ぼうこうがん
膀胱がん
膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍
8人の医師がチェック 174回の改訂 最終更新: 2019.07.19

膀胱がんの薬物治療(BCG注入療法や抗がん剤治療など)や放射線治療について

 

膀胱がん治療の基本は手術です。ただし上皮内がんというタイプにはBCG膀胱内注入療法(BCG注入療法)が標準的です。また診断時にすでに離れた場所に転移がある人には抗がん剤治療が行われます。

1. 膀胱内注入療法について:BCG注入療法と抗がん剤注入療法

表在性膀胱がんは再発しやすいことが知られています。このため、再発予防を目的とした治療として膀胱内注入療法(膀胱の中に薬物を投与する治療)があります。また膀胱内注入療法は上皮内がんというタイプの治療としても行われます。
注入に用いられる薬はBCGと抗がん剤に大別されます。抗がん剤よりもBCGの方が効果が高いとされている一方で、副作用はBCGの方が強く出る傾向があります。BCGと抗がん剤のどちらを使うかは、がんの状態や目的(治療もしくは再発予防)によって適した薬が選ばれます。

抗がん剤注入療法について

抗がん剤を膀胱の中に注入して、再発を予防したり、残ったがん細胞の死滅させることが目的です。BCG注入療法より効果は劣りますが、副作用も軽いという特徴があります。抗がん剤注入療法には手術直後に薬が投与される「抗がん剤即時単回注入」と、定期的に薬が投与される「維持療法」の2つがあります。いずれも再発予防が目的です。また、BCG療法の副作用が強く出る人に対して、BCG療法の代わりとして使われることもあります。
膀胱内注入療法に使われる抗がん剤は主に4種類あります。

  • マイトマイシンC(mitomycin C)
  • ピラルビシン(pirarubicin)
  • ドキソルビシン(doxorubicin)
  • エピルビシン(epirubicin)

それぞれを比較した報告は少ないので、どの抗がん剤が最適かの結論は出ていません。抗がん剤で効果が不十分な場合は抗がん剤の種類を変更する場合があります。
膀胱の中に管(カテーテル)を入れ、管を通して抗がん剤の投与を行います。抗がん剤を1-2時間程度膀胱内にとどめておき、その後所定の場所で排尿します。投与直後に排尿時の痛みや排尿困難感などの症状が現れますが、1日から3日で軽快することが多いです。症状に対しては鎮痛剤が効果的なので、心配しすぎる必要はありません。

参考:
Jpan J Clin Oncol. 2009;39:244-250
Int J Clin Oncol. 2008;13:510-514, Int J Urol. 2007;14:1000-1004

膀胱がんのBCG注入療法について

BCGとは、Bacille de Calmette et Guérin(フランス語)の略です。BCGはウシ型結核菌をもとにして作製された細菌で、BCGを利用して結核に対するワクチンが作られています。BCGには膀胱がんを死滅させる効果が確認されているので、BCGは結核の予防接種だけでなく、膀胱内注入療法に応用されています。効果は明らかですが、どのようにしてがん細胞を死滅させるかはまだ不明な点があります。
BCG注入療法は膀胱上皮内がんの治療や、表在性膀胱がんの再発予防の目的で行われます。どちらの目的であっても毎週1回BCG溶液を膀胱内に注入し、6回から8回行われます(導入療法)。再発の可能性が高い人には、1年から3年にわたってBCG注入療法が行われることがあります(維持療法)。
BCG注入療法の具体的な内容について説明します。まずBCGを生理食塩水40mlで溶解させて膀胱内に注入します。その後、2時間膀胱内にBCG溶液を入れたままにしておき、その後決められた場所で排尿します。
BCG膀胱内注入療法では、膀胱炎などの副作用が高い頻度で出ます。BCG膀胱内注入療法は副作用も多い治療です。副作用による症状が強く出て治療の途中で断念する人もいます。症状は我慢するのではなく、すぐに主治医に相談して副作用と付き合うことが重要です。
主な副作用は下記のものです。

副作用 発現頻度
頻尿 48%
排尿時痛 44%
血尿 21%
発熱 20%

参考:Urology 2008;71:1161-1165

■頻尿・排尿時痛
頻尿や排尿時痛はBCG膀胱内注入療法直後から出現し、多くは2日から3日で改善します。飲酒や刺激物の摂取は症状を悪化させる可能性が指摘されているので治療中は控えてください。また痛みに対しては鎮痛剤が効果的なので、我慢をせずにお医者さんに相談して、痛み止めの使用を検討してみてください。また必要に応じて、BCGの投与を一時中止し、抗菌薬治療が行われることもあります。

■発熱
BCG投与後、発熱する場合がありますが、多くは24時間以内に解熱します。しかし、2日間にわたり発熱が継続する場合は、BCGが体内に入り込んでいる可能性も考えられます。発熱が続く場合は、放っておかず治療中の病院に相談するようにしてください

■血尿
血尿はしばしばみられる副作用すが、一時的なことが多いので過度な心配は不要です。一方で、血尿が長引く場合にはBCGの投与を控えるたり、隠れた他の原因の有無を探るために膀胱鏡などの検査で詳しく調べることがあります。

関連記事:膀胱がんの再発を防ぐBCG注入療法の効果は?

2. 膀胱がんの抗がん剤治療について

表在性膀胱がんに対しては薬物療法として、抗がん剤膀胱内注入療法が行われます。一方で浸潤性膀胱がん(がんが進行して筋層にまで及んでいる状態)には抗がん剤注入療法の効果が期待できないので、点滴による抗がん剤治療が行われます。 膀胱内注入療法にも抗がん剤が使われるので、どちらの治療を指しているのかの紛らわしく感じるかもしれません。一般的に、単に抗がん剤治療と言う場合は点滴での治療を指すと考えてください。 また、抗がん剤治療は遠隔転移(所属リンパ節以外への転移)の有無で治療の目的に違いがあるので、別々に説明します。

遠隔転移がない場合

遠隔転移がない浸潤性膀胱がんの人には膀胱摘出が必要になります。手術後の再発率を下げるために、必要に応じて手術の前後で抗がん剤治療が行われます。手術前に行われる抗がん剤治療を術前補助化学療法、手術後に行われる抗がん剤治療を術後補助化学療法といいます。ただし、手術前後の抗がん剤治療は膀胱摘出が必要な全ての人に行われるわけではなく、所属リンパ節転移がある人や、膀胱周囲にまでがんが及んでいる人に対して検討されます。

■術前補助化学療法(手術の前に行われる抗がん剤治療)の効果について
術前化学療法では手術前に3回(3コース)抗がん剤治療が行われることが多いですが、がんの状態などを踏まえて、回数を増やしたり減らしたりします。
膀胱全摘除術だけの場合と、術前補助化学療法を併用した場合の5年生存率を比較した研究結果が次の表です。

治療法 5年生存率
術前補助化学療法+膀胱全摘除術 50%
膀胱全摘除術 45%

参考:
Eur Urol. 2005;48:202-205

1回の抗がん剤治療には1ヶ月程度が必要になので、仮に術前化学療法を3コース(3回)行った後に手術を予定したとすると、術前化学療法を行わない場合と比べて手術が約3ヶ月先になります。 術前化学療法に用いられる抗がん剤の組み合わせ(レジメン)はM-VACもしくはGC療法というものです。詳しい内容はこの後の説明を参考にしてください。

■膀胱全摘除術後に行う抗がん剤治療(術後化学療法)の効果について
膀胱摘出後、顕微鏡を使った検査(病理検査)でがんの進行具合や性質が詳しく調べられます。病理検査によって、がんが取りきれたのか、リンパ節に転移があるかなどがはっきりします。病理検査の結果が次の2つに当てはまった人が、術後補助化学療法(術後の抗がん剤治療)を受けると、生存率上がることがわかっています。

  • がんが膀胱の外にまで広がっていた
  • リンパ節に転移があった

膀胱全摘除術だけの場合と、術後補助化学療法を併用した場合の5年生存率を比較した研究結果が次の表です。

治療 5年生存率
術前補助化学療法+膀胱全摘除術 37.0%
膀胱全摘除術 29.1%

参考:
J Clin Oncol. 2016;34:825-832

使用する抗がん剤の組み合せ(レジメン)は術前化学療法と同じく、M-VAC療法やGC療法です。術後化学療法の最適な回数はまだはっきりとはしていませんが、2コースから4コース行うのが一般的です。関連記事でも、膀胱がんの術後補助化学療法についてとりあげているので、参考にしてください。

