じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 245回の改訂 最終更新: 2024.04.03

腎がん(腎細胞がん)の手術について:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術など

腎がんの治療は手術が主体です。手術の方法にはいくつか種類があり、がんの大きさや場所などによって最も適したものが選ばれます。

1. 腎がんの手術の種類

腎がんの手術にはいくつの種類があります。

  • 腎部分切除
  • 根治的腎摘除術
  • 腫瘍栓摘除を伴う腎摘除術
  • 転移巣の摘除

次のような術式の中から身体やがんの状態を鑑みて最も適したものが選ばれます。 これらからはそれぞれの手術について説明していきます。

2. 腎部分切除術について:腎がんを含んだ部分だけをくり抜く方法

近年、超音波検査などの画像診断が普及したことにより腎がんは小さな状態で発見されることが多くなりました。腎がんが小さいと腎臓を丸ごととらずに、がんを含んだの部分だけを取り除く手術(腎部分切除)が可能です。

腎部分切除のメリット

腎部分切除のメリットは腎臓を残すことができることです。 人間の身体に腎臓は2つあります。一昔前は、片方の腎臓をとっても影響が少ないと考えられていたので、腎臓を丸ごととる手術が行われてきました。しかし、腎臓を摘出した影響で、心臓や血管の病気が起こり得ることが、近年の研究でわかってきました。このため、現在では、腎臓を残せる可能性があればなるべく腎臓を残す方がよいと考えられています。

腎部分切除の実際

腎がんを部分的に切除するといっても、イメージが湧きにくいかもしれません。 下の図は腎部分を模式的に表したものです。赤いそら豆のような形をしたものが腎臓で、黄色い部分ががんとして描かれています。

腎部分切除では腎がんを正常組織の一部とともにくり抜き、クレーターのようになった部分を縫い合わせます。

腎部分切除はどんな人にできるのか

腎部分切除術を行える条件の目安は次になります。

  • がんの最大径が4cm以下である
  • がんが腎臓から外に飛び出ている
  • がんと正常な部分の境界がはっきりしている

上の条件をすべてを満たす人は多くはなく、1つか2つしか条件を満たしていないものの腎部分切除を検討することがあります。 臨床現場ではR.E.N.A.L Nephrectomy score(リーナル・ネフレクトミー・スコア)という方法で、「腎部分切除が行えるかどうか」や「腎部分切除の難しさ」を客観的に判断することが多いです。 *専門的な内容を含んでいるので、ここの飛ばしても理解の妨げにはなりません。

【R.E.N.A.L Nephrectomy score】

点数 1点 2点 3点
腎がんの大きさ 4cm以下 4cmより大きく7cm未満 7cm以上
腫瘍が埋まっている程度 半分以上突出している 半分を超えて埋まっている 完全に埋まっている
腎洞との距離 7cm以上離れている 4cmを超えて離れているが7cm未満 4cm以下
腫瘍の位置
お腹側/背中側
記載のみ、ポイントなし 記載のみ、ポイントなし 記載のみ、ポイントなし
腫瘍の位置
縦方向の位置関係

腫瘍が腎臓の上の方または下の方にあり、Polar lineはまたがない

腫瘍がPolar lineと交叉する

腫瘍の半分以上がPolar Lineの内側
または
腫瘍が腎臓の真ん中に線を引いた場合交差する
または
腫瘍が完全にPolar Lineの内側にある

参考:J Urol 2009;182:844-853

R.E.N.A.L Nephrectomy scoreは3から9点の間で点数が付けられます。得点が高いほど腎部分切除が難しくなります。高得点の場合は、止血ができなかったり腎臓の修復ができない可能性が高くなると考え、腎部分切除ではなく根治的腎摘除術が選ばれることがあります。

