ぼうこうがん
膀胱がん
膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍
8人の医師がチェック 202回の改訂 最終更新: 2024.04.03

膀胱がんの手術:内視鏡手術(TURBT)、膀胱全摘除術などについて

 

膀胱がん治療の基本は手術です。膀胱がんの手術には内視鏡手術(内視鏡手術)と膀胱全摘除術の2つがあります。がんが早期であれば内視鏡手術で治療できますが、がんが進行していると膀胱を摘出する必要があります。

1. 内視鏡手術(TURBT:経尿道的膀胱腫瘍切除術)について

膀胱がんは内視鏡を使って切除されます。尿道から内視鏡を挿入することから、経尿道的膀胱腫瘍切除術(Transurethral resection of the bladder tumor)と言い、TURBTとも略されます。TUR-Btなどの表記もよく見かけますが、現在はハイフンなし・すべて大文字でTURBTと書くのが正式な表現です。

TURBTの目的

TURBTを行う目的には治療と診断の2つがあります。

  • 治療:腫瘍の切除を行い完治を図る
  • 診断:腫瘍を切除することで腫瘍の深さ(深達度)や腫瘍の悪性度を判断する

腫瘍の根が深くTURBTでは治療効果が不十分であった場合は、膀胱摘出が必要になります。また腫瘍を取り切れたかどうかの判断が難しい場合には再度TURBTを行います。

TURBTの実際

TURBTは内視鏡を使って行う手術です。 麻酔は半身麻酔(脊椎麻酔)で行われる場合と全身麻酔で行われる場合があります。

尿道を介して膀胱の中に金属の筒を挿入して手術が行われます。ループ状の電気メスを使って腫瘍が削り取られます。膀胱に明らかな腫瘍が見つからない場合や腫瘍かどうか疑わしい場合には、鉗子(ピンセットのようなもの)で組織をつまみとって検査(膀胱生検)を行うこともあります。

TURBT中に起こる合併症について

TURBT中に起こりうるトラブルについて説明しますが、中には起こる頻度が少ないものの含まれているので、過度な心配は不要です。

■膀胱穿孔:膀胱に穴が開く
穿孔(せんこう)とは穴が開くという意味です。腫瘍を切除する際に電気メスが深く入ってしまい膀胱穿孔が起こります。特に、左右の膀胱の壁に出来た腫瘍を切除する時に、起こりやすいです。膀胱穿孔が起こった場合は穴の大きさによって対応が異なります。穴が大きければ、お腹を切って穴を防ぐ必要がありますが、穴が小さければ、膀胱の中に管をいれて置くと自然に穴が塞がります。膀胱穿孔の多くは管を入れるだけで治ることが多いです。

■出血
手術では血が避けられませんが、少量であれば影響はほとんどないので、心配することはありません。一方で、出血量が多い場合は不足した血液を補うために輸血が必要になることがあります。

■TUR症候群:吐き気・頭痛など
TUR症候群とは、手術で使う液体が膀胱から取り込まれて、血液中のナトリウムの濃度が低下することによって、吐き気や意識障害などが現れることを指します。症状の程度によっては手術が中止されます。

■尿道損傷:尿道に傷がつく
尿道に傷がつくことを尿道損傷といい、内視鏡を出し入れする際に起こることがあります。前立腺が大きい人や、元々の尿道が細い人などに起こりやすいです。尿道損傷が起きた場合は、通常より長く尿道カテーテル(尿の管)を入れたままにして、傷が自然に治るのを待ちます。損傷の程度によりますが、多くは1週間程度尿道入れたままにしておくと治癒することが多いです。

TURBT終了後に起こる合併症について

手術中だけではなく、手術後に問題が起こることがあります。入院中だけではなく退院後に起こることもあるので、退院後に心配な症状が現れた際は速やかに手術を受けた医療機関に連絡してください。

■発熱
手術の影響によって手術後から翌日にかけて熱が出ることは少なくはありません。一方で、何日も高熱が続くことは多くはなく、手術の影響だけではなく細菌感染が起こっている可能性があります。尿検査や血液検査、画像検査などが行われ、必要に応じて抗菌薬治療が行われることがあります。

