方の手足が動かなくなることが多いです。これを
認知症
認知機能とは、理解・判断・論理などの知的な行動を司る力のことで、認知症は物忘れに代表されるような認知機能の低下によって起る症状の総称です。
認知症の主な原因はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のように脳細胞が変化することですが、慢性硬膜下血腫も認知症の原因として知られています。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症が原因の認知症はゆっくりと症状が現れて時間の経過とともに徐々に症状が悪化していきます。対して慢性硬膜下血腫が原因の認知症は比較的急に症状が現れることが多いです。
認知症は様々な形で現れますが、ここでは代表的な記憶障害と認知機能障害について解説します。
■記憶障害:もの忘れ
記憶障害は平たく言うと物忘れのことです。記憶障害は様々な形で現れます。具体的な症状は以下のようなものになります。
- 同じ話を繰り返す
- ついさっき食事したことを忘れる
- 薬を飲み忘れる
- 昨日したことを忘れる
記憶障害はこのように軽度なものとして現れる時もあればボッーとしたりする軽い
■見当識障害:場所や時間がわからなくなる
見当識は、時間・場所・周りの人などいわば自らの状況を認識する力のことです。認知症では、見当識に障害が起きて自分の居場所や日付などがわからなくなります。見当識が低下すると繰り返して今いる場所や日付などを周りの人に聞くような行動をとります。
意識障害
意識は覚醒しているという要素と自分自身および外界を認識しているという2つの要素があります。医学では通常、意識というと覚醒しているという要素をさすことが多いです。
慢性硬膜下血腫により意識障害が起こると呼びかけに対する反応が低下したり、反応しなくなったりします。
どの程度の意識障害が起きているかを評価する方法はいくつかあります。臨床現場でよく用いられている評価の方法を2つ紹介します。主に医療者が用いる評価の方法なのでこの部分を読み飛ばしても問題はありません。
【Japan Coma Scale】
- 覚醒している
- 0:意識清明
- 1:意識清明だが今ひとつはっきりしない
- 2:見当識障害がある
- 3:自分の名前・生年月日が言えない
- 刺激すると覚醒する
- 10:普通の呼びかけで容易に開眼する
- 20:大声または揺さぶりで開眼する
- 30:痛みを加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼
- 刺激しても覚醒しない
- 100:痛みを与えると払いのけ動作をする
- 200:痛みを与えると少し手足を動かしたり顔をしかめたりする
- 300:痛みにまったく反応しない
Japan Coma Scale(以下JCS)は、意識状態を評価する方法で、日本でよく用いられています。3-3-9度方式とも呼ばれます。覚醒度に応じて意識状態に点数を付けます。例えば目を開けていないけれども大きな声で体を揺さぶったりすると目をあけるという時はJCS20というように表現されます。
【Glasgow Coma Scale】
- 開眼機能(Eye opening:E)
- 4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼
- 3点:強く呼びかけると開眼
- 2点:痛み刺激で開眼
- 1点:痛み刺激でも開眼しない
- 言語機能(Verbal response:V)
- 5点:見当識が保たれている
- 4点:会話は成立するが見当識が混乱
- 3点:発語は見られるが会話にならない
- 2点:意味のない発声
- 1点:発語みられず
- 運動機能(Motor response:M)
- 6点:命令にしたがって四肢を動かす
- 5点:痛み刺激に対して手で払いのける
- 4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
- 3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(除皮質運動)
- 2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢)
- 1点:運動見られず
Glasgow Coma Scale(GCS)は「開眼(E)」、「言語(V)」、「運動(M)」の3つの要素を調べることで意識状態を評価します。例をあげて解説します。
【GCSを用いて意識状態を評価した例】
- 開眼している→E4点
- 意味不明な言葉を発して会話にならない→V3点
- 痛み刺激に対して手で払いのける→M5点
この場合はE4V3M5、合計12点といった具合に表現されます。
意識障害は気を失うことを意味するだけではなく様々な状態があります。
尿失禁:尿漏れ
尿失禁は自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことです。尿失禁は
尿失禁は生活の質を落とすことにつながるので、原因を調べて治療をすることでよりよい生活を送れることが期待できます。尿失禁は主に泌尿器科で見ることが多い病気なので、原因を調べる入り口として泌尿器科を受診することは妥当です。膀胱や前立腺などを調べて異常がない場合には慢性硬膜下血腫などの病気も疑うことになりその際には脳神経外科などを併行して受診して詳しく調べます。
性格の変化
慢性硬膜下血腫の症状として性格の変化があります。慢性硬膜下血腫が原因で突然怒りっぽい性格になったり寡黙になったりすることがあります。急な性格の変化によって慢性硬膜下血腫が見つかることもあります。
性格の変化はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などでも現れる症状の一つです。性格の変化は病的なものと考えにくい側面もあるので医師に相談しにくいと感じるかもしれません。しかし慢性硬膜下血腫のみならず性格の変化は他の病気の兆候である可能性があります。性格の変化が気になるときには医療機関を受診して原因を調べてもらってください。
2. 慢性硬膜下血腫と似た症状が現れる病気
慢性硬膜下血腫の症状は多様です。このために似たような症状が現れる病気も多くあります。ここでは慢性硬膜下血腫と見分ける必要がある病気について解説します。
正常圧水頭症
水頭症は、
慢性硬膜下血腫の症状のうち尿失禁(尿もれ)や記憶障害は正常圧水頭症でもよく現れる症状なので両者は症状だけでは見分けがつきにくいことがあります。
慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症はともに手術により治療が可能です。状態によっては症状がかなりよくなることもあります。慢性硬膜下血腫は頭の中に溜まった血の塊を抜く手術を行い、正常圧水頭症は脳室に多くなった髄液を他の場所に流すためのチューブを挿入する手術を行います。
脳梗塞
慢性硬膜下血腫の症状が急激に現れた場合には、脳梗塞などと症状が似かようことがあります。片麻痺(左右のどちらかの手足が動かなくなる)は脳梗塞でよく現れるので症状だけでは脳梗塞と慢性硬膜下血腫を見分けることは難しいです。
脳梗塞に対しては、
脳梗塞と慢性硬膜下血腫は
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、認知症の原因になる病気の中では最も多くその半分以上を占めます。認知症は、病気によって認知機能が低下して日常生活に支障を来した状態のことです。認知機能は理解・判断・論理などの知的な機能のことで「物忘れ」がその代表的な症状です。
慢性硬膜下血腫でも認知機能が低下することがありアルツハイマー型認知症と区別が必要になります。慢性硬膜下血腫は急に症状が現れるのに対してアルツハイマー型認知症は症状がゆっくりと進みます。
慢性硬膜下血腫とアルツハイマー型認知症を区別するにはCT検査やMRI検査などの画像検査を用います。慢性硬膜下血腫であれば手術によって治療が行われ、アルツハイマー型認知症では薬物治療が行われます。
転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍は