1. 尿検査で「潜血(2+):要精密検査」の結果が出た
ほとんどの人が学校や職場の健診(健康診断)で検尿を受けます。検尿は痛みを伴うことなく、腎臓や膀胱の病気を探すことができるのでよく行われます。
検尿の検査項目の1つに潜血があります。これは「わずかな量の血液が混じっている」ということを意味しています。つまり、尿の潜血反応があるということは血尿が出ているということを表しています。
潜血の結果は次の表で示す5段階で評価されます。
【潜血反応の結果とその解釈】
潜血反応の結果 | 潜血の程度 |
− | なし |
+− | なしor極めて少ない |
1+ | あり(少なめ) |
2+ | あり(中等量) |
3+ | あり(多め) |
潜血反応がプラスと出た場合には尿に血が混じっていると判断されます。また、数字が大きくなるほど、含まれる血液の量が多くなります。数字が小さいときは尿の見た目が赤く見えないことがほとんどです。
尿が赤い自覚がないのに健診で突然血尿が出ていると言われると、なんだか怖いと思ってしまうかもしれません。そんな、ドキッとさせられる血尿について説明していきます。
2. 血尿には2つの種類がある
健診で血尿があると言われた人の中には、「おしっこの色はいつもと同じ黄色なのに本当に血が出ているの?」と疑問に思った人がいるかもしれません。
実は、ひとくちに血尿と言っても「顕微鏡的血尿」と「肉眼的血尿」の2つがあります。それぞれについて説明します。
顕微鏡的血尿
顕微鏡でみて初めて血液が混じっていることがわかるタイプの血尿を「顕微鏡的血尿」と言います。顕微鏡で視野を400倍に拡大して尿を観察したときに、1つの視野に5個以上の赤血球が含まれている状態のことを指します。ざっくり言うと顕微鏡的血尿は見た目にはわからない程度のごくわずかな量の血液が尿に混ざっている状態です。
肉眼的血尿
正常な尿と変わらないように見える「顕微鏡的血尿」に対して、「肉眼的血尿」は見た目で血尿だとわかるタイプの血尿です。その色はさまざまで、桜の色のような薄いものからケチャップのような濃い色(鮮血)まであります。
1Lの尿中に1mLの血液が混ざると、尿が赤く色づいて見えます。出血の量が多くなるにつれて尿の赤みは濃くなります。(このコラムでは肉眼的血尿についてあまり触れませんが、次回のコラムで詳しく説明します。)
検尿で潜血があると言われた場合どちらの血尿なのか、どれくらい出血しているのか
健診で血尿が出ていると言われた場合、そのほとんどが顕微鏡的血尿です。
顕微鏡的血尿の出血量は1Lの尿に対して1mL未満です。1日に1.5Lの尿が出たとすると、尿に含まれる血液の量は1.5mL未満ということになります。血液検査の採血量が10mLから20mLであることや生理(月経)の出血量が20mLから140mLであることを考えれば、顕微鏡的血尿ではごくわずかしか出血していません。
3. 顕微鏡的血尿は深刻な問題が隠れているのか、どんなことが調べられるのか
次に、「潜血があると言われた人」の多くに当てはまる顕微鏡的血尿の頻度や原因などについて説明します。顕微鏡的血尿は深刻な問題のサインなのでしょうか。
顕微鏡的血尿は珍しくはない
日本で行なわれた健診では、男性で3.5%、女性で12.3%に顕微鏡的血尿がみつかったという研究報告があります。この結果は言い換えると、男性では約30人に1人、女性では約8人に1人に顕微鏡的血尿が見つかったということになります。顕微鏡的血尿が見つかるのは決してまれなことではありません。
顕微鏡的血尿は深刻な病気のサインなのか
では、顕微鏡的血尿を指摘された人には深刻な病気がどれくらいの確率でみつかるのでしょうか。「顕微鏡的血尿の指摘があり、症状のない健康な人」を調べた研究のまとめによると、がんなどの命にかかわる病気がみつかった人は1.5%から2%未満であったとされています。
実は、顕微鏡的血尿は疲れやストレスといった体調面や心理面の不調が原因で現れることがあるので、必ずしも深刻な病気のサインとは限りません。
顕微鏡的血尿の人にはどんな検査が行なわれるのか
少ないながらも顕微鏡的血尿の人には命にかかわる病気が隠れている可能性があります。顕微鏡的血尿の人にはどんなことが調べられるのでしょうか。
■まずは再検査