腎部分切除の方法:開腹手術、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術、ロボット支援手術

腎部分切除は開腹手術、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術、ロボット支援手術の3つの方法で行われます。開腹手術はお腹を大きく切る方法です。一方で、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術、ロボット手術はお腹に数箇所穴を開けて、内視鏡を使った方法になります。 手術方法の比較は「こちらのコラム」で説明しています。コラムでは前立腺がんの手術について論じていますが、基本的な考え方は変わらないので、参考にしてください。

腎部分切除の手術成績

7cm以下のがんに対して腎部分切除を行った場合の治療成績は次のようになります。

  • 5年生存率(死因を腎がんに限った場合):約90-95%
  • 10年生存率(死因を腎がんに限った場合):約90%
  • 局所再発率:約4%

がんを再発させないという点については腎部分切除と根治的腎摘除術では遜色がないと考えらています。また、腎臓を丸ごと摘除する根治的腎摘除術に比べると、腎部分切除術は腎機能を温存する点で優れています。

参考: Eur Urol. 2008 Apr;53(4):732-42

腎部分切除術の合併症

腎部分切除術の合併症(手術によって引き起こされる悪影響)は後述する根治的腎摘除術(腎臓を丸ごと摘除する手術)とほとんど同じですが、腎部分部分切除術に特有の合併症が2つほどあります。

  • 尿(にょうろう)
  • 出血

それぞれの合併症について解説します。

■尿瘻 腎臓は尿を作る臓器です。 尿は腎臓の最も内側から流れています。腎臓に埋まったような腎がんに対して部分切除を行う場合はがんを完全に取り除くためにかなり深く切除しなければなりません。このため尿が流れる場所も含めて切除します。がんを取り除いた後、尿が漏れ出ないようにしっかりと縫合を行いますが、縫合が不十分な場合には手術の後に尿が縫い合わせた隙間から漏れ出る場合があります。これを尿瘻と言います。尿瘻が起こると腹痛などの症状が出ます。

尿瘻の治療は体の外から針を刺してお腹の中に溜まった尿を外へ出しす処置や内視鏡(膀胱鏡)を使って尿道から管を腎臓まで挿入する処置を行い自然に尿瘻が収まるのを待ちます。ごくまれなことですが、尿の漏れが多く待っても減少する傾向にない場合は再手術を行うこともあります。

■出血 腎臓はとても血流の多い臓器です。腎臓を縫合した所から出血を起こす場合があります。 多くは自然に出血はおさまりますが、ひどい場合には血管にカテーテルを挿入して腎臓の血管に止血目的で詰め物をしたり、ごくまれですが手術したりすることもあります。

3. 根治的腎摘除術について

腎部分切除術ではがんを取りきれないほど大きな場合には、腎臓を全て摘出する根治的腎摘除術が必要になります。

手術の方法について

開腹手術や、腹腔鏡手術(後腹膜鏡手)、ロボット手術のいずれかで根治的腎摘除術は行われます。腎部分切除術と同様に2022年にロボット手術も保険適用となりました。開腹手術はお腹を大きく切って行われます。一方で、腹腔鏡手術・後腹膜鏡手術・ロボット手術はお腹に数箇所穴を開けて、内視鏡を使って行われます。手術方法の比較は「こちらのコラム」で説明しています。コラムでは前立腺がんの手術について論じていますが、基本的な考え方は変わらないので、参考にしてください。

合併症について

根治的腎摘除術の合併症(手術に伴って起こる問題)で特徴的なものの例を挙げます。

  • 出血
  • 周囲臓器の損傷
  • 腸閉塞(ちょうへいそく)
  • 乳糜瘻(にゅうびろう)
  • 創部感染

それぞれについて説明します。

■出血 腎臓はもともと非常に血流が豊富な臓器です。 腎がんが大きくなってきた場合、血流量がさらに増加するので、手術中に出血しやすくなります。出血量が多くなった場合には輸血が必要になります。

■周囲臓器の損傷 腎臓の周囲には多くの臓器があります。具体的には、小腸、大腸、肝臓、膵臓(すいぞう)、脾臓(ひぞう)があり、腎臓の頭側には肺を囲う胸腔(きょうくう)とお腹側の腹腔(ふくくう)を隔てている横隔膜という構造物があります。

腎臓を摘出する際にはこれらの臓器と腎臓を剥がす(剥離する)必要があります。細心の注意が払わていますが、臓器同士の癒着が激しい場合には臓器に損傷が起きる場合があります。 小腸・大腸を損傷した場合は、損傷した部位が治るためにある程度時間が必要なので、手術後に食事を開始する時期が遅くなることがあります。また損傷が激しい場合には、傷ついた腸を切り取ってつなぎ直すこともあります。 脾臓が損傷して出血している場合は、摘出が余儀なくされる場合があります。 膵臓を損傷した場合は、消化液である膵液が漏れ出てきます。稀ですが膵液の漏れが多いときにはお腹に管を長期間入れて置くことがあります。 横隔膜を損傷した場合の多くは手術中に縫合し、肺を十分に膨らませることで治療が可能です。しかしながら、まれですが肺の虚脱(しぼむこと)が大きいときにはしばらく胸に管を入れておくことがあります。

腸閉塞イレウス 腸閉塞イレウスが起こると、腸の中の流れが悪くなり、お腹が張ったり腹痛、吐き気が起こります。食事を少しの期間中止して腸を休ませることでほとんどの人は改善します。退院後に起こることもあるので、当てはまる症状が現れた場合は医療機関を受診してください。

■乳糜瘻(にゅうびろう) 左の腎臓の血管の周囲には、リンパ管が集合し乳糜槽(にゅうびそう)というリンパ管の集合体を形成しています。乳糜槽へ流入するリンパ液は多くの脂肪を含んでいます。手術で乳糜槽が部分的に開放されている場合は、脂肪を多く含んだリンパ液が漏れ出ます。これを乳糜瘻(にゅうびろう)と言います。

乳糜瘻は手術の後数日で起きることが多いです。軽度な場合は食事に含まれる脂肪を少なくすることで改善することが多いです。乳糜瘻の量が多い場合に、ソマトスタチンという薬を投与することで改善をはかります。

参考;Eur Urol.2002;41:220-222

■創感染 創とは傷のことを指します。予防のために手術直前から抗菌薬が投与されていますが、一定の割合で創部感染が発生します。創感染が起こった場合は、創を開放してを出したり、抗菌薬が投与されます。創部感染の発生は糖尿病の人や免疫が弱まっている人などに起こりやすい傾向にあります。

4. 腫瘍栓を伴う腎がんの手術

腎がんが進行すると血管(静脈)に入り込み、血管の中でがんが大きくなります。血管の中で大きくなったがんを腫瘍栓(しゅようせん)といいます。腫瘍栓は転移ではなく、腎がんとひとつながりになっているので、腫瘍栓を腎臓と同時に摘出することができれば根治(がんを身体からなくすこと)の見込みがあります。

腫瘍栓について

腎がんや肝がんには腫瘍栓をつくる性質があります。少しわかりにくい概念だと思いますので、まず下の模式図をみてください。

多くのがんは進行すると、血管の中に入り込りこみ、ちぎれて遠い場所へ転移を起こします(血行性転移)。腎がんでも血行性転移はありますが、腎がんが進行すると、血管(静脈)の中に入り込み、大きくなることがあります。腫瘍栓は腎がんの特徴の一つです。イメージとしては腎がんが発生した場所からそのまま餅のようにひとつながりの状態で血管の中に入り込んで増殖していったものが腫瘍栓です。腫瘍栓が大きくなる血管は主に腎静脈と下大静脈です。