転移した膀胱がんの場合

膀胱がんが発見された時点で、遠隔転移(所属リンパ節以外の部位への転移)がある場合や、広がりが大きくて手術で取り切れない場合には、基本的に膀胱全摘除術は行われません。代わりとして抗がん剤治療が行われます。
抗がん剤治療中は2ヶ月から3ヶ月に1回程度、画像検査(CT検査など)が行われ、効果の有無が確認されます。基本的には効果がなくなるまで、抗がん剤治療が続けられますが、繰り返していくうちに効果が弱まっていくので、効果がなくなると他のレジメンに変更されます。効果のある抗がん剤治療がなくなった場合や、身体が消耗して抗がん剤治療が行えない場合は、緩和治療が主体になります。

3. 抗がん剤治療のより詳細な説明について

治療に用いられる抗がん剤の組み合わせをレジメンといいます。転移している膀胱がんにはに効果があるレジメンには次の3つがあります。

  • M-VAC療法
  • GC療法
  • PG療法

それぞれについて投与スケジュールや、効果、副作用などについて詳しく説明します。

M-VAC療法について

M-VAC療法はメトトレキサート(略号:MTX)、ビンブラスチン(略号:VBL)、ドキソルビシン(略号:ADM(DXR、ADR))、シスプラチン(略号:CDDP)の4種類によるがん化学療法です。各薬剤の略号の頭文字を合わせてM-VAC療法と呼ばれています。
M-VAC療法は約20年にわたって、膀胱がんの抗がん剤治療において、効果が高い方法として確立しています。薬を4つ用いることで、シスプラチンだけを使った治療より生存期間が約4ヶ月延びると考えられています。効果の高い一方で、副作用がやや多く、現在は後述するGC療法の方が多く行われるようになってきています。
通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量を元に腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 2 15 22 28
メトトレキサート 30mg/m2 - - - - -
ビンブラスチン 3mg/m2 - - - - -
ドキソルビシン 30mg/m2 - - - - - - -
シスプラチン 70mg/m2 - - - - - - -

矢印が入っている欄はその日に投薬があることを示します。空欄は投薬しないという意味です。3日目から14日目、16日目から21日目、23日目から28日目は何も薬を投与しない休薬の日です。
上記のスケジュールで4週間(28日)を1サイクルとして繰り返していきます。
この他に副作用対策として一般的に5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療の効果や症状、内臓機能、骨髄機能などを確認しつつ治療継続の是非などが判断されます。

■治療効果
約60%の人で転移巣の縮小効果を認めます。縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約7ヶ月です。

■副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
好中球減少 96% 87% 10-18日目
食欲不振 85% 28% 1-5日目
悪心(吐き気) 83% 21% 1-5日目
発熱 17% 17% 10-14日目
貧血 66% 14% 20日目-

主な副作用とその特徴は表に示した通りです。副作用が強く出た人は、入院や入院期間の延長が必要になります。副作用の中でも、好中球減少には特に注意が必要です。好中球は細菌などの外敵に対する防御を担う細胞なので、減少すると感染症にかかりやすくなり、かかった場合は重症化しやすいです。早期に治療を始めて重症化を防ぐために、発熱や悪寒、喉の痛みなどがみられた場合は自己判断で対処せず、速やかにお医者さんに相談してください。

参考:
J Clin Oncol. 1992;10:1066-73
J Clin Oncol. 2000;17:3068-77

GC療法について

GC療法はゲムシタビン(略号:GEM)とシスプラチン(略号:CDDP)の2種類による抗癌剤治療です。2つの薬剤の略号の頭文字を合わせてGC療法と呼ばれています。GC療法は、M-VAC療法と比較して治療効果が劣らないことが証明されており副作用が少ないので、広く普及しています。
通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量をもとに腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 2 8 15 28
ゲムシタビン 1000mg/m2 - - - - -
シスプラチン 70mg/m2 - - - - - - -

上記のスケジュールを4週間(28日)を1サイクルとして繰り返していきます。
副作用対策として一般的に5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)、副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療効果や症状、内臓機能、骨髄機能などを確認しつつ治療継続の是非などが判断されます。

■治療効果
GC療法により約60%の人で腫瘍の縮小効果を認めます。縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約7ヶ月です。

■副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
血小板減少 70% 21% 10-18日目
好中球減少 66% 14% 10-18日目
貧血 51% 2% 20日目-
悪心(吐き気) 59% 0% 1-5日目

GC療法の注意すべき副作用としては、血小板減少があります。血小板は、止血に重要な役割を果たしています。血小板が極端に減少すると出血しやすくなるので、必要に応じて出血血小板輸血が行われます。
M-VAC療法と同様に好中球が減少による感染症にも注意が必要です。抗がん剤治療中に発熱や悪寒、喉の痛みなどが現れた人は、自己判断で対処せず、お医者さんに相談してください。