■術後出血
手術では切除すべきものを切除した後に、止血を十分に行います。止血が十分ではない状況での手術終了はあり得ません。しかし、手術時にしっかり止血を行ってもまれに後から出血することがあります。少しの出血であれば、膀胱内を持続的に洗う方法(膀胱持続灌流)で止血ができます。一方で、出血が激しく持続膀胱灌流で対応が難しいと判断された場合は、止血を目的とした内視鏡手術が手術が行われます。

TURBT 手術後の経過について

手術後、麻酔の効果がきれるまでは安静が保たれます。
意識がはっきりしていても身体の自由が効かないことはよくあるので、医師や看護師の指示に従うようにしてください。食事は遅くとも手術日の翌日から始まります。
手術後しばらくの間は尿道に尿を出す管(カテーテル)が入っています。膀胱から出血があった場合、カテーテルから出る尿が赤くるので、お医者さんや看護師さんは尿の色を注意深く観察しています。
通常のTURBTであれば尿道カテーテルは2日前後で抜くことができますが、根深く進行した腫瘍を切除した場合や、大きな腫瘍を切除した場合は5日程度尿道カテーテルの留置を継続することが多いです。尿道カテーテルを抜いて排尿がしっかりできるようになり、その他の問題がなければ退院することができます。

TURBTの入院期間について

TURBTの入院期間は1週間程度です。切除した腫瘍の状態により、前後することがあります。手術後は膀胱の傷が早く塞がるように尿道から膀胱に管(尿道カテーテル)を入れておきます。尿道カテーテルが抜ければ退院が近いと考えてよいです。
膀胱の腫瘍を切除した後の膀胱の傷が深く、尿道カテーテルの留置が1週間以上に及ぶ時もあります。この場合は、全身状態に問題がなければ尿道カテーテルの留置を継続した状態で退院することもあります。ただし、回復の様子には個人差があるので、正確な退院の見通しについては担当医などに尋ねてください。

TURBTを受けた人が退院後に注意事項について

退院後もしばらくは血尿が出たり発熱することがあります。状態によっては入院が必要になることがあるので、手術を受けた医療機関に相談してください。その他では、特に日常生活を制限する必要はありません。

TURBTの結果について

退院後の外来で手術の結果について主治医から説明があります。具体的には顕微鏡で調べた腫瘍の性質などを知ることができます。手術結果によって手術後に治療が必要かどうかが判断されます。追加治療は次の4つの場合で必要になります。

  • 上皮内(Cis)が認められた場合→BCG注入療法
  • 再発・進展のリスク分類で追加治療が望まれる場合→BCG注入療法もしくは抗がん剤膀胱内注入療法
  • 腫瘍の深達度が不明な場合、腫瘍がやや深く悪性度が高い場合(T1、high grade)→2nd TUR
  • 腫瘍が筋層に達している場合→膀胱全摘除術

2nd TURと膀胱全摘除術については後述しますが、BCG注入療法、抗がん剤膀胱内注入療法については「膀胱がんのBCG注入療法/抗がん剤治療/放射線治療とは?」を参考にしてください。

TURBTでの新しい技術:PDD、NBI

TURBTでは、手術を行うお医者さんが、肉眼で腫瘍を確認し切除をします。しっかりと確認していますが、膀胱がんは肉眼で確認できないように広がっていることが珍しくありません。そこで、腫瘍の存在部位を明瞭にするための技術が2つほど開発されています。

1つ目はNBIという方法です。NBI(Narrow Band Imaging)は、血液中に含まれるヘモグロビンに吸収されやすいように加工した光です。NBIを用いることで毛細血管が豊富な腫瘍細胞を認識しやすくなり、病気の部分を捉える確率が上がると考えられています。

2つ目はPDD(photodynamic diagnosis)と呼ばれるもので、日本語では光工学診断といいます。この方法では、がん細胞に集まりやすく特殊な光を当てることによって色が変わる物質(光感受性物質)を使います。具体的には、光感受性物質を検査や手術の3時間程前に内服し、検査や手術を受けます。NBI同様に腫瘍を認識しやすくなるので、病気の部分を切除する確率が上がると考えられています。

2nd TURについて

TURBTの結果、腫瘍の残存が疑わしい人には追加の内視鏡手術を行われ、これを2nd TURと言います。2nd TURは次のような場合に行います。

  • 初回の内視鏡手術(TURBT)で筋層まで切除できていないとき(深達度が明らかではない)
  • 初回の内視鏡手術(TURBT)の結果、がん細胞の悪性度が高く、深達度も筋層の一歩手前まで進んでいる(病理検査で腫瘍の深達度がT1で異型度がhigh grade)