手術内容について

腫瘍栓をともなう腎がんの手術は難しいです。また、腫瘍栓がどこまで伸びているかによって手術の難しさは変わってきます。腫瘍栓の長さと手術の難しさは比例すると考えて問題ありません。 まず、腎臓を周りの臓器や血管から切り離して、腫瘍栓が入り込んでいる血管とだけつながった状態にします。その後、血管を切り開いて腫瘍栓を血管から引き抜いてがんを摘出します。血管を切り開く間は、血液の流れを一時的に遮断するので、手術中の身体の負担が大きいです。腫瘍栓の先端が心臓にかなり近い場合は心臓外科や肝臓外科と合同の手術になることがあります。

腫瘍栓を伴う腎がんの人の生存期間について

腫瘍栓のある腎がんの手術後の経過について検討した研究は多くはなく、日本の医療施設での十分な集計はほとんどありません。このため、ヨーロッパ13施設の集計の報告を参考にします。腫瘍栓の先端の位置を腎静脈内、横隔膜下、横隔膜上の3つに分類してその後の生存期間が調べられれた研究があります。研究報告では腫瘍栓の先端の位置が腎臓に近ければ近いほど、つまり腫瘍線が短ければ短いほど、生存率は高い傾向にありました。

腫瘍栓の先端の位置 生存期間(中央値)
腎静脈内(78.3%) 52ヶ月
横隔膜下(16.4%) 25.8ヶ月
横隔膜上(5.3%) 18ヶ月

腫瘍栓が長い(腎がんが進行している)ほど、生存期間は短くなる傾向がありますが、どんな状況であっても長期生存のチャンスは残っています。厳しい状況に変わりはありませんが、お医者さんと相談しながら前向きに治療に取り組むことが大切です。

参考: Eur Urol.2009;55:452-9

5. 遠隔転移がある場合の腎がんの手術

遠隔転移とは所属リンパ節以外にも転移した場合を指します。 遠隔転移がある場合に手術が検討されることは他のがんでは一般的はありませんが、腎がんは遠隔転移があっても手術が検討されます。

がんが発生した場所を原発巣(げんぱつそう)と言います。転移してできた別の場所のがんを転移巣(てんいそう)と言います。具体的にいうと腎がんの場合、腎臓のがんを原発巣といい、肺や肝臓など他の臓器の場所に転移した腎がんを転移巣といいます。

転移がある腎がんでは、原発巣に対する手術も、転移巣に対する手術も行われる場合があります腎がんの場合は転移があっても原発巣を取り除くことが余命の延長につながることが明らかになっているからです。

転移がある腎がんに腎摘除術を行う効果

多くのがんでは転移が見つかった場合や身体の状態が悪い場合にはがんを取り除くメリットが小さいことがわかっているので行われないことが多いです。一方で、転移が少ない場合などは手術を行うメリットを得られることがあると考えられており、転移の状況や患者さんの身体の状態を鑑みて手術が検討されることがあります。

治療 生存期間(中央値)
腎摘除術+インターフェロン 13.6か月
インターフェロン単独 7.8か月


*中央値は平均値ではなく生存期間を長い順に並べたときに真ん中の順位に当たる値

転移がある場合、腎臓を摘除したほうが生存期間(余命)が長くなりやすいということがこの研究では示されており、転移がある腎がん患者さんに手術が行われる根拠となっています。
しかしながら、現在は薬物治療としてインターフェロンより効果の高い分子標的薬という治療薬が登場しており、インターフェロンを使うことは少なくなっています。そして、腎臓を摘出して分子標的薬治療を行うのがよいのか、それとも分子標的薬だけで治療するのがよいのかの結論はまだ出ていません。このため、分子標的薬が使える状況の患者さんにおいては、全身状態やがんの状態を鑑みて、手術によるメリットがデメリットを上回ったときに、手術が検討されます。