参考:
J Clin Oncol. 2000;17:3068-7

PG療法について

PG療法はパクリタキセル(略語:PTX)とゲムシタビン(略号:GEM)の2種類による抗がん剤治療です。2つの薬剤の略号の頭文字を合わせてPG療法と呼ばれています。PG療法は、M-VACやGC療法の効果がなくなった人に行われます。
通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量をもとに腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 8 15 28
パクリタキセル 180mg/m2 - - - - - -
ゲムシタビン 1000mg/m2 - - - -

■治療効果

PG療法により約30%の人で腫瘍の縮小効果を認めます。縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約5ヶ月です。

■副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
脱毛 100% - 14-21日目
好中球減少 69% 45% 7-14日目
皮膚発赤 21% 6% 1日目
知覚異常 67% 6% 3日目以降
血小板減少 18% 6% 7-14日目

程度に差はありますが、脱毛はほぼ全員に発生します。またM-VAC療法やGC療法と同じく、好中球が減少による感染症には注意が必要です。また手や足のしびれも副作用として出現することがあり、痛みを伴う場合もあります。痛み止め、ビタミン剤、漢方薬などで改善が期待できるので、お医者さんに相談し見てください。

膀胱がんに対して使用する抗がん剤のそれぞれの特徴について

ここまでは、レジメンごとの内容を深く掘り下げて説明してきました。これ以降は一つひとつの抗がん剤についてより専門的に詳しく説明します。

■メトトレキサート(methotrexate)
メトトレキサート(略号:MTX)は葉酸代謝拮抗薬(ようさんたいしゃきっこうやく)と呼ばれる種類の薬剤です。
細胞の増殖には遺伝情報を保存しているDNAの合成が必要となります。DNA合成にはビタミンの一つである葉酸(ようさん)が必要です。メトトレキサートはDNA合成に必要な活性葉酸の産生に関わる酵素(DHFR:ジヒドロ葉酸還元酵素)の働きを阻害することで抗腫瘍効果をあらわします。
膀胱がんにおけるM-VAC療法の他、乳がんにおけるCMF療法などのがん化学療法のレジメンで使われます。また、MTX自体はDNA合成の活性を抑えることによるリンパ球免疫細胞の一種)の増殖抑制作用などにより、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬(例:リウマトレックス®など)としても使われています。
注意すべき副作用として吐き気や食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制およびそれに伴う間質性肺炎など、肝機能障害、腎障害などがあります。また粘膜障害にも注意が必要で日々の生活の中での口腔ケアなども大切です。

■ビンブラスチン(vinblastine)
ビンブラスチンは、細胞分裂における途中段階を阻害し、がん細胞の増殖を抑えることで抗腫瘍効果をあらわす薬です。微小管という細胞分裂に必要な物質を阻害することから微小管阻害薬と呼ばれます。微小管阻害薬の中でも、ビンブラスチンと類似した薬剤はニチニチソウ(旧学名:Vinca rosea)という植物の成分を元に造られたことから、旧学名を由来とするビンカアルカロイド系という種類の薬に分類されます。
ビンブラスチンは、膀胱がんにおけるM-VAC療法などの他、ホジキンリンパ腫に対するABVD療法、胚細胞腫瘍におけるVeIP療法などのがん化学療法のレジメンでも使われます。注意すべき副作用として骨髄抑制、肝機能障害、末梢神経障害便秘イレウスなどがあります。骨髄抑制の中でも特に白血球減少による易感染性(感染しやすくなること)などには注意が必要です。

■ドキソルビシン(doxorubicin)
抗がん剤には土壌などに含まれる微生物を由来とした製剤があります。生物由来の抗がん剤を抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質、抗悪性腫瘍性抗生物質など)と呼び、がん治療における選択肢の一つになっています。抗生物質と言っても感染症の治療に使う抗生物質(抗菌薬)とはまったく別の物質です。
ドキソルビシンはアントラサイクリン系という抗がん性抗生物質に分類され、細胞増殖に必要なDNAやRNAの生合成を抑えることで抗腫瘍効果をあらわします。
ドキソルビシンは膀胱がんにおけるM-VAC療法のレジメンで使われる他、乳がんへのAC療法や造血器腫瘍(非ホジキンリンパ腫におけるR-CHOP療法など)など他のがんのレジメンで使われることもあります。
注意すべき副作用として心機能障害、骨髄抑制、吐き気などの消化器症状、脱毛などがあります。心機能障害は特に注意すべき副作用の一つで、動悸や息切れなどがあらわれた場合は医師や薬剤師などへの連絡が大切です。
またドキソルビシン投与時には血管刺激性による血管痛が生じる可能性があります。また、ドキソルビシンの薬液の色(赤色)の影響で尿が赤くなる可能性があります。副作用を事前に主治医や薬剤師などからしっかりと聞いておくことも大切です。