最初のTURBTでは、確認された膀胱がんが全て切除されますが、肉眼ではわからない深さまで達している場合がしばしばあります。このため、腫瘍を完全に取り除けるように再び手術が行われます。2nd TURを行っても腫瘍が取り切れていない可能性が残る場合には膀胱全摘除が検討されます。

2. 膀胱全摘除術について

膀胱全摘除術は筋肉の層にまでがんが達した場合に行われます。正式には、根治的膀胱全摘除術といいます。膀胱を取り除くことに加えて、膀胱周囲のリンパ節を取り去る(リンパ節郭清)、新しく尿の出口を作る(尿路変更)という操作が行われます。

膀胱全摘除術はどのような場合に行われるのか

膀胱全摘除術はがんが全身に転移することを防ぐために行われます。筋肉の層にがんが入り込んでいると転移する可能性が上がるので、筋肉の層にがんが見れらた人に検討されます。また、筋肉の層には達してなくても、進行する可能性がある人にも検討されることがあります。膀胱全摘除術が行われるのは次のような条件の人です。

  • 内視鏡手術(TURBT)で筋層浸潤を認めたが遠隔転移はない場合 
  • BCGにより治療ができなかった上皮内がん(Cis)で、遠隔転移はない場合

膀胱全摘除術以外の選択肢には一部だけ膀胱の壁を切除する膀胱部分切除や、放射線治療を行うこともありますが、治療の効果を膀胱全摘除術と比較した研究などがなく、標準治療としては確立されていないのが現状です。

膀胱全摘除術はどんな手術なのか

膀胱全摘除術は一般的には開腹手術で行われることが多いです。下腹部の真ん中に上下方向の切開を入れて手術が行われることが多いです。術者の立場からは膀胱全摘除術を3つのパートに分けることができます。

  • 膀胱の摘出
  • リンパ節の摘出(リンパ節郭清)
  • 尿路の再建(尿路変更)

それぞれについて説明します。

■膀胱の摘出

膀胱を摘出する際には男性であれば前立腺が同時に摘出され、女性は必要に応じて子宮を同時に摘出されます。子宮を膀胱と同時に摘出すると切除する範囲を広くすることができ、がん細胞を取りきれる可能性が高くなります。

また、膀胱がんは膀胱を出た先の尿道で再発することがあるので、膀胱とともに尿道(を摘除することがあります。次の条件がある人は尿道再発のリスクが高いとされています。

  • 上皮内がんがある人
  • 前立腺部にがん細胞見つかった人

上皮内がんは根が浅いがんなのですが、一箇所に留まらず複数箇所に病変を作る(多発する)傾向があるので、尿道に再発するリスクを高める材料と考えられています。
前立腺部というのは、尿道のうち前立腺の内部を貫いている部分のことです。前立腺部の尿道にがん細胞がある場合も尿道再発のリスクが高まると考えられるので、尿道摘除を行うのが望ましいです。
ただし、尿道再発は5%程度発生すると報告されており、がんの状態、患者さんの状態を考慮して尿道摘除を行わないこともあります。

■リンパ節の摘出(リンパ節郭清)

膀胱がんはリンパ節に転移をすることが多いです。このため完治にはリンパ節を全部まとめて取り除くリンパ節郭清(かくせい)が重要になります。リンパ節郭清には治療的効果以外にもリンパ節を取り出して、詳しく調べることで転移の有無を明らかにすることができます。

  • リンパ節に転移したがんを切除する:治療的効果
  • リンパ節転移の有無を確認できる:診断的効果

取り除いたリンパ節に転移があれば抗がん剤治療(術後補助化学療法)が検討されます。リンパ節転移が見つかった人に手術後の抗がん剤治療を行うと、再発率を下げることができます。

■尿路変更:尿が流れる道をつくり直す

尿が作られてから体の外に出るまでの通り道を尿路と呼びます。
腎臓で作られた尿は尿管という管を通って膀胱に流れていきます。膀胱で尿は一時溜められ、ある程度の量が溜まると尿道を通って出て行きます。手術で尿の流れを新たに作り直したり、尿を出す方法を変えることを尿路変更といいます。一般的に行われる尿路変更の方法には次の3種類があります。