参考:
 J Urol 2004;171:1071-6
腎癌診療ガイドライン2017年版 補足

転移巣の切除:肺転移・骨転移・肝転移・膵転移

転移がある場合でもがんがある腎臓を取り除くことによって生存期間が延長することは明らかになっています。他方、転移した部位を治療することも有効である場合があります。転移巣を手術で完全に切除することでがんを体からなくすことができれば長期の生存も可能と考えられています。 腎がんの転移巣の切除は、以下に条件に当てはまる人に検討されます。

  • 体の状態が良好である
  • 転移巣の切除が可能である

手術は身体に負担がかかるので、身体の状態が良好で手術に耐えられることが前提になります。また、がんを中途半端に取り除かなければ手術の効果は十分とは言えません。このため、転移巣が切除できるというのが手術をする条件になります。がんの広がりが大きかったり危険をともなう場合には、手術ではなく抗がん剤治療が優先されます。 腎がんが転移をしやすい臓器は、肺、骨、肝臓、膵臓ごとの治療成績を紹介します。

■肺転移の切除 肺転移を完全に切除した場合の5年生存率は40%前後とされています。転移したがんを完全に取り切れない場合の5年生存率は低下し8-22%とする報告があります。

参考: Ann Thorac Surg.2002;74:1653-1657 Ann Thorac Surg.2005;79:996-1003

■骨転移に対する切除 骨転移を切除した後の5年生存率は11-15%とされています。肺転移に比べると高いとは言えません。「骨転移が出現するまでの期間が長い」、「骨転移が一部分だけ」などの条件に当てはまる人は手術の効果が高いと考えられています。

参考: J Bone Joint Surg Am.2007;89:1794-1801

■肝転移に対する切除 腎がんの肝転移に対する切除の報告は多くはないため、生存期間に関しても研究報告によってばらつきがあります。 ある研究報告によると肝切除を施行した場合の5年生存率は38.9%だったとされるものがある一方で、別の報告の報告では肝転移がある場合の1年生存率は38.3%であったとするものもあります。 また、現在のところ術が有効な肝転移の条件はまだ明らかになってはいません。今後の検討で手術の有効性や適正条件などが明らかになる可能性があります。

参考: World J Surg.2007;31:802-7 Eur Urol. 2010;57:317-325

■膵転移に対する切除 腎がんが膵臓へ転移した場合、手術が可能であった人々の5年生存率は72.6%、手術ができなかった人々では14%であったという研究報告があります。手術ができた人とできなかった人ではもともとの体の状態は異なるので一概には比較はできませんが、膵臓への転移があっても手術ができれ比較的長い余命が期待できる可能性があります。

参考: Br J Surg.2009;96:579-92

7. 手術後に注意が必要な腎機能の低下について

腎がんの手術は腎臓を一部または全て摘出します。このため、手術後には腎臓の機能が低下します。腎機能が低下すると、様々な症状が現れます。腎機能の低下にともなう症状を説明する前に腎臓の機能について説明します。

腎臓の役割は次のように多岐に渡ります。

  • 尿を作る
    • 老廃物を体の外に出す
    • 体の中の電解質を調節する
  • ホルモンを分泌する
    • 血圧を調整する(レニン)
    • 赤血球を作る指令を出す(エリスロポエチン
    • 体の水分量を調節する(プロスタグランジン)

腎臓の主な働きは尿を作って余分な水分や老廃物を身体の外に出すことです。 尿は血液から老廃物を濾過して作られます。腎臓にが尿を作ることによって身体の水分量やナトリウム、カリウム、カルシウムやリンなどの物質を一定の量に保つ役割があります。 また腎臓が分泌するホルモンによって血圧の調節したり、赤血球を作り出したりします。 腎がんの手術によって腎機能が低下すると、これらの身体を維持する機能がいくばくか失われ、大幅に低下すると次のような症状が現れます。

