ぼうこうがん
膀胱がん
膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍
8人の医師がチェック 174回の改訂 最終更新: 2019.07.19

膀胱がんの薬物治療:BCG治療・抗がん剤治療

膀胱がんの治療の基本は手術です。ただし上皮内がんに対してはBCG膀胱内注入療法(BCG療法)が標準的です。手術が行えない場合は放射線療法も選択肢になります。診断時にすでに離れた場所に転移がある場合は、抗がん剤による治療を行います。

膀胱がんを3つに分類して説明します。1つ目は、がんの根が深くない表在性がん、2つ目は、粘膜に存在する上皮内がん、3つ目は、がんの根が深く筋層まで及んでいる筋層浸潤がんです。それぞれの治療法は以下の通りです。

  • 表在性がん:内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TURBT)
    • 上皮内がん:BCG膀胱内注入療法(BCG療法)
  • 筋層浸潤がん:膀胱全摘除術

図:膀胱がんのT分類の説明イラスト。進行度によって治療法が違う。

1. TURBT後のBCG療法と抗がん剤注入療法はどんなときに使う?

図:TURBT後の治療方針の選び方。

表在性膀胱がんでは治療や再発予防の目的で、膀胱内にBCGや抗がん剤を注入する方法があります。

  • BCG膀胱内注入療法
    • 表在性膀胱がんのうち膀胱上皮内がんに対する治療
    • 高リスクの表在性膀胱がんに対する再発予防
  • 抗がん剤注入療法
    • 手術直後に行う抗がん剤即時単回注入
    • 膀胱上皮内がんに対してBCG膀胱内注入療法の代わり
    • 中間リスクの表在性膀胱がんに対する再発予防

抗がん剤よりもBCGの方が効果が高いとされている一方で、副作用もBCGの方が強く出る傾向があります。BCGと抗がん剤のどちらを使うかは、がんの状態や目的(治療もしくは再発予防)によって決まります。

高リスクや中リスク、表在性膀胱がん、上皮内がんなどの言葉については後述します。

2. 表在性膀胱がんのリスク分類とは?

再発率や進展率の説明で欧州泌尿器科学会の作成したガイドラインを紹介しました。ここではリスク分類に分けた後の治療法について解説します。

低リスク

  • 単発
  • 初発
  • 3cm未満
  • Ta
  • 腫瘍の異型度が低い(G1)
  • 上皮内がんの併発なし

以上全てを満たす場合を低リスクとします。

中間リスク

低リスク、高リスクのいずれにも該当しない場合を中間リスクとします。

高リスク

  • T分類がT1の腫瘍
  • 腫瘍の異型度が高い(G3)
  • 上皮内がん(併発も含む)がある
  • T分類でTaかつ異型度がG1またはG2だが多発かつ再発かつ3cmを超える腫瘍

以上のうちいずれかに該当する場合を高リスクとします。

リスクの評価

因子 再発スコア 進展スコア
腫瘍数 単発 0 0
2-7個 3 3
8個以上 6 3
腫瘍サイズ <3cm 0 0
≧3cm 3 3
再発歴 初発 0 0
≦1再発/年 2 2
>1再発/年 4 2
T因子 Ta 0 0
T1 1 4
併発CIS なし 0 0
あり 1 6
異型度(1973年WHO) G1 0 0
G2 1 0
G3 2 5
合計スコア 0-17 0-23
再発スコア 1年再発率 5年再発率
0 15% 31%
1-4 24% 46%
5-9 38% 62%
10-17 61% 78%
進展スコア 1年進展率 5年進展率
0 0.2% 0.8%
2-6 1% 6%
7-13 5% 17%
14-23 17% 45%

参照:欧州泌尿器科学会作成のガイドライン

解説します。

このガイドラインでは、以下に注目して表在性膀胱がんを分類しています。

  • 多発しているか
  • 腫瘍の大きさ
  • 腫瘍は初発なのか再発なのか
  • 腫瘍の深達度
  • 上皮内がんがあるか
  • 腫瘍の悪性度(異型度)

リスク分類のためには病理検査が必要です。病理検査は、体から取り出した組織を顕微鏡で観察する検査です。膀胱の病理検査によって、膀胱がん(腫瘍)の深達度(根の深さ)、異型度(顕微鏡で見た特徴が正常組織とどれぐらい違っているか)がわかります。また、膀胱がんの周りにある一見正常な組織も、顕微鏡で見ると上皮内がんが見つかる場合があります。

すでに再発しているがんは再び再発する可能性が高く、それを予防する治療が必要とされます。また腫瘍が深い場合や腫瘍の悪性度が高い場合は再発予防に対して強力な治療(BCG膀胱内注入療法)が必要になります。

上皮内がんは浸潤がんに進展しやすい性質があります。また、発見された時にいくつか腫瘍がある場合は、その後も新しい膀胱がんができる可能性が高いと考えられます。このため、上皮内がんや複数のがんがある場合も強力な治療が必要になります。

以下ではそれぞれのリスク分類に対応する治療法です。

  • 低リスク:抗がん剤即時単回注入(手術終了後24時間以内に抗がん剤を入れる)
  • 中間リスク:抗がん剤即時単回注入+抗がん剤あるいはBCGの維持注入療法
  • 高リスク:BCG維持注入療法もしくは膀胱全摘除術

抗がん剤即時単回注入とBCG維持療法について次に説明します。

抗がん剤即時単回注入とは?

膀胱内に腫瘍が確認されると、内視鏡による手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術;TURBT)が行われます。手術後、24時間以内に抗がん剤を注入する治療を行うと、再発率が低下します。

治療効果は報告によると、抗がん剤の即時単回注入を行わない場合の再発率は48%、行った場合の再発率は37%とされています。11%に相当する再発のリスク低下が治療効果という計算になります。

再発リスクを低下させる効果があるので、できるだけ抗がん剤即時単回注入を行うことが推奨できます。ただし、抗がん剤の注入を避けるべき時もあります。

  • TURBTにより膀胱に穴が開いた(穿孔した)場合 
  • 広範囲に切除を行った場合
  • 膀胱の壁を深く切除した場合

上記の場合は治療の危険性が高くなると考えられるため、抗がん剤の注入が勧められません。

膀胱に穴が開いている状態で抗がん剤を膀胱の中に注入すると、お腹の中(腹腔内)に抗がん剤が流入し、危険な副作用などが発生する場合があります。抗がん剤の副作用の中には白血球赤血球血小板などが減少する(骨髄抑制)といった危険なものがあります。

TURBTで明らかに穿孔を起こした場合は抗がん剤を注入することはありません。気をつけなければいけないのは、主治医が穿孔を起こしたことを認識していない場合です。

膀胱の壁は厚さが数mmです。広い範囲で腫瘍を切除したり、深く切除した場合は気づかないほどの小さな穴が開いている場合があります。小さな穴でも抗がん剤が漏れ出る可能性があるので、広範囲に切除した場合や深く切除した場合は大事をとって抗がん剤の投与を避けることがあります。

TURBTは腫瘍を切除するために灌流液を膀胱の中に入れて膀胱を広げます。広げることで膀胱の壁は薄くなり、穴が開きやすい状態になります。実際に穴が開くことはまれにあります。膀胱に穴が開いた場合の多くは、1〜2週間程度尿道カテーテルを膀胱の中に留置することで穴が塞がります。ほとんどの場合はお腹を切って膀胱を縫い合わせる必要はありません。

参照:NCCN ガイドライン 2017年 ver 1

3. 膀胱がんのBCG療法とは?

BCGとは?

BCGとは、Bacille de Calmette et Guérin(フランス語)の略です。カルメットとゲランというフランスの細菌学者が作った桿菌(細菌の一種)という意味です。BCGはウシ型結核菌をもとにして作製された細菌です。

BCGを利用して結核に対するワクチンが作られます。

BCGは予防接種だけでなく膀胱がんの治療にも使われます。BCGを膀胱内に入れることにより、がん細胞を死滅させる効果を発揮します。効果があるのは明らかですが、どのようにしてがん細胞を死滅させるかはまだ不明な点が多いです。

BCG療法はどんなときに行う?

BCG療法は膀胱上皮内がんの治療に用いられます。また、表在性膀胱がんの再発予防の効果もあります。以下の場合にBCG療法が有効です。

  • 治療目的
    • 膀胱上皮内がんの治療
  • 再発予防目的
    • 表在性膀胱がんのうち、リスク分類で中間リスクまたは高リスクにあたるものの再発予防
    • BCGで治療後の上皮内がんの再発予防

       

スケジュール

膀胱上皮内がんに対しても表在性膀胱がん(中間リスク、高リスク)でも、まず下記の導入療法を行ったうえ、その後維持療法を行います。維持療法によって再発などのリスクを下げる報告がなされています。しかし、維持療法は方法が明確ではない点や副作用も軽視できない点から、維持療法を行わずに様子をみることもあります。