  • 回腸導管:腸を利用して尿の出口をお腹に作る
  • 新膀胱:腸を利用して膀胱を新しく作る
  • 尿管皮膚:尿管をそのままお腹から出す

それぞれの内容や方法について説明します。

◎回腸導管

回腸導管は、1950年にBrickerが発表して以来、膀胱全摘除後の尿路変更として長い歴史があり、確立された術式の1つです。
回腸とは小腸の一部で、大腸よりの小腸を指します。回腸の長さは4mから7mで、生体内では縮んで3m前後です。回腸導管では、回腸を15cmほど切り取りとって利用します。切り取る(遊離する)と言っても完全に体から切り離すわけではなく、回腸は腸間膜というもので身体とつながっています。腸間膜は厚さ数cm程度で脂肪を多く含んでおり、中には腸に血液を送る血管が走っています。

遊離した回腸を「導管」にします。図に示したように導管の片方を縫合閉鎖し、閉鎖した側に近い場所に尿管を縫い付け、尿管によって送られた尿が導管の中を通るようにします。尿管は太さが1cmに満たないほど細いですが、医療用の糸を使って丁寧に回腸導管に縫い付けられます。尿管と導管は糸でしっかりとつなぎ合わせてはいますが、縫った部分から尿が漏れてしまうと、くっつきが悪くなります。縫った場所になるべく負担をかけないために、尿管に管(尿管ステント)を入れておきます。尿管ステントを入れておくと、尿はステントを通って出るので、縫った部分に負荷がかかりにくくなります。
回腸導管の閉鎖していない側が尿の出口になります。尿を出すため、下図のように右下腹部に穴をあけて、回腸導管の出口が身体の外に出るようにします。出口にはパウチ(袋)を取りつけて尿を受け止められるようにします。

回腸導管に似た手術の方法である尿管皮膚瘻に比べて、手術後に尿管が狭くなったり、腎臓に感染を起こすことが少ないとされている点が優れています。回腸導管は腸の一部を切るので手術後に腸閉塞などの問題が起きやすい点や、ストーマという尿の出口がお腹にできる変化が短所だと考えられています。

◎新膀胱

新膀胱を作る術式は1988年にStuderとHautmannが別々に発表しました。それぞれをStuder法、Hautmann法と呼びます。両術式は方法こそ異なりますが、再発率や排尿状況などには優劣の差がないと考えられています。
新膀胱とは、回腸と呼ばれる部分の小腸を用いて人工的に膀胱を作る(再建する)方法です。新膀胱では55cmから60cmほど遊離した回腸が利用されます(遊離については回腸導管の説明を参考にしてください)。

遊離した回腸を切り開いて袋状に縫い直して新膀胱を作り、尿管と尿道を新膀胱にを繋ぎ合わせます。尿を出すための出口は尿道のままなので排尿状態は手術前と変わりません。ただし膀胱とは違い、新膀胱では尿が溜まりを感じなくなります。尿意がないために、排尿は時間を決めて行います。また、新膀胱はもともとの膀胱とは違い縮まないので、お腹に力を入れて排尿する必要があります(腹圧排尿)。

◎尿管皮膚瘻
瘻(ろう)というのは「トンネル」という意味です。皮膚に小さな穴を開け、トンネルを作って尿管を体の外に誘導し、尿が皮膚の穴(尿管皮膚瘻)から出るようにします。下図のように出口を1箇所にする方法と2箇所にする方法があります。尿管皮膚瘻は膀胱全摘除術後の尿路変更の中ではもっとも簡便な方法と考えられています。

尿管皮膚瘻は尿管をそのままお腹に出す方法です。回腸導管や新膀胱とは違って腸管を使うことはありません。腸管を使わないので、術後の腸閉塞などのリスクを抑えることができます。とはいえ、腸を切らなくてもお腹の中での手術に変わりはないので、腸閉塞のリスクは0ではありません。
デメリットには尿管狭窄(尿管が狭くなること)があります。尿管狭窄の予防として、半永久的に尿管ステントという細い管を入れておかなければならない人は少なくありません。尿管ステントは感染の原因になったり、つまりを起こします。トラブルを未然に防ぐために、ステントの交換が必要になります。