■シスプラチン(cisplatin)
シスプラチンは、細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する抗がん剤です。薬剤の化学構造の中にプラチナ(白金:Pt)を含むためプラチナ製剤という種類に分類されます。
膀胱がんでは主にM-VAC療法やGC療法のレジメン、放射線との併用療法などで使われますが、肺がんなど他のがん化学療法のレジメンに使われることも多い抗がん剤です。
注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、骨髄抑制、末梢神経障害、消化器障害、血栓塞栓症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の増悪などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかり守ることも大切です。

■ゲムシタビン(gemcitabine)
ゲムシタビンは、細胞分裂に必要なDNA合成の過程を阻害し、がん細胞の増殖を抑える代謝拮抗薬(たいしゃきっこうやく)という種類に分類される抗がん剤です。
ゲムシタビンは細胞内で代謝された後、DNA鎖に取り込まれることによって細胞の自滅(アポトーシス)を誘発させる作用などによって抗腫瘍効果をあらわします。
膀胱がんでは主にシスプラチンとの併用によるGC療法のレジメンで使われます。他にも非小細胞肺がん膵がん卵巣がん胆道がん乳がんといった多くのがんに保険適用を持つ抗がん剤です。
注意すべき副作用に骨髄抑制、間質性肺炎、吐き気や食欲不振などの消化器症状、肝機能障害などがあります。また発熱は特に初回の治療後に出現しやすいとされ、感染症にかかっている可能性なども考慮し、発熱があらわれた場合は自己判断せずに医師などの指示に従い適切に対処することも大切です。

■カルボプラチン(carboplatin)
シスプラチンと同じく化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むことからプラチナ製剤という種類に分類される抗がん剤です。細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。
カルボプラチンはシスプラチンに匹敵する抗腫瘍活性を持つ薬剤で、シスプラチンに比べて腎毒性や消化器障害などの軽減が期待できます。なんらかの理由でシスプラチンが適さないようなケースに対してシスプラチンの代わりとして使われることもあります。
膀胱がん治療において、ゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法がありますが、シスプラチンの代わりにカルボプラチンを使う治療法もあります。またカルボプラチンとパクリタキセルを併用する治療法が考慮される場合もあります。膀胱がん以外にも肺がんなど多くのがん治療で使われることがあります。
シスプラチンと比べれば副作用の軽減が期待できますが、それでも副作用はあります。腎障害(急性腎障害など)、吐き気などの消化器症状、骨髄抑制、間質性肺炎などに注意が必要です。

■パクリタキセル(paclitaxel)
パクリタキセルは、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管を阻害することで、がん細胞の増殖を抑え、やがて細胞死へ誘導させることで抗腫瘍効果をあらわす微小管阻害薬の一つです。
膀胱がん治療(M-VAC療法など)で使われるビンブラスチンは微小管阻害薬のビンカアルカロイド系という種類ですが、パクリタキセルはイチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により微小管阻害薬の中でも、学名を由来としたタキサン系という種類に分類されます。
膀胱がんの治療においてカルボプラチンとの併用療法やゲムシタビンとの併用療法などが選択肢となる場合があります。膀胱がん以外にも肺がん胃がん乳がんなどの多くのがん治療に使われています。
注意すべき副作用に過敏症、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害、脱毛などがあります。病態などにもよりますが脱毛は抗がん剤の中でも高頻度であらわれる薬の一つです。また製剤の添加物にエタノールを含むため、アルコール過敏の体質を持つ場合には注意が必要です。