腎機能が低下することによって現れる症状について

腎機能が少し低下しても症状はほとんどありませんが、機能が大幅に低下すると次のような症状が現れます。

  • 倦怠感(だるさ)
  • 息切れ
  • 浮腫むくみ
  • 貧血

症状が現れる前に、腎機能の低下を見つけるために、手術を受けた人にはクレアチニンという血液検査項目が定期的に調べられます。正常な腎機能がある人ではクレアチニンはおおむね次の範囲に収まります。(施設により基準値はやや異なる場合があります)

  • 男性:0.5-1.1mg/dl
  • 女性:0.4-0.8mg/dl

クレアチニン値は目安にはなりますが、筋肉量が多い人ではクレアチニンが高めに出るので、基準値を上回ってるからといって腎機能障害があるとは限りません。 実際に、スポーツ選手といった筋肉量が多い人ではクレアチニンが1.2mg/dl程度でも腎機能は正常であることが多いです。心配な人はお医者さんにたずねてみてください。

腎機能低下を予防するにはどうすればいいのか

腎がんの手術をすると多少の腎機能低下は避けられません。手術後は残った腎臓を使って生活することになります。腎機能がある程度以上に悪化すると、透析などの治療が必要になり、生活の負担が非常に大きくなるので、腎臓の機能を長く保つことが重要になります。

■腎機能低下を予防する薬はあるのか 腎機能低下を確実に予防する薬や、腎機能を回復する薬は現在ありません。このため、腎臓に負担がかからない生活をすることが、腎臓の機能を落とさない最も効果的な方法になります。具体的には次のような点に注意してください。

  • 塩分を摂りすぎない
  • 適度な血圧を維持する
  • 肥満を解消する
  • 禁煙する

食塩の過剰な摂取は腎臓へ悪影響を及ぼすと考えられています。 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、高血圧予防の観点から、1日あたりの食塩摂取の目標量を健康な成人男性で8g以内、健康な成人女性で7g以内としています。

また、糖尿病脂質異常症高脂血症)は腎機能に悪影響があることも明らかです。糖尿病の食事療法を指導された場合はしっかりと守ることが大事です。血圧の維持、肥満解消や禁煙も腎機能を保つためには良い方向に働くと考えられています。

8. 手術後の注意点

手術後の食事では少し注意が必要です。 「退院して間もない場合」と「腎機能が低下している場合」で内容が異なるので、分けて説明します。

退院して間もない場合

腎がんの手術は開腹手術でも腹腔鏡手術でも、お腹の中にいくらかの影響があります。 お腹の中には腸があります。手術の影響が腸に及ぶと、腸閉塞(ちょうへいそくが起こります。腸閉塞は入院中にも退院後にも起こります。 腸閉塞を避けるには、手術後の1ヶ月は消化の良いものを、量は少なめに食べることが望ましいと考えられます。病院の食事は厳密にカロリーがコントロールされています。入院中に我慢していたぶん、退院後はついつい羽目を外しがちです。しかし、手術後1ヶ月は周術期といって手術の後遺症(合併症)が発生しやすい時期でもあり注意が必要です。 退院後は少しずつ食事の量や種類を増やしていき元の食事に戻していくことが大事です。焦る必要はありません。腹八分目が肝心です。 腸閉塞を予防する食事は「腸閉塞やイレウスの注意点」で説明しているので参考にしてください。

腎機能が低下していると言われた場合

腎機能が低下していると言われた場合、食事に気を付けなければならないことがいくつかあります。まず塩分を控えめにすることが大切です。塩分は高血圧症の原因として知られています。高血圧症が続くと、腎臓の血管は少しずつ傷んで腎機能の低下が早くなります。

また、腎臓は再生することがほとんどないので、残った腎臓をできるだけ大切に使っていくが重要です。とはいえ、食塩を抑えた食事は難しいものです。医師や管理栄養士に相談すると上手に塩分を抑えた食事をすることができるので、話をしてみてください。

9. 手術後に抗がん剤は必要なのか

腎がんの手術を受けた人全員に抗がん剤治療が行われることはありません。手術で取り除いたがん細胞を顕微鏡で観察し、再発リスクが高い人にだけ抗がん剤の投与が検討されます。その際にはペムブロリズマブという薬が用いられます。

10. 術後の通院スケジュールは?