■導入療法

毎週1回BCG溶液を膀胱内に入れる治療を行います。この治療を6〜8週間(6〜8回)行います。

■維持療法

導入療法後に1〜3年間、定期的にBCG膀胱内注入療法を行う治療です。現在のところ定まった方法はありません。

方法

BCGを生理食塩水40mlで溶解させて膀胱内に注入します。その後、2時間膀胱内にBCG溶液を入れたままにします。その後決められた場所で排尿します。

副作用

BCG膀胱内注入療法では、膀胱炎などの副作用が高い頻度で出ます。主な副作用は下記のものです。

副作用 発現頻度
頻尿 48%
排尿時痛 44%
血尿 21%
発熱 20%

参照:Urology 2008;71:1161-1165

  • 排尿時痛・頻尿
    • BCG膀胱内注入療法直後から出現します。通常は2-3日で改善します。飲酒や刺激物の摂取は症状を悪化させる可能性があるので控えたほうがいいでしょう。痛みに対しては我慢をせずに鎮痛剤を使用すると効果があります。必要があれば抗菌薬抗生物質、抗生剤)も処方されます。痛みが強い場合は、BCGの投与を一時中止し、抗菌薬などで治療します。
  • 発熱
    • BCG投与後、発熱する場合があります。多くは24時間以内に解熱します。しかし、2日間にわたり発熱が継続する場合は、BCGが体内に入り込んで発熱している可能性を疑います。発熱が続く場合は、放っておかず治療中の病院に相談することが重要です。
  • 血尿
    • 血尿が続く場合は、BCGの投与を控える場合があります。長引く場合は原因を探るために膀胱鏡などの詳しい検査を行うことがあります。
  • 尿
    • BCGを投与する前には尿検査を施行して、膀胱の状態を確認することが一般的です。BCGの副作用によって、膀胱の中で激しい炎症が起きて白血球が尿に混じることがあります。この場合にもBCGの投与を延期することがあります。

BCG膀胱内注入療法は副作用も多い治療です。副作用による症状が強く出て治療の途中で断念する人もいます。症状はがまんするのではなく、すぐに主治医に相談して副作用と付き合うことが重要です。

関連記事:膀胱がんの再発を防ぐBCG注入療法の効果は?

4. 抗がん剤膀胱内注入療法とは?

抗がん剤膀胱内注入療法は、抗がん剤を膀胱内に入れることでがん細胞を死滅させる治療です。BCG膀胱内注入療法より効果は劣りますが、副作用も軽いことが特徴です。副作用が強く出るためにBCGを投与できない人などに対して抗がん剤膀胱内注入療法は有効な選択肢になる場合があります。

抗がん剤膀胱内注入療法はどんなときに使う?

抗がん剤膀胱内注入療法は次の場合に有効です。

  • 中間リスクの表在性膀胱がんに対する維持療法
  • 副作用でBCGの投与が行えない膀胱上皮内がんに対する導入療法

解説します。

表在性膀胱がんでは、TURBTの結果をもとにしてリスク分類を行います。中間リスクの群に分類された場合は、膀胱内再発を抑制する目的で抗がん剤を膀胱内に定期的に注入する方法が用いられます。これを維持療法と言います。

膀胱上皮内がんの治療はBCG膀胱内注入療法です。しかしながら、BCGは抗がん剤よりも治療効果が高いものの、副作用も強く出るのが特徴です。中には副作用でBCG療法を継続できない場合もあります。この場合は、BCGの代わりとして、抗がん剤を用いることがあります。

使用する抗がん剤

膀胱内に注入する抗がん剤は4種類あります。

  • マイトマイシンC(mitomycin C)
  • ピラルビシン(pirarubicin)
  • ドキソルビシン(doxorubicin)
  • エピルビシン(epirubicin)

それぞれを比較した報告は少なく、どの抗がん剤が最適かの結論は出ていません。ひとつの抗がん剤で効果が不十分な場合は抗がん剤を変更する場合があります。

方法

膀胱の中に管(カテーテル)を入れ、管を通して抗がん剤の投与を行います。抗がん剤を1-2時間程度膀胱内にとどめておき、その後所定の場所で排尿します。

効果

■表在性膀胱がんの中間リスクに対する維持療法

短期的に再発を抑制する効果があるものの、浸潤がんへ進展するリスクは減少しないとされています。

■膀胱上皮内がんに対する導入療法

抗がん剤の中でもマイトマイシンCを用いることで42%が完全奏効した(膀胱鏡などの検査でがんが確認できない状態になった)とする報告があります。

副作用

副作用 発現頻度
血尿 28%
頻尿 15%
排尿困難 10%

投与直後に排尿時の痛みや排尿困難感などの膀胱炎症状が出現しますが、1〜3日で軽快することが多く、解熱鎮痛剤などで対処します。

参照:Jpan J Clin Oncol. 2009;39:244-250, Int J Clin Oncol. 2008;13:510-514, Int J Urol. 2007;14:1000-1004

5. 膀胱がんの抗がん剤治療とは?

ここでは浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤治療について説明します。表在性膀胱がんに対する抗がん剤注入療法とは違う点に注意してください。

浸潤性膀胱がんに対して化学療法(抗がん剤治療)を行うタイミングは4つが考えられます。

  • 手術(膀胱全摘)が可能な状況
    • 膀胱全摘前に行う抗がん剤治療(術前化学療法)
    • 膀胱全摘後に行う抗がん剤治療(術後化学療法)
  • 転移した膀胱がんに対する治療
    • 膀胱全摘後の再発
    • 診断時にすでに転移のある状況

膀胱全摘前に行う抗がん剤治療(術前化学療法)

膀胱がんが見つかり内視鏡手術(TURBT)により切除した結果、腫瘍の根が深く膀胱全摘除術が必要な時に、手術の前に抗がん剤による治療(術前化学療法)が提案されることがあります。

■術前化学療法の目的や期待される効果

  • 腫瘍そのものを小さくしがんを取り切る確率を上げる(根治率の向上)
  • 肉眼では確認できないがん細胞を術前に叩く(微小転移のコントロール)

■術前化学療法による不利益

  • 化学療法が効果を示さず病状が進行し手術のタイミングを逸する可能性がある
  • 手術前に体力が低下する

■どのような患者さんに勧められるか?

  • リンパ節の転移が疑わしい場合
  • がんが膀胱の周囲に浸潤している場合

術前化学療法は、比較的進行した膀胱がんに対して行うと余命が延長することが確認されています。術前化学療法によりがんを取り除くことに有効であるとの効果が確認されたのは、手術前に3回(3コース)抗がん剤を投与した場合ですが、がんの状態などを考えて化学療法の回数を増やしたり減らしたりします。

■術前補助化学療法の効果

治療法 5年生存率
術前補助化学療法+膀胱全摘除術 50%
膀胱全摘除術 45%

参照:Eur Urol. 2005;48:202-205

仮に3コースの術前化学療法を行った後に手術を予定したとすると、手術は約3ヶ月先になります。命を脅かすがんにすぐに手をつけないことで精神的にも不安が増すこともあるかと思います。

一般的には術前化学療法を2コース行い効果の判定を行うので、手術までがんがどうなっているかわからないということはありません。がんが大きくなっている場合には、手術を早めに行うことも考えます。術前化学療法に用いられる抗がん剤の組み合わせ(レジメン)はM-VACもしくはGC療法というレジメンです。「M-VAC療法とは?」、「GC(GCBDCA)療法とは?」で解説しています。

膀胱全摘前の術前化学療法について解説しました。術前化学療法は全ての患者さんに必要というわけではありませんが、行うことで治療効果は上がることが明らかになっています。

自分の体の状態をしっかりと把握し効果と不利益についてよく考えて行うかどうかを判断することが重要です。

膀胱全摘後に行う抗がん剤治療(術後化学療法)

膀胱全摘後、切除した膀胱は顕微鏡による診断(病理検査)にまわります。病理検査では手術によりがんが取りきれたのか、リンパ節に転移があるかなどを診断します。膀胱全摘後、体力が回復し次第、抗がん剤治療(術後化学療法)を行った方がよい場合は以下の時です。

  • 膀胱の外までがん細胞を認めた場合
  • リンパ節に転移があった場合

術後化学療法は効果があると以前から言われながらも科学的な裏付けと言う点ではやや不明瞭な点がありました。しかし、最近の様々な検証によると生存率の上昇に効果がありそうだということがはっきりとしてきました。再発予防という面でも、術後化学療法は有効な手段と考えられます。

■術後補助化学療法の効果

治療 5年生存率
術前補助化学療法+膀胱全摘除術 37.0%
膀胱全摘除術 29.1%

参照:J Clin Oncol. 2016;34:825-832

使用する抗がん剤の組み合せ(レジメン)は術前化学療法や転移がある場合にも用いるM-VAC療法やGC療法です。「M-VAC療法とは?」、「GC(GCBDCA)療法とは?」で解説しています。

術後化学療法を何回行えば良いかの結論は出ていませんが、2〜4回(コース)行うのが一般的です。

関連記事:膀胱がんの手術後に抗がん剤治療はしたほうがいいのか?

切除不能または転移を認める膀胱がんに対する抗がん剤治療

膀胱がんが発見された時点で離れた他の臓器に転移していたり、周りの臓器にひどく浸潤している場合は、基本的には膀胱全摘が勧められません。この場合は、化学療法による治療が主体になります。

また手術後の再発に対しても同じ抗がん剤による治療が行われます。

治療に用いられる抗がん剤の組み合わせをレジメンといいます。転移している膀胱がんには3つのレジメンに効果があるとされています。

  • M-VAC療法
  • GC療法
  • PG療法

転移した部位は定期的(2-3ヶ月に1回程度)にCTなどの画像診断を行い効果を確認しながら、効果が出ていると考えられる場合は治療を継続します。

抗がん剤治療は繰り返していくうちに効果が弱まってきます。がん細胞が薬に対して抵抗性を示すこと(耐性の獲得)が原因と推測されています。

抗がん剤の効果がなくなった場合は抗がん剤による治療を中止し、緩和治療が主体の治療に移行していきます。

6. M-VAC療法とは?

M-VAC療法はメトトレキサート(略号:MTX)、ビンブラスチン(略号:VBL)、ドキソルビシン(略号:ADM(DXR、ADR))、シスプラチン(略号:CDDP)の4種類によるがん化学療法です。各薬剤の略号の頭文字を合わせてM-VAC療法と呼ばれています。

M-VAC療法は約20年にわたって、膀胱がんの抗がん剤治療でもっとも効果の高い治療法としての地位を確立しています。シスプラチン単独の治療と比較して、生存期間を約4ヶ月延長することを可能にしています。

しかし、効果の高い治療法ながらも副作用がやや多く、現在は後述するGC療法の方が多く行われています。副作用のコントロールをしっかり行うことが重要な治療法です。

通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量を元に腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 2 15 22 28
メトトレキサート 30mg/m2 - - - - -
ビンブラスチン 3mg/m2 - - - - -
ドキソルビシン 30mg/m2 - - - - - - -
シスプラチン 70mg/m2 - - - - - - -

矢印が入っている欄はその日に投薬があることを示します。空欄は投薬しないという意味です。3日目から14日目、16日目から21日目、23日目から28日目は何も薬を投与しない休薬の日です。

上記のスケジュールで4週間(28日)を1サイクルとして繰り返していきます。

この他に副作用対策として一般的に5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療の効果や症状、内臓機能、骨髄機能などを確認しつつ治療継続の是非などが判断されます。

治療効果

約60%の人で転移巣の縮小効果を認めます。

縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約7ヶ月とされています。

副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
好中球減少 96% 87% 10-18日目
食欲不振 85% 28% 1-5日目
悪心(吐き気) 83% 21% 1-5日目
発熱 17% 17% 10-14日目
貧血 66% 14% 20日目-

主な副作用は表に示した通りです。場合によっては入院や入院期間の延長が必要な重度な症状があらわれることもあります。特に好中球減少には注意が必要です。抗がん剤によって、骨髄で生まれる細胞が少なくなる作用があります(骨髄抑制)。骨髄抑制により好中球という細胞も減少します。好中球は免疫を担当している白血球の一種です。細菌などに対する生体防御の役割を果たします。このため抗がん剤の副作用による感染症への注意は大切です。発熱や悪寒、喉の痛みなどがみられた場合は自己判断で対処せず、急いで医師などに相談し適切に対処することが重要です。

参考:J Clin Oncol. 1992;10:1066-73, J Clin Oncol. 2000;17:3068-77

7. GC(GCBDCA)療法とは?

GC療法はゲムシタビン(略号:GEM)とシスプラチン(略号:CDDP)の2種類によるがん化学療法です。2つの薬剤の略号の頭文字を合わせてGC療法と呼ばれています。腎機能が低下している場合は、腎臓への悪影響が強いシスプラチンを避ける目的で、カルボプラチンに変更して行う場合があります。

GC療法は、M-VAC療法と比較して治療効果が劣らないことが証明され、広く普及している療法です。副作用はM-VAC療法に比べて少ないことも普及している要因です。

通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量をもとに腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 2 8 15 28
ゲムシタビン 1000mg/m2 - - - - -
シスプラチン 70mg/m2 - - - - - - -

上記のスケジュールを4週間(28日)を1サイクルとして繰り返していきます。

この他に副作用対策として一般的に5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)、副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療の効果や症状、内臓機能、骨髄機能などを確認しつつ治療継続の是非などが判断されます。

治療効果

GC療法により約60%の人で腫瘍の縮小効果を認めます。

縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約7ヶ月とされています。

副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
血小板減少 70% 21% 10-18日目
好中球減少 66% 14% 10-18日目
貧血 51% 2% 20日目-
悪心(吐き気) 59% 0% 1-5日目

GC療法の注意すべき副作用としては、血小板減少があります。血小板は、止血に重要な役割を果たしています。血小板が極端に減少すると出血しやすくなります。血小板数がある水準以下になると、出血がまだ現れていなくても危険な状態と考え血小板輸血などを行うことがあります。血小板は数日で回復することが多いです。

好中球が減少することなどによる感染症への注意も重要です。好中球は細菌から体を守る免疫細胞です。好中球が減少した状態で細菌感染症にかかると、症状が重くなることがあります。発熱や悪寒、喉の痛みなどがみられた場合は自己判断で対処せず、医師などからの指示に従い適切に対処することが重要です。

参照:J Clin Oncol. 2000;17:3068-7

8. PG療法とは?

PG療法はパクリタキセル(略語:PTX)とゲムシタビン(略号:GEM)の2種類によるがん化学療法です。2つの薬剤の略号の頭文字を合わせてPG療法と呼ばれています。

PG療法は、M-VACやGC療法の効果がなくなった場合に行われます。

通常、それぞれの薬剤に関して体表面積(m2)あたりの標準投与量をもとに腎機能、肝機能などを考慮した投与量を点滴により投与します。以下は投薬スケジュールの例です。

使用薬剤\日 1 8 15 28
パクリタキセル 180mg/m2 - - - - - -
ゲムシタビン 1000mg/m2 - - - -

治療効果

PG療法により約30%の人で腫瘍の縮小効果を認めます。

縮小効果が得られる期間(奏効期間)は約5ヶ月とされています。

副作用

副作用 副作用が現れる頻度 副作用により入院や入院期間の延長が必要な程度の割合 副作用が現れる時期
脱毛 100% - 14-21日目
好中球減少 69% 45% 7-14日目
皮膚発赤 21% 6% 1日目
知覚異常 67% 6% 3日目以降
血小板減少 18% 6% 7-14日目

PG療法で脱毛は100%発生します。

好中球が減少することなどによる感染症への注意も重要です。発熱や悪寒、喉の痛みなどがみられた場合は自己判断で対処せず、医師などからの指示に従い適切に対処することが重要です。

また手や足のしびれも副作用として出現することがあります。痛みを伴う場合もあります。痛み止め、ビタミン剤、漢方薬などで改善が期待できます。

9. 膀胱がんに対して使用する抗がん剤のそれぞれの特徴

メトトレキサート(methotrexate)

メトトレキサート(略号:MTX)は葉酸代謝拮抗薬(ようさんたいしゃきっこうやく)と呼ばれる種類の薬剤です。

細胞の増殖には遺伝情報を保存しているDNAの合成が必要となります。DNA合成にはビタミンの一つである葉酸(ようさん)が必要です。メトトレキサートはDNA合成に必要な活性葉酸の産生に関わる酵素(DHFR:ジヒドロ葉酸還元酵素)の働きを阻害することで抗腫瘍効果をあらわします。

膀胱がんにおけるM-VAC療法の他、乳がんにおけるCMF療法などのがん化学療法のレジメンで使われます。また、MTX自体はDNA合成の活性を抑えることによるリンパ球(免疫細胞の一種)の増殖抑制作用などにより、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬(例:リウマトレックス®など)としても使われています。

注意すべき副作用として吐き気や食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制およびそれに伴う間質性肺炎など、肝機能障害、腎障害などがあります。また粘膜障害にも注意が必要で日々の生活の中での口腔ケアなども大切です。

ビンブラスチン(vinblastine)

ビンブラスチンは、細胞分裂における途中段階を阻害し、がん細胞の増殖を抑えることで抗腫瘍効果をあらわす薬です。微小管という細胞分裂に必要な物質を阻害することから微小管阻害薬と呼ばれます。微小管阻害薬の中でも、ビンブラスチンと類似した薬剤はニチニチソウ(旧学名:Vinca rosea)という植物の成分を元に造られたことから、旧学名を由来とするビンカアルカロイド系という種類の薬に分類されます。

ビンブラスチンは、膀胱がんにおけるM-VAC療法などの他、ホジキンリンパ腫に対するABVD療法、胚細胞腫瘍におけるVeIP療法などのがん化学療法のレジメンでも使われます。

注意すべき副作用として骨髄抑制、肝機能障害、末梢神経障害便秘イレウスなどがあります。骨髄抑制の中でも特に白血球減少による易感染性(感染しやすくなること)などには注意が必要です。

ドキソルビシン(doxorubicin)

抗がん剤には土壌などに含まれる微生物を由来とした製剤があります。生物由来の抗がん剤を抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質、抗悪性腫瘍性抗生物質など)と呼び、がん治療における選択肢の一つになっています。抗生物質と言っても感染症の治療に使う抗生物質(抗菌薬)とはまったく別の物質です。

ドキソルビシンはアントラサイクリン系という抗がん性抗生物質に分類され、細胞増殖に必要なDNAやRNAの生合成を抑えることで抗腫瘍効果をあらわします。

ドキソルビシンは膀胱がんにおけるM-VAC療法のレジメンで使われる他、乳がんへのAC療法や造血器腫瘍(非ホジキンリンパ腫におけるR-CHOP療法など)など他のがんのレジメンで使われることもあります。

注意すべき副作用として心機能障害、骨髄抑制、吐き気などの消化器症状、脱毛などがあります。心機能障害は特に注意すべき副作用の一つで、動悸や息切れなどがあらわれた場合は医師や薬剤師などへの連絡が大切です。

またドキソルビシン投与時には血管刺激性による血管痛が生じる可能性があります。また、ドキソルビシンの薬液の色(赤色)の影響で尿が赤くなる可能性があります。副作用を事前に主治医や薬剤師などからしっかりと聞いておくことも大切です。

シスプラチン(cisplatin)

シスプラチンは、細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する抗がん剤です。薬剤の化学構造の中にプラチナ(白金:Pt)を含むためプラチナ製剤という種類に分類されます。

膀胱がんでは主にM-VAC療法やGC療法のレジメン、放射線との併用療法などで使われますが、肺がんなど他のがん化学療法のレジメンに使われることも多い抗がん剤です。

注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、骨髄抑制、末梢神経障害、消化器障害、血栓塞栓症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の増悪などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかり守ることも大切です。

ゲムシタビン(gemcitabine)

ゲムシタビンは、細胞分裂に必要なDNA合成の過程を阻害し、がん細胞の増殖を抑える代謝拮抗薬(たいしゃきっこうやく)という種類に分類される抗がん剤です。

ゲムシタビンは細胞内で代謝された後、DNA鎖に取り込まれることによって細胞の自滅(アポトーシス)を誘発させる作用などによって抗腫瘍効果をあらわします。

膀胱がんでは主にシスプラチンとの併用によるGC療法のレジメンで使われます。他にも非小細胞肺がん膵がん卵巣がん胆道がん乳がんといった多くのがんに保険適用を持つ抗がん剤です。

注意すべき副作用に骨髄抑制、間質性肺炎、吐き気や食欲不振などの消化器症状、肝機能障害などがあります。また発熱は特に初回の治療後に出現しやすいとされ、感染症にかかっている可能性なども考慮し、発熱があらわれた場合は自己判断せずに医師などの指示に従い適切に対処することも大切です。