膀胱全摘除術の手術中に想定されるトラブルについて

膀胱全摘除術の手術中に起こり得るトラブルについて説明します。手術を受ける前に頭に入れておいてください。

■出血

膀胱は血流が豊富な臓器です。そのため摘出する際には多量の出血を伴うことがあるので、状態によっては輸血が必要になります。特に、手術の前に抗がん剤治療などを行っている人や重い血尿があった人ではもともとの血液が不足している状態なので、輸血が必要になる可能性が高いです。

■他臓器損傷

膀胱は直腸と接しているため、膀胱を取り除く際に、膀胱と直腸を剥離(剥がすこと)しなければなりません。剥離の際に直腸に傷がつくことがあり、これを直腸損傷と言います。損傷が大きい場合には直腸に穴が開いてしまうこともあります。
わずかな傷であれば手術中に修復し、食事の開始する時期を遅らせることで対応が可能です。しかし、直腸穴が大きかった場合には、一時的に人工肛門が必要となります。人工肛門は十分に直腸の傷や穴が閉じたと判断した時期で閉鎖するので、閉鎖後は肛門から排便ができるようになります。人工肛門を閉鎖するまでには、手術後から数か月を必要とすることがあります。

■血管の損傷

膀胱全摘除術ではリンパ節郭清が行われます。リンパ節は血管の周りの脂肪に埋まるように存在しているので、リンパ節郭清では血管や神経だけを残してほかの組織を残らず摘除されます。
血管周囲のリンパ節を取り除く際には血管に傷がつくことがあります。損傷が小さければ縫合などの処置で対応できることが多いのですが、損傷が大きいときには血管をつなげ直したり、人工血管による修復が必要な場合もあります。

膀胱全摘術後の合併症について

合併症は検査や治療にともなって起こってしまった不利益を指します。膀胱全摘除術での合併症には次のものがあります。

  • イレウス:腸が一時的に動かなくなること
  • 創部感染:傷がむこと
  • 腎盂腎炎
  • 腸管と腸管の縫合不全:腸と腸のつなぎ目のくっつきが悪いこと
  • 腸管と尿管の縫合不全:腸と尿管のつなぎ目のくっつきが悪いこと
  • 深部静脈血栓症:血液の塊ができること

以下でそれぞれについて解説します。

イレウス:腸が一時的に動かなくなること

膀胱全摘除術の後、一時的に腸が動かなくなることがあり、この状態をイレウスと言います。イレウスになるとお腹が張ったり、腹痛などの症状が現れます。イレウスが疑われる人には腹部のレントゲン写真やCT検査が行われます。 食事を止めて腸管を休める(腸管安静)と改善することが多いのですが、改善しない場合は鼻から腸まで管を入れ、腸に溜まった液体を抜く処置が必要になります。

■創部感染:傷が膿むこと

細菌がお腹の傷(創部)に入り込んで、感染を起すと、傷が膿んでしまうことがあります。回腸導管や新膀胱など尿路変更に腸を使った場合に起こりやすいです。感染の程度により対応が異なりますが、基本的には皮膚を縫合している糸を抜き、傷を開いて膿を外に出すようにすると改善することが多いです。

腎盂腎炎

膀胱を摘出後には膀胱の代わりが必要となるので、尿の流れる道が新しく作られます。尿の流れを再建することを尿路変更と言います。上で説明した回腸導管や新膀胱、尿管皮膚瘻が尿路変更にあたります。尿変更を行うと、尿路に細菌が入り込みやすくなり感染が起こりやすくなります。特に腎臓の一部分である腎盂に感染が起こる腎盂腎炎になると発熱が起こり、場合にはよっては重篤な事態に陥ることもあります。腎盂腎炎になると抗菌薬(抗生剤、抗生物質)治療が必要になります。

■腸管と腸管の縫合不全:腸と腸のつなぎ目のくっつきが悪いこと

回腸導管や新膀胱では回腸の一部を利用して、尿の流れ道を再建します。回腸を切り取った後は消化された食べ物が元通りに通れるように、腸と腸を縫い合わせてつなぐ必要があります。腸と腸のつなぎ目がうまくつかないことがあり、縫合不全と言います。腸と腸の縫合不全が起こる頻度は少ないのですが、起こってしまった場合は再手術で縫合をやり直す必要があります。