健診などで潜血が指摘された人は、もう一度尿検査を行い、健診の結果と一致するかを確認してください。病院で再検査をしたときには血尿がなくなっているケースもあります。この場合は、病気が隠れている可能性が極めて低いと判断されて、追加の検査は行われません。
また、病院で行なわれる尿検査では、健診では調べられなかった、尿中に含まれている「細胞の種類」や「細胞の形」などを知ることができます。より詳しい結果をもとにすることでどうして尿に血がまじるのかが推測されやすくなります。
■再検査でも血尿が指摘された場合
尿検査で推測される原因に応じて、腹部超音波検査や尿細胞診、血液検査が行なわれます。腹部超音波検査では腎臓や膀胱の形や中の様子を観察することができ、尿細胞診は尿中のがん細胞の有無を調べることができます。ここまでの検査で異常がなければ、それ以上の詳しい検査は行なわれず、時間をあけて尿検査を行い、血尿が現れないかを見ていくことになります。 尿検査の間隔は専門家でも意見が分かれており、1年に1回の尿検査とすることもあれば、4ヶ月後に再検査とすることもあります。受診した際に医師に確認してください。
顕微鏡的血尿で特に注意が必要な人
顕微鏡的血尿の人に生命に関わるような病気がみつかることは多くはないので、ほとんどの人は少ない検査だけで済みます。しかし、次の条件に当てはまる人は最初からより詳しく調べられることが望ましいとされています。
- 40歳以上の男性である
- 喫煙歴がある
- 仕事で発がん化学薬品に触れたことがある
- 過去に肉眼的血尿があった
- 泌尿器科で過去に治療をした病気がある
- 膀胱炎などの尿路感染症にかかったことがある
- 排尿するときに刺激症状がある
- フェナセチン(鎮痛剤)をかなりの頻度で使用していた
- 骨盤内に放射線による治療を受けたことがある
- シクロフォスファミド(免疫抑制剤または抗がん剤)による治療を受けたことがある
この条件は膀胱がんや尿管がんなどの尿路(尿の流れる道)にがんができやすい人の特徴を踏まえたものです。当てはまる人が顕微鏡的血尿を指摘された場合、最初から腹部超音波検査と尿細胞診が行われることが多く、内視鏡検査(膀胱鏡検査)や画像検査(CT検査やMRI検査)が必要に応じて行なわれます。
上の条件には難しい言葉もあるので、自分の状況が当てはまっているかどうかわからないという人もいるかもしれません。顕微鏡的血尿で病院を受診した場合、医師側から上記の項目に基づいた質問が行なわれるので、自分で完璧に説明できなくても検査の判断に支障はないので安心してください。上手に質問に答えるコツは、「過去の仕事の内容」、「過去に治療したことのある病気」「過去に使用していた薬」について整理しておくことです。
4. 健診で血尿が出ているといわれても慌てないこと、そしてきちんと原因を調べることが大切
血尿の成り立ちと血尿を指摘された人の心構えについて説明してきました。ここまでの内容をまとめます。
- 血尿には「顕微鏡的血尿」と「肉眼的血尿」の2つがある
- 健診で指摘される血尿はほとんどが顕微鏡的血尿である
- 顕微鏡的血尿から命にかかわる病気がみつかることは多くはないが、きちんと検査を受けることが重要である
- 顕微鏡的血尿の人の中でも最初から慎重に調べなければならない人がいる
健診で指摘される顕微鏡的血尿はすぐに治療しなくてはいけない状態ではないので慌てる必要はありません。また、命にかかわる病気が隠れていることも多くはないので、心配になりすぎることもありません。
しかし、放置をしていると、厄介な病気を見逃してしまうこともありえるので、検査は必ず受けるようにしてください。
「慌てず、心配になりすぎず、原因をきちんと調べること」を心がけてください。
執筆者
・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011
・「異常値の出るメカニズム」(河合忠/著)、医学書院、2018
・Kidney Int. 1996 Mar;49(3):800-5.
・日本プライマリ・ケア連合誌 2010, 33 : 207-10
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。