■マイトマイシンC(mitomycin C)
抗がん剤の中でも土壌などに含まれる微生物を由来とした抗がん剤を抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質、抗悪性腫瘍性抗生物質)と呼びます。マイトマイシンCは抗がん性抗生物質の一つです。細胞増殖に必要なDNAの複製を阻害する作用や、フリーラジカルといってDNAに対して損傷をあたえる物質によるDNA鎖を切断する作用などにより抗腫瘍効果をあらわします。
膀胱がんでは主に膀胱内に抗がん剤を投与する膀胱内注入療法の選択肢となっています。
マイトマイシンC自体は必要に応じて静脈内、動脈内、髄腔内など膀胱内以外の投与経路の選択が考慮できる製剤です。
膀胱内注入においては、薬剤成分が血液中へ移行しにくいこともあり骨髄抑制などがあらわれることはまれとされています。しかし全身への影響がないわけではなく、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血など)、発熱、過敏症などに注意は必要です。また局所の副作用として膀胱炎、血尿増強、頻尿などがあらわれる場合があります。
膀胱内注入療法では排尿によって薬剤成分が排泄されるため、患者さんの体から出た抗がん薬にほかの人が触れないよう注意が必要です。排尿の際には座位で行うなど、トイレ周囲への汚染防止対策なども大切です。また薬剤の色が青紫色の結晶(結晶性の粉末)で、排尿時に紫色の尿が出ることが考えられるため、事前に処方医や薬剤師などからしっかりと説明を聞いておくことも大切です。

■ピラルビシン(pirarubicin)
ピラルビシンは、ドキソルビシンなどと同じアントラサイクリン系の抗がん性抗生物質に分類される抗がん剤です。腫瘍細胞に取り込まれ、細胞増殖に必要な核酸(DNA、RNA)の合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわします。
ピラルビシンはドキソルビシンなどを元に開発された薬剤で、腫瘍細胞に速やかに取り込まれて作用をあらわす特徴があり、核酸合成を阻害するという点においてはドキソルビシンやシスプラチン(プラチナ製剤)などといった抗がん剤と類似した強い抗腫瘍性を示す薬とされています。病態や治療内容などによっても異なりますが、一般的にピラルビシン以前に開発された同系統の薬剤に比べると心機能障害などに対する懸念が少ないと考えられています。
膀胱がんにおける膀胱内注入療法などの選択肢となる他、頭頸部がん、乳がん悪性リンパ腫など多くのがんに対して保険適用を持つ薬剤です。
膀胱がん治療での主な投与経路となる膀胱内注入においては静脈内投与や動脈内投与に比べて副作用の発現率は低い傾向にあります。それでも心機能障害、骨髄抑制などに注意は必要です。また膀胱内注入における局所の副作用として排尿痛や頻尿などの膀胱刺激症状や萎縮膀胱などがあらわれる場合があります。

■エピルビシン(epirubicin)
エピルビシンは、ドキソルビシンやピラルビシンなどと同じアントラサイクリン系の抗がん性抗生物質に分類される抗がん剤です。腫瘍細胞のDNAと結合し核酸(DNA、RNA)の合成を抑制することで抗腫瘍効果をあらわします。
膀胱がん治療での膀胱内注入療法の選択肢となる他、乳がん(CEF療法など)、肝がん(肝動注療法)、造血器腫瘍などに対しても使われることがあります。
膀胱がん治療での主な投与経路となる膀胱内注入においては静脈内投与などの全身投与に比べて副作用の発現率は低い傾向にあります。それでも心機能障害、消化器症状などに注意は必要です。また膀胱内注入における局所の副作用として排尿痛、血尿、頻尿などの泌尿器症状があらわれる場合があります。

4. 膀胱がんの放射線治療について

膀胱がんに対して膀胱全摘除術が適さない人には放射線治療が選択肢になります。膀胱全摘除術が適さない人とは具体的に次のような条件にあてはまる人です。

  • 高齢者や身体の機能が低下した人
  • がんが遠隔転移した人

それぞれについて説明します。

■高齢者や身体の機能が低下した人
膀胱がんはがんの根の深さにより治療法が異なります。浸潤性膀胱がん(筋肉の層までがんが達している膀胱がん)に対して、最も確実性が高い治療(標準治療)は、膀胱全摘除術です。しかし、膀胱全摘は身体への負担が大きいため、高齢者や、身体機能が低下している人には膀胱全摘除術が危険を及ぼすことがあります。そうした、膀胱全摘除術が向いてはいない人には代わりとして、放射線治療が行われます。

■がんが遠隔転移した人
すでに他の臓器に転移が見つかっている人は、がん細胞が全身に散らばっている可能性が高いと考えられ、膀胱だけを手術しても効果が小さいです。このため手術に変えてより身体に負担が小さい放射線治療が検討されます。例えば止まりにくい血尿がある場合は、膀胱を摘出するのではなく、放射線で止血を行います。また、骨に転移した部位が痛みやしびれを起こしている場合は、放射線によって症状を緩和することができます。