■腸管と尿管の縫合不全:腸と尿管のつなぎ目のくっつきが悪いこと

腸管-尿管縫合不全とは、尿管と腸を繋いだ部位のくっつきが不十分な状態を指します。腸管と尿管をつなぐ必要がある回腸導管や新膀胱で起こることがあります。尿の漏れが少ない場合は自然に治ることもありますが、漏れが多い場合は尿管ステントの挿入や、再手術が必要になることがあります。

深部静脈血栓症

手術操作の影響などで血液の流れが悪くなり、血管の中で血液の塊ができてしまうことがあります。特に足の静脈に血液の塊(血栓)ができやすいです。これを深部静脈血栓症と言います。
血液の塊が体を流れていくと、肺の血管に詰まって肺塞栓症を起こし、命に危険を及ぼすことがあるので、予防として血液を固まりにくくする薬を使用したり、足のマッサージが行われます。歩行なども予防に有利に働くので、できるだけ身体を動かすようにしてください。

膀胱全摘除術の入院中の経過について

入院中の経過を術後の過ごし方などについて説明します。

■手術前

手術の2日ほど前に入院することが多いです。施設によっては腸の内容物をできるだけ少なくする処置(腸管処置)が行われます。腸管処置を行う場合は手術前々日から絶食になることがあります。腸管処置は不要とする意見が主流になりつつあるので、手術の前の日の夕方まで食事を許可する施設が増えてきています。手術前には医師や看護師から手術の後の過ごしかたについての説明があるので、説明をしっかりと聞き理解しておくと、手術後の過ごしやすさにつながります。

■手術直後

膀胱全摘除術は全身麻酔で行われます。術後は問題なければ手術室にいるうちに目覚めます。全身麻酔のときには呼吸を助ける管を気管に挿入するのですが、大きな問題がなければ手術室で管を抜くことができます。その後、手術室から集中治療室(ICU)に移動します。手術の直後は出血などの問題が発生しやすいので、慎重に経過が見られます。出血や浸出液を外に出す目的で手術後にはドレーンと呼ばれる管がお腹に入っています。また、尿路変更を回腸導管で行った場合は、ストーマという尿の出口が右下腹部にできており、尿路再建を新膀胱で行った場合には尿道に管(尿道カテーテル)が入っています。

■術後1日目

傷の痛みが徐々にはっきりとしてきます。また管がいくつか身体に挿入されており、点滴にも入っているので、身体を少し動かすのも大変です。しかしここで可能な範囲で動いていくことが後々の回復を助けるので、無理のない範囲で身体を動かしみてください。
水分を開始のタイミングは施設や担当医によっても異なりますが、1日目に水分摂取を少しの量で開始することが多いです。

■術後2日目から9日目

2日目以降はしだいに身体の動きがよくなります。ここで少しずつ自分のできることを取り戻してください。歩くのが難しかったら横になっているより座ったりする時間を増やすだけでも回復の足しになります。無理は禁物なのですが、少しだけ自分に負荷をかけることがポイントです。
腸の動きが順調なら3日目から4日目で食事の開始が検討されます。腸の動きを確実によくする薬はありませんが、よく歩くことが腸の動きの助けになると考えられています。食事を開始する目安は以下の通りです。

  • 水を飲んでも特に問題が現れていない
  • 排ガス(おなら)がある
  • 聴診やレントゲン写真で腸の動きに問題がないことが確認されている

食事が開始されても、食べきれないと思ったら無理に全てを食べる必要はありません。身体を動かすのと同様に無理のない範囲で少しずつ進めることが重要です。5日目前後はお腹からドレーンを抜くことを検討する時期です。ドレーンが抜けるとさらに体が軽くなり、丁度この時期から体の調子がどんどん上がってきます。食事が順調に摂取できていると判断された場合は、点滴も終了となります。無理のない範囲で身体をどんどん動かしましょう。
回腸導管で尿路変更を行った人にはストーマから出てくる尿を受けるパウチの貼り替えの練習が始められます。最初は腸が体の外に出ていることに抵抗を覚えて簡単にはできない人がほとんどですが、徐々に慣れて自分一人でできるようになります。7日目を過ぎた頃に傷の状態が問題なければ抜糸を行います。