カルボプラチン(carboplatin)

シスプラチンと同じく化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むことからプラチナ製剤という種類に分類される抗がん剤です。細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。

カルボプラチンはシスプラチンに匹敵する抗腫瘍活性を持つ薬剤で、シスプラチンに比べて腎毒性や消化器障害などの軽減が期待できます。なんらかの理由でシスプラチンが適さないようなケースに対してシスプラチンの代わりとして使われることもあります。

膀胱がん治療において、ゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法がありますが、シスプラチンの代わりにカルボプラチンを使う治療法もあります。またカルボプラチンとパクリタキセルを併用する治療法が考慮される場合もあります。膀胱がん以外にも肺がんなど多くのがん治療で使われることがあります。

シスプラチンと比べれば副作用の軽減が期待できますが、それでも副作用はあります。腎障害(急性腎障害など)、吐き気などの消化器症状、骨髄抑制、間質性肺炎などに注意が必要です。

パクリタキセル(paclitaxel)

パクリタキセルは、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管を阻害することで、がん細胞の増殖を抑え、やがて細胞死へ誘導させることで抗腫瘍効果をあらわす微小管阻害薬の一つです。

膀胱がん治療(M-VAC療法など)で使われるビンブラスチンは微小管阻害薬のビンカアルカロイド系という種類ですが、パクリタキセルはイチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により微小管阻害薬の中でも、学名を由来としたタキサン系という種類に分類されます。

膀胱がんの治療においてカルボプラチンとの併用療法やゲムシタビンとの併用療法などが選択肢となる場合があります。膀胱がん以外にも肺がん胃がん乳がんなどの多くのがん治療に使われています。

注意すべき副作用に過敏症、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害、脱毛などがあります。病態などにもよりますが脱毛は抗がん剤の中でも高頻度であらわれる薬の一つです。また製剤の添加物にエタノールを含むため、アルコール過敏の体質を持つ場合には注意が必要です。

マイトマイシンC(mitomycin C)

抗がん剤の中でも土壌などに含まれる微生物を由来とした抗がん剤を抗がん性抗生物質(あるいは抗腫瘍性抗生物質、抗悪性腫瘍性抗生物質)と呼びます。マイトマイシンCは抗がん性抗生物質の一つです。細胞増殖に必要なDNAの複製を阻害する作用や、フリーラジカルといってDNAに対して損傷をあたえる物質によるDNA鎖を切断する作用などにより抗腫瘍効果をあらわします。

膀胱がんでは主に膀胱内に抗がん剤を投与する膀胱内注入療法の選択肢となっています。

マイトマイシンC自体は必要に応じて静脈内、動脈内、髄腔内など膀胱内以外の投与経路の選択が考慮できる製剤です。

膀胱内注入においては、薬剤成分が血液中へ移行しにくいこともあり骨髄抑制などがあらわれることはまれとされています。しかし全身への影響がないわけではなく、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血など)、発熱、過敏症などに注意は必要です。また局所の副作用として膀胱炎、血尿増強、頻尿などがあらわれる場合があります。

膀胱内注入療法では排尿によって薬剤成分が排泄されるため、患者さんの体から出た抗がん薬にほかの人が触れないよう注意が必要です。排尿の際には座位で行うなど、トイレ周囲への汚染防止対策なども大切です。また薬剤の色が青紫色の結晶(結晶性の粉末)で、排尿時に紫色の尿が出ることが考えられるため、事前に処方医や薬剤師などからしっかりと説明を聞いておくことも大切です。

ピラルビシン(pirarubicin)

ピラルビシンは、ドキソルビシンなどと同じアントラサイクリン系の抗がん性抗生物質に分類される抗がん剤です。腫瘍細胞に取り込まれ、細胞増殖に必要な核酸(DNA、RNA)の合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわします。

ピラルビシンはドキソルビシンなどを元に開発された薬剤で、腫瘍細胞に速やかに取り込まれて作用をあらわす特徴があり、核酸合成を阻害するという点においてはドキソルビシンやシスプラチン(プラチナ製剤)などといった抗がん剤と類似した強い抗腫瘍性を示す薬とされています。病態や治療内容などによっても異なりますが、一般的にピラルビシン以前に開発された同系統の薬剤に比べると心機能障害などに対する懸念が少ないと考えられています。

膀胱がんにおける膀胱内注入療法などの選択肢となる他、頭頸部がん、乳がん悪性リンパ腫など多くのがんに対して保険適用を持つ薬剤です。

膀胱がん治療での主な投与経路となる膀胱内注入においては静脈内投与や動脈内投与に比べて副作用の発現率は低い傾向にあります。それでも心機能障害、骨髄抑制などに注意は必要です。また膀胱内注入における局所の副作用として排尿痛や頻尿などの膀胱刺激症状や萎縮膀胱などがあらわれる場合があります。

エピルビシン(epirubicin)