受診のスケジュールは一律に決められていません。各施設によって受診のスケジュールの基準を定めている場合もあります。ここでは海外のガイドラインで提案されている通院スケジュールを参考にして、筆者の経験も交えて解説します。

根治的腎摘除術後/腎部分切除後のフォローアップ

腎がんの再発は手術後3年に集中するとされています。再発を早期に発見することで、転移した場所を手術で切除することが可能になったり、抗がん剤による治療も有効になります。そこで、手術後は表のスケジュールに沿って定期的に検査を行い、再発がないか監視します。

再発を診断するのに有用な検査はCT検査です。術後3年間は半年に1回CT検査が行われます。 1年目は3ヶ月間隔で通院し、血液検査や身体診察を行うことで腎機能の推移も確認します。再発が疑わしいものの確定的ではない場合は、画像検査の間隔を短くしたりして慎重に経過観察を行います。 腎がんは時間が経って再発する場合(晩期再発)もあるので経過観察を生涯に渡って行うべきとの意見もあります。晩期再発が起こるのは進行した腎がんの場合が多いので、特に進行した腎がんの場合は長期の経過観察が望ましいと考えられます。 5年目以降の通院スケジュールは、1年または2年に1回画像検査を行うことが一般的です。

再発例または外科的に切除不能の IV 期症例に対するフォローアップ

分子標的薬やサイトカイン療法で治療を行っている場合は、1ヵ月に1回程度は通院して副作用の有無と治療の効果が確認されます。CTなどの画像検査を2-4ヵ月に1回程度行います。転移のある患者さんの場合は、転移している臓器やその程度により病気の進行速度が異なります。通院期間は症状などを観察しながら決められます。

11. 腎がんが手術できないのはどんなときなのか

手術で腎臓を摘出することで余命が延長することがわかっているので、手術が勧められない場合は限られています。腎がんで「手術ができない」と言われたときは、手術をしないほうがよい理由があると考えれます。

腎がんで手術を避けたほうがよい場合の例を挙げます。

  • 全身状態が良くなく手術に耐えられない場合
  • がんの進行が早く、手術による効果が少ない場合

上2つの場合は手術を避けたほうがよいと考えられます。

さらに、腎臓を取る手術を受けないほうがよい人を判断する方法として提案されている基準の一つを紹介します。

  • Karnofsky PS <80% 
  • Hb(ヘモグロビン)値が正常未満
  • 補正Ca(カルシウム)が正常値の上限を上回る
  • 好中球の数が正常値を上回る
  • 血小板の数が正常値を上回る

以上のうち3項目以上が該当する場合は原発巣の摘除による利益が少ないとする意見もあります。 Karnofsky PS(カルノフスキーのパフォーマンス・スケール)は全身状態を表します。0-100%で表記され、「正常で臨床的な症状がない」ときは100%です。80%未満の場合は「自分自身の世話はできるが、正常の活動や労働をすることは不可能」またはそれ以下に該当します。 その他の血液検査の項目は余命が短いことを予想させるものです。血液検査項目は腎がんによって炎症反応が強い場合やホルモンが産生されることにより異常値が認められます。炎症反応が強い場合やホルモンの産生がある腎がんは悪性度が高いとされています。こうした場合には手術をしても利益は少ないのにリスクだけが大きいので手術を勧めないことがあります。 なお、上の基準は腎臓のがんを切除するかどうかの判断に用いられるもので、転移巣の切除をするかどうかには必ずしも当てはまりません。 手術には利益と不利益が必ず存在します。利益よりも不利益が大きいと予想される場合には、手術をせず分子標的薬により治療を行い、場合によっては緩和ケアに重点を置くことも合理的な判断です。

参考: Eur Urol. 2014;66:704-710