■術後10日以降

尿管と腸管のつなぎ目に負担をかけないように入れておいた尿管ステントが術後10日前後で抜去されます。尿管ステントの抜去後に熱が出ることがあります。発熱の原因は主に腎盂腎炎(じんうじんえん)ですが、抗菌薬治療でほとんどの場合よくなります。ストーマに貼るパウチの交換、新膀胱の場合は自己導尿が自分でできるようになった時点で退院です。

膀胱全摘除術による後遺症(晩期合併症)について

手術後に時間が経って現れる合併症があります。ここでヘルニア電解質異常について紹介します。

■ヘルニア

ヘルニアとは、体の中の臓器が本来の場所から突出・脱出した状態のことを意味します。膀胱全摘除術後には、お腹の筋肉が痩せて、筋肉の一部分が薄くなり中から膨らんでくる人がいます。膨らんだ場所には腸が入り込んできている場合もあります。この状態を、腹壁瘢痕ヘルニア(ふくへきはんこんヘルニア)と言います。程度に応じて腹筋を補強する手術が必要になります。
同様に、鼠径部(そけいぶ)が膨らんでくることもあります。鼠径部とは足の付け根あたりのことです。鼠径部から出てくるヘルニアを鼠径ヘルニアと呼びます。いわゆる脱腸です。痛みなどがある場合には、整復や手術が検討されます。

電解質異常

尿には体にとって不要な物質が多く含まれています。膀胱では不要な物質をを吸収することはほとんどありません。しかし、腸で作られた新膀胱は尿の一部を吸収してしまい体の中の物質のバランスに異常をきたす場合があり、調整を行うために薬で治療することがあります。

膀胱全摘除術後の生活の注意点について

膀胱全摘除術後の生活の注意点は尿路変更の方法によって異なります。ここでは代表的な尿路変更の方法として、回腸導管と新膀胱のケースについて説明します。

■回腸導管で尿路変更を行った場合

◎排尿
ほとんどの場合右下腹にストーマという尿の出口が作られています。尿が持続的にストーマから出るので、ストーマには尿を溜める袋を貼り付けます。一時的に尿が袋に溜められ、ある程度の量になったところで溜まった尿を捨てます。

◎食事・水分摂取
食べてはいけないものは基本的にはありません。尿の流れを保つことが重要なので、水分摂取は多めが望ましいです。適当な水分量は一人ひとりで違いがあるので、お医者さんと相談しておくとよいです。 ◎服装

ストーマの位置によりますが、ストーマへの圧迫を避けるためにお腹周りが緩やかな服を選ぶようにしてください。ベルトの装着が難しい人はサスペンダーで代用することができます。

◎入浴
入浴にはパウチを外しても、付けたままでも問題はありません。

その他、有益な工夫などについては公益社団法人 日本オストミー協会のサイトにも詳しく載っているので、参考にしてください。

■新膀胱で尿路変更を行った場合
新膀胱で尿路変更を行った場合、手術の前後で尿道から尿を出すことには変わりませんが、排尿法が大きく変わります。新膀胱は術後も色々な注意点があり、しっかりとした管理が必要になるので、注意点やポイントについて解説します。

◎新膀胱での排尿のしくみ
膀胱の筋肉が収縮するのと同時に尿道括約筋が緩むことで尿が出ます。新膀胱には神経がないので、縮んだりすることができません。このため、お腹に力を入れたり(腹圧排尿)、手でお腹を押さえたり(用手的圧迫)して排尿します。またお腹に力を入れると同時に尿道の筋肉を緩めるという反対の意識も必要になりコツが必要になります。

◎新膀胱での排尿のコツ
排尿のしくみをしっかり頭に入れてください。その上で、慣れるまで排尿は洋式トイレで行うことをお薦めします。男性でも女性でも同じです。残尿がないことが重要なので腹圧排尿だけではなく、用手的圧迫も併用します。排尿のタイミングは時間で決めることをお勧めします。尿意がないので、決まった時間に排尿を行うことで、新膀胱にたまる尿の量をなるべく一定に保つようにしてください。

◎どのくらい以前の排尿状態に近づくことができるのか
時間経過とともに新膀胱が少しずつ大きくなっていき、尿失禁が改善していきます。手術後半年までには、日中の尿失禁はなくなる人が多いです。一方で、夜間に尿が多く作られることや、尿を止める筋肉(尿道括約筋)が緩みやすくなるため、30%前後の人に夜間の尿失禁が残ります。