エピルビシンは、ドキソルビシンやピラルビシンなどと同じアントラサイクリン系の抗がん性抗生物質に分類される抗がん剤です。腫瘍細胞のDNAと結合し核酸(DNA、RNA)の合成を抑制することで抗腫瘍効果をあらわします。

膀胱がん治療での膀胱内注入療法の選択肢となる他、乳がん(CEF療法など)、肝がん(肝動注療法)、造血器腫瘍などに対しても使われることがあります。

膀胱がん治療での主な投与経路となる膀胱内注入においては静脈内投与などの全身投与に比べて副作用の発現率は低い傾向にあります。それでも心機能障害、消化器症状などに注意は必要です。また膀胱内注入における局所の副作用として排尿痛、血尿、頻尿などの泌尿器症状があらわれる場合があります。

10. 膀胱がんの放射線治療とは?

膀胱がんに対して膀胱全摘ができない場合に放射線治療が選択肢になります。

膀胱がんはがんの根の深さにより治療法が異なります。筋肉の層までがんが達している膀胱がん(筋層浸潤性膀胱がん)に対して、最も信頼性の高い治療(標準治療)は、膀胱全摘除術(膀胱全摘)です。

しかし、膀胱全摘は患者さんへの負担が大きい手術でもあります。高齢者や身体機能が低下している人には膀胱全摘を行うことによる危険性が高い場合があります。筋層浸潤性膀胱がんは悪性度が高いために、治療を行わないことは余命の短縮を意味します。そこで、膀胱全摘に代わる方法を考える必要があります。

膀胱全摘に代わる方法としては、放射線療法があります。放射線療法は抗がん剤を併用する場合としない場合など若干のバリエーションがあります。

ほかにも放射線治療の出番があります。

すでに他の臓器に転移が見つかっており、がん細胞が膀胱を飛び出して全身に散らばっていると考えられる場合には、手術は適していません。転移をするような悪性度の高いがんの場合は、原発巣(がんがもともと発生した場所)である膀胱にもダメージを与えます。膀胱がんは正常な膀胱を破壊して、痛みや血尿などの症状を現します。がんが組織破壊を起こしている場合には症状の緩和(かんわ、軽くすること)目的での放射線治療は有効です。

膀胱がんは骨への転移が多いがんの一つです。骨への転移は痛みを伴います。骨への転移による疼痛(痛み)を緩和するのに放射線は有効な手段です。

根治目的、症状緩和目的のそれぞれの方法について解説します。

放射線治療は膀胱全摘の代わりになるか?

浸潤性膀胱がんの標準治療は膀胱全摘です。膀胱全摘では全てのがんを体から取り除き再発させない根治の可能性があります。対して放射線療法は放射線を照射することによりがん細胞を死滅させることができます。膀胱全摘と放射線療法を直接比較した報告は多くはありませんが、放射線療法でも抗がん剤や内視鏡手術(TURBT)と組み合わせて治療することにより根治を望める場合があります。

放射線療法の対象となる状況(適応)として望ましいのは、以下の通りです。

  • T2またはT3
  • 単発の腫瘍で小さいもの

図:膀胱がんの進行度(T分類)の説明イラスト。

T2とは、膀胱の筋層に浸潤していること、T3は膀胱の筋層を超えて膀胱の周りの脂肪組織にがんを認める場合です。放射線療法は、小さな腫瘍に対して、また腫瘍が一つしかない場合に効果が高いとされます。膀胱がんは膀胱の中にいくつも病変をつくる(多発する)ことを一つの特徴としています。膀胱にいくつも腫瘍がある場合は、膀胱を摘出することの方が根治性に優れていると考えられます。

抗がん剤の併用については併用した方が根治の可能性が上がり望ましいとする報告が多くあります。抗がん剤と組み合わせることで放射線の効果も増すこと(増感作用)が確認されています。腫瘍が小さければ小さいほど効果が高いと考えられるので、内視鏡手術(TURBT)で腫瘍をできるだけ小さくし抗がん剤を併用しながら放射線を照射することになります。

 

放射線療法の課題としては、膀胱全摘に比べてまだまだまとまった報告が少ないうえ、どの程度の放射線を当てるべきか、どの化学療法を行うべきかなどの問題点に最良の答えが見つかっていない点などがあります。

日本は高齢化が進んでいます。今後は高齢者で全身状態が悪く手術が難しい人が増加することが予想されます。手術が難しい浸潤性膀胱がんに対して放射線療法は有力な選択肢の一つと考えられます。

緩和的照射とは?

膀胱がんが膀胱から離れた位置に転移(遠隔転移)している場合には、治療は抗がん剤による治療になります。さらに放射線治療を加えることもあります。

がんが転移した場所により疼痛(痛み)などの症状が出現する場合があります。疼痛を和らげるには放射線の照射が有効です。膀胱局所にも抗がん剤のみの治療を行い手を打たなければ、場合によっては血尿や痛みなどの症状が出現します。局所の症状を抑えるのにも放射線療法は有効です。膀胱の症状がない場合や軽度な場合は行わないこともあります。