まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

Beta 慢性硬膜下血腫のQ&A

    慢性硬膜下血腫の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    通常、外傷により軽い頭蓋内出血が生じた結果、急激にではなく徐々に出血した血液が溜まって血腫になるとされています。外傷は軽いものが多いことが特徴的で、たとえば「頭をコツンとぶつけた程度」でもなりえると考えられています。

    しかし1/4から1/3程度の場合では、原因と考えられる外傷が認められない(もしくは覚えていない)ことや、頭をぶつけたことのある人が全員慢性硬膜下血腫になるわけではないことなどから、その発症の仕方や増大の原因は、まだ不明な点が残っています。

    慢性硬膜下血腫の治療法について教えて下さい。

    画像検査をしてたまたま見つかったもの、症状を呈していないもの(無症候性のもの)では、特別な治療を行わずに、血腫が大きくならないか、症状が出てこないかといった、経過を見ることがあります。頭痛や麻痺などの症状が出ていて、血腫の量が中等量以上ある場合には、手術を行います。

    手術法としては穿頭ドレナージ術が一般的です。これは局所麻酔で行える手術で、側頭部を3-4cmほど切開して、頭蓋骨に1円玉よりやや小さいくらいの穴をドリルで開けます。この穴から、骨の下に溜まった血腫を洗い出すという手順です。

    手術翌日には、起き上がったり食事を再開したりが可能になる場合が多いです。

    慢性硬膜下血腫は、どんな症状で発症するのですか?

    外傷をきっかけに起こる場合には、外傷から数週間経ってから徐々に、頭痛や頭の重い感じ、活気の低下が起こってきます。片側の手足の動かしづらさ、言葉の出にくさが生じる場合もあります。

    慢性硬膜下血腫は、どのように診断するのですか?

    慢性硬膜下血腫だけに見られる特徴的な症状というのはありませんので、症状のみからは診断することは困難です。慢性硬膜下血腫を疑わせるような症状がある場合には、頭部CTを撮影しますので、それによって診断がつきます。

    慢性硬膜下血腫の予後や経過について教えてください

    慢性硬膜下血腫は、症状がなく出血量も少量であれば経過観察を行うことがありますが、ほとんどの場合何らかの症状があって検査の結果、慢性硬膜下出血と診断され、手術を行います。手術は、頭蓋骨に1円玉くらいの穴を開けて、血腫を吸い出す手術を行うことが多いです。

    合併症がなければ、術後数日〜1週間程度で退院が可能です。退院後は、術後数か月程度まで定期的に画像検査を行い、再発がないかを確認します。

    基本的に、適切に手術が行われれば、症状は完全に回復することが多く予後は良好です。ごくまれに、手術の前に脳にダメージが加わっている場合などで、軽い後遺症(手足の動かしづらさ、言語障害や認知症のような症状など)が残る場合もないわけではありません。

    また、慢性硬膜下血腫は再発が多いことが知られており、適切に治療したとしても、10人に1〜2人が再発してしまうと言われています。。再発した場合は、再度手術が必要になります。

    再発の要因としては以下が挙げられます。

    • 腎機能低下

    • 高齢者

    • 脳萎縮のある方

    • アルコールを多く飲む方

    • 出血傾向(肝機能障害、血液疾患)がある方

    • 抗凝固・抗血小板薬を服用している方

    • 糖尿病患者など

    また、再発は同じ側のこともありますし、反対側にできることもあります。

    慢性硬膜下血腫は、認知症のような症状がでて、他の認知症と間違えられることあります。 慢性硬膜下血腫は手術で改善するため「治る認知症」としても知られています。

    慢性硬膜下血腫の、その他の検査について教えて下さい。

    診断には頭部CTのみで必要十分です。ただし、急性硬膜下血腫に近い時期の出血の場合には、頭部CTで血腫の色が脳の色に非常に近くなり、CTで気づかれにくい場合があります。

    また、他の病気を疑ってMRIを撮ったところ慢性硬膜下血腫がみつかった、というようなケースもあります。MRIでも診断は可能ですが、そのためだけにMRIを撮影することはありません。

    慢性硬膜下血腫には、手術以外の治療法はありますか?

    手術後の人、もしくは手術ができないため内服のみで治療を試みる人に、内服治療を行うことがあります。

    具体的には五苓散、柴苓湯といった漢方薬や、カルバゾクロム(商品名:アドナ)という薬です。しかしいずれも、効果があるというはっきりとした証拠(エビデンス)があるわけではなく、各医師の経験に基づいて処方されているのが現状です。

    慢性硬膜下血腫は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    おおよそ、年間10万人あたり1−2人と言われていますが、高齢者ではこれよりも高い割合となります。

    慢性硬膜下血腫が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    症状が重症化する前に、異常に気づいて受診される方がほとんどですが、放っておくと麻痺や言葉の出づらさなどの症状が進行したり、意識障害が出現したりする可能性があります。

    慢性硬膜下血腫と、急性硬膜下血腫の違いについて教えて下さい。

    どちらも、脳と頭蓋骨の間に血液(血腫)がたまるものですが、慢性硬膜下血腫は通常、月単位の時間をかけて徐々に血腫が大きくなって、ゆっくりと症状が出現するのに対し、急性硬膜下血腫はケガの直後から血腫が大きくなって、症状が出る場合にはすぐに意識障害などの症状が出現します。

    慢性硬膜下血腫は治療によって症状が改善し、後遺症を残さないことも多いのですが、急性硬膜下血腫は命を落としたり、寝たきりになる可能性も高い病気です。

    慢性硬膜下血腫と診断が紛らわしい病気はありますか?

    CTを撮影できれば慢性硬膜下血腫の有無を迷うことはほとんどありませんが、果たして現在の症状の原因が慢性硬膜下血腫なのか、それ以外のものなのかの判断は難しい場合もあります。慢性硬膜下血腫であれば手術によって症状が改善しますので、治療法の選択に直結する悩ましい判断です。

    慢性硬膜下血腫の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    手術後、血腫が消えて症状が改善したら内服を終了します。生涯飲み続けることは一般的ではありません。

    慢性硬膜下血腫では、入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    慢性硬膜下血腫で手術をするのであれば入院が必要です。

    症状の改善が早く全身状態も良ければ3-4日程度の入院で済むこともあります。その場合は外来で抜糸を行い、その後も再発がないかどうか1-2ヶ月に一度、定期的に通院して経過を見る場合が多いです。

    慢性硬膜下血腫を発症しやすいのはどんな人ですか?

    慢性硬膜下血腫はどの年代でも起こり得る病気ですが、特に高齢者で多い病気です。また、他の病気で血が止まりにくくなる薬(抗血小板剤、抗凝固薬)を飲んでいる人には特に発症しやすいため、注意が必要です。

    慢性硬膜下血腫に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    日常生活において、これをすれば再発が防げる、また、これをしてはいけない、ということは特になく、それまで通りの生活を送って頂いて構いません。ただし、頭部を打撲しないように、高齢者の方では特に、転倒には注意する必要があります。

    一方で、予定どおりの手術を行い順調に退院出来たとしても、10人に1人の割合で再発します。再発した場合にも手術をするかどうかは、症状の有無から判断します。

    慢性硬膜下血腫は完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    手術の後に、症状が改善して再発しなければ、完治したと言っても良いと考えられます。一般的には、治った場合には後遺症が残らない病気です。