◎残尿や一回の排尿量、排尿間隔について
残尿量が100ml以下であれば新膀胱の大きさや排尿状況に問題がないと考えられます。尿が溜まりすぎる状態が長く続くと新膀胱が巨大化して問題になるため、排尿の間隔は一回の尿量が排尿量と残尿量を合わせて400mlを超えないように設定します。もし、新膀胱が巨大になりすぎるとる尿路感染症や腎臓への悪影響、膀胱結石(膀胱の中に石ができる)などの危険性が高まります。

◎自己導尿(間欠的自己導尿)のポイントについて
施設により指導法が異なりますので筆者の臨床経験から手順を示します。

  1. 手指を石鹸と水道水で洗浄します。常日頃から手指を清潔に保つことが重要です。その後尿道の周りを消毒し、カテーテルの先端が他のものに触れないようにします(清潔保持)。
  2. 男性も女性も洋式トイレの方が負担が少なので、可能ならば洋式トイレを選びます。
  3. しっかりと尿道を確認し、男性の場合は陰茎を45度の角度に牽引します。女性の場合は小陰唇をしっかりと開きます。
  4. 痛み止めのゼリーを塗ったカテーテルをゆっくりと挿入していきます(愛護的操作)。
  5. しっかり挿入したところで、尿が出てきたのを確認し、尿がカテーテルから出てくるのを防いでいるキャップや洗濯バサミを外し排尿します。
  6. 尿の流出が終わったところで、カテーテルを少し引き出して残尿がないことを確認します。
  7. カテーテルを引き抜き終了です。

注意点として、カテーテルの挿入が上手くいかないときは無理をしないようにしてください。どうしても上手くいかないときは強引に行うのではなくすみやかに医師の診察をうけてください。尿道はデリケートな臓器ですので、清潔にかつ優しく行うことが重要です。

3. 手術についてよくある質問や知っておくとよいこと

ここでは膀胱がんの手術でよくある質問をベースに知っておくとよいことをいくつか説明します。

膀胱全摘除術はロボット手術で行えるのか

現在のところ、膀胱全摘除術は開腹手術で行うことが一般的です。 腹腔鏡手術やロボット手術でも膀胱全摘除術を行うことができますが、どの施設でも行えるほど普及はしていません。

新膀胱はどのような人に向いているのか

新膀胱は手術前に近い生活を送ることができるので希望する人は少なくありません。しかし、誰でも新膀胱による再建を行える訳ではありません。具体的には、次の条件に当てはまる人には新膀胱が積極的には勧められないことが多いです。

  • 尿道を摘除しなければいけない理由がある
    • 尿道または尿道の近くにがんがある(男性では前立腺部尿道、女性では膀胱頸部)
    • 膀胱がんの種類のうち上皮内がんがある
  • 腎機能が低下している(クレアチニンが1.5mg/dl以上)
  • 手術の前から力を入れることで尿が漏れるような症状(腹圧性尿失禁)がある

それぞれの条件について説明します。

■尿道を摘除しなければいけない理由がある
新膀胱は膀胱を摘出する前と同様に尿道を使用して排尿を行うので、尿道を残さなければなりません。尿道または尿道の近くにがんがある場合は尿道を摘除しないとがんが残ってしまう可能性があるので、原則として新膀胱を選ぶことはできません。

■腎機能が低下している(クレアチニンが1.5mg/dl以上)
新膀胱は腎臓への長期的な影響が不明です。このため腎臓の機能が低下している人に対しては勧められません。腎臓の機能はクレアチニンという血液検査項目などが目安として用いられることが多いです。

■手術の前から尿が漏れるような症状(腹圧性尿失禁)がある
新膀胱で排尿をするには、尿を溜めておく体に必要な尿道括約筋(膀胱と尿道のつなぎ目を締める筋肉)の機能が保たれてなければなりません。尿道括約筋が弱っていると、新膀胱に尿を溜めることができなくて尿が漏れるような状況が続いてしまい、生活の質が著しく落ちてしまいます。
新膀胱は体のイメージを損なうことのない優れた術式です。しかし、新膀胱の長所と短所があり、また行えるかどうかについても判断基準があります。自分や家族の考えなども踏まえて他の術式と比較しながら最も自分に合うものを選ぶことが大切です。

参考:
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J Urol. 1988;139:39